Last Updated on 2024年8月20日 by Moe Yamazaki

【気候変動関連用語がまるわかり!用語集はこちら

CSRDは、EUが企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)情報の透明性を高めるために導入した重要な規制です。

特に、EU域外の日本企業にも適用されるため、脱炭素経営を推進する担当者はその内容を詳しく把握する必要があります。

当記事では、CSRDの基本概要と適用条件、そして日本企業が取るべき具体的な対応策を紹介します。

サステナビリティの新基準、ISSBについて包括的に理解できる!
ISSB解説資料はこちら

CSRDとは

CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)は、欧州連合(EU)が企業のサステナビリティに関する情報開示を強化するための新たな指令です。

この指令は、企業が環境、社会、ガバナンス(ESG)の要素に関する情報を報告することを義務付けており、その範囲と詳細が従来の規制よりも大幅に拡大されています。

CSRDは、企業のサステナビリティに関する情報の透明性を高めることを目的としています。

これにより、投資家やステークホルダーは企業のESGパフォーマンスをより正確に評価できるようになります。

CSRDの主な変更点

企業のサステナビリティに関する情報開示が投資家や消費者にとってますます重要視されるようになりました。

しかし、従来のNFRDでは報告の範囲が限られており、開示情報が不十分であったり、報告の質がばらついていたりしました。

このため、より詳細で標準化された報告が求められるようになりました。

報告対象企業の拡大

NFRDでは、大企業や特定の金融機関のみが対象でしたが、CSRDでは対象が中小企業(SMEs)にも拡大されました。

これにより、EU内の企業の大多数がサステナビリティ報告の対象となります。

報告内容の拡充

CSRDでは、報告すべき内容が詳細化され、企業は環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する情報を包括的に開示する必要があります。

これには、気候変動リスクの影響、社会的インパクト、ガバナンス構造などが含まれます。

報告基準の標準化

NFRDでは報告基準が明確でなく、企業ごとに報告内容が異なることが問題視されていました。

CSRDでは、EUが指定した報告基準に基づいて報告を行うことが義務付けられています。

監査と保証の強化

CSRDでは、報告されたサステナビリティ情報の信頼性を確保するため、外部監査や保証が義務付けられました。

これにより、開示される情報の正確性が向上し、投資家や消費者が信頼できるデータを得られるようになります。

デジタル形式での報告

企業は、報告をデジタル形式で提出することが求められ、EUのデータベースに集約されるようになりました。

これにより、情報のアクセスが容易になり、企業間での比較がしやすくなります。

これらの変更により、CSRDは企業に対してより高いサステナビリティ報告の基準を課し、EU全体での持続可能な経済への移行を加速させることが期待されています。

サステナビリティの新基準、ISSBについて包括的に理解できる!
ISSB解説資料はこちら

EU域外企業への適用背景

CSRDの適用範囲はEU域内企業だけでなく、EU域外の企業にも及びます。

これは、EUがグローバルなサステナビリティの基準を引き上げることを目指しているためです。

適用対象と要件

CSRDの適用対象となるのは、EU域内で一定の規模以上の事業を展開する企業です。

これには、従業員数や売上高などの基準が設けられており、これらを満たす企業はサステナビリティ報告義務を負います。

日本企業が対応する必要性

現在、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に対応している先進的な企業でさえ、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)に対しては従来の開示体制では不十分です。

CSRDは、自社グループのマテリアリティに基づき、該当するESRS(欧州サステナビリティ報告基準)を理解し、適切な開示の準備をすることを要求しています。

これまで環境(E)のみに対応していた企業も、ESG全体にわたる広範な開示項目に対応するための体制を整える必要があります。

特に、2024年には欧州子会社のみが開示対象となりますが、2028年からは連結での開示が求められると見込まれています。

これにより、過去分も含めた開示の必要が出てくる可能性が高いです。

さらに、第三者保証の義務化が進み、未対応の場合には罰金や制裁が科せられることが決まっています(具体的な制裁内容は今後決定される予定)。

このような規制強化により、より厳密な開示対応が求められています。

CSRDの影響は、欧州内の企業だけでなく、欧州に子会社を持つ日本企業やそのバリューチェーン上に位置する全ての企業に及びます。

そのため、規制に適応するためには、迅速かつ包括的な対応が必要です。

具体的な対応策

CSRD対応に向けた具体的な対策としては、以下のような点が挙げられます。

データ収集と開示体制の構築

自社グループ全体でのデータ収集・開示体制を整え、早期に運用を開始することが重要です。

特に、データ収集の効率化にはコンサルティングサービスの活用や、非財務情報の可視化を行う「サステナビリティERP」の導入が推奨されます。

これにより、各部門が一元管理できるシステムを整えることが可能です。

データ収集の効率化と活用

開示対応のためのデータ収集は社外サービスも利用しながら効率的に行い、その後の削減や改善に活かす仕組みを整えることが重要です。

これにより、データ収集だけでなく、その後の改善活動に多くのリソースを割けます。

バリューチェーン全体への対応

CSRDが要求するデータ収集範囲は自社のみならずバリューチェーン全体にわたります。

したがって、CSRDの対象外企業でも顧客からの開示要請に応えられない場合、取引中止やサプライチェーンからの排除といったリスクが高まります。

顧客のマテリアリティを理解し、CSRD開示要請に従ったデータ収集・開示体制を早急に整えることが求められます。

CSRD対応やその他のサステナビリティ関連の要求に対しては、担当者がデータ収集に追われる一方で、本来の業務である改革・改善活動の時間が確保できないという課題があります。

