Last Updated on 2024年4月25日 by Yuma Yasui

2020年10月、菅元総理は所信表明演説において2050年までに「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。

カーボンニュートラルは、気候変動対策を進めるうえで注目されている概念です。しかし、これを実現するには、具体的な取り組みと国際的な協力が不可欠です。

この記事では、カーボンニュートラルの基礎知識から、具体的な取り組み、今後の動向までをわかりやすく解説します。

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カーボンニュートラルとは?

「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、その排出量を全体としてゼロにする概念です。排出量を削減し、それでも避けられない排出分については、同等量のCO2を吸収するか、除去することで排出量を実質ゼロにします。

具体的な取り組み方法としては、再生可能エネルギーへの転換、植林プロジェクト、炭素オフセットなどがあります。

カーボンニュートラルが注目される背景

パリ協定の採択とIPCC報告書

2015年に、気候変動対策の一環としてパリ協定が採用され、全世界で共有される長期目標が設定されました。これにより「産業革命以前と比較して世界の平均気温上昇を2度未満に抑えること」「人間による温室効果ガス排出と自然の吸収能力とのバランスを達成すること」が目標とされました。

さらに国連のIPCCが発表した「1.5度特別報告書」では、産業革命からの気温上昇を1.5度以内に抑えるための目標を達成するには、2050年頃にカーボンニュートラルを実現することが必要であることを示しました。

これに伴い、世界150カ国以上の国々が野心的な目標を設定する気運が高まっており、国際的に2050年カーボンニュートラル達成への取り組みが拡がっている状況です。

1940年~2023年 世界の二酸化炭素年間排出量

二酸化炭素は、地球温暖化を促進する温室効果ガスの中でも最も大きな割合を占めています。

1990年以来、世界の二酸化炭素排出量は60%以上も増えており、2022年には世界の二酸化炭素排出量は約3715億トンに達しました。世界全体で排出される二酸化炭素の半分以上は、先進国や急速に経済成長を遂げている国々からの排出によるものです。

特に中国は世界で最も多くの二酸化炭素を排出しており、その後に米国が続いています。中国では、急速な経済成長と工業化により排出量は1990年から400%以上も増加しています。一方で米国の排出量は2.6%減少しましたが、累積排出量では依然として世界最大です。

日本は2023年時点で、世界5位にあたる主要な二酸化炭素排出国の一つであり、経済の規模とエネルギー消費の高さが排出量の多さに寄与しています。

出典)statista「1940年~2023年 世界の二酸化炭素(CO₂)年間排出量(単位:10億トン)

二酸化炭素排出の理由と割合

また二酸化炭素排出の最大の要因はエネルギー部門で、全排出量の約76%を占めています。次いで農業部門が12%、産業プロセス部門が6.1%、土地利用と林業部門、廃棄物部門がそれぞれ3.3%となっています。

日本は化石燃料に大きく依存しているため、特にエネルギー生産と工業プロセスからのCO₂排出が顕著です。そのため国だけではなく、企業においてもカーボンニュートラルを目指す必要があります。日本企業は脱炭素経営を導入し、事業活動に伴う二酸化炭素排出量を大幅に削減することが求められています。

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カーボンニュートラルの実現に向けた具体的な取り組み

企業がカーボンニュートラルを実現するためには、事業に沿った段階的なアプローチが必要です。ここではそのステップと事例を紹介します。

カーボンニュートラルへの取り組みのステップ

①排出量の監査と評価

企業活動による直接的および間接的な温室効果ガス排出量を特定し計測します。サプライチェーンや製品のライフサイクル全体を通じた排出量も評価します。

②削減目標の設定

科学に基づいた目標(SBTi)などに沿って具体的な削減目標を設定します。短期的および長期的な目標を設定し、これらを公表することで透明性を確保します。

③削減戦略の策定と実行

再生可能エネルギーへの移行、エネルギー効率向上、プロセスの最適化、持続可能な資材の使用などにより排出を削減します。

④炭素オフセットと吸収の活用

排出削減だけではカバーできない部分については、炭素オフセットプロジェクトへの投資や、植林プロジェクトなどにより相殺します。ここでは生物多様性の保全や社会的貢献の要素を兼ね備えたプロジェクトを選びます。

⑤モニタリングと報告

排出削減とオフセットの効果を定期的にモニタリングし、進捗を評価します。ステークホルダーへの透明性を確保するために、成果を公開・報告します。その後も、さらなる排出削減機会の模索を継続していきます。

カーボンニュートラルへ向けた企業の取り組み事例

カーボンニュートラルへ向けた企業の取り組みはさまざまで、業界や規模によって異なります。

事例①:日立製作所

日立製作所は、2030年度カーボンニュートラル達成の目標を掲げています。

具体的な取り組みとして、再生可能エネルギーの利用促進、交通手段の電動化、デジタル技術を駆使したエネルギー効率の改善を進めています。

事例②:NTTグループ

NTTグループでは、2040年度までにカーボンニュートラルを実現することを目指しています。

使用電力を100%再生可能エネルギーへ切り替えることで、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出削減を目指しています。また政府や他企業と協力し、森林由来のクレジット制度活用などによるカーボン吸収の取り組みも進めています。

