Last Updated on 2023年9月30日 by Arata Imao
ISSB(サステナビリティ基準委員会)は10月中旬と11月初旬に行われた理事会を経て、スコープ3のGHG排出量の開示の必須化(救済措置付き)とシナリオ分析の利用の必須化を決議しました。この記事では、上記決議が最終的に日本の企業にどの時間軸でどのような影響を及ぼすものなのか、解説します。
※関連記事
『ISSBの最終案「IFRS S2」の詳細について解説』
『ISSB草案の全体像と要求事項をわかりやすく解説 Part1』
『ISSB草案の全体像と要求事項をわかりやすく解説 Part2:IFRS S2「気候関連開示」編』
ISSB(サステナビリティ基準委員会)は10月中旬と11月初旬に行われた理事会を経て、スコープ3のGHG排出量の開示の必須化(救済措置付き)とシナリオ分析の利用の必須化を決議しました。今回の決定を含めISSBは2023年初旬に最終的な気候関連開示基準を発行し、その後SSBJ(日本サステナビリティ委員会)での議論を踏まえて有価証券報告書「サステナビリティ記述欄」など順次日本への適用の形態が決定する見込みです。
ISSBとは
国際的な会計基準を作成しているIFRS財団が2021年11月に設立したサステナビリティ基準委員会(the International Sustainability Standards Board)のことです。TCFDやGRI、CDSB、VRFなど既存のサステナビリティに関連する開示の基準設定団体を巻き込みながら、国際的に最も影響のあるサステナビリティ開示基準、気候関連開示基準を設定することを期待されている団体です。ISSBによる気候関連開示基準は、TCFDの4つの構成要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)に基づき、TCFDの開示要件から一部追加あるいは詳細化した形で、2023年度初めごろに設定される見込みです。
ISSB関連のタイムライン
2023年の年始に基準の発行が行われる

2022年の間に行われる会議では、ISSBから発表された基準のドラフトに関して、各国から寄せられたフィードバックを元に議論が進められています。それらの議論を元に、2023年の年始ごろに「IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項」」及び「IFRS S2号「気候関連開示」」の基準が発行されます。
ISSBの基準発行を踏まえて日本サステナビリティ委員会(SSBJ)が日本への適用を議論

ISSBの基準発行を受けて、日本サステナビリティ委員会(SSBJ)で日本への適用に関する具体的な議論が交わされることになっています。具体的な内容としては、日本としてのISSBの基準の位置づけ、具体的な開示内容、保証の仕組み等を議論することになっています。最終的な実装先としては、有価証券報告書上の「サステナビリティ記載欄」が現在検討されています。
なお、有価証券報告書の「サステナビリティ記載欄」における開示については、「金融庁 有報のサステナビリティ情報記載を義務化 要点を解説」の記事で詳しく解説していますので、そちらも合わせてご覧ください。
ISSBで求められる気候関連開示の中でも留意すべき点
GHG排出量開示範囲がスコープ3まで拡大
ISSBは10月18日―20日に開催された理事会で、現行版のGHGプロトコルに基づくScope1、2、3の温室効果ガス(GHG)排出に関する企業の開示を求めることを満場一致で決議しました。
これらの要求事項の一部として、ISSBは、企業がスコープ3の要求事項に対する救済措置を策定する予定です。この救済措置は、今後の会議で決定され、企業にScope3の開示を行うための時間を与えることや、いわゆるセーフハーバー規定[3]に関して国・地域との議論を行うことが考えられます。[4]
温対法などの各国の算定基準は認められず、GHGプロトコルの算定基準に一本化される見込みである点も留意しておく必要がありそうです。
[3] セーフハーバー規定:特定の状況下、または一定の条件などの基準を満たした場合に、規制の緩和対象となること。
リスクと機会やレジリエンス分析時にシナリオ分析の利用が必須化
ISSBは2022年11月1日に開催された補足理事会において、企業が気候変動に対するレジリエンスを報告し、気候関連のリスクと機会を特定するために、気候関連のシナリオ分析を利用することが求められると決議しました。[5]
ISSBは、定量的、部分的、定性的など、シナリオ分析の種類を定めたTCFDガイダンスを参照する予定としています。企業がレジリエンスの分析をする際、最低でも定性的なシナリオ分析を行う必要があるという点でも合意をしています。[5]
また、気候変動シナリオの選定に関するガイダンスも提供する予定としています。現時点でISSBは、NGFS (the Network for Greening the Financial System)のような「既製のシナリオ」が企業にとって有用な資料となるだろうという認識を表明しています。[5]
