Last Updated on 2023年9月28日 by Arata Imao

2017年のTCFD提言の発表以降、世界中の企業が対応を迫られています。日本においても、東証のコーポレート・ガバナンスコード(以下、CGコード)にて、TCFDに沿った開示要求が明記されています。

このTCFDへの対応は、大きく「賛同」と「開示」の2種類に分けられます。この記事では、TCFD賛同のメリットや、「賛同」と「開示」の違い、またTCFD賛同の手順について解説します。

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TCFDとは

TCFDとは、2015年4月、気候関連の情報開示のガイダンス作成を目的に、G20の金融部門である金融安定理事会によって設立されたTask Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)の略称です。

このタスクフォースが2017年6月に公表した最終報告書「TCFD提言」にてガイダンスが公開されたことから、「TCFD」という略称がそのまま枠組みの呼称として参照されています。提言は2021年10月に改訂され、TCFD提言に沿った情報開示の必要性がさらに強調されています。

TCFD賛同団体数

TCFDへは、世界全体で3061団体、日本では726団体が賛同しており、国別で見ると日本が世界最多となっています(2022年2月24日現在)[1]。イギリスが次いで420、アメリカが381と続いています。

図表1. TCFD賛同団体数

TCFD賛同団体数

TCFDコンソーシアム[1]より

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TCFD“賛同”のメリット

ここからは、TCFD提言へ賛同することのメリットを3つ紹介します。

賛同のメリット1:投資家からの評価向上

TCFD賛同の大きなメリットは、投資家からの評価向上です。2019年12月に経産省が公表した「ESG投資に関する運用機関向けアンケート調査」[2]によると、機関投資家が重要視する国際イニシアチブは、TCFDが上位2番目に位置しています。とりわけ、TCFDへの注目度がSDGsを上回っている点は特筆すべきです。TCFDはリスク回避型の考えをもとに策定された枠組みであるため、投資家がTCFDを重視することは自明だと考えられます。

図表2. 資産運用機関が重要視するイニシアチブ

資産運用機関が重要視するイニシアチブ

経済産業省「ESG投資に関する運用機関向けアンケート調査」[2]より弊社作成

賛同のメリット2:顧客との関係向上

TCFDに賛同することで、顧客との関係向上も期待できます。TCFDコンソーシアムの会員団体を対象とした2021年度のアンケート結果によると、TCFD対応のメリットについて尋ねる設問に対し「顧客との関係向上(新規顧客獲得、認知度向上、差別化等)」と回答した団体は、前年の12%から26%にまで上昇しました[3]。

気候変動対応への要請の高まりにより、TCFDへの賛同が新規顧客の獲得や企業の認知度の向上および差別化につながっているものと考えられます。

TCFDコンソーシアムとは、2019年5月に民間主導で設立され、TCFD提言や関連のガイダンスの普及、および関係者間の対話の促進などに取り組む日本独自の組織です。TCFD本体とは直接な関係はありません。ただし、下記のようなメリットがあります。

賛同のメリット3:TCFDコンソーシアムへ入会し意見交換に参加できる

TCFD賛同により、TCFDコンソーシアムへの入会資格を得ることができます。これにより、コンソーシアム内の議論に参加することが可能です。

コンソーシアム内には、情報開示ワーキング・グループ、情報活用ワーキング・グループ、専門ワーキング・グループが存在し、TCFD開示や情報共有などについて、意見交換が行われています。

TCFDコンソーシアムの会員数は、2022年2月24日現在、552団体です。コンソーシアムへの入会方法は、記事の後半で紹介します。

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TCFD“賛同”と“開示”との違いは?

ここまでTCFD賛同について説明しましたが、更なる評価を狙う場合、もしくはプライム市場へ上場する場合は、TCFDに準拠した情報開示を行う必要があります。賛同と比較すると難易度は上がりますが、会社にはそれだけ大きなメリットをもたらします。

プライム上場企業へは TCFD開示が求められる

そもそも東京証券取引所(以下、東証)のプライム上場企業へは、TCFDに準拠した情報開示が求められています。2021年6月に改訂されたコーポレート・ガバナンスコード(CGコード)には、プライム市場区分の会社は「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである」[4]と明記されています。

ただし、東証もTCFDの開示項目を全て開示する必要はないと述べている通り[5]、内容は完璧である必要はありません。

開示のメリット1:投資家からの更なる評価の向上:海外からの投資誘致

もとより、TCFDへの理想的な対応は提言に基づいて情報開示をすることであり、この機運は世界中で高まりを見せています。TCFDに基づいた情報開示により、海外からの投資促進が期待できます。G7各国は、2021年6月5日、「TCFDの枠組みに基づく義務的な気候関連財務開示へ、国内の規制枠組みに沿う形で向かうことを支持する」[6]ことを発表しました。

