Last Updated on 2024年4月25日 by Yuma Yasui

企業が脱炭素への取り組みを促進する際重要になるのが、スコープという視点です。スコープとは、温室効果ガスの排出量を測定する範囲のことを指します。そして、スコープ1,2,3に分類されます。

本記事では、現在世界で主流となっているスコープ1,2,3の概念と、各スコープにおける排出量の算定・把握方法を解説します。

温室効果ガス排出量算定の具体的プロセスを知る!

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「どんなデータ/計算式」を用い、「どんなプロセス」で算定するのかを理解できます。


スコープの概念は、温室効果ガス算定・報告の国際基準である「GHGプロトコル」にて定義されています。

GHGプロトコルとは?

温室効果ガス算定・報告において、世界で最も広く認知・支持されている国際基準です。

このプロトコルの策定には、以下の機関を中心に、企業・NGO・政府機関が参加しています。
・米国の環境系シンクタンクWRI(世界資源研究所)
・持続可能な発展を目指す企業連合隊WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)


日本でも、算定基準としてGHGプロトコルを推奨

温室効果ガス排出量の算定基準として、日本においてもGHGプロトコルが推奨されています。これまでは、環境省や経産省によって定められた基準とは整合性がとれていませんでした。しかし、2019年3月に公表された資料にて、経産省がGHGプロトコルを推奨することが明記されました。

スコープ1,2,3の概要

先述の通り、スコープは以下の3つに分類されています。
・サプライチェーン上流(スコープ3)
・自社(スコープ1,2)
・サプライチェーン下流(スコープ3)

下図のようにスコープ1,2,3の概念を表すことができます。

スコープ1,2,3全体図

スコープ1,2,3の全体図
弊社作成

スコープ1は、自社での燃料の使用や、工業プロセスによる直接的な排出のことを指します。具体的には、自社で燃焼した都市ガス、LPガス、A重油、軽油、灯油、ガソリンなどが排出源となります。また、工場などを所有されている企業では燃料以外の排出源からの温室効果ガスも含まれます(メタン等)。

スコープ2は、自社が購入した電気・熱等のエネルギーの使用に伴う間接的な排出のことを指します。具体的には、自社が購入して使用した電気、熱、冷水、蒸気などが排出源となります。

スコープ3は、スコープ1,2以外の、原料調達・物流・販売などバリューチェーンで発生する自社の事業活動に関連した他社の排出を指します。さらにスコープ3には、カテゴリと呼ばれる分類があり、カテゴリは1〜15まで存在します。

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スコープ1,2の算定方法

スコープ1,2は事業活動を含む自社活動における排出量を範囲とします。そのため、この2つのスコープは同様のプロセスで算定します。下記のように、①範囲・精度の決定、②活動量の収集・算定、の2つのステップで算定を行います。

ステップ①:範囲・精度の明確化

まず初めに、排出量の算定をしたい「組織的範囲」「データの精度」を明確化します。排出量算定の対象範囲とそれに伴い必要となるデータの精度によって、算出にかかる手間が変わるためです。具体的には、下記3つの事例をご覧ください。

事例(1):自社の温室効果ガス排出量を把握

初めて排出量を算定する企業様の場合、自社単体に範囲を絞って排出量を算定されるケースが多いです。この場合、「範囲」は自社全体。「精度」は、量が取れない一部データに関して推定値等を用いることになります。

量が取れないデータとは、直接的に排出量を計測できない項目のデータです。例えばガソリンの場合、使用量は不明なことが多いですが、ガソリンの購入にかかった金額から逆算して使用量を算出することができます。その逆算した使用量から、温室効果ガスの排出量を推定します。

事例(2):国内グループの排出量を把握

国内グループ全体の算定は、自社単体を実施した翌年以降2〜3年以内に行われるケースが多いです。この場合、「範囲」は国内グループ全体(自社+連結対象)。「精度」は(金額ではなく)使用量と契約会社がわかるように収集を行うことです。 

事例(3):連結子会社の排出量を把握

国内グループ全体の算定が終われば、海外含む連結子会社の排出量算定を実施します。この場合、「範囲」は海外含むグループ全体(自社+連結対象)。「精度」は(金額ではなく)使用量と契約会社がわかるように収集を行うことです。 

