2021年6月の東証CGコードの改訂および2022年4月の東証再編に伴い、現在進行でTCFD対応を進めている担当者様も多いことと存じます。

今回の記事では、開示を目前に控え準備を進めている担当者様に向けて、プライム上場企業はどこまで対応すれば十分な開示であると認識されるかについて、記事執筆段階(2022年6月)で弊社が考えるレベル感について解説します。

目次
  • TCFDのおさらい
  • TCFD対応の前提
  • プライム企業はどこまで開示すべきか
    • 「ガバナンス」「リスク管理」
    • 「戦略」
    • 「指標と目標」
  • まとめ

TFCDおさらい

TCFDとは?

TCFDとは、2015年4月、気候関連の情報開示のガイダンス作成を目的に、G20の金融部門である金融安定理事会によって設立されたTask Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)の略称です。このタスクフォースが2017年6月に公表した最終報告書(「TCFD提言」)にて情報開示のガイダンスが公開されたことから、「TCFD」という略称がそのまま開示の枠組みの呼称として参照されています。提言は2021年10月に改訂され、文書の中で開示の必要性がさらに強調されています。

TCFDは4要素で構成される

TCFDは、気候変動が自社へもたらす影響についての企業の認識を、投資家等のステークホルダーが適切に評価できるよう、11の開示要求項目からなる4つの開示事項「戦略」「リスク管理」「指標と目標」「ガバナンス」について情報開示を求めています。

「戦略」では、気候関連のリスクと機会が事業、戦略、財務計画にどのような潜在的な影響があるかをについて、「リスク管理」では、気候関連のリスクについて、どのように認識、評価、管理しているのかについて、「指標と目標」では、気候関連のリスクと機会を評価、及び管理する指標と目標について、そして「ガバナンス」では、気候関連のリスクと機会のガバナンスについて、開示が求められています。

TCFD対応の前提

TCFD開示全体を通して求められていること

ことTCFD対応においては、現在までに社内で対応が済んでいるTCFD項目を開示をすること、また、対応が済んでいない項目については今後取り組む意思があることを明示することが評価のポイントになります。

TCFD開示の対象である投資家は、投資先が自社のリスクを検討しているかを見ていることが多いと考えています。また、東証も「自社に必要と考えられる項目から順次開示を進めることで差し支えない」[1]と認識しているように、TCFD開示対応は開始してすぐに完成させないといけないものではなく、対応を始めてから1〜2年の間は不十分であっても許容されると考えています。

そのため、完成させてから開示させようとするのではなく、途中であっても、その旨を包み隠さず開示することがポイントです。同様に、開示事項について社内で検討した結果として顕著な影響がないと判明した場合は、その旨も記載するべきであると考えています。投資家や評価機関は、TCFD提言に沿って社内で対応をした過程を重視しています。

また、対応が完了しているかに関わらず、現状の開示から改善していく意思があることを提示することも大事です。なぜなら投資家や評価機関は、開示されていないと取組状況の判断ができず、最低ランクの評価をせざるおえないためです。実際評価機関の多くは、開示をしていた場合ある程度の点数が加点されます。

投資家や評価機関は企業がTCFD提言に則った検討を社内で行っているのかどうかを確認しているためです。

プライム企業の開示の及第点は

「ガバナンス」と「リスク管理」について

「ガバナンス」と「リスク管理」に関しては、現状どんな組織体が存在し、どこで気候変動に関する議題を扱っているかを開示するだけでも問題はないと考えています。

本来求められている開示は容易ではない

「ガバナンス」においては、取締役会が気候変動と関係のある組織体とレポーティングラインを有しているか、「リスク管理」においては、気候変動に関する議題がどれだけ扱われているか、が評価を隔つポイントです。
また、気候変動を専門で扱う委員会もあると更なる高評価を見込めます。下記は住友化学の開示をもとに弊社が作成した組織図でありますが、サステナビリティ推進委員会と別にカーボンニュートラル対応チームも設置されており、この点はGPIF(年⾦積⽴⾦管理運⽤独⽴⾏政法⼈)の運⽤機関からも高く評価されています。

