Last Updated on 2024年7月8日 by Moe Yamazaki

2023年1月、世界経済フォーラムが発表したグローバルリスク報告書では、今後10年間に直面する可能性のある最も深刻なリスク上位10位のうち6つは、気候変動に直接関連するものでした。

本記事では、今注目するべきグローバルリスクについて主に気候変動分野に焦点を当て解説いたします。

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グローバルリスク報告書2023年版

グローバルリスク報告書とは

グローバルリスク報告書は、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が毎年発表しているレポートです。世界経済フォーラムは、1971年に設立された非営利の国際組織で、ビジネス、政治、学術などの社会のリーダーと協力して、世界の状況を改善することを目的としています。この報告書は、短期的、長期的な国際的に深刻なグローバルリスクを1200名以上の有識者、政策立案者、産業界リーダー等を対象としたアンケート調査を分析し、その影響や対策を提言しています[1]。

調査結果概要

COVID-19危機に続くニューノーマル時代で幕を開けた2020年代が、ウクライナ戦争勃発による食料・エネルギー危機の連鎖もあいまって、古いタイプおよび新しいタイプの環境・社会的リスクに直面しています。

短期・長期的リスクランキング結果

次の2年間の短期において人間の健康や経済や社会に大きな影響を与える最も深刻なリスクとして、生活費の危機が、10年間という長期における最も深刻なリスクとして気候変動緩和策の失敗がランクインしました。

Marsh [2] より引用

重要ワード:ポリクライシス

上記のリスクは相互に関連しており、単独で存在しているのではなく、お互いに影響をし合うことで Polycrisis(ポリクライシス) となると指摘されています。ポリクライシスとは、個別のリスクが相互作用することで増幅し、その影響が個別リスクの総和を超える危機を指します。
例:気候変動が食料の安定供給や移民問題を悪化、サイバー攻撃がインフラや金融システムを破壊

Marsh [2] より引用

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気候変動関連情報

気候変動について

気候・環境リスクは、今後10年間の世界のリスク認識における主要な焦点であるにもかかわらず、その備えは不十分です。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)など、前向きな進展の兆しも見られる気候変動目標の達成は進んでおらず、気候変動の影響を受けるコミュニティや国々に必要な適応支援も十分に進んでいないことが指摘されています。

他のリスクとの相互作用:生態系の崩壊、食糧不安、テロ集団や紛争の発生など

生物多様性の喪失や生態系の崩壊について

生態系内および生態系間の生物多様性の減少は、現在、人類史上かつてない速さで進行しています。にもかかわらず、アンケートの回答者は、生物多様性の損失と生態系の崩壊を、今後 10 年間の最も深刻なリスクの第 4 位と認識しながらも、短期的な環境問題としては捉えておらず、今一度課題認識を改める必要性が訴えられています。

他のリスクとの相互作用:人獣共通感染症の増加、作物収穫量と栄養価の低下、潜在的な紛争につながる水ストレス、食糧システムや自然に基づくサービスに依存した生活の喪失、より極端な洪水、海面上昇、浸食など

クリーンエネルギーへの移行について

クリーンエネルギーへの移行は気候変動の緩和に不可欠ですが、エネルギー安全保障のためのグリーンインフラの急速な拡大は、国内および広域の生態系に予期せぬ結果をもたらす可能性があると報告書は警鐘を鳴らしています。

例:環境の悪化、生態系の破壊、音や電磁波の汚染、動物の移動パターンの変化、地域社会・先住民族の荒廃

2030年の未来を予測する4つのシナリオ

報告書では、複数のリスクが同時に発生した場合(ポリクライシス)の想定される状況とその対応策を考えるために、シナリオ分析が行なわれています。本年度は、再生可能エネルギーの増加などで天然資源の需要と供給のギャップがひろがっていることから「資源競争」が取り上げられました。

WEF[1]より弊社作成

以下では、①国境を越えた資源の流れを可能にする国際協力の程度、②気候変動対策の進度の2つの軸を合わせて導き出された2030年の4つの仮想的な未来について概説します。

①資源連携シナリオ

国際的な協力によって気候変動が食糧生産に及ぼす影響を緩和することができますが、水と鉱物の不足は避けることができないと推測されます。これは、気候変動の緩和を遅らせ、インフレ圧力と発展途上国の健康危機を招く可能性があります。

②資源制約シナリオ

現在の危機が気候変動対策を遅らせ、脆弱な国々を飢餓とエネルギーショックにさらすと推測されます。水と鉱物の不足は、より広範なリスクへの乗数として作用し、途上国における人道危機を引き起こす可能性があります。

③資源競争シナリオ

高所得国において不信感が自給自足を促し、不足、価格競争、産業界におけるビジネスモデルの転換をもたらすと推測されます。これは、資源パワーのシフトや、鉱物資源に恵まれた国とそうでない国の間の潜在的な紛争を引き起こす可能性があります。

④資源管理シナリオ

地政学的な影響によって、気候による食糧と水不足が悪化し、4つのシナリオで直面する中で最大の社会経済的影響を持つ世界的な複数資源の危機が発生すると推測されます。これは、飢饉、水不足による難民、および地政学的戦争につながる可能性があります。

リスクに備えるために

報告書では最後に、同時多発的なショックが発生するこの新しい時代において、レジリエンスを強化し、より長期的なリスクに備えるために4つの原則を概説しています。

①リスクの特定と予見の強化

新たなリスクを予測することは困難ですが、リスクの特定と予見力を高めることで、戦略的な意思決定やレジリエンス対策が可能になります。シナリオ分析は新たなトレンドを予測するひとつの良いツールです。

②長期的リスクの現在価値の再調整

認知バイアスや短期的なインセンティブによって、長期的な影響を及ぼすグローバルリスクへの対応が不十分になってしまわないよう、現在のリスク管理と長期的な対応のバランスをとる二重のビジョンを採用する必要があります。

③多領域・部門横断的なリスクに備える投資

重要な分野におけるレジリエンスの取り組みを強化することは、あらゆるシナリオにおいて利益をもたらし、多種多様なリスクに対する備えを向上させます。グローバルなリスクがより複雑に絡み合う中、民間と公共のパートナーシップも重要です。
複数のリスクに対する備えを構築する投資の例:土壌の生物多様性を回復させることで大量の炭素を貯蔵できる可能性のある再生農業への投資

④備えと対応の協力強化

最近の危機は、各国の焦点を内向きにし、国際協力が悪化する危険性をはらんでいるが、産業界や国家間の協力関係を強化することは、グローバル・リスクへの備えと管理の将来にとって極めて重要です。

まとめ

「グローバルリスク報告書2023」では、各国や地域間の対立や分断が深まり予測不可能な変化の多い社会状況の中で、生活費の危機や気候変動対策の失敗の危機などのリスクに対して、企業は発生しうるリスクを想定し、レジリエンスを高めていく必要性が確認されました。

気候変動リスクの評価と軽減のための新しいアプローチに焦点を当て、グリーンエネルギーへの移行に向けた投資を加速することは、企業と世界の持続可能性目標の達成を可能にします。

#海外動向

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Author

  • 遠藤瑞季

    2022年10月入社。2020年より国際人権NGOにて「ビジネスと人権」の分野の活動に従事。在学中、国際労働機関(ILO)のインターンとしてリサーチ業務を経験。気候変動における企業の可能性に関心を寄せ、リクロマ株式会社へ参画。

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