Last Updated on 2024年8月28日 by Moe Yamazaki

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主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境大臣会合

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イタリアのトリノで4月29日〜30日に開催されたG7気候・エネルギー・環境相会合において、二酸化炭素の排出削減対策がない石炭火力発電を2035年までに段階的に廃止することが合意され、共同声明が発表されました。

招待国、招待機関は以下の通りです。

【招待国】

  • UAE
  • モーリタニア
  • ケニア
  • ブラジル(G20議長)
  • アゼルバイジャン(COP29議長)
  • アルジェリア

【招待機関】

  • UNDP
  • ODI
  • IRENA
  • IEA
  • OECD
  • UNFCCC
  • UNEP

日本からは、八木環境副大臣・伊藤環境大臣・齋藤経済産業大臣が出席しています。
会合では、気候変動やエネルギー政策に関し、幅広く議論されました。

会合では、上記以外に以下のことについて決められました。

  • エネルギー安全保障・地政学リスク・気候危機の危機に対する対応などの必要性について再確認を行い、クリーンエネルギー技術におけるサプライチェーンの構築が必要なことについて確認。
  • GSTにより定められた世界全体における取り組みを行うため、世界全体で3倍の再エネ目標および、エネルギー効率改善率を2倍にする目標を実現させ、化石燃料から移行すること、交通・産業部門脱炭素化、メタン排出削減、効率の悪い化石燃料補助金に対しフェーズアウト、非CO2ガス排出に対する具体的な行動への合意。
  • 排出量削減の進捗状況を確認すると同時に、1.5℃目標に沿いすべての経済分野で、全温室効果ガスを対象に定めた総量に対する削減目標を次期NDCで提出。
    すべての国に対し同様の措置を要求。
  • COP28におけるグローバル・ストックテイクを受け、1.5℃目標達成に向け気候変動に対する対策を強化し加速化させる。
  • エネルギー安全保障・地政学リスク・気候危機の世界的危機に対し、脱炭素・循環型社会に向けた転換およびシナジーの推進。

参考文献:経済産業省「今後の火力政策について

「排出削減対策を講じていない(unabated)」石炭火力発電とは

ここで言及された「排出削減対策が施されていない(Unabated)」石炭火力発電とは、炭素回収貯留(CCS)のない石炭火力発電所を指します。

IPCCでは、発電部門でCO2排出の90%以上を削減する手段がない場合、これを「排出削減対策が施されていない(Unabated)」と呼びます。
なお、CCSは火力発電所などで排出されたCO2を回収し貯留する技術ですが、技術的および費用的な課題が多く、実用化は進んでいません。

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火力発電の国際的動向

各国の電源構成の比較

各国においては、それぞれのエネルギー・経済状況を考慮し、電源構成が定められています。

参考文献:経済産業省「今後の火力政策について

石炭火力に関する各国の方針

欧州各国においては、2030年代までに完全に石炭火力を廃止する方針としています。

また、アジアなどでも、発電電力量を削減するなどの方針が示されています。

それぞれの国と方針については以下表の通りです。

方針
イギリス排出削減対策が講じられていない石炭火力を、2024年10月1日までにフェーズアウトする。
フランス石炭火力を2027年1月1日までに退出する。
ドイツ理想的には2030年まで、遅くとも2038年までに石炭火力からフェーズアウトする。
イタリア石炭火力から2025年までにフェーズアウトする。
アメリカ2035年になる前に発電部門におけるネットゼロ、2050年になる前に排出している量のネットゼロを達成させる。
カナダ排出削減対策が講じられていない石炭火力を2030年までにフェーズアウトする。
韓国2018年に約40%の石炭火力発電電力量比率を、2030年までに約20%まで引き下げる。
中国国内においては、石炭火力を調整する電源として、引き続き活用する。国外においては、石炭火力発電所を2021年に新設停止とする。石炭の増産を継続し、過去最高となる原料炭生産量を2023年に更新。
豪州2022年には32%であった再エネの発電電力量比率を、2030年では82%まで上昇させる方針。それに伴って、2022年には石炭火力における発電電力量比を47%まで低下させる見通し。
参考文献:経済産業省「今後の火力政策について

火力発電の国内動向

国内における発電電力量の推移

近年、国内において再エネの導入が進められています。
水力を含む足元の再生エネルギー比率は約22%となっており、原子力は約6%です。
火力発電に関しては、東日本大震災直後は一気に割合が増加しましたが、それ以降は減少傾向が続いています。

なお、以下画像からも分かるように、国内では少しずつではあるものの、再エネ割合が少しずつ増加しています。

参考文献:経済産業省「今後の火力政策について

国内における火力稼働率の推移

火力の稼働率は、東日本大震災後から、特に石油火力・LNGをメインに増えましたが、燃料種関係なく低下傾向にあります。
その一方で、2021~22年では、石炭・LNGの価格が高騰したり、電力需給が厳しくなったりしたことによって、メリットオーダーが逆転したこともあり、石油火力における稼働率が増えています。

