Last Updated on 2024年9月13日 by Moe Yamazaki
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2024年から段階的に適用が始まる欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)は、企業に対し業界ごとの具体的な情報開示を義務付ける方針です。
石炭・鉱業、自動車、食品と飲料など、多様な産業が対象となり、それぞれが持続可能な運営を実現するための具体的な指針を提供しています。
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ESRSの概要
ESRSの採択と背景
2023年7月31日、欧州委員会は企業の持続可能性報告を規定する「欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)」を正式に採択しました。
ESRSは、企業がサステナビリティに関する情報を報告する際に遵守すべき具体的な基準であり、EU全体で統一された枠組みを提供しています。
ESRSの導入は、EUの持続可能な成長戦略である「欧州グリーンディール」の一環として行われており、企業に対して、環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する透明性の高い報告を求めるものです。
この基準は、企業が財務的なリスクや機会に関連する「財務的マテリアリティ」と、企業がその活動を通じて人や環境に与える影響に関する「インパクトマテリアリティ」の両面から情報を開示することを要求しています。
これにより、企業は持続可能性に関連するリスクと機会だけでなく、自社の事業が社会や環境にどのような影響を与えるかについても報告することが求められています。
ESRSの適用スケジュール
ESRSの適用は2024年1月から段階的に開始されます。
まずは、非財務情報の報告義務を負う大規模な企業が対象となります。
ESRSの対象企業は、EU域内に本社を置く企業だけでなく、EU市場で事業を展開するすべての企業が含まれます。
さらに、2026年6月までにセクター別基準や上場中小企業(LSME)向けの基準が採択される予定です。
これにより、特定の業種や規模の企業に対する報告要件が明確化されます。
また、非上場の中小企業に対しては、報告義務が課されるわけではありませんが、任意の報告ガイドラインが策定されるなど、企業の自主的な取り組みを促進する形となります。
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ESRSの影響と企業の対応
ESRSは、企業に対してより詳細で包括的なサステナビリティ情報の開示を求めることで、ステークホルダーに対する透明性を高めます。
これにより、投資家や消費者、規制当局は、企業のサステナビリティへの取り組みをより正確な評価が可能となります。
企業は、ESRSに準拠した報告を行うために、内部のプロセスやガバナンス体制を見直す必要があります。
また、サステナビリティに関するデータの収集や分析を強化し、報告内容が信頼性を持つようにすることが求められます。
参考文献
リクロマ「EU(欧州)サステナビリティ報告基準とは?企業が押さえておくべき要点について」
aiESG「【解説】欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の最新動向」
ESRSの3つのカテゴリ
欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)は、企業が持続可能性に関する情報を報告する際に従うべき具体的な基準を提供しています。
ESRSは、3つの主要なカテゴリで構成されており、それぞれが企業のサステナビリティ報告において重要な役割を果たしています。
この3つのカテゴリは「横断的基準」、「トピック別基準」、そして「セクター別基準」です。
横断的基準
横断的基準の構成
横断的基準は、企業がサステナビリティ報告を行う際に遵守すべき一般的な原則や開示要件を規定するものです。
この基準は、以下の2つの主要部分から構成されています。
全般的要求事項(ESRS1)
ESRS1は、CSRDに基づくサステナビリティ報告の一般原則を規定する基準です。
この基準は、企業が開示すべき情報を以下の4つの報告分野に分けて定められています。
ガバナンス
経営層の役割、責任、ガバナンス体制に関する情報の開示を求めます。
戦略
企業のビジネスモデルや戦略がサステナビリティにどのように影響するかを示す情報を開示します。
インパクト、リスクと機会の管理
企業が直面するサステナビリティ関連のリスクや機会、そしてそれに対する対応策を開示します。
指標と目標
サステナビリティに関する目標設定とその達成状況を示す指標を開示します。
さらに、ESRS1では、企業が財務的影響と社会・環境への影響を統合的に考慮する「ダブルマテリアリティ」の考え方が組み込まれています。
全般的開示事項(ESRS2)
ESRS2は、企業が具体的に開示すべきサステナビリティ情報を詳細に規定する基準です。企業は以下の5つの報告分野に基づいて情報を開示する必要があります。
ガバナンス
経営層の意思決定に関する情報の開示を求めます。。
戦略
サステナビリティに関連するビジネス戦略とその実行計画を開示します。
インパクト、リスクと機会の管理
サステナビリティに関連するリスクや機会の評価と管理状況を示す指標を開示します。
指標と目標
