Last Updated on 2024年5月3日 by Yuma Yasui

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が3月20日、気候変動についての現状の評価や対策をまとめた「第6次統合報告書」を発表しました[1]。 最新の科学の知見に基づいて気候変動対策を推進していきたい方も多くいらっしゃることと思います。

この記事では、IPCCによる「第6次統合報告書」の概要と企業に求められている対応について解説します。

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目次

IPCCの第6次統合報告書とは

IPCCとは

IPCCは世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府機関であり、195の国と地域が参加しています。各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えるという目的をもって活動しています[2]。

統合報告書とは

第6次統合報告書は、2021年と2022年に公表された3つの作業部会の評価報告書の内容と、2018年と2019年に公表された3つの特別報告書の内容に基づいています。

統合報告書は、各国政府が気候変動に関する公約を見直し、目標設定を更新するための基礎となるものだけでなく、企業にとっても科学的根拠に基づく気候変動対策指針を提供します。

今回の統合報告書は、2014年の第5次評価報告書以来9年ぶりの公表となりました。今後、夏に開催されるIPCC総会を経て第7次評価サイクルが始まる予定です。

今回の報告書の特徴

これまでの報告書とは異なり、統合報告書は、気温の上昇を1.5℃以下に抑えるために、政府、金融、市民社会、民間セクターがこの10年間に取ることができる行動と解決策を強調しています[3]。

また、今後のコストと負担の分担の必要性、公正な移行の重要性を強調しています。

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統合報告書の内容

統合報告書の内容は、時間軸ごとに大きく3つにわかれています。

第一章「現状と傾向」では、過去の歴史と現在を扱っています。第二章「長期的な気候と開発の未来」では2100年以降の予測される未来について、第三章「気候変動に対する短期的な対応」では現在の国際政策の時間的枠組みと現在と2030~2040年の期間に焦点を置いています。ひとつずつ見ていきましょう。

A. 現状と傾向

既に1.1度の温暖化が進んでいる(A.1)

温室効果ガス排出によって地球温暖化が進み、世界平均気温は1.1℃上昇(1850~1900年比)しています。持続可能でないエネルギー利用などが、地域や国家、個人の間で不均衡に影響を与えています。

不釣り合いに温暖化影響を受ける地域が存在(A.2)

気候変動が急速に進み、大気、海洋、雪氷圏、及び生物圏への広範かつ急速な変化、世界中で多数の極端な気象現象が発生しています。これは自然と人々に悪影響と損失・損害をもたらします。また、現在の気候変動への寄与が最も少ない脆弱なコミュニティが不均衡に影響を受けます。

適応策の進展とギャップ(A.3)

少なくとも 170の国や多くの都市が、気候政策や計画プロセスに適応を盛り込み、その計画と実施は進展していますが、適応ギャップが存在し現在のままではそのギャップが拡大し続けます。特に途上国において、適応のための資金フローが不十分です。

※適応策とは、「気候変動影響による被害を回避・軽減すること」です。適応ギャップとは、「温暖化の進展に伴い必要とされる対策水準と適応策とのギャップ」を指します。

緩和策の進展とギャップ(A.4)

2021年10月までに発表された「国が決定する貢献(NDCs)」によって示唆される2030年の二酸化炭素排出量では、パリ協定で定められた1.5度目標を超える可能性が高いです。また、現在実施されている政策での予測排出量とNDCsでの予測排出量の間にもギャップがあります。

※緩和策とは、「温室効果ガスの排出の抑制や、森林等の吸収作用を保全及び強化すること」です。

B. 長期的な気候と開発の未来

今後短期のうちの気温上昇とその影響(B.1)

継続的な温室効果ガスの排出によって気温上昇が1.5℃に到達し、同時多発的なハザード (高温、干ばつ、洪水など) が増加します。大幅かつ急速・持続的な温室効果ガスの排出削減を実施できれば、約20年以内に地球温暖化の減速をもたらし、数年以内に大気組成に変化をもたらします。

更なる温暖化進行により、ますます複雑で管理困難な複合的かつ連鎖的なリスクが生じる(B.2)

将来の温暖化水準に関わらず、予測される長期的影響は現在観測されている影響よりも大きいです。地球温暖化が進行するにつれて気候変動の起因リスク、悪影響、関連する損失と損害が増加します。また、気候と非気候変動リスクが相互作用し、複合的かつ連鎖的なリスクが生じます。

温室効果ガス排出削減によって将来の変化を抑制可能(B.3)

将来変化の一部は不可避かつ/または不可逆的ですが、温室効果ガス排出削減で将来の変化を抑制可能です。地球温暖化が進めば進むほど、突発的かつ不可逆的な変化や悪影響が起こる可能性が増加します。