「ガバナンス」「リスク管理」にて求められる組織体制
住友化学[2]をもとに弊社作成

ファンケルの開示例

以下は、ファンケルのガバナンスの開示例です。どこまで対応できていて、どこまでできていないのかを開示していることがポイントです。

ファンケル[3]より

ファンケルは、「短期・中期のリスク識別にとどまっており、また財務影響などの定量的な分析は十分とは言えませんが」[3]と現状の開示の不足を客観的に認識しています。その上で、「先進的な企業の取組みを手本としつつ、外部の知見等を有効活用してこれらの不足を補い、TCFDが推奨する情報開示に内実ともに沿えるよう努めます」[3]と記載し、将来的に開示の質向上に努める姿勢を明記しています。このような開示方法によって投資家からの高評価が期待できます。

理想的なガバナンス・リスク管理体制が整備されていない企業様においては「現状がどうなっていて」「これからどう対応する予定があるのか」を開示することで、TCFD対応としては一定程度の評価を見込むことができます。

「戦略」について

「戦略」に関する開示については、自社のリスクと機会についての定性分析を開示することができれば十分だと考えられます。

財務的な影響の開示を重視するTCFDでは本来、定量的な開示が求められます。とりわけ「戦略」の項目では、企業は自社で洗い出したリスクと機会を定量的に分析し、財務影響がどれほどあるかを開示することが要求されます。

しかしながらこの財務影響分析のプロセスは煩雑であり、弊社の認識する限りではプライム市場においても十分な開示をしている企業様は決して多くはありません。

下記は、信越化学のリスクと機会の開示です。信越化学は各事業における影響につき、需要などの増減を定性的に記述し、その度合いを小・中・大の三段階で評価しています。

信越化学[4]より

本稿の執筆時(2022年6月)においては、リスクと機会の項目が自社へもたらす影響について、コストや事業収益の増減を評価する定性分析であっても別段見劣りすることはないと考えます。

なお、リスクと機会の詳細については、「TCFD開示における『リスクと機会』とは?基本の考え方から開示例まで解説!」をご覧ください。

「指標と目標」について

「指標と目標」に関しては、全社的な範囲でスコープ1,2におけるGHG排出量の算定結果を開示することが望まれます。なお、その算定方法は推定値を含んだ荒い粒度でも別段問題はないと考えています。

「指標と目標」においては全社的な範囲でスコープ1,2,3の開示することが理想的ではあるものの、「戦略」の財務影響分析と同様、スコープ3の算定プロセスは大変煩雑であるため未だここまで開示をしている企業様は多くはありません。

決して容易ではありませんが、荒い粒度であっても自社の排出量を算定済みの企業様は、算定結果を開示することを推奨します。

まとめ

以上この記事では、TCFD開示を目前に控えている企業が、どこまでを開示すれば十分と考えられるのかについて解説しました。

TCFD提言への対応は多少の猶予が認められているため、大体のプライム上場企業においても未だ完璧なTCFD対応は多くはありません。従って、自社の対応が十分でないとしても、「現在までに対応済みの項目」と、残りの項目に関しては「これから対応していく意思」を記載することができれば、相場から著しく離れた低評価を受けることはないでしょう。

参考

[1]JPX(2021)「コーポレートガバナンス・コードの補充原則3-1③後段の「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実」の「実施」にあたっては、TCFD枠組みに基づく開示項目をすべて開示しなければいけませんか。」https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/knowledge8349.html
[2]住友化学(2021)「TCFD提言に基づく情報開示」https://www.sumitomo-chem.co.jp/ir/library/annual_report/files/docs/scr2021_15.pdf
[3]ファンケル「サステナビリティへの対応ーTCFD」https://www.fancl.jp/sustainable/environment/tcfd/index.html
[4]信越化学グループ(2022)「信越化学グループと気候変動」https://www.shinetsu.co.jp/jp/sustainability/tcfd/