※スコープ1,2の算定のゴールは、GHGプロトコルの要求通り、連結子会社の排出量までの算定です。ただし通例、初年度から連結子会社の分まで把握することは容易ではありません。そのため、上記のように自社単体の算定から順に実施します。

また、算定対象範囲は細かく様々な決め方があります。そのため、今回は一般的な日本の企業を対象に記載しています。例えば海外では直接的な経営支配力を持つ企業を算定対象に含むケースもあります。

ステップ②:活動量の収集・算定

ステップ①で範囲と精度が決定した後、算出のために必要なデータ(燃料の重量・電気代など)を収集します。データは、Excelファイルに蓄積します。例えば、スコープ2に分類される「電気」の使用によるCO2排出量を算出したい場合、「契約している電力会社名」「年間使用量」「単位」のデータが必要になります。

集めたデータを下記の計算式に当てはめて計算します。

スコープ1,2の算出方法、計算式

※「排出係数」とは:一定量の燃料を燃やしたり、一定量の生産物をつくるために排出されるCO2の量。排出原単位とも言う。燃料やエネルギー毎に係数は異なり、省庁や自治体が定めた基準数値を使うことが多い。

電気の排出量は、下記のようになります:

CO2排出量(東電の場合)= 使用量(100kWh) × CO2排出係数(0.441kg/kWh)=  44.1kg

補足(1):組織的範囲以外に決定すべき範囲の要素一覧

上記のような組織的範囲のほかにも、決定すべき範囲は存在します。例えば、「温室効果ガス」の種類に関して、灯油・エネルギー起源のCO2(ガソリン・電気等の使用により排出されるCO2)、非エネルギー起源のCO2(主に化学メーカーや製造業、一次産業企業が排出)などがあります。

組織的範囲以外に決定すべき範囲の要素一覧

補足(2):スコープ2算定の際の注意点

スコープ2の算定時に注意していただきたいのは、スコープ2には「ロケーションベース」と「マーケットベース」の2つの項目があり、GHGプロトコル上、両方の開示が必要である点です。 

「ロケーションベース」は地理的な所在を起点にした考え方。マーケットベースは電力の契約会社を起点にした考え方です。

スコープ2には「ロケーションベース」と「マーケットベース」の2つの項目がある

「ロケーションベース」における排出量は、「電気の使用量×国が出した代表値」で算出できます。日本のみの場合、代表的な係数は1つであるため楽な計算になるでしょう。

「マーケットベース」では、「電気の使用量×電力会社毎の係数」で算出します。電力会社毎に単位あたりで排出される温室効果ガスの量は異なります。これは即ち、排出係数自体も異なることを意味しています。そのため、自社内で契約している電力会社毎に排出量をそれぞれ算出し、その和をもって「マーケットベース」における総排出量が算出されます。

スコープ3の算定方法

続いて、スコープ3の算定方法についてです。スコープ3の排出量は、①範囲・精度の決定、②カテゴリーの抽出、③カテゴリー内で活動の特定、④活動量の収集・算定、の4つのステップで算定を行います。

ステップ①:範囲・精度の決定

初めのステップはスコープ1,2と同様で、「組織的範囲」と「データの精度」を明確化することです。スコープ3においては、「データの精度」はやや緩くなります。下記の事例をご覧ください。

事例(1):自社のサプライチェーン排出量の全体像把握

スコープ1,2と同様に、初年度から連結子会社の分まで算定するのは容易ではありません。そのため「範囲」は自社単体になります。「精度」は、全カテゴリを算定するか、推定値などを含めた大まかな算定をすることになります。

事例(2):サプライチェーン排出量の削減箇所を把握

排出量削減を前提として算出するのは、次年度以降実施することが多いです。この事例の場合、「範囲」は、国内グループ全体(自社+連結対象)。「精度」は排出量の大きいカテゴリを把握すること。また該当カテゴリにおける排出量削減の取組みを反映可能な計算式にすることになります。