事例③:JALグループ

JALグループは、2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指しています。

燃料効率に優れた航空機へ向けた機体の軽量化、運航の効率化、整備作業による燃費改善、効率的な飛行ルートの実施を行っています。

事例③トヨタ自動車

国内の多くの自動車メーカーは2050年までにカーボンニュートラルを実現すると発表していましたが、その達成目標時期の前倒しが次々に起こっています。例えばトヨタ自動車は、2021年に「2035年までに世界の自社工場で二酸化炭素排出量を実質的にゼロにする」と宣言し、達成時期の目標を15年前倒ししました。

CO2排出量の多い塗装や鋳造工程の排出量削減の実行、CO2を排出しない新たな自動車の開発を進めています。

カーボンニュートラルと脱炭素の違い

またカーボンニュートラルと脱炭素はしばしば混同されますが、定義には違いがあります。

「カーボンニュートラル」は、排出される温室効果ガスを植樹やカーボンオフセットによって相殺し、排出量を実質ゼロにするものです。

一方で「脱炭素」は、化石燃料の使用を減らし、再生可能エネルギーへの移行を通じて排出を直接削減し、温室効果ガスの排出量を実質ゼロに近づけます。

脱炭素は、CO2排出量を可能な限り減少させることを意味し、カーボンニュートラルは残った排出量をオフセットすることを含みます。つまり、カーボンニュートラルは脱炭素化を含むより包括的な概念であると言えます。

カーボンニュートラルのメリットと課題

カーボンニュートラルへの取り組みが企業にとって重要な理由は多くあります。主な理由として、このアプローチは単に環境保護に貢献するだけでなく、企業の持続可能性と将来性を大きく向上させる機会があるからです。一方で課題もあり、これらを十分に把握し対応する必要があります。

企業がカーボンニュートラルに取り組むメリット

・競争力の強化
・コスト削減
・企業価値の向上

カーボンニュートラルへの取り組みは、新しいビジネスモデルの開発により企業の競争力を強化することに繋がります。また、エネルギー効率向上や再生可能エネルギーへの投資は、長期的な運用コストの削減に貢献します。

さらに企業の社会的責任を示すものとして企業価値の向上にも貢献します。サプライチェーンに選定されたり、投資家からの高い評価を受けやすくなります。

企業がカーボンニュートラルに取り組む際の課題

・初期投資の負担
・エネルギー供給の安定性
・炭素オフセットの過度な依存

一方で新たな設備や技術の導入には、初期投資が必要になることがあります。特に中小企業にとっては資金調達が難しく、経済的な負担となる可能性があります。

また天候に依存するエネルギー源の導入が増えると、エネルギー供給の安定性に課題が生じる可能性もあります。これは、天候条件によって発電量が変動し、供給と需要のバランスを維持することが難しくなるためです。

炭素オフセットは、排出削減が難しい場合に実質的な排出量をゼロに近づける手段として有効ですが、これに過度に依存することは、根本的な排出削減への取り組みを遅らせるリスクを孕んでいます。オフセットによる相殺は一時的な解決策であり、長期的にはエネルギー源の脱炭素化などによる実質的な排出削減が不可欠です。

カーボンニュートラルの今後の展望

カーボンニュートラルは、2030年、2050年といった国際的な目標年が近づくにつれ、ますます重要性を増しています。

カーボンニュートラル表明国は現時点で154ヵ国にのぼり、世界全体のCO2排出量に占める割合は88.2%に達します。

出典)経済産業省「令和3年度エネルギーに関する年次報告」

また日本国内の動向を見ると、2020年末に策定されたグリーン成長戦略では、再生可能エネルギー推進、次世代自動車への移行など、14の重点分野の施策が挙げられています。

今後政府は、再生可能エネルギーの導入拡大を積極的に進める方針です。さらに水素に着目し、水素の利用技術開発、コスト低減を目指しています。炭素税の導入も検討しています。

総じてカーボンニュートラルは、持続可能な社会と経済拡大に向けた重要な目標です。単なる環境問題の解決に留まらず、新たな経済成長の機会を生み出すことも期待されています。

まとめ

カーボンニュートラルへの取り組みは、気候変動の影響を軽減するために不可欠です。

パリ協定などの国際的な合意では、世界的な温暖化を産業革命前比1.5℃以内に抑制する目標が掲げられており、カーボンニュートラルはその達成に向けた重要なステップとなっています。

カーボンニュートラルの実現には、国際的かつ持続的な取り組みが不可欠です。この取り組みが成功することで、気候変動のリスクを軽減し、より持続可能な社会を実現することが期待されます。

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参考文献

[1] 経済産業省「令和3年度エネルギーに関する年次報告」
[2] 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
[3] 環境省「国内外の最近の動向について(報告)」
[4]NEC「カーボンニュートラルとは?」

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リクロマ株式会社

当社は「気候変動時代に求められる情報を提供することで社会に貢献する」を企業理念に掲げています。

カーボンニュートラルやネットゼロ、TCFDと言った気候変動に関わる課題を抱える法人に対し、「社内勉強会」「コンサルティング」「気候変動の実働面のオペレーション支援/代行」を提供しています。

Author

  • 山下莉奈

    2022年10月入社。総合政策学部にて気候変動対策や社会企業論を学ぶ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリによる国際的な組織での活動経験を持つ。北欧へ留学しサステナビリティと社会政策を学ぶ。