Last Updated on 2023年9月22日 by Akiko Ando

2022年3月、金融庁は、2023年度より有価証券報告書における気候変動開示を義務化する方向で検討していることを発表しました(「金融庁 有価証券報告書にて気候リスクの開示義務化へ」)。

この記事では、有価証券報告書におけるTCFD開示の動向を、2022年3月24日の第7回 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの事務局説明資料と議事録をもとに当社が解釈した内容をお伝えします。

【追記】2022/11/28
最新情報は下記の記事で紹介しています。是非ともご覧ください。
金融庁 有報のサステナビリティ情報記載を義務化 要点を解説

\ 有報の「ガバナンス・リスク管理」対応 どう進める?/

金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループとは

金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループとは金融担当大臣の諮問をもとに、諮問内容の専門家が開示制度に関して議論の上、金融審議会に報告するもので、報告事項を踏まえ金融審議会では取り組みを決定します。

過去の議論

ディスクロージャーワーキング・グループは毎回異なるテーマについて深く議論をしており、2017年12月から2018年6月にかけて行われたWGでは下記4点の報告を以て閉会となりました。

  1. 「財務情報」及び「記述情報」の充実
  2. 建設的な対話の促進に向けたガバナンス情報の提供
  3. 情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組み
  4. その他の課題(EDINETの利便性向上や、英文開示推奨など)

その後、企業経営においてサステナビリティが重視されつつあるておいう点とコロナ後の企業変革に向けたコーポレート・ガバナンスの改善を背景に、2021年6月25日に当時の金融担当大臣であった麻生太郎より諮問されワーキンググループが再度開催される運びとなりました。諮問事項は以下の通り開示に関するあり方に焦点が当てられています。

企業を取り巻く経済社会情勢の変化を踏まえ、投資家の投資判断に必要な情報を適時に分かり やすく提供し、企業と投資家との間の建設的な対話に資する企業情報の開示のあり方について幅 広く検討を行うこと。

金融庁[1]

今回の議論のポイントは?

第7回 金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループでの議事内容

第7回のWGでは「サステナビリティ開示全般・気候変動に関する開示」「人的資本・多様性などに関する開示」が主要な議論となっており、国際会計基準財団(IFRS財団)が2021年11月に設置した国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)に関する動向や開示のプロトタイプなどの説明がされた後に、有価証券報告書とサステナビリティ情報記述に関する提案がされました。

案で重要なポイントは下記4点です。

  1. 「サステナビリティに関する考え方、取組み」の記述欄の新設
  2. 「サステナビリティに関する考え方、取組み」の記載位置
  3. 記述欄では「ガバナンス」「リスク管理」が開示項目となり「戦略」「指標・目標」は各企業が重要性を踏まえて開示を判断
  4. 開示では任意開示書類(統合報告書やサステナビリティ報告書など)の参照を許容

「サステナビリティに関する考え方、取組み」が有価証券報告書で記載が必要となり、開示項目では「ガバナンス」「リスク管理」必須となる一方、「戦略」「指標・目標」は会社に開示が委ねられる見込みです。また、有価証券報告書のどこの位置に記載するかも複数の案が示されました。任意開示書類として統合報告書やサステナビリティ報告書など外部資料の参照が認められる見込みです。

サステナビリティ情報の記載箇所について

有価証券報告書の記載事項と「サステナビリティ情報の記載欄」の新設
金融庁[2], p.16

議題内容の今後の進展は

記述欄の新設は新設される見込み

サステナビリティに関する考え方、取組の記述欄の追加に関しては委員会メンバーから大きな反論はなく、新設される見込みだと考えられます。一方、記載箇所に関しては「『第2 事業の状況』の中に新設」「『第4 提出会社の状況』と『第5 経理の状況』の間に新設」「『第1 企業の概要』と『第2 事業の状況』の間に新設」などの議論がありました。記載箇所は今後委員会メンバーが議論を尽くし決定されると見込まれます。

「ガバナンス」「リスク管理」は開示必須か

3点目の記述内容に関しては「ガバナンス」「リスク管理」が開示項目となり、「戦略」「指標・目標」がマテリアリティに応じて開示を行うという方向性で議論がまとまったように考えられますので、今後大きな変更は無いでしょう。一方、委員会メンバーからはISSBの開示プロトタイプでは「戦略」「指標・目標」は開示項目となっていることからISSB基準を採用した企業の対応に配慮することも必要という声も上がりました。

「虚偽記載の責任」が“任意開示書類”にまで及ぶかが論点

最後の4点目の任意開示書類の参照に関しては、有価証券報告書における「虚偽記載の責任」範囲は任意開示書類まで及ぶかどうかが議論のポイントとなっています。

委員の中からは、「戦略」や「指標・目標」は外部のシナリオをもとに作成をしており、その外部シナリオは将来の有りたい姿からバックキャスティング的に設定されているものもあるため、一部虚偽に当たりうる可能性が指摘されました。その指摘に対し事務局側から認識した上で、いたずらに企業側を心配させるようなことはしないように丁寧な議論を今後していきたいとコメントがありました。

#金融庁 #有報 #報告書

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リクロマ株式会社

当社は「気候変動時代に求められる情報を提供することで社会に貢献する」を企業理念に掲げています。

カーボンニュートラルやネットゼロ、TCFDと言った気候変動に関わる課題を抱える法人に対し、「社内勉強会」「コンサルティング」「気候変動の実働面のオペレーション支援/代行」を提供しています。

Authors

  • 加藤 貴大

    リクロマ株式会社代表。2017年5月より、PwC Mexico International Business Centreにて日系企業への法人営業 / アドバイザリー業務に携わる。2018年の帰国後、一般社団法人CDP Worldwide-Japanを経て、リクロマ株式会社(旧:株式会社ウィズアクア)を創業。大学在学中にはNPO法人AIESEC in Japanの事務局次長として1,700人を擁する団体の組織開発に従事。1992年生まれ。開成中・高等学校、慶應義塾大学経済学部卒業。

  • 西家 光一

    2021年9月入社。国際経営学修士。大学在学中より国際人権NGOにて「ビジネスと人権」や「気候変動と人権」領域の活動を経験。卒業後はインフラ系研究財団へ客員研究員として参画し、気候変動適応策に関する研究へ従事する。企業と気候変動問題の関わりに強い関心を寄せ、リクロマ株式会社へ参画。