Last Updated on 2024年2月26日 by Yuma Yasui

このコラムでは、カーボンニュートラルやネットゼロの具体的な意味と、企業自身がこれらに取り組む意義を解説していきます。コラム内では、説明の便箋上、カーボンニュートラルを軸にした説明を行います。

スコープ3の算定の精緻化について理解する、「スコープ3削減セミナー」に申し込む

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルの定義

カーボンニュートラルは、「温室効果ガス(GHG)の排出を社会全体でゼロにすること」を意味します。意味として重要な点は、温室効果ガス排出をゼロにすること、排出した温室効果ガスを吸収することの二点にあります。

①温室効果ガス排出をゼロにすること

温室効果ガスは、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などの温室効果を持つ気体を指します。そして、温室効果ガスは私たちが行うあらゆる行為によって排出されていますが、気候変動の被害を最小限に抑えるため、それらの温室効果ガス排出をゼロにすることが目指されているのです。

②排出した温室効果ガスを吸収すること

温室効果ガス排出ゼロを達成することは、分野によっては、人間活動を維持しつつ達成することが不可能な場合もあります。そのため、森林による吸収など、排出してしまった温室効果ガスを何かしらの方法で吸収することで、社会全体での温室効果ガス排出をゼロにすることが目指されています。よって、社会全体での温室効果ガス排出がゼロの状態とは、社会全体での温室効果ガスの排出分が吸収分よりも少ない状態を意味します。

カーボンニュートラルとネットゼロの使われ方の違い

結論から言えば、日本国としてはカーボンニュートラルとネットゼロという二つの言葉の意味に大きな違いはなく、同じ意味で使われることがほとんどです。

しかし、両方の言葉は、使われ方が異なるので、それぞれの言葉が使われている場面を示しつつ説明することで、その違いを確認していきます。

コロナによるパンデミックが始まった2020年の10月、菅首相は所信表明演説にて、「我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。」と述べました。[1]

この所信表明演説にて、2050年を期限としたカーボンニュートラルの日本国内での実現が宣言されたのです。この演説では、政府がカーボンニュートラルと脱炭素を同じ意味合いとして使いつつ、日本社会を脱炭素化に向けて移行させると述べています。そして、菅首相による2050年カーボンニュートラル宣言がメディアを通して日本全国に伝わることで、カーボンニュートラルという言葉が周知されるようになりました。このように、日本政府は基本的にカーボンニュートラルという表現を使います。

それに対し、ネットゼロは自然科学の用語として使われます。IPCCの第6次統合報告書では、「カーボンニュートラル(carbon neutral)」という表現は使われず、「ネットゼロ(net zero)」が多用されています。その使い方としては、以下のようなものがあります。[2]

“Limiting human-caused global warming requires net zero CO2 emissions.”

「人為的な地球温暖化を止めるためには、二酸化炭素排出のネットゼロが必要である。」

(著者訳)

なお、ここにおける「ネット」とは、「正味」や「実質」と言い換えられることもありますが、排出された温室効果ガスを吸収することで相殺していることを意味します。

関連記事:SBT ネットゼロとは?概要や取得事例をわかりやすく解説

ここまでは、カーボンニュートラルやネットゼロという言葉の意味について紹介しました。以下では、企業がカーボンニュートラルに対して取り組む意義について説明するため、カーボンニュートラルに向けた世界全体での動きについて見ていきます。

スコープ3の算定の精緻化について理解する、「スコープ3削減セミナー」に申し込む

社会全体での温室効果ガス削減に向けた取り組み

世界の温室効果ガスの排出状況

世界全体での温室効果ガス排出のうち、その約75%はエネルギー起源であることが分かります。その中でも、産業部門から24.2%、運輸部門から16.2%、建築物部門から17.5%が占めており、非エネルギー起源の温室効果ガス排出では、農業・林業・土地利用という部門が大部分を占めていることが分かります。[3]

なお、直接の排出は、ほとんどが企業による各部門での事業活動によるものです。

(出典:[3]より)

日本の二酸化炭素の排出状況

日本全体の二酸化炭素排出を見ると、部門ごとの割合は、世界全体での排出における割合と似ていることが分かります。エネルギー部門が日本全体での二酸化炭素排出の9割以上を占めており、その内訳としては、産業部門から35.1%、運輸部門から17.4%、建築物部門(家庭+業務その他)から32.6%です。[4]

日本全体の二酸化炭素排出の図に農業などが含まれていないのは、農業などから主に排出される温室効果ガスは、メタンや一酸化二窒素であるためです。

(弊社作成)

※世界全体の図とは異なり、二酸化炭素排出のみを対象とした図です。日本国内では、二酸化炭素が温室効果ガス排出の9割以上を占めているため、ここで説明している内容については、両者に大きな違いはありません。[4]

各部門での取り組み

経済先進国の多くは2050年カーボンニュートラルを表明し、それに向けた政策を推進しています。今後、国際社会はカーボンニュートラルに向けた動きを加速していくことになります。そして、カーボンニュートラルを実現するということは、社会構造の変革を推し進めることを意味します。企業にとっては、利益を維持するためには、市場の脱炭素化という変革に対応することが必要条件となるのです。

