Last Updated on 2024年12月31日 by Moe Yamazaki

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スコープ3カテゴリ2は、企業が購入した資本財(建物、機械、設備など)のおよびその原材料や輸送段階などにおいて発生する温室効果ガス(GHG)排出量を対象としています。

長期的な設備投資が持続可能性に与える影響は大きく、サプライチェーン全体での排出削減が求められます。

この記事では、スコープ3カテゴリ2の排出削減に向けた企業の取り組みや、資本財に関連する排出量の算定方法について紹介します。

<サマリー>

• スコープ3カテゴリ2は、購入した資本財の製造に伴う排出量を対象とする
• 資本財には、工場、機械、建物などの長期的な設備投資が含まれる
• 企業は資本財の製造段階で発生する排出量を報告する必要がある
• サプライチェーン全体での協力が、排出削減に不可欠な要素となる • 効率的な資本財の使用と管理が、排出削減において重要な役割を果たす

スコープ3算定式の精緻化を図る、「Scope3の削減方法とは?WP」
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スコープ3カテゴリ2の詳細解説

スコープ3は、企業活動の間接排出を全体で捉えるために設けられた指標です。特に、Scope2に含まれない他社由来の排出を対象としており、発電や熱生成以外のあらゆる間接排出がカバーされます。

この排出は15のカテゴリに細分化されており、資本財に関わるカテゴリ2は、企業が取得した固定資産に関連する上流排出を計測する重要な領域となっています。

対象 資本財

資本財とは、企業が長期間にわたって使用する固定資産を指し、建物や機械設備、ソフトウェアなどが含まれます。

カテゴリ1(購入した製品やサービス)とは異なり、資本財は長期にわたって企業活動に使用されるものであり、減価償却の対象となる財です。ただし、排出量算定では財務会計での識別方法を用い、一括算定することが基本です。

この区分はGHGプロトコルに基づいており、資本財を別扱いにすることで、排出量の変動を安定化させる意図があります。

対象となる資本財の例は以下の通りです:

•   有形資産:建物、機械、車両、設備など
•   無形資産:ソフトウェア、鉱物探査など

ただし、特許権や商標権のように排出が直接発生しない無形資産や、土地など一部の資本財は除外されることが一般的です。

算定範囲 

カテゴリ2における算定範囲は、購入または取得した資本財に関わる全ての上流排出が対象です。

具体的には、資本財の建設や製造段階で排出された温室効果ガスを算定します。これにより、企業の投資活動に伴う環境負荷を正確に評価することが可能になります。

算定方法

基本の算定方法 活動量×排出原単位

スコープ3カテゴリ2の排出量算定には、基本的にカテゴリ1と同じく「活動量×排出原単位」の手法が使われます。

活動量は、購入または取得した資本財の量を指し、排出原単位はその活動に伴う温室効果ガス排出量を示します。

1次データを用いる手法

まず初めに、1次データを活用した手法について解説します。
 
1次データは、サプライヤーの実際の活動に基づいて取得する具体的なデータです。これは、サプライヤーとの連携により企業が直接収集するもので、企業努力が反映される信頼性の高いデータです。しかし、収集や更新には多大な時間とリソースを要します。

算定方法

1次データを用いた算定方法では、サプライヤーから提供されたエネルギー消費量や資源使用量を基に排出量を算出します。具体的には、エネルギー使用量にその排出原単位を掛け合わせることで、製造や建設段階での排出量を正確に算定します。

2次データを用いる手法

次に、2次データを活用した手法について解説します。

2次データは、既存のデータベースや業界の平均値を用いて排出量を算定する手法です。収集が容易で、時間やリソースを節約できる点が特徴です。しかし、実際の活動量が反映されにくいため、活動量を減らさない限り排出量の削減は難しいことがあります。

日本では、環境省の排出原単位データベースや、産業技術総合研究所(AIST)の「IDEA」データベースがよく使用されます。

算定方法を紹介

算定方法としては、資本財に関する2次データを活用し、購入・取得した資本財の活動量(トン、平米など)に排出原単位を掛け合わせる形で算出します。

この場合、使用するデータベースに基づいて異なる排出係数を使い、例えば、建設資材や機械設備に対して、材料ごとに排出量を計算することができます。

どの算定方法を用いるかは企業の裁量によりますが、2次データの使用は迅速で低コストの手段として有効です。ただし、精度に限界があるため、可能であれば1次データとの併用が推奨されます。