地球温暖化による適応策の制限と回避策(B.4)

地球温暖化が進行すればするほど、適応オプションは制限され、効果が減少します。長期計画と早期の適応行動は、失敗を回避し、コベネフィットをもたらします。

※コベネフィットとは、環境行動に伴う副次的・間接的・相乗的な便益を指します。

CO₂排出量ネットゼロが必要(B.5)

1.5℃または2℃の温暖化抑制は、ネットゼロ達成までの累積炭素排出量とこの10年間の温室効果ガス排出削減によって決まります。削減対策を講じていない既存の化石燃料インフラに由来するCO₂排出量は、1.5℃目標の許容排出量を超えると予測されます。

1.5℃と2℃の温暖化目標を達成するため急速なGHG削減が必要(B.6)

1.5℃温暖化を抑えるには急速かつ大幅なGHG排出量削減が必要であり、全部門において緊急に実行する必要があります。

特定の温暖化目標を達成しなかった場合の対応とリスク予測(B.7)

温暖化が1.5度などの特定の水準を超えたとしてもCO2排出量実質マイナスの維持で温暖化を徐々に低減できます。しかし、二酸化炭素除去(CDR)を必要とするため実現可能性や持続可能性に懸念があります。

C. 気候変動に対する短期的な対応

気候変動と持続可能な開発に向けた国際協力の必要性(C.1)

気候変動は幸福と惑星の健康に対する脅威で、すべての人々が住みやすく持続可能な未来を確保する機会が急速に失われつつあります。「気候にレジリエントな開発」は、特に脆弱な人々への十分な資金源へのアクセスの改善、包摂的なガバナンス、国際協力の強化などで可能であり、今後10年間の対策は数千年にわたって影響を与えます。

※「気候にレジリエントな開発 (Climate Resilient Dvelopment=CRD)」とは、IPCCの定義によれば「万人のための持続可能な開発を支援するために、温室効果ガスの緩和と適応のオプションを実施するプロセス」です。

国立環境研究所 IPCC 第6次評価報告書 統合報告書 解説委員会 [4] より引用(P.24)

緩和と適応の行動が損失を軽減する一方、遅延は損害を増加させる(C.2)

緩和と適応の行動により、大気の質や健康など多くの共便益が得られると予測されます。しかし、行動を遅らせると、排出量の多いインフラから排出量の少ないインフラへの乗り換えが困難になり、座礁資産やコスト増大のリスクが高まり、損失と損害が増加する可能性があります。短期的な対策は初期投資が高く潜在的な変化を伴うため、政策による支援が必要です。

※座礁資産とは、「市場や社会環境の変化と連動し、価値が大幅に減少する資産」のことです。

全ての部門およびシステムの移行の必要性と効果的な緩和・適応オプションの存在(C.3)

温室効果ガスの削減達成、持続可能な未来の確保のためには、急速かつ広範囲にわたるシステムの移行が必要です。既に実現可能で、効果的で低コストな緩和と適応のオプションが存在します。


国立環境研究所 IPCC 第6次評価報告書 統合報告書 解説委員会 [4] より引用(P.25)

加速的かつ衡平な気候変動対策が必要、SDGsとの相乗効果(C.4)

気候変動の対策には、加速的かつ衡平な行動が必要であり、それが持続可能な開発に欠かせません。緩和と適応の行動は、持続可能な開発目標とのトレードオフよりも相乗効果があることが多いです。


国立環境研究所 IPCC 第6次評価報告書 統合報告書 解説委員会 [4] より引用(P.32)

衡平性、気候正義、社会正義、包摂および公正な移行のプロセス(C.5)

衡平性、気候正義、社会正義、包摂、公正な移行のプロセスによって、適応と野心的な緩和の行動を促進し、「気候にレジリエントな開発」を可能にします。適応の成果は、脆弱性の高い地域と人々への支援で、また、社会保障制度に適応を組み込むことでレジリエンスを向上させることができます。

気候変動への効果的な対応に多層的な取り組みと知識の活用が必要(C.6)

効果的な気候行動は、政治的な公約、多層的なガバナンス、法律や政策などの制度的枠組み、資金や技術へのアクセスの強化によって可能となります。明確な目標や複数の政策領域にわたる協調、包摂的なガバナンスのプロセスが効果的な気候行動を促進し、規制や経済的手段のスケールアップや導入によって大幅な排出削減や気候レジリエンスを支えることができます。また、多様な知識の活用が「気候にレジリエントな開発」に役立ちます。

資金、技術、及び国際協力の重要性(C.7)

