Last Updated on 2024年4月12日 by Yuma Yasui

近年、上場企業の脱炭素経営が強化されていますが、中小企業が対策を行うビジネス視点でのメリットは広く知られていません。しかし、脱炭素化をはじめとする気候変動対策は中小企業にとっても大きなメリットがあり、他企業との差を付ける上でも非常に重要です。

本記事では、ビジネス目線での中小企業における、「脱炭素化の潮流」「なぜ気候変動に関する情報開示が求められるのか」「脱炭素経営を行うメリット」「何から着手し始めるべきか」の4点について解説します。

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パリ協定や近年の動向を受け、脱炭素化へに向けた取り組みを行う企業が急激に増えています。

日本貿易振興機構ジェトロの調査によると、国内で「すでに取り組んでいる」と回答した中小企業は38.5%でした。1年前と比較すると8.8%の増加が見られ、脱炭素化に着手する企業が大幅に増加したことがわかります。

また、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」と回答した企業も併せると、
7割近い中小企業が脱炭素経営への計画を進めていることがわかります


企業の脱炭素化調査
出典:日本貿易振興機構 JETRO

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なぜ中小企業に気候変動に関する情報開示が求められるのか

現在、プライム市場では気候変動に関する情報開示が義務化されており、今後上場企業全体に渡って義務化されると予想されています。

そんな中、中小企業にも気候変動に関する情報開示を求める圧力がかかっています。投資家らは、開示内容の評価を行うCDPを通じ、非上場企業への気候変動に関する情報開示を要求しています。
また、COP26に合わせて開催されたパネルディスカッションでは、世界最大の資産運用会社であるブラックロックのラリー・フィンク氏が非上場企業にも気候変動リスク開示を求めることを明言しています。

このように中小企業にも強く情報開示が求められる理由として、主に以下の二つが挙げられます。


①脱炭素化はサプライチェーンにも及ぶため

地球温暖化防止策において「脱炭素化」は企業に求められている重要なポイントの一つであり、多くの企業が計画や目標設定を行っています。

脱炭素経営は上場企業単体ではなく、サプライチェーン全体で取り組む必要があります
そのため、中小企業は気候変動に関する情報開示が義務付けられていないからといって
脱炭素化の対象から外れることは決してないのです。

スコープとは?

サプライチェーンを考慮した脱炭素経営を進める上で、「スコープ」という温室効果ガス排出量を測定する範囲を示す視点が重要とされています。Scope3では「原料調達・物流・販売などのバリューチェーンにおいて発生する排出」を指します。

スコープの視点が広まったことにより、サプライヤー・顧客・小売業者との連携が必要となり、中小企業においても排出量の算定と削減を求められるようになりました。


Scope1,2,3
弊社作成

Scope1: 自社での燃料の使用等による直接的な排出
Scope2: 自社が購入したエネルギーの使用に伴う間接的な排出
Scope3: 原料調達・物流・販売などバリューチェーンで発生する排出


②上場企業のみの開示ではグリーンウォッシュになりかねないため

現在、気候変動に関する情報開示は主に上場企業に集中していることを理由に、情報開示が広く行われていない中小企業に環境への負担の高い事業を売却するという構造的問題が指摘されています。事業の売却により、脱炭素化に向けての取り組みを行うことができていないにも関わらず、
上場企業は情報開示において自社の排出量をごまかすことが可能になってしまいます。

このように、環境に配慮した経営を行っていないのにも関わらず、取り組んでいるように見せかける粉飾行為は「グリーンウォッシュ」と呼ばれ、批判されています。

グリーンウォッシュの構造
弊社作成

このようなグリーンウォッシュを防ぐためにも、上場しているか否かに関わらず、気候変動に関して情報開示を行っていく必要があります。

中小企業が脱炭素経営をするメリット

①機会の獲得

大手企業から受注する可能性が高まる

上記で紹介した「スコープ」の視点により、サプライチェーン全体での脱炭素が推進されたことをきっかけに、大手企業は自社の事業に関連する企業すべての温室効果ガス排出量を考慮する必要が出てきました。

大手企業において、CDP(評価機関)の質問書にて、「自社のサプライヤーにSBTを取得してもらうこと」で得点が得られるため、サプライヤーにSBT(削減目標)の取得を要請するような事例が増えてきています。要請は今後も広がっていくと予想されるため、早めに温室効果ガスの削減に着手する必要があります。

また、大手企業は温室効果ガス排出量の削減を既に実行している企業との連携を強化し始めています。
あらかじめ脱炭素化を進めておくことで競争力が上がり、大手企業との取引機会が高まると考えられます。

資金調達の可能性が広がる

金融機関や銀行がサステナビリティを重視する傾向は強く、それぞれの銀行が具体的な取り組みを公開しています。資金調達の側面では、サステナビリティを融資の判断基準に置いたり、積極的な取り組みを行う企業に優先的に融資を行ったりなどの取り組みが見られます。

【サステナブル融資】
銀行が脱炭素に取り組む企業に対し積極的な融資を行う

【ESG融資】
銀行が融資先を非財務情報から判断する融資です。
主に「サステナビリティ・リンク・ローン」「グリーンローン」「グリーンボンド」などがあります。
これらはSDGsやESG戦略、環境分野に基づいた目標・指標(SPTs)の達成状況に応じて適応金利が発生するローンや債権のことです。
*グリーンローンとグリーンボンドで集めた資金は必ずグリーンプロジェクトに利用しなければなりません