参考文献:経済産業省「今後の火力政策について

火力発電の脱炭素化

長期に渡り、日本の生活や産業を支えてきた火力発電は、電力が安定供給できることもあり、災害時などの電力レジリエンスの基盤でした。再生可能エネルギーの導入が近年拡大していることに関しても、自然条件で発電量が変わる風力発電や太陽光の出力変動をサポートし、電力における需給バランスを保つ上で重要な電力となっています。

火力発電では、特に石炭火力をメインとし、二酸化炭素(CO2)を排出する課題が存在し、「2050年カーボンニュートラル」に対し、火力発電で排出されるCO2を実質ゼロにする脱炭素化社会へ向けた取り組みが要求されています。

第6次エネルギー基本計画において日本政府は、電力を発電する方法、つまり電源を構成する(エネルギーミックス)のうち約32%を現時点で占めている石炭火力を、19%程度の割合に2030年度までに減少させる目標です。

国際的合意・報告書における排出削減対策の扱い

イタリアで開かれたG7気候・エネルギー・環境相会合では、2035年までに二酸化炭素の排出量を削減するための対策が取られていない石炭火力発電に対し、段階的な廃止に取り組む方向で合意されました。

G7の議長国であるイタリアだけでなく、その他英国や、カナダ、ドイツ、フランスが2030年までの廃止を目指し、米国においては石炭火力の利用削減について支持する立場を明確にしました。

日本では、電源を構成する3割が未だ石炭火力に頼っており、現在の日本のエネルギー基本計画において、2030年度においても約2割を見込んだ計画となっています。

日本政府の解釈

前述したように、石炭火力の全廃に向け、各国が姿勢を見せている一方で、日本政府の全廃への動きは消極的であり、日本は国際的に見た際に孤立していると言えます。

G7の各国において石炭火力の廃止が宣言されているのに対し、日本政府は、燃焼時にCO2を排出しないアンモニアを石炭に混ぜて使用する混焼技術を推進し、石炭火力発電所を存続させる方向です。この技術を、稼働年数の短い石炭火力発電所が多いアジア地域にも展開し、地域全体の脱炭素化を支援する計画です。しかし、アンモニアを50%混焼してもガス火力発電よりもCO2の排出量が多いとされており、特に欧州では批判が強まっています。

今後想定される動向

火力は、日本の電源構成で約7割を占め、日本の電力需要を満たしているだけでなく、再エネの出力変動をサポートする調整力や、系統を安定させる慣性力として重要な役割を果たしています。
その一方で、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、原子力や再エネなどの化石電源を使わない比率をさらに高め、国際的な動きに合わせいずれどのように廃止を実現するかが論点となっています。

電力を安定に供給すること、電力システムを脱炭素化させる両方の実現のため、変動再エネ導入を拡大しつつ安定に供給するために必要となる火力供給力を保つ一方で、着実に火力のゼロエミ化を進めることが必要です。

まとめ

4月29~30日にかけて、イタリアのトリノでG7気候・エネルギー・環境大臣会合が開かれました。
「排出削減対策を講じていない(unabated)」石炭火力発電とは、炭素回収貯留(CCS)のない石炭火力発電所のことを指します。

各国が石炭火力の全廃の姿勢を見せる一方で、日本政府の全廃への動きは消極的であり、日本は国際的に見た際に孤立してしまっています。
電力を安定に供給すること、電力システムを脱炭素化させる両方の実現のため、変動再エネ導入を拡大しつつ安定に供給するために必要となる火力供給力を保つ一方で、着実に火力のゼロエミ化を進めることが必要です。

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参考文献

[1] 経済産業省「今後の火力政策について
[2] G7 ITALIA「Climate, Energy and Environment Ministers’ Meeting Communiqué」https://www.g7italy.it/wp-content/uploads/G7-Climate-Energy-Environment-Ministerial-Communique_Final.pdf
[3] 環境省「G7気候・エネルギー・環境大臣会合の結果について」https://www.env.go.jp/press/press_03143.html
[4] 経済産業省「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」https://www.meti.go.jp/press/2024/05/20240501001/20240501001.html

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  • 2021年9月入社。国際経営学修士。大学在学中より国際人権NGOにて「ビジネスと人権」や「気候変動と人権」領域の活動を経験。卒業後はインフラ系研究財団へ客員研究員として参画し、気候変動適応策に関する研究へ従事する。企業と気候変動問題の関わりに強い関心を寄せ、リクロマ株式会社へ参画。

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