気候行動を加速させるためには、資金、技術、及び国際協力が重要です。GHG排出量を急速に削減するための十分なグローバル資本が存在しますが、現在の3~6倍の気候変動投資が必要です。

なお、国立環境研究所ウェブページ「IPCC AR6 WG3 解説サイト 」において、報告書の執筆者らによる統合報告書の詳細な解説資料が公開されています。併せてご参照ください。

企業に求められている対応

国連総長の呼びかけ

統合報告書を受け、国連のグテーレス事務総長は「気候の時限爆弾の時計は刻々と進んでいる」と危機感を訴えました。さらに、企業の最高経営責任者(CEO)に対し、「『非国家主体によるネットゼロ宣言に関するハイレベル専門家グループ』による提言に沿った、信頼できる、包括的で詳細な移行計画を提示すべきです。」と呼びかけています[5]。

非国家主体によるネットゼロ宣言に関するハイレベル専門家グループによる提言の概要については「グリーンウォッシュの回避方法とは?企業が今からできること 」をご覧ください。また、移行計画については「TCFD開示の更なる“レベルアップ”のために必要な「移行計画」について解説」をご覧ください。

9つの企業行動

IPCCの第6次統合報告書は、二酸化炭素排出量を削減し、レジリエンスを構築するために今すぐ実行できる、場合によっては非常に費用対効果の高い行動を特定しています。WBCSD(持続可能な開発のための経済人会議)から出たレポートを参考に、9つのカギとなる企業行動を解説します[3]。

化石燃料の使用量を大幅に削減する

・2030年までに全ての化石燃料を廃止し、排出量を少なくとも43%削減すること
・段階的な削減の際には公正な移行を確保するため、包括的で透明性のある参加型の意思決定プロセスをとること

気候変動に関するコミットメントに説明責任を果たす

・科学的根拠に基づくネットゼロ目標、気候移行計画を採用すること
・正確な炭素会計指標を用いて測定・開示すること

低炭素・無炭素のエネルギー利用を拡大する

・太陽光や風力などの再生可能エネルギーの利用を拡大すること

二酸化炭素排出量の低減が困難なセクターのバリューチェーンを変革する

・セメントや鉄鋼などのGHG排出量削減が困難なセクターのGHG排出量を削減するにはバリューチェーン全体で協調して行動すること
 例)産業の電化、循環型マテリアルフロー、生産プロセスの変革

グローバルな資金を緩和策と適応策に振り向ける 

・化石燃料に対する公的・民間資金(例:化石燃料補助金)を気候変動の適応・緩和のための資金に切り替えるよう働きかけること

オーバーシュートを抑えるために技術による解決策を利用する 

・1.5℃を超えるオーバーシュートを抑えるため、また航空、海運、工業プロセスなどの緩和策が難しい産業で二酸化炭素排出量実質マイナスを達成するため、大気中の二酸化炭素を直接回収するDAC(Direct Air Capture)をふくむ二酸化炭素除去(CDR)の技術を利用すること
・このような技術は緩和行動と並行して行うこと

生態系を保護し復元する 

 緩和策例)森林破壊と環境悪化の回避、農業における炭素隔離、植林と再植林による生態系の復元、持続可能な森林管理

 適応策例)家畜システムの効率化、農地管理の改善、アグロフォレストリー、水利用効率向上

気候変動へのレジリエンスと適応策をスケールアップする 

公平、包摂的、公正な移行を確保する

・「気候にレジリエントな開発」を、政府や地域社会、投資家などと協調して行うこと
・女性や若者、先住民など脆弱な人びとと連携すること

まとめ

IPCC第6次統合報告書は、温暖化を産業革命前のレベルから1.5℃に抑えるための行動が緊急を要する (Urgent) ことを強調しています。また、GHG 排出量を削減し、気候変動に対応するため利用できる技術、資金、ツール、および解決策があることが示されています。

企業には、気候変動に適応・緩和するための対策と、人と自然のために幅広い共益をもたらす排出削減行動を統合する「気候にレジリエントな開発(CRD)」を推進することが求められています。気候変動を抑制するための実現可能で効果的な選択肢は複数存在すると示されている中で重要なことは、今後の10年間にこれらの解決策を効果的かつ迅速に展開することです。

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この記事では、IPCCの第6次統合報告書と企業に求められる対応について解説いたしました。最新の科学的知見の理解、気候変動への取組みの加速の一助となりましたら幸いです。

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Author

  • 遠藤瑞季

    2022年10月入社。2020年より国際人権NGOにて「ビジネスと人権」の分野の活動に従事。在学中、国際労働機関(ILO)のインターンとしてリサーチ業務を経験。気候変動における企業の可能性に関心を寄せ、リクロマ株式会社へ参画。

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