このように融資や補助金など、資金調達の可能性を広めるためには、積極的に情報開示を行い、気候変動対策への取り組みや目標を定めていく必要があります。

若い人材の確保に効果的

新卒学生向けの就職情報サイトキャリタスによる調査では、
就職先企業を決めた理由の30項目のうち、最も高かったものは「社会貢献度が高い」(30.0%)であり、学生のサステナビリティへの関心が最も高いことが分かります。

また、NHKによる企業の社会貢献度の高さの志望への影響度についての調査では、
65.2%の企業の学生が「とても影響した」「やや影響した」と回答しており、
「全く影響しなかった」と回答した学生はわずか6.8%でした。

企業の社会貢献度の志望への影響
出典:NHK就活応援ニュースゼミ

このように、学生は社会貢献をしながら働くことを重視している傾向が強く、社会貢献は企業と切り離せない課題となっています。
サステナビリティに関する取り組みは自社の人材の確保に直結してきます。

また、自社の従業員の脱炭素経営を求める声に応えるために着手する企業も増えています。


②リスクの低減

脱炭素化および気候変動対策が遅れてしまった場合、以下のようなリスクが考えられます。

競合に事業機会を取られるリスク

脱炭素は消費者にも浸透してきているため、「顧客の購買条件により低炭素な製品を調達する」というような選択がなされる場合、より低炭素な製品を販売する競合にとられてしまうリスクがあります。

サプライチェーンから外されてしまうリスク

企業のサプライチェーン全体の脱炭素化をしなければ、大手企業はESG投資などにおいて不利になってしまいます。そのため、既に取引のある企業であっても、対応を進めなければサプライチェーンから外されてしまう可能性があります。

中小企業は何から着手するべきか

①温室効果ガス排出量の算定・削減目標

中小企業において、最も重要と言える対策は、温室効果ガスの削減です。

しかし削減を行うためには、まず自社で温室効果ガスをどれくらい排出しているか把握する必要があります。

温室効果ガス排出量の算定(Scope1,2,3算定)

排出量の算定を行うことで、以下のように取り組みを進めていくことができます。

1,排出量を可視化することで、領域ごとの排出量を捉えることができる
2,どの部分から削減を進めていくか判断する材料となる
3,削減後に具体的な数値として示すことができる

サプライチェーン全体に渡る排出を直接排出・間接排出・その他の排出に分けたScope1,2,3全体での算定が重要です。
詳しくは「スコープ1,2,3とは?各スコープの排出量の算定方法まで解説 」をご覧ください。

削減目標の設定(SBTi)

SBTとは「Science Based Targets」の略で、
パリ協定で定められた気温上昇を1.5℃未満に抑える「1.5度目標」の達成に向けた温室効果ガス排出量の削減目標を意味します。SBT認証を行うことで、脱炭素への取り組みを行っていることを示す国際認証が受けられます。

詳しくは「SBT認証とは?日本企業の動向から認証のポイントまで解説 」をご覧ください。

【中小企業版SBTとは】
SBTには中小企業版があります。通常版との差異は以下の点が挙げられます。
・温室効果ガス排出量削減の対象範囲は自社での排出のみ
・削減目標の提出で自動的に認証される(審査が不要)
・費用が安い

このように中小企業には負担の軽いコースが用意されており、比較的着手が簡単です。


②環境配慮型商品

平成13年より、環境や必要性を十分に考慮し、可能な限り環境負担の少ない商品の購入を推進する「グリーン購入法」が制定されました。それと同時に、商品の供給側である企業にも環境負担を軽減した商品の開発が求められています。

環境配慮型製品とは

環境への影響を配慮し、比較的に環境負荷を抑える取り組みを行って生産された製品を指します。

配慮は主に次のようなことが挙げられます。
①廃棄物の減量化
②天然資源の効率的な利用や削減(再生利用・脱プラスチックなど)
③エネルギーの効率的な利用や削減(再生可能エネルギーの導入など)
④化学物質や温室効果ガスの削減

上記の取り組みは原料調達から廃棄までのライフサイクル全体に渡って考慮される必要があります。

環境配慮型製品の開発・販売メリット

特に情報開示においては、CDPで「自社の製品・サービスが低炭素製品に該当するか」という質問があり、該当する場合は加点になります。

このように、環境に配慮した製品には多面的なメリットが挙げられます。

まとめ

本記事では中小企業における脱炭素経営について述べました。

ビジネス視点で見ても、中小企業が脱炭素化および気候変動対策を行う必要は十分あり、情報開示や温室効果ガスの削減目標など、計画的に対策を進めていく必要があります。

#グリーンウォッシュ #脱炭素

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参考文献

[1] Energy Shift「上場企業だけじゃない 非上場企業、中小企業にも脱炭素が波及 あなたの会社はどうする?」
[2]日本貿易振興機構 JETRO 「脱炭素化へ大きな波―中小企業に求められる「算定と把握

[3] NHK就活応援ニュースゼミ「就活生の企業選びにも影響?! 広がるSDGs
[4] キャリタス就活2021「就活生の企業選びと SDGs に関する調査
[5] 環境省 総合環境政策「グリーン購入
[6] 環境省 報道発表資料「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン

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リクロマ株式会社

当社は「気候変動時代に求められる情報を提供することで社会に貢献する」を企業理念に掲げています。

カーボンニュートラルやネットゼロ、TCFDと言った気候変動に関わる課題を抱える法人に対し、「社内勉強会」「コンサルティング」「気候変動の実働面のオペレーション支援/代行」を提供しています。

Author

  • 岩﨑有桜

    2023年1月入社。環境問題を中心とした社会問題に取り組む一般社団法人に所属。国際教養学部にて環境問題やソーシャルビジネスをはじめとする社会貢献について学び、サステナビリティに貢献するビジネスに携わりたいという思いからリクロマ株式会社へ参画。