Last Updated on 2024年8月26日 by Moe Yamazaki

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日本政府は、2050年を目標としたカーボンニュートラル実現目標を掲げています。

この目標を実現するためには、政府だけでなく企業の取り組みが不可欠であり、一部の企業には法的な対応が求められています。実際、さまざまな業界の企業が直面する環境問題は多岐にわたり、それに対応するための施策も多様です。

今回の記事では、カーボンニュートラルを目指す国内企業の事例を詳しく紹介します。

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カーボンニュートラルとは?基本知識や仕組みをわかりやすく解説

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、企業や個人が排出する二酸化炭素の量を、削減、吸収、またはオフセットすることにより実質的にゼロにする取り組みのことを指します。気候変動の影響を最小限に抑え、地球温暖化を1.5°C以内にとどめることを目指す国際的な目標です。

カーボンニュートラルに関するまとめ記事はこちらです。より理解を深めたい方は、こちらの記事をご覧ください。

出典)資源エネルギー庁「日本の部門別のCO2排出量」

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企業がカーボンニュートラルを目指す理由

2020年に、日本政府は2050年を目標にカーボンニュートラル達成を目指すことを表明しました。温室効果ガス増加による地球温暖化と、それに伴う異常気象の増加が世界的な懸念となっており、GHG削減への取り組みが国際的に求められています。

多くの企業がカーボンニュートラルに取り組む背景には、こうした気候変動への対応に加え、それがもたらす経済的なメリットがあります。

企業が気候変動への影響を最小限に抑えることは、企業の社会的責任のひとつであると同時に、企業がカーボンニュートラルに取り組むことで、新たなビジネスチャンスを創出でき、長期的な視点で企業の競争力を高め、経済的成長を促進できるという側面もあります。

このように、環境のための責任を果たすと同時に、長期的な経済的利益を追求できることから、多くの企業がカーボンニュートラルに取り組んでいます。その規模は年々拡大しています。

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企業によるカーボンニュートラルの定義

一部の企業や組織では、カーボンニュートラルを自社で定義し、それに基づいた独自の取り組みを推進しています。それぞれの事業活動に合わせ、温室効果ガス排出量を実質ゼロにするための目標や基準を定めています。

例えば、東京海上グループは、カーボンニュートラルを「事業活動により生じるCO2排出量と、自然エネルギーの利用、マングローブ植林等によるCO2の吸収・固定・削減効果の換算量が等しい状態」と定義しています。

ISO(国際標準化機構)は、GHGの排出量と除去量が等しく、大気中のGHGを増加させない状態のことを「カーボンニュートラリティ」と定義しています。

国内企業に義務付けられている法律

現在の国内企業には、カーボンニュートラルへの対応として義務付けられている法律があります。

・地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)

・エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(省エネ法)

温対法は、温暖化の防止・温室効果ガスの排出抑制を推進するための法律で、企業に温室効果ガス排出量の報告や削減目標の設定を義務付けています。一方で省エネ法は、エネルギー使用の効率化・電気需要平準化を促進し、非化石エネルギーへの転換を促すことで、エネルギー消費の合理化を目指しています。

カーボンニュートラル実現へのプロセス

企業がカーボンニュートラルに取り組む方法はさまざまです。以下のようにまとめることができます。

  1. 自社のCO2排出量の可視化

最初に行うべき取り組みに、自社のCO2排出量を正確に把握することがあります。現在の排出状況を理解し、削減目標の設定や具体的な改善策を計画するための基礎となるプロセスです。排出係数を用い、直接排出(自社活動によるもの)と間接排出(供給チェーンや製品の使用によるもの)を含めて算出します。

  1. エネルギー効率の向上

効率的にエネルギーを使用することで、CO2排出量を減らし、企業の運営コストを削減することができます。ビルや工場での省エネルギー機器の導入や、運用プロセスの見直しにより、エネルギー効率を向上させます。