事例(3):SBTの認定を取得する

3年目以降には、SBTの認定を取得するためにも、範囲を広げ、データ精度を高める必要があります。「範囲」は海外含むグループ全体(自社+連結対象)。「精度」は全カテゴリにおける削減取り組みの効果が反映可能な計算式にすることになります。

今回の記事のテーマは、排出量の”削減”ではなく”把握”です。上記の事例(2),(3)のように排出量削減に取り組みたいという企業様は、現在開催中の弊社無料セミナーにご参加ください。

ステップ②:カテゴリの抽出

次のステップは、カテゴリの抽出です。ここで、自社のサプライチェーン上の活動がどのカテゴリ(1〜15)に該当するか特定します。これは即ち、算定対象とするカテゴリを抽出することを意味します。

補足:カテゴリを除外する場合

通常は全てのカテゴリーを算定するのが望ましいとされています。しかし、算定目的や排出量全体に対する影響度や、算定の負荷等を踏まえ、一部のカテゴリーを除外することもできます。

除外する場合の基準として、GHGプロトコルは以下のように定めています:

  1. 該当する活動がないもの
  2. 排出量が小さく、サプライチェーン排出量全体に与える影響が小さいもの
  3. 排出量の算定に必要なデータの収集等が困難なもの
  4. 自ら設定した排出量算定の目的から見て不要なもの
  5. 事業者が排出や排出削減に影響力を及ぼすことが難しいもの

4.が意味しているのは、例えば、算定に際して設定した目的が「自社のサプライチェーン排出量の全体像を把握する」ことだった場合に、海外の連結子会社の該当するカテゴリは除外できるということです。

また、5.に準じて除外することは最近ではあまり認められません。なぜなら近年は、ほとんど全てのカテゴリにおいて、事業者が排出削減に影響力を及ぼすことが難しくなっているためです。

ステップ③:カテゴリ内で活動の特定・活動量の収集

続いて、算定対象とする活動をカテゴリごとに設定し、算定に必要なデータを収集・整理します。大抵の場合、データ収集に際しては、社内の関連部署や社外との連携が必要になることが多いでしょう。

カテゴリー、該当する活動、収集すべきデータ、部署などのようなリストを、エクセルなどで作成するのが効果的です。例えば、下記のような項目で整理します。

スコープ3の算定の際の、カテゴリーごとの情報の整理

ステップ④:活動量の算定

ここまで終えれば、あとは収集したデータをもとに排出量を計算するのみです。基本的にはスコープ1,2と同様の計算式です。製品の物量や金額、または廃棄物の量に、これらが単位あたりに排出する温室効果ガスの排出係数を掛け合わせることで算出します。

スコープ3の算出方法、計算式

例えば、廃棄物由来のCO2排出量を算出する場合:

廃棄物由来のCO2排出量 = 廃棄物量(10kg) × CO2排出係数(0.1kg/kg)= 0.1kg

この排出係数は、日本の場合、環境省の排出源データベースもしくは環境省が推奨している”IDEA”というデータベースを使用することになります。この2つのデータベースは、どちらか一つのみを参照するのではなく、どちらも活用することになります。どちらの係数を適用するかは、項目ごとに判断をしていく形になります。

まとめ

この記事では、スコープ1,2,3の概要と、各スコープにおける排出量の算定方法について解説しました。スコープの考え方は国際的な基準である「GHGプロトコル」にて定義され、世界中で認知・支持されています。


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温室効果ガス排出量算定の具体的プロセスを知る!

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参考文献

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リクロマ株式会社

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カーボンニュートラルやネットゼロ、TCFDと言った気候変動に関わる課題を抱える法人に対し、「社内勉強会」「コンサルティング」「気候変動の実働面のオペレーション支援/代行」を提供しています。

Author

  • 西家 光一

    2021年9月入社。国際経営学修士。大学在学中より国際人権NGOにて「ビジネスと人権」や「気候変動と人権」領域の活動を経験。卒業後はインフラ系研究財団へ客員研究員として参画し、気候変動適応策に関する研究へ従事する。企業と気候変動問題の関わりに強い関心を寄せ、リクロマ株式会社へ参画。