サステナビリティに関するパフォーマンス指標と目標を示す指標を開示します。
開示策定準備
報告書作成のための基本的な準備事項や手順を開示します。
これらの報告分野には、具体的な開示要件が定められており、企業はこれに従って必要な情報を提供することが求められます。
参考文献
aiESG「【解説】欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の最新動向」
トピック別基準
トピック別基準の構成
トピック別基準は、ESGの3つの柱に関連付けられた合計10項目のトピックで構成されています。
各トピックは、企業が報告すべきサステナビリティ情報を詳細に定義しており、これに基づいて企業の開示内容が決定されます。
ESGの3つの柱
環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の3つの主要なテーマに分かれています。
トピックの細分化
各トピックにはさらにサブトピック、サブサブトピックが設定されており、より具体的な報告項目が規定されています。
マテリアリティ評価
企業はこれらのトピックを基に、自社にとって重要な事項(マテリアル)を評価します。
マテリアルと判断されたトピックについては、該当する開示要件に従い、報告を行う必要があります。
このトピック別基準により、企業は自社の活動が社会や環境に与える影響や、サステナビリティに関連するリスクと機会を体系的に評価し、ステークホルダーに対して適切な情報開示を行うことが求められます。
参考文献
aiESG「【解説】欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の最新動向」
aiESG「【解説】ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)の概要」
セクター別基準
欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)のセクター別基準は、特定の産業セクターに固有のサステナビリティ課題に対応するために策定されています。
これらの基準は、企業が所属する業界ごとに異なるリスクや機会を詳細に反映しており、企業はこれに基づいて業界特有のサステナビリティ情報を開示することが求められます。
セクター別基準に含まれる主な産業とその詳細は、以下の通りです。
石炭・ガス
石炭・ガス産業は、エネルギー生産の中でも特に環境への影響が大きい分野です。
セクター別基準では、温室効果ガス(GHG)排出の管理、再生可能エネルギーへの移行計画、環境破壊のリスク管理など、具体的な開示が求められます。
石炭・採石場・鉱業
石炭・採石場・鉱業は、資源採掘が主要な活動となる産業です。
企業は、採掘活動による地域社会や生物多様性への影響、廃棄物管理、汚染防止策について報告することが求められます。
道路輸送
道路輸送産業は、二酸化炭素(CO2)排出の主要な原因の一つであり、特に自動車輸送における環境負荷の管理が重要です。
このセクター別基準では、排出ガスの削減、燃費効率の向上、電動化の進展などの情報開示が求められます。
農業・畜産・漁業
農業・畜産・漁業産業は、自然資源の利用と管理が中心となるセクターです。
セクター別基準では、持続可能な農業・漁業の実践、動物福祉、気候変動への適応策、農薬や肥料の使用に関する情報開示が求められます。
自動車
自動車産業は、製造過程や使用段階での環境負荷が高いセクターです。
この基準では、車両の燃費性能、電動車両の開発と普及、サプライチェーン全体の環境管理が重要な開示項目となります。
エネルギー生産と公益事業
エネルギー生産と公益事業セクターは、電力および水道供給などのインフラサービスを提供する産業です。
この分野では、エネルギーミックス(再生可能エネルギーと非再生可能エネルギーの比率)、気候変動への影響、エネルギー効率の改善に関する情報が求められます。
食品と飲料
食品と飲料産業は、農業生産から製品加工、販売に至るまでの広範なプロセスが環境に影響を与えるセクターです。
この基準では、持続可能な原材料調達、フードロスの削減、エネルギーと水の使用効率、パッケージングに関する開示が求められます。
繊維・アクセサリー・靴・宝飾品
繊維・アクセサリー・靴・宝飾品産業は、素材調達から製造、販売までのプロセスが環境と社会に広範な影響を与えるセクターです。
この分野では、持続可能な素材の使用、労働条件、サプライチェーンの透明性、製品のライフサイクル管理が重要な報告項目となります。
参考文献
JETRO「EU、CSRDにおけるセクター別・域外企業向け欧州持続可能性報告基準(ESRS)の採択を2年延期」
まとめ
欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)のセクター別基準は、各産業の特性に応じた具体的な情報開示を企業に義務付けています。
この基準により、石炭・採石場、自動車、食品産業などが直面するリスクや機会が明確化され、持続可能な運営を目指す企業の取り組みが一層促進されます。
企業にとっては、報告義務の増加とともに、持続可能性への対応が競争力強化にもつながる重要なステップとなるでしょう。
参考文献
[1]リクロマ「EU(欧州)サステナビリティ報告基準とは?企業が押さえておくべき要点について」
[2]JETRO「EU、CSRDにおけるセクター別・域外企業向け欧州持続可能性報告基準(ESRS)の採択を2年延期」
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