  1. 再生可能エネルギーへの転換

太陽光や風力などの再生可能エネルギー源の活用、グリーン電力の購入は、化石燃料に依存しないため、CO2排出量を削減することができます。

  1. サプライチェーンの最適化

原材料調達から製品の配送に至るまで、サプライチェーン全体を通じて環境負荷を低減する取り組みを行います。環境に配慮したサプライヤー選定や、物流の効率化は、CO2排出量削減に繋がります。

  1. 製品設計の改善

ライフサイクルアセスメント(LCA)に基づき、製品の設計段階から環境負荷を考慮し、エネルギー消費量の少ない製品や、長寿命でリサイクル可能な製品の開発に取り組むこともできます。

  1. 廃棄物削減とリサイクル

製造過程や事業活動で生じる廃棄物の量を減らし、可能な限りリサイクルを促進します。これは資源の有効活用だけでなく、廃棄物処理に伴う炭素排出の削減にも繋がります。

  1. 従業員の意識向上と教育

従業員の意識改革も、企業での重要な取り組みの一つです。気候変動に関する教育プログラムを実施し、従業員が自らの行動を見直す機会を提供することができます。

  1. 炭素オフセットプロジェクトへの投資

自社の事業活動で削減できないCO2排出量については、森林再生プロジェクトや再生可能エネルギープロジェクトへの投資によりオフセットします。

  1. 新技術の研究と開発

現在の技術だけでは不十分な場合、新技術の開発も求められます。これにはCO2回収貯蔵技術、代替材料の研究開発などがあります。

  1. 政策による規制への対応

炭素税や排出権取引などの政府による新たな環境規制に対応するため、これに合わせてビジネスモデルや事業戦略を柔軟に調整していきます。

  1. ステークホルダーとの協働

企業単独ではなく、消費者、取引先、NGOなどのステークホルダー全体との協力が不可欠です。共同のプロジェクトやイニシアチブを通して、より大きな排出削減を目指すことができます。

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カーボンニュートラル実現に向けた企業の取り組み事例

続いて、それぞれの項目ごとに実際の企業事例を紹介していきます。

エネルギー効率の向上に取り組む企業

ANAホールディングス

ANAは、エネルギー効率の良い飛行方法を採用することで、燃料消費量の削減やCO2削減を実現しています。他にも気象条件に合わせて、高度や速度、経路の選定を行い、飛行計画を最適化しています。

出典)ANA「航空機の運航における取り組み」

再生可能エネルギーへの転換に取り組む企業

NTTデータ

NTTは、自社サービスのデータセンター使用電力の100%再生可能エネルギーへ切り替えを進めています。2030年度までに温室効果ガス排出量の80%削減、2040年度までにカーボンニュートラルを実現する方針です。

出典)NTTデータグループ「気候変動対応新ビジョンで2050年までに温室効果ガス排出量を「ネットゼロ」へ」

サプライチェーンの最適化に取り組む企業

ライオン

ライオンは、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を算出しています。

2013年からGHGプロトコル・スコープ3基準に基づいて算出しており、商品の「使用段階」における排出削減に貢献する商品も開発する方針です。

またこの取り組みが評価され、CDP「サプライヤー・エンゲージメント評価」で最高評価のサプライヤー・エンゲージメント・リーダーを4年連続で獲得しています。

サントリーホールディングス

サントリーでは、物流における輸配送において環境負荷の低減を行っています。輸配送業務においては、地産地消により工場からの走行距離を短くする取り組みや、大型車両の活用、次世代燃料への転換を進めています。またトラックに比べてGHG排出量が少ない鉄道や海上船舶輸送に転換するモーダルシフトを推進しています。

さらに、環境負荷の少ない輸送手段として、共同配送やコンテナの共同利用など、他社と協力した物流を行っています。

出典)サントリーホールディングス「気候変動 取り組み」

製品設計の改善に取り組む企業

トヨタ自動車

トヨタ自動車は、従来の石油由来プラスチックに代わるバイオプラスチックの採用を積極的に進めています。これにより、自動車製造過程や使用中のCO2排出量の削減に貢献しています。トヨタはこの技術を用いた新しい自動車開発により、環境負荷の低減を目指しています。