効率的なデータ収集とその後の改善活動に重点を置くことで、サステナビリティ経営を推進することができます。

EU域外企業のCSRD適用対象企業

条件

特定の条件にあたる企業は、CSRDの適用対象となります。

この条件には、売上高、従業員数、総資産額などが含まれます。

これらの基準を満たす企業は、CSRDの報告義務を負うことになります。

売上高の基準

EU内で年間売上高が4,000万ユーロ以上の企業は、CSRDの報告義務を負います。

この基準は、企業がEU市場でどれだけの経済活動を行っているかを示す重要な指標です。

企業がこの基準を満たす場合、サステナビリティ情報の詳細な開示が求められます。

従業員数の基準

従業員数が250人以上の企業も、CSRDの対象となります。

大規模な企業は、詳細なサステナビリティ報告を行う必要があります。

この基準は、企業の規模に応じた情報開示を促進し、透明性を高めるために設定されています。

総資産額の基準

総資産額が2,000万ユーロ以上の企業もCSRDの対象となります。

これにより、経済的に重要な企業が包括的なサステナビリティ報告を行うことが期待されます。

これらの基準を満たす企業は、報告のための準備を進める必要があります。

適用開始時期

初期適用期間

EUでは、企業の持続可能性に関する報告指令(CSRD)が2023年1月5日に施行され、EU加盟国は2024年7月6日までにこの指令を国内法に反映させることが求められています。

このCSRDの対象には大企業とすべての上場企業が含まれており、2024年度の会計年度から段階的に、CSRDに基づくESG(環境・社会・ガバナンス)に関する報告要件が適用されることになります。

参考文献
JETRO「CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス(2024年5月)

完全適用時期

完全適用は2027年から開始されます。

この時点で、全ての対象企業はCSRDの報告義務を完全に履行しなければなりません。

完全適用時期には、企業は詳細かつ透明性の高いサステナビリティ情報を開示することが求められます。

参考文献
朝日新聞「CSRDとは?欧州のESG最新動向と日本企業への影響や必要な対応を解説
KPMG「欧州CSRD/ESRSの概要と3つの対応オプション

日本企業のEU現地法人もCSRD適用対象に

条件

日本企業は、EU域内にある子会社やグループがどの規模に該当するかを確認する必要があります。

これには、売上高や従業員数、総資産額などの基準が含まれます。また、これらの子会社が第三国企業として分類されるかどうかも確認することが重要です。

子会社やグループの規模確認

EU域内で年間売上高が4,000万ユーロ以上、従業員数が250人以上、総資産額が2,000万ユーロ以上の企業は、CSRDの報告義務を負います。

これらの基準を満たすかどうかを確認することが、最初のステップとなります。

参考文献
Pwc「欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)

