Last Updated on 2024年11月20日 by HaidarAli
本コラムでは、自社の温室効果ガス排出量を算定する場合の必須情報である排出係数について、その重要性や関連制度とともに、体系的に紹介していきます。
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排出係数とは
排出係数とは
排出係数とは、電気や熱などのエネルギー生産・利用あたりの温室効果ガス排出量を示した数字です。排出係数は、エネルギー起源のCO2排出量を計算するために用いられます。(CO2排出に限定しているのは、エネルギー転換によって排出される温室効果ガスのほとんどがCO2であるためです。)
また、エネルギー生産・利用のなかでも電力利用あたりの排出量のみを指す場合もあります。
例えば、火力発電所では発電のために大量のCO2が排出されるため、排出係数は高くなり、再生可能エネルギーによる発電ではCO2が発生しないため、排出係数はゼロになります。
排出係数が重要な理由
現在の気候変動を含めた環境問題対策は、「経済と環境の好循環」という言葉に表されるように、持続的な経済成長と環境保護を両立させる方針が重視されています。これをミクロな視点で捉えると、各企業が事業拡大による利益拡大を目指しつつも、事業活動における温室効果ガス排出等の環境負荷を低減させるということです。このような方針を、経済成長と環境負荷が比例してしまっていた状況から、それぞれを切り離すという意味で「デカップリング」と呼びます。
そして、事業活動における温室効果ガスの排出削減方法は、省エネによってエネルギー利用自体を減らすこと、エネルギー利用あたりの温室効果ガス排出を削減することの大きく二つに分けられます。排出係数を下げることは、後者の「エネルギー利用当たりの温室効果ガス排出を削減すること」と同義です。
そのため、企業が排出係数に注目し、その低減を目指すことは、企業が自らの事業活動における環境負荷を減らすための基本的な手段の一つなのです。
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企業が排出係数に注目する意義
「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」(SHK制度)
2006年の地球温暖化対策法改正により、「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」が設けられ、1500kl/年以上のエネルギー利用などの要件を満たしている事業者に対して、自社の温室効果ガスの排出状況の報告義務が課されています。事業者が排出状況の報告をすると、環境省が集計し、その数値をネット上で公表します。現在は、令和2年度までの情報が公表されています。[1]
各事業者は、環境省が公表している各電力会社の排出係数を参考に、自社の温室効果ガス排出量を計算します。そして、制度内で公表される情報は、投資家、関連企業等が参照し、公表されている企業との関係性を検討することに用いられます。[2]
制度の詳細については、環境省が設けているWebページをご覧ください。
温室効果ガス排出量の開示を求める制度は、環境省だけでなく、都道府県・市町村レベルで設けられているものも少なくありません。類似の制度を設けている地方自治体は、こちらからご確認ください。
GHGプロトコルに基づくサプライチェーン排出量の算定
GHGプロトコルとは、温室効果ガス排出の算定・報告に関する国際基準です。世界的に信頼された基準であり、TCFDなどの情報開示枠組みに活用されています。GHGプロトコルでは、企業が温室効果ガス排出削減を行う際の観点として、企業による排出を以下のように分類しています。[3]
この中で、スコープ2の計算を行うためには、自社が使う電力の排出係数が必須情報となります。
※関連記事:スコープ1,2,3とは?各スコープの詳細から算定方法まで解説
このように、企業が自社の排出係数を把握することは、行政の制度に対応したり、フレームワークに基づく情報開示を行うための必須条件なのです。
排出量算定と排出係数について
排出量の種類と算定方法
ここでは、SHK制度における排出量の算定方法・係数の定義を紹介します。
SHK制度では、基礎排出量と調整後排出量を報告することになっています。
基礎排出量は、「自らの事業活動に伴い直接又は間接(他人から供給された電気又は熱の使用に伴う排出量のみ)に排出した温室効果ガスの排出量」であり、調整後排出量は、「基礎排出量を基本として他の者の温室効果ガスの排出抑制等に寄与する取組を考慮した排出量」です。二つの排出量が定められているのは、複数の視点から自社や周囲のステークホルダーが自社の環境負荷を把握することで、サステナビリティの観点から、より具体的に事業を理解するためです。[1]
