Last Updated on 2025年12月16日 by Sayaka Kudo
企業が脱炭素への取り組みを促進する際に重要になるのがスコープです。スコープは、温室効果ガスの排出量を測定する範囲のことを指し、スコープ1,2,3に分類されます。
本コラムでは、スコープ1,2,3の定義と各スコープにおける排出量の算定方法を解説します。
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スコープ1,2,3とは
「スコープ(Scope)」は、英語で「範囲・領域・視野」を意味し、環境における「スコープ」とは、企業活動に伴う温室効果ガス(GHG)排出量を、排出源(範囲)によって「Scope 1(直接排出)」「Scope 2(電力など購入エネルギーの間接排出)」「Scope 3(サプライチェーン全体の間接排出)」分けられたものを指します。
スコープ1,2,3全体図

スコープ1は、自社での燃料の使用や、工業プロセスによる直接的な排出のことを指します。例えば、自社で燃焼した都市ガス、LPガス、A重油、軽油、灯油、ガソリンなどが排出源となります。また、工場などを所有されている企業では燃料以外の排出源からの温室効果ガスも含まれます。
スコープ2は、自社が購入した電気・熱等のエネルギーの使用に伴う間接的な排出のことを指します。具体的には、自社が購入して使用した電気、熱、冷水、蒸気などが排出源となります。
スコープ1,2の内容

スコープ3は、スコープ1,2以外の、原料調達・物流・販売などバリューチェーンで発生する自社の事業活動に関連した他社の排出を指します。さらにスコープ3には、カテゴリと呼ばれる分類があり、カテゴリは1〜15まで存在します。
スコープ3の内容

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各スコープに関しての詳細はこちら!
Scope1(スコープ1)とは?基本概要・計算方法をわかりやすく解説
Scope2(スコープ2)とは?基本概要・計算方法をわかりやすく解説
スコープ1,2の算定方法
事業活動を含む自社活動における排出量を範囲とするスコープ1,2は、範囲・精度の明確化と活動量データの収集・排出量算定の2つのステップで算定を進めます。
ステップ1 範囲・精度の明確化
まず初めに、排出量の算定をしたい「組織的範囲」と「データの精度」を明確化します。排出量の算定の対象範囲とデータの精度によって、算出にかかる手間が変わります。
スコープ1,2の算定ステップ

事例(1) 自社の温室効果ガス排出量を把握
初めて排出量を算定する企業様の場合、自社単体に範囲を絞って排出量を算定されるケースが多いです。
この場合、「組織範囲」は自社単体になり、「精度」は使用量の推定値などを含めた大まかなものになります。
例えば、排出量が取れないデータとして、ガソリン由来の排出量があります。ガソリンの使用量は不明の場合が多いため、ガソリンの購入にかかった金額から逆算して使用量を算出します。その逆算した使用量から、温室効果ガスの排出量を推定します。
事例(2) 国内グループの排出量を把握
国内グループ全体の排出量の算定は、自社単体を実施した翌年以降2〜3年以内に行われるケースが多いです。
この場合、「組織範囲」は国内グループ全体(自社+連結対象)、「精度」は使用量と契約会社がわかるように収集を行うことです。
事例(3) 連結子会社の排出量を把握
国内グループ全体の算定が終われば、海外含む連結子会社の排出量算定を実施します。
この場合、「組織範囲」は海外含むグループ全体(自社+連結対象)となり、「精度」は使用量と契約会社がわかるように収集を行うことです。
※範囲について、今回は一般的な日本の企業を対象に記載していますが、実際は様々な決め方があります。例えば海外では直接的な経営支配力を持つ企業を算定対象に含むケースもあります。
ステップ2 活動量データの収集・排出量算定
ステップ1で範囲と精度が決定すると、次は算出のために必要なデータ(燃料の重量・電気代など)を収集することになります。例えば、スコープ2に分類される「電気」の使用によるCO2排出量を算出したい場合、Excelファイルに「契約している電力会社名」「年間使用量」「単位」の項目を設け、データ収集・管理していきます。
スコープ1,2の算定式の例

※「排出係数」とは:一定量の燃料を燃やしたり、一定量の生産物をつくるために排出されるCO2の量。排出原単位とも言う。燃料やエネルギー毎に係数は異なり、省庁や自治体が定めた基準数値を使うことが多い。
例えば、電気の排出量は、次のように計算されます。
CO2排出量(東電の場合)= 使用量(100kWh) × CO2排出係数(0.441kg/kWh)= 44.1kg
補足事項
1. 組織的範囲以外に決定すべき範囲
上記のような組織的範囲のほかにも、決定すべき算定対象の範囲は存在します。例えば、「温室効果ガス」の観点から範囲を見ると、灯油・エネルギー起源のCO2(ガソリン・電気等の使用により排出されるCO2)と非エネルギー起源のCO2(主に化学メーカーや製造業、一次産業企業が排出)があります。
算定対象の様々な範囲の一覧

2. スコープ2算定における地理的・市場的観点
スコープ2の算定に際して注意していただきたいのは、スコープ2には「ロケーションベース」と「マーケットベース」の2つの項目があり、GHGプロトコル上、両方の開示が必要である点です。
「ロケーションベース」は地理的な所在を起点にした考え方で、マーケットベースは電力の契約会社を起点にした考え方です。
地理的・市場的観点の例