第三国企業の該当確認

日本企業のEU子会社やグループが第三国企業に該当するかどうかも確認が必要です。

これにより、報告義務の詳細が異なるため、適切な対応策を検討する上で重要です。

報告方法

CSRDの対象となるEU域内で事業を展開する子会社には、以下の2つの報告方法があります。

A:EU子会社・グループのみで報告

この方法では、EU域内の子会社やグループが独自に報告を行います。

分類基準に基づき、個々の子会社が直接サステナビリティ情報を開示することが求められます。

B:親会社が第三国企業として報告

もう一つの方法は、域外適用制度を利用して、親会社が第三国企業として報告を行う方法です。

この方法では、日本の親会社が全体の報告を取りまとめ、EU域内の子会社やグループの情報を含めて開示します。

適用区分に該当する場合の対応

適用区分に該当する場合、日本企業は以下の2つの対応ケースを検討する必要があります。

ケース1:子会社・グループ単位での対応

EU域内の子会社やグループがそれぞれの基準に基づき、独自に報告を行うケースです。

この場合、各子会社が報告基準を満たすための内部体制の整備や外部監査の導入が必要となります。

ケース2:親会社単位での一括対応

日本の親会社が全体の報告を取りまとめるケースです。

この方法では、親会社が全体のサステナビリティ情報を一元管理し、EU域内の子会社やグループの情報も含めて報告を行います。

この場合、親会社が中心となって報告体制を整備する必要があります。

参考文献
朝日新聞「CSRDとは?欧州のESG最新動向と日本企業への影響や必要な対応を解説
KPMG「欧州CSRD/ESRSの概要と3つの対応オプション

EU子会社・グループのみでサステナビリティ報告を行う場合

適用区分に基づくサステナビリティ報告

CSRDの適用区分に基づき、各企業はサステナビリティ報告を実施する必要があります。

報告内容は企業の規模や業種によって異なり、大規模企業と中小規模企業では報告範囲に違いがあります。

大規模企業の報告義務

大規模企業の定義は、より詳細なサステナビリティ情報を報告しなければなりません。

これには、環境、社会、ガバナンス(ESG)に関するデータの収集と開示が含まれます。

具体的には、温室効果ガスの排出量やエネルギー使用量、労働条件に関する情報などが求められます。

中小規模企業の報告範囲

一方、中小規模企業の定義に該当する場合、報告範囲は大規模企業に比べて狭くなります。

中小規模企業は、2028年1月1日より前に開始する会計年度については、マネジメントレポートへのサステナビリティ情報掲載が不要となります。

ただし、その場合でも報告しない理由を掲載することが必要です。

報告しない理由の記載

中小規模企業がサステナビリティ情報を報告しない場合、その理由をマネジメントレポートに明記することが求められます。

これにより、透明性の確保と企業の責任が明確化されます。

参考文献
朝日新聞「CSRDとは?欧州のESG最新動向と日本企業への影響や必要な対応を解説
KPMG「欧州CSRD/ESRSの概要と3つの対応オプション
JETRO「EU理事会、人権・環境デューディリジェンス法案採択、2027年以降に順次適用開始へ

域外適用制度を利用して、第三国企業として報告を行う場合

日本の親会社が第三国企業の適用区分に該当する場合、連結でのサステナビリティ報告を行うことで、EU子会社単体での開示義務が免除されます。

これは、親会社が一括して報告を行うことで、情報の一貫性と透明性を確保するためです。

連結でのサステナビリティ報告は、CSRDまたは同等の基準に基づいて作成される必要があります。

さらに、報告内容は第三者保証を受ける必要があり、これにより報告の信頼性が高まります。

情報の入手困難と第三者保証の不履行

報告に必要な情報が入手できない場合や第三者保証を受けられない場合、その旨を報告に記載する必要があります。

この場合、第三者保証がない旨の声明を添付することで、透明性を維持し、企業の責任を明確化します。

経過措置としての特例

2030年1月6日までの経過措置として、過去5会計年度のうち少なくとも1年度で、全てのEU子会社の中で最大の売上高があった子会社が連結でのサステナビリティ報告を行う場合、他の子会社の報告は免除されます。

この措置により、段階的に報告義務を導入し、企業が適応するための猶予期間を提供します。

最大の売上高を持つ子会社の連結報告

最大の売上高を持つ子会社が連結報告を行う場合、他の子会社は個別報告を免除されます。

これにより、企業全体の報告負担が軽減され、報告の一貫性が保たれます。

この経過措置を活用することで、企業は報告体制の整備や必要なデータの収集を段階的に進められます。

これにより、2030年以降の完全適用に向けた準備が効率的に行われます。

参考文献
朝日新聞「CSRDとは?欧州のESG最新動向と日本企業への影響や必要な対応を解説
KPMG「欧州CSRD/ESRSの概要と3つの対応オプション
JETRO「EU理事会、人権・環境デューディリジェンス法案採択、2027年以降に順次適用開始へ

まとめ

CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)は、EUが企業のサステナビリティ情報開示を強化するために導入した新たな指令です。

この指令は、従来のNFRDを大幅に改訂し、企業の報告義務を強化するものです。

EU域内だけでなく、EU域外の企業にも適用されるため、日本企業にとっても重要な規制となります。

企業は、適用基準を満たす場合に詳細なサステナビリティ情報を報告し、透明性を確保する必要があります。

適切な対応策を講じることで、企業はグローバルなサステナビリティ基準に適応し、持続可能な経営を実現できます。

参考文献

[1]朝日新聞「CSRDとは?欧州のESG最新動向と日本企業への影響や必要な対応を解説
[2]KPMG「欧州CSRD/ESRSの概要と3つの対応オプション
[3]JETRO「EU理事会、人権・環境デューディリジェンス法案採択、2027年以降に順次適用開始へ
[4]JETRO「CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス(2024年5月)
[5]Pwc「欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)

サステナビリティの新基準、ISSBについて包括的に理解する!

リクロマの支援について

弊社はISSB(TCFD)開示、Scope1,2,3算定・削減、CDP回答、CFP算定、研修事業等を行っています。
お客様に合わせた柔軟性の高いご支援形態で、直近2年間の総合満足度は94%以上となっております。
貴社ロードマップ作成からスポット対応まで、次年度内製化へ向けたサービス設計を駆使し、幅広くご提案差し上げております。
課題に合わせた情報提供、サービス内容のご説明やお見積り依頼も随時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
お問合せフォーム

メールマガジン登録

担当者様が押さえるべき最新動向が分かるニュース記事や、
深く理解しておきたいトピックを解説するコラム記事を定期的にお届けします。

Author

  • 西家 光一

    2021年9月入社。国際経営学修士。大学在学中より国際人権NGOにて「ビジネスと人権」や「気候変動と人権」領域の活動を経験。卒業後はインフラ系研究財団へ客員研究員として参画し、気候変動適応策に関する研究へ従事する。企業と気候変動問題の関わりに強い関心を寄せ、リクロマ株式会社へ参画。

    View all posts