Last Updated on 2023年9月22日 by Akiko Ando
TCFD対応を進めている担当者様で、「求められる項目が多すぎて、結局何が評価されるのかわからない」とお考えの方はいませんか?
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF:Government Pension Investment Fund。以下、GPIF。)は2022年3月23日、「GPIFの国内株式運用機関が選ぶ『優れたTCFD開示』」を発表しました[1]。当資料には、GPIFが運用委託先機関として選定した27社が「優れたTCFD開示」として発表されています。
今回は、同資料内の運用機関からのコメントを元に、TCFD開示で評価されるポイントを、“4つの柱”である「ガバナンス」「戦略」「リスクと管理」「指標と目標」に分けて解説します。
今回選定された優れた“TCFD開示”のガバナンスに対するコメントで特に重要な点が「実際に機能しているガバナンスであるかがわかること」です。
TCFDのガバナンス開示においては杓子定規のような定型の開示にとどまることが多いですが、取締役会や経営会議、サステナビリティ委員会がどのような意思決定を下しているかを何らかの形で開示することが重要になっていると考えられます。
例えばキリンホールディングスへのコメントでは「TCFD提言に求められる全てが丁寧に開示されている。毎年の分析の改善・進化の状況が共有されることで、実効性の高いガバナンスが備わっていることが伝わる」[1]とあります。この場合、分析の改善・進化の状況の開示が評価されていると考えられます。
「戦略」は“信頼性”が評価される
今回選定された優れたTCFD開示の戦略に対するコメントで特に重要な点が「長期的なレジリエンスをどのように示すか」です。
日立製作所の例
例えば日立製作所へのコメントでは、「1.5℃・4℃シナリオでの事業環境、リスク、機会が詳細に定義されており、長期的なレジリエンス性に 信頼感が持てる内容」[1]と記載されています。実際に日立製作所のシナリオ分析では、各産業毎にシナリオが設定されており、そのシナリオは気候変動だけではなく様々な社会トレンドも含まれています。気候変動に詳しくない人(投資家)から見ても納得度の高いものになっていると考えられます。
詳しくは「意味あるシナリオ分析とは?初年度対応から好事例まで紹介」を御覧ください。
キリンホールディングスの例
また、キリンホールディングスへのコメントでは「多数のドライバーに基づき財務インパクトを分析しており、対応戦略も具体的 に記載。テーマ別にリスクと機会が整理されており、多面的な分析もなされている」[1]と記載されています。
TCFDの戦略では「(現在と将来の)財務影響の開示」に目が向きがちです。もちろん投資家として財務影響金額は重要な観点ですが、現状はレジリエンスが本当に高いかを定性的に判断をしている段階ではないかと考えられます。企業が見せたい側面以外の様々な角度からの分析を行うことで、投資家には信頼感と安心感を与えることができるのだと考えられます。
「リスク管理」は“分かりやすさ”が評価される
リスク管理に関しては、「リスク管理の考え方やシナリオ分析結果と戦略への反映」と「財務的しきい値の開示」が高評価のポイントとしてコメントされています。
「リスク管理の考え方やシナリオ分析結果と戦略への反映」に関するキリンホールディングスへのコメントですが、キリンのTCFDを読んでみるとリスク管理の手法の一つとしてシナリオ分析を活用していると記載されています。詳しくは「意味あるシナリオ分析とは?初年度対応から好事例まで紹介」を御覧ください。
また「財務的しきい値」に関するリコー(株)へのコメントで「気候変動におけるリスク分析では、財務影響を大(500 億円以上)、 中(数十億円~500 億円程度)、小(数億円)といった形で定量的な要素を含めて分析」[1]と記載されています。
「指標と目標」は“網羅性”と“進捗開示”が評価される
今回選定された優れたTCFD開示の指標と目標には多くのコメントが記載されていました。その中で特に重要なポイントは「求められる情報を出来る限りオープンにすること」と「進捗状況の開示」の2点だと考えられます。
「求められる情報をできる限りオープンにすること」に関するコメントを見る限り、2021年10月に出されたTCFD改訂版の「指標と目標」が開示されているかが重要だと考えられます。
TCFD(2021)「Guidance on Metrics, Targets, and Transition Plans」[2]より弊社作成
リコーへのコメントでは「役員報酬の関係性」、三菱UFJファイナンシャルグループへは「サステナブルファイナンスの残高目標」「再生エネルギープロジェクトファイナンスによるCO2削減目標」「炭素関連試算」、日立製作所は「ICP導入」が言及されています。
今回の資料の中で、2021年10月改訂版を反映した企業が高評価を得ていることを考えると、今後開示を検討する企業は増加するものと考えられます。
また「進捗状況の開示」は重視されており、実効性の評価が可能な開示が求められているようです。
“開示のアクセスのしやすさ”も評価ポイント
今回の運用機関からのコメントを見て総じて言えることの一つに「開示のアクセスのしやすさ」が挙げられています。その中ではCSV報告会やTCFDレポートなどの媒体に関する紹介がありますが、キリンホールディングスの例では「サマリーにおいて TCFD 推奨の開示項目がコンパクトにまとめられていることに加え、参照ページでの詳述により、気候変動に対する取組みを分かりやすく説明している点を評価する。」[1]と記載があります。
投資家は企業のTCFD開示のみを見ているわけでは無いため、わかりやすくコンパクトなTCFD開示が求められているようです。例えばTCFD対照表などを作り、投資家がアクセスしやすいようにすると良いかも知れません。
まとめ
以上この記事では、TCFD開示で評価されるポイントについて解説しました。ガバナンスについては、「実際に機能しているガバナンスか否か」、戦略については「長期的なレジリエンスの開示」、リスク管理については「リスク管理の考え方やシナリオ分析結果と戦略への反映」と「『財務的しきい値』の開示の是非」、指標と目標については「要求項目を網羅的に開示しているか」と「進捗状況の開示をしているか」、が“優れたTCFD開示”として評価されるポイントになります。
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参考文献
[1]GPIF(2022)「GPIFの国内株式運用機関が選ぶ『優れたTCFD開示』」https://www.gpif.go.jp/esg-stw/20220323_excellent_TCFD_disclosure_j.pdf
[2]TCFD(2021)「Guidance on Metrics, Targets, and Transition Plans」https://assets.bbhub.io/company/sites/60/2021/07/2021-Metrics_Targets_Guidance-1.pdf
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