・「ロケーションベース」:「電気の使用量×国が出した代表値」で算出できます。日本のみの場合、代表的な係数は1つであるため楽な計算になるでしょう。
・「マーケットベース」:「電気の使用量×電力会社毎の係数」で算出します。電力会社毎に単位あたりで排出される温室効果ガスの量は異なります。これは即ち、排出係数自体も異なることを意味しています。そのため、自社内で契約している電力会社毎に排出量をそれぞれ算出し、その和をもって「マーケットベース」における総排出量が算出されます。
スコープ3の算定方法
続いて、スコープ3の算定方法についてです。スコープ3の排出量は、1. 範囲・精度の決定、2. カテゴリーの抽出、3. カテゴリー内で活動の特定、4. 活動量の収集・算定、の4つのステップで算定を行います。
スコープ3の算定ステップ

関連記事はこちら:
Scope3(スコープ3)とは?基本概要・計算方法をわかりやすく解説
ステップ1 範囲・精度の決定
初めのステップはスコープ1,2と同様で、「組織的範囲」と「データの精度」を明確化することですが、スコープ3では、「データの精度」はやや緩くなります。
事例(1) 自社のサプライチェーン排出量の全体像把握
スコープ1,2と同様に、初年度から連結子会社の分まで算定するのは容易ではありません。そのため「範囲」は自社単体になります。「精度」は、全カテゴリを算定するか、推定値などを含めた大まかな算定をすることになります。
事例(2) サプライチェーン排出量の削減箇所を把握
排出量削減を前提として算出するのは、次年度以降実施することが多いです。この事例の場合、「範囲」は、国内グループ全体(自社+連結対象)。「精度」は排出量の大きいカテゴリを把握すること。また該当カテゴリにおける排出量削減の取組みを反映可能な計算式にすることになります。
事例(3):SBTの認定を取得する
3年目以降には、SBTの認定を取得するためにも、範囲を広げ、データ精度を高める必要があります。「範囲」は海外含むグループ全体(自社+連結対象)。「精度」は全カテゴリにおける削減取り組みの効果が反映可能な計算式にすることになります。
ステップ2 カテゴリの抽出
自社のサプライチェーン上の活動がどのカテゴリ(1〜15)に該当するか特定します。算定対象とするカテゴリを抽出することを意味します。
カテゴリを除外する場合
通常は全てのカテゴリーを算定するのが望ましいとされています。しかし、算定目的や排出量全体に対する影響度や、算定の負荷等を踏まえ、一部のカテゴリーを除外することもできます。
除外する場合の基準として、GHGプロトコルは以下のように定めています:
- 該当する活動がないもの
- 排出量が小さく、サプライチェーン排出量全体に与える影響が小さいもの
- 排出量の算定に必要なデータの収集等が困難なもの
- 自ら設定した排出量算定の目的から見て不要なもの
- 事業者が排出や排出削減に影響力を及ぼすことが難しいもの
4.が意味しているのは、例えば、算定に際して設定した目的が「自社のサプライチェーン排出量の全体像を把握する」ことだった場合に、海外の連結子会社の該当するカテゴリは除外できるということです。
また、5.に準じて除外することは最近ではあまり認められません。なぜなら近年は、ほとんど全てのカテゴリにおいて、事業者が排出削減に影響力を及ぼすことが難しくなっているためです。
ステップ3 カテゴリ内で活動の特定・活動量の収集
算定対象とする活動をカテゴリごとに設定し、算定に必要なデータを収集・整理します。大抵の場合、データ収集に際しては、社内の関連部署や社外との連携が必要になることが多いでしょう。その際は、カテゴリー、該当する活動、収集すべきデータ、部署などのようなリストを、エクセルなどで作成するのが効果的です。
スコープ3のカテゴリと収集データの内容

ステップ4 活動量の算定
基本的にはスコープ1,2と同様の計算式です。製品の物量や金額、または廃棄物の量に、これらが単位あたりに排出する温室効果ガスの排出係数を掛け合わせることで算出します。
スコープ3の算定式の例

例えば、廃棄物由来のCO2排出量を算出する場合:
廃棄物由来のCO2排出量 = 廃棄物量(10kg) × CO2排出係数(0.1kg/kg)= 0.1kg
この排出係数は、日本の場合、環境省の排出源データベースもしくは環境省が推奨している”IDEA”というデータベースを使用することになります。この2つのデータベースは、どちらか一つのみを参照するのではなく、どちらも活用することになります。どちらの係数を適用するかは、項目ごとに判断をしていく形になります。
まとめ
本コラムでは、スコープ1,2,3の定義と各スコープにおける排出量の算定方法について解説しました。スコープの考え方は国際的な基準である「GHGプロトコル」にて定義され、世界中で認知・支持されています。
スコープ1, 2, 3の削減を一体的に推進するための移行計画についてはこちら!
⇒脱炭素に向けた「移行計画」の開示基準と開示例を解説
参考文献
[1]環境省(2023) 「排出量算定について – グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」
[2]環境省(n.d.)「排出削減目標設定 – グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」
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