また2020年11月イギリス財務省は、TCFDに即した開示の義務化に向けた5年間のロードマップを公表し、現時点でもその動きは進んでいます。TCFDに沿った開示を求める会社法規則案が既に国会に提出されており、このまま施行されれば、2022年4月6日以降の会計年度から適用される見込みです[6]。

国際的なスタンダードとなっているTCFD開示を行うことで、国内だけでなく、海外からも評価を得ることができます。

開示のメリット2:自社の気候変動に関連したリスクや機会の把握

TCFD開示に際して、自社を取り巻く外部環境を分析し熟考することで、自社の状況と気候変動への脆弱性を把握することができます。これにより、リスク管理につなげるこも可能で、自社の経営戦略へ反映させることもできます。

先述のTCFDコンソーシアムのアンケートによると、TCFD開示により「自社の気候関連リスクと機会について社内の理解が深まった」と回答した企業は、金融機関、非金融機関ともに最多の75%になりました。

図表3. TFCD対応のメリット

TFCD対応のメリット

TCFDコンソーシアム[3]より

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TCFD賛同のための手続き

ここからは、TCFDに賛同するための手続きについて説明します。

まず、TCFD賛同の方法は2種類あります。通常の賛同と、ステートメント付きの賛同です。

ステートメント付きの賛同では、企業・団体様のTCFDへの考えや取組みなどをTCFDの公式ホームページに掲載することが可能です。ステートメント付きで賛同する場合、通常の賛同の手続きを終えた上で、別の手続きが発生します。そちらは、通常の手続きの手順を紹介した後、解説します。

賛同の手順:TCFD公式HPへアクセスし必要事項を入力する

TCFD賛同の手続きは、TCFD本体の公式HP上にあるフォームを入力するだけで完了します。

TCFD本体の公式HPのフロントページ下部にある「BECOME A SUPPORTER」のタブをクリックし、表示されたページのフォーム(https://www.fsb-tcfd.org/become-a-supporter/)に必要事項を記入します。

フォームへは、団体や担当者様の簡単な情報を入力します(氏名や連絡先は、事務局から連絡がある可能性もあるため、代表者様ではなく担当者様の情報を入力することを推奨します)。

なお、TCFD賛同により何らかの義務が発生することはありません。そのため、TCFDの情報開示の見込みがつく前であっても、賛同だけしてしまうことも可能です。

追加手続き:ステートメント付きで賛同する場合

ステートメント付きの賛同を行う場合は、TCFD本体のアドレス(info@fsb-tcfd.org)宛に、

  1. 掲載したいステートメントの内容(英文)
  2. ステートメントに記載する代表者の名前、肩書等(英文)

の2点を送付することで、手続きが可能です。

手続きが完了すると、下記のようにTCFD本体のHPへ掲載されます。

TCFD[7]より

TCFDコンソーシアムへの入会方法

TCFDへの賛同とは別に、日本のTCFDコンソーシアム(海外のTCFD本体とは別組織)への入会も可能です。コンソーシアムの会員になることのメリットは先述の通りです。事務局のアドレス(info-tcfd@ml.mri.co.jp)へ入会の意向を連絡した後、送付される入会申込書を記入する必要があります。

詳しくは、コンソーシアムのウェブページ(https://tcfd-consortium.jp/admission)を参照ください。

まとめ

以上この記事では、TCFD賛同のメリットや、「賛同」と「開示」の違い、またTCFD賛同の手順について解説しました。

TCFD対応は賛同と開示の2種類に分けられ、どちらも投資家からの高評価が期待できます。情報開示に際しては、社内の部署間で連携して議論をする必要があるため難易度は上がりますが、その分、気候変動に対する会社の強みや弱みをより深く理解することができます。

#TCFD

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当社は「気候変動時代に求められる情報を提供することで社会に貢献する」を企業理念に掲げています。

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Author

  • 西家 光一

    2021年9月入社。国際経営学修士。大学在学中より国際人権NGOにて「ビジネスと人権」や「気候変動と人権」領域の活動を経験。卒業後はインフラ系研究財団へ客員研究員として参画し、気候変動適応策に関する研究へ従事する。企業と気候変動問題の関わりに強い関心を寄せ、リクロマ株式会社へ参画。