グンゼ

グンゼは、リサイクルポリエステルなど再生原材料の使用、オーガニックコットンやパッケージのバイオマス化など、持続可能な原材料の使用率向上と、環境配慮型商品の拡充を行っています。

出典)グンゼ「石油化学原料の削減に貢献する収縮フィルム「ファンシーラップ® GB50」を販売開始」

廃棄物削減とリサイクルに取り組む企業

マルイ

マルイは、食品廃棄物や産業廃棄物等の処理体制を整備し、汚染防止なども含めた廃棄物の適正処理を行っています。事業所内では廃棄物の分別によりリサイクル率の向上を図っています。また自社から排出される廃棄物削減だけでなく、材料調達、商品販売、廃棄までのバリューチェーン全体において3Rを推進し、サプライヤーに対しても過剰生産、使い捨ての削減を働きかけています。

従業員の意識向上と教育に取り組む企業

日立製作所

日立製作所は、環境に対する評価指標を役員報酬にリンクさせる新制度を導入し、役員報酬と環境評価を連携させることで、社内でのCO2削減へのコミットメントを強化しています。

炭素オフセットプログラムへの投資に取り組む企業

キユーピー

キユーピーはJクレジットを活用しCO2排出を減らしており、これによりネットゼロ工場を実現しました。こうした取り組みにより、年間で約3,680トンのCO2排出量削減を目指しています。

新技術の研究と開発に取り組む企業

川崎重工業

川崎重工業は、ごみ焼却施設から排出される燃焼排ガス中のCO2を分離・回収する技術の実証試験を進めています。

固体吸収材を利用した省エネルギー型CO2分離・回収システムをごみ焼却施設に設置し、運用性評価や経済性評価を実施していく計画です。ごみ焼却施設から排出される燃焼排ガス中のCO2分離・回収に、固体吸収法を利用する試みは国内初となっています。

出典)川崎重工業「CO2排出量ゼロに向けた取り組み カーボンニュートラル目標(中・長期目標)」

政府による規制への対応に取り組む企業

ENEOS

ENEOSは、森林資源の管理によるカーボンクレジットの創出を行っています。クレジット創出時の課題であるモニタリングや手続きをサポートすることで、 地域とともに森林吸収の増加を目指しています。

「久万高原町未来の森づくりプロジェクト」では、愛媛県久万高原町および久万広域森林組合と、森林を活用した脱炭素社会の実現に向けた連携協定を締結し、森林事業によるCO2吸収とカーボンクレジットの創出事業を進めています。

ステークホルダーとの協働に取り組む企業

ソニー

ソニーは、主要な原材料・部品サプライヤーおよび製造委託先での温室効果ガス排出量を把握し、温室効果ガス排出量の管理と削減を促進しています。

出典)TECHBLITZ「スタートアップと目指すカーボンニュートラル ソニー、オムロン CVCの挑戦」

まとめ

カーボンニュートラル実現目標とその取り組みは、気候変動対策に不可欠なプロセスです。

カーボンニュートラルを目指す企業は、再生可能エネルギーの利用拡大、省エネルギー技術の導入、カーボンオフセットの活用など、多岐にわたるさまざまな取り組みを進めています。これによりネットゼロ工場を達成した企業や、年間のCO2排出量削減を実現する企業も増えています。

#カーボンニュートラル

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参考文献

[1] 経済産業省「令和3年度エネルギーに関する年次報告」
[2] 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
[3] 環境省「国内外の最近の動向について(報告)」
[4] 東京海上グループ「東京海上グループにおける2022年度「カーボン・ニュートラル」の達成」

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Author

  • 2022年10月入社。総合政策学部にて気候変動対策や社会企業論を学ぶ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリによる国際的な組織での活動経験を持つ。北欧へ留学しサステナビリティと社会政策を学ぶ。

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