基礎排出量と調整後排出量の具体的な計算式は、以下のようになっています。
事業によって排出される温室効果ガスは、他の事業者から供給される電気や熱による間接的なものだけでなく、事業活動によって直接に排出されるものも含まれます。そのため、排出量の算定においては、排出係数を用いて計算するエネルギー起源CO2だけでなく、非エネルギー起源CO2や他の温室効果ガスについても足し合わせます。
また、調整後排出量については、非エネルギー起源の温室効果ガスについて、認証排出削減量等を考慮する必要があるため、上のような項の多い計算式となっています。
排出係数の種類
排出係数は、基礎排出量と調整後排出量のそれぞれに対応して、基礎排出係数と調整後排出係数の二つがあります。排出係数は、環境省が電力・熱供給事業者ごとに、電力と熱のそれぞれの係数を公表します。この二つの排出係数に基づき、電力と熱を利用する事業者が自社全体の温室効果ガス排出のうち、エネルギー起源のCO2排出量を計算します。なお、以下では説明簡略化のため、電力に絞った説明をします。
基礎排出係数
電力会社の温室効果ガス排出量を電力販売量で割った値です。それにより、販売した電力の一単位(kWh)ごとにおける温室効果ガス排出量を表します。
調整後排出係数
調整後排出係数は、基礎排出係数に比べて煩雑な計算式となっていますが、おおむね、基礎排出係数から認証排出削減量などを引いた排出係数です。認証排出削減量とは、「他の者の温室効果ガスの排出の量の削減等に寄与する各種の取組により削減等がされた二酸化炭素の量として、環境大臣及び経済産業大臣が定めるもの」とされています。よって、温室効果ガス削減の効果を実質的に表すために調整された排出係数と言えます。[4]
認証排出削減量としては、国内の制度として国内クレジット、 オフセット・クレジット(J-VER)、 グリーンエネルギーCO2削減相当量、J-クレジットの四種類、海外の制度としてJCMクレジットの一種類が利用可能です。
企業による排出量の下げ方
排出係数の低い電力会社との契約
SHK制度のWebページで公表されている排出係数をもとに、排出係数の低い電力会社からの電力を利用することで、自社の温室効果ガス排出を低減させることができます。
また、一つの電力会社の中にも複数のプランが存在し、それぞれに排出係数が異なっている場合があるため、プランごとの検討をすることも重要です。
事業所における省エネの推進
節電を心がけるなどの省エネ対策ではなく、機器の高効率化、断熱化による建物改修等により、そもそものエネルギー利用量を減らすことができます。化石燃料を動力としていた機械(暖房設備、ガスコンロ、自動車など)を電化することと同時並行で、排出係数の低い電力会社への乗り換えを進めることにより、排出量を減らすことも考えられます。
再エネの独自使用の促進
PPA等の方法を用いて再エネによる電力生産を行い、自社の事業活動に用いることで、外部からのエネルギー利用を減少させることができます。また、事業所内で電力・熱を生産し、その電力を外部に供給した場合には、SHK制度では、その分の排出量をエネルギー起源CO2排出量から控除することができます。
認証排出削減量の利用
調整後排出係数で既に加味されている認証排出削減量は用いることができないものの、自社が認証排出削減量を調達することで、排出量を削減する余地があります。
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参考文献
[1] 環境省(2019)「『令和元年度算定・報告・公表制度説明会』資料 全体版」
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/files/about_document/2019/gaiyo_rev.pdf
[2] 環境省・経済産業省(2023)「電気事業者ごとの基礎排出係数及び調整後排出係数の算出及び公表について」
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/files/calc/cm_ec/2023/full.pdf
[3] 環境省(2017)「サプライチェーン排出量算定の考え方」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/supply_chain_201711_all.pdf
[4] 経済産業省(2021)「工場の省エネ推進の手引き」https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/factory/support-tools/data/kojo_tebiki.pdf
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