データの種類具体例利点課題
一次データサプライヤー提供の直接データ精度が高い収集にコストがかかる
二次データ業界平均データ簡単に取得可能精度に限界がある

サプライヤーエンゲージメント評価の概要とスコープ3の関係

次に、サプライヤーエンゲージメント評価の概要とスコープ3の関係について解説します。

サプライヤーエンゲージメント評価とは

サプライヤーエンゲージメント評価とは、企業が気候変動対策において、サプライヤーとの協力を通じてサプライチェーン全体で排出削減にどれほど真剣に取り組んでいるかを評価する制度です。

CDP(Carbon Disclosure Project)により提供され、企業がサステナビリティにおいてどのような効果的な行動を取っているかが問われます。これにより、企業の気候変動対策に対するコミットメントや、サプライヤーとの連携が評価されます。

サプライヤーエンゲージメント評価におけるスコープ3排出量算定のウェイト

サプライヤーエンゲージメント評価において、スコープ3排出量算定は全体の20%程度のウェイトを占めています。

スコアリングカテゴリサプライヤーエンゲージメント評価におけるウェイト
ガバナンス20%
目標15%
スコープ3排出量算定20%
サプライヤーとエンゲージメント35%
CDP気候変動質問書全体のスコア10%
(※)CDP2023 サプライヤーエンゲージメント評価 イントロダクションを元に作成

この評価は、サプライヤーとの協力を通じた排出削減の取り組みの効果を測定するものであり、特にスコープ3カテゴリ2における資本財の排出削減が重要です。資本財における排出は、設備や機械の製造や建設に関連しており、長期的な視点での排出削減が企業評価に大きな影響を与えます。

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サプライヤーエンゲージメントにおける排出削減の企業事例

最後に、サプライヤーとの協力を強化し、温室効果ガスの削減を進めている企業として、塩野義製薬株式会社を紹介します。

環境省モデル企業事例集を元に作成

塩野義製薬株式会社について

塩野義製薬は、新薬の研究開発・製造・販売を手掛ける企業です。

スコープ1・2の排出量は少ないものの、スコープ3、特にカテゴリ1(購入した製品やサービス)やカテゴリ5(事業からの廃棄物)が主な排出源となっています。同社は、サプライヤーと連携し、全体の排出削減を推進しています。

取り組み

塩野義製薬は以下の3つの柱で排出削減を進めています。

・排出量が多い製品の存続の是非を検討
高排出量の製品について、持続可能性の観点からその存続を見直し、ポートフォリオを再構築する取り組みを行っています。環境負荷の大きい製品に対しては、代替の開発や製造方法の検討を行い、事業の持続性と排出削減を両立させています。

・製品デザインの見直し
製品のライフサイクル全体での排出量削減を目指し、エコデザインを導入。使用する資源量を減らし、製造段階での効率性を向上させることで、排出量を最小限に抑える施策が採用されています。これにより、廃棄物の削減やリサイクルの促進が可能になっています。

・輸送・配送方法の改善
物流において、効率化を追求。低排出車両の導入や輸送ルートの最適化を進め、輸送に伴うCO₂排出を削減しています。物流における環境負荷を軽減するための具体的な取り組みが行われており、輸送段階でも排出量削減に貢献しています。

塩野義製薬は、これらの施策を通じてサプライチェーン全体での持続可能性を向上させ、排出削減に取り組んでいます。特に、サプライヤーとの密な連携を通じて、効果的な排出削減目標の設定と実行が行われています。

まとめ

スコープ3の排出量算定は、多くのデータを正確に収集し、活動量と排出原単位を基に計算するため、非常に複雑で手間がかかります。特にサプライチェーン全体の排出を管理する必要があるため、企業単独での対応は難しいでしょう。

リクロマでは、スコープ1,2,3の算定や排出削減、CDP回答など幅広いサポートを提供し、貴社のニーズに応じた柔軟な対応が可能です。ぜひご相談ください。

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【このホワイトペーパーに含まれる内容
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・Scope3の算出方法と削減方法をそれぞれ詳細に解説
・Scope3削減好事例を複数のカテゴリーでわかりやすく解説

参考文献

・環境省 スコープ3排出量の算定技術ガイダンス
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/(J)-calculation_guidance.pdf

・CDP2023 サプライヤーエンゲージメント評価 イントロダクション
https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/008/101/original/SER_Introduction_JPN_2023.pdf

・環境省 サプライチェーン排出量算定に関する説明会 Scope3~算定編~
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/dms_trends/study_meeting_2020.pdf

・環境省モデル企業事例集
https://www.env.go.jp/content/000118181.pdf

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  • 大学では気候変動の経済学を専攻し、リクロマ株式会社には創業初期よりコンサルタントとして参画。 情報開示支援を中心に温室効果ガスの排出の算定や高度なシナリオ分析の業務を担う。

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