IEAやIPCCのシナリオがこれまで企業に広く使われてきましたが、今回ISSBは中央銀行等の金融機関で行われている気候変動ストレステストでよく用いられるNGFSのシナリオに唯一言及しました。今後金融機関以外の企業においてもNGFSのシナリオが主流になるのか見極める必要がありそうです。
【以下、2022年12月22日 (木) 更新】
気候関連開示に関するISSBの暫定決定事項 (11月末時点)
スコープ1,2
ISSB は、S2 基準案第 21 項の関連会社(associates)、共同支配企業、非連結子会社又は連結会計グループに含まれていない関係会社(affiliates)に関するスコープ 1 及びスコープ 2 排出について、絶対総量(absolute gross)(CO2 換算のメートルトンで表す。)の開示を行うという要求事項案を進めることを暫定的に決定しました。
スコープ3
ISSB は、スコープ 3 の GHG 排出の開示を企業に要求するという提案について、公開協議で回答者が提起したデータの入手可能性及びデータ品質に関する課題に対処する救済措置(発行日の先送り、規制当局と協働したセーフ・ハーバー・ルール、ISSBによる適用ガイダンスの開発)を条件として進めるということを暫定的に決定しました。
GHG 排出の測定方法
ISSB は、スコープ 1、スコープ 2のGHG排出量を測定し開示する際にはGHG プロトコルの2004年版コーポレート基準を、スコープ3のGHG排出量を測定し開示する際にはGHG プロトコルの2011年版コーポレート・バリュー・チェーン(スコープ 3) 基準を適用することを暫定的に決定しました。
相互運用可能性(interoperability)
- ISSBは、基準構造に関して、S1 基準案及び S2 基準案の枠組み(コア・コンテンツ)を、金融安定理事会の気候関連財務開示に関するタスクフォース(TCFD)提言に おける 4 つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理並びに指標及び目標)を基礎とすることを暫定的に決定しました。
- ISSBは、気候変動による現時点での影響の開示に関して、気候関連のリスク及び機会が報告期間の企業の財政状態、 財務業績及びキャッシュ・フローに与える影響(effects)(つまり、現在の影響 (effects))について開示することを企業に求めることを暫定的に決定しました。
- ISSBは、排出目標に際した企業のネット排出目標及びカーボン・クレジットの意図的な使用に関して、企業のグロス排出削減目標とは別個に開示すべきであることを明確にすることを暫定的に決定しました。
- ISSBは、企業が設定した排出目標(ネット排出目標及びグロス排出削減目標の両方)及び現地の法律により達成が要求される排出目標のいずれも開示が求められることを暫定的に決定しました。
気候レジリエンス
- ISSBは、企業の状況に見合った気候関連のシナリオ分析の方法を使用して、気候レジリエンスを評価することを企業に要求します。ISSB はさらに作業を進め、企業が分析方法を選択するための規準(criteria)を明確にする予定であることを暫定的に決定しました。
- ISSBは、気候関連財務開示タスクフォース(TCFD)からのガイダンスに基づいて、シナリオ分析についての適用ガイダンスを開発することを暫定的に決定しました。
- ISSBは、気候レジリエンスを評価し、それについての開示を作成するに際して、企業が関連性のあるシナリオを選択するうえで役立つように、第三者のマテリアルに基づいてガイダンスを開発することを模索することを暫定的に決定しました。
産業別マテリアル
ISSBは、企業が産業固有の開示を行うという要求事項を維持するものの、付録 B の内容を例示とし、当初は強制力のあるものとしないとしました(non-mandatory)。 ただし、さらなる協議を条件として、将来的には付録 B を強制力のある (mandatory)ものとする ISSB の意図を表明することを暫定的に決定しました。
参考
[1] 経済産業省(2022年10月)ISSB開示基準の審議状況について(事務局資料①)
[2] 金融庁(2022年11月)第2回 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(令和4年度)事務局資料
[4] IFRS(2022年10月)ISSB unanimously confirms Scope 3 GHG emissions disclosure requirements with strong application support, among key decisions
[5] IFRS(2022年11月)ISSB confirms requirement to use climate-related scenario analysis
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