以上で見た各部門においては、これまでの部門ごとの経済構造の前提として存在したあらゆるものが、脱炭素化のために変化しています。

例えば、エネルギー転換部門(電力部門)から排出される温室効果ガスのほとんどは、化石燃料から電気を作り出す際に生じる二酸化炭素です。そのため、電力部門では、脱炭素化のため、化石燃料への依存を脱却することが目指されています。

しかし、戦後の高度経済成長期に火力発電を急増させてから、日本は化石燃料に依存した電力生産を行っています。2020年には、日本の電力の76.4%が化石燃料を燃やすことで生産されました[5]。このような状況から、化石燃料とは全く違った特徴を持つ、太陽光・風力に代表される再生可能エネルギーを主力電源とする電源構成へ移行することは、電力供給の構造や市場設計を根本から変更することを意味するのです。

電力部門以外にも、以下のように、温室効果ガス排出の多い部門においては、構造のコアにあった手法や財・サービスが代替されることで、変革が始まっています。


(弊社作成)

このように、企業に対しては、温室効果ガスを大量に排出してきた部門の全てにおいて、これまで主流とされてきた手法や財・サービスを、2050年までに急速に改めることが求められているのです。

なお、こういった既存の手法や財・サービスを代替するような技術を気候テックと呼ぶことがあります。具体的には、気候テックは2050年のカーボンニュートラルを目標とした温室効果ガス削減に寄与することを目的に用いられる技術を指します。現在では、急速な温室効果ガス削減のための行動が企業に求められていますが、その行動のための技術が急速に確立されつつあることも重要な点です。

企業が取り組むメリット

企業の価値向上と優位性獲得

温室効果ガス排出を大量に行う事業活動が改められる中で、代替としての気候テックを用いた手法や財・サービス、ひいては市場が立ち上がっています。

企業としては、温室効果ガス排出の多い事業を続けるのではなく、気候テック等を取り込んだ事業を確立することが、安定した利益を実現するために必須の方向性となります。受動的に脱炭素化するのではなく、積極的な気候変動などの環境問題への取り組みを行うことが、企業価値の向上や新たな市場での優位性獲得といった明確な利益につながる可能性もあるでしょう。また、多くの場合、温室効果ガス排出の少ない事業活動のために、行政は目標を定めるだけでなく、補助金などの支援制度を設けており、そういった制度を活用することができます。

このような視座に立ち、気候変動への対応を重要課題に含めた企業戦略の中で事業を行うことが、これからの事業活動の前提となってくるでしょう。

ESG投資の呼び込み

企業が安定的な利益を実現できるかどうかは、投資家が注目する点でもあります。そのため、気候変動への対応という大きな流れの中で、自社が安定した利益を実現できることを投資家に対して示さなければなりません。そして、情報開示を行うための様々なフレームワークが、非営利組織や公的機関によって創設されています。

そういった情報公開フレームワークを用いた情報公開をすることで、既に確立され、信頼されているフォーマットに則ることができるだけでなく、投資家に対して一度に情報公開を行うことができます。また、情報公開のための議論を進めることが、自社の置かれた状況を整理し、企業戦略を策定することにもつながります。

投資家から評価される情報公開を行った企業は、投資家からの投資を受けやすくなるでしょう。このような、環境や社会に関するテーマに積極的に取り組む企業に対して投資することを「ESG投資」と呼び、その規模は増加傾向にあります。[6]

なお、これまでは情報公開フレームワークが多数存在したことで、公開作業が煩雑になっていた側面がありますが、今後はISSBというフレームワークに統一されることで、作業が簡素化されていきます。これは、投資家から企業に対する情報開示の要求がさらに強まっていくことにもつながるでしょう。[7]

まとめ

現在のカーボンニュートラルへ向けた動きは、2015年のパリ協定締結、2020年の菅首相によるカーボンニュートラル宣言以降、経済の各部門に大きな変革をもたらしています。そして、各企業は、カーボンニュートラルに取り組むメリットを正確に捉え、事業活動を適合させることが企業としての成功につながるでしょう。

参考文献

[1]首相官邸「第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説」(最終閲覧:2023年11月26日)
<https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1026shoshinhyomei.html>
[2]IPCC(2023) “AR6 Synthesis Report: Climate Change 2023 Summary for Policymakers”
<https://www.ipcc.ch/report/ar6/syr/downloads/report/IPCC_AR6_SYR_SPM.pdf>
[3]Our World in Data “Sector by sector: where do global greenhouse gas emissions come from?” 18/9/2020.(最終閲覧:2023年11月26日)
<https://ourworldindata.org/ghg-emissions-by-sector>
[4]温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2021年度)(確報)」
<https://www.nies.go.jp/gio/archive/ghgdata/index.html>
[5]資源エネルギー庁(2023)「日本のエネルギー エネルギーの今を知る10の質問」
<https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2022.pdf>
[6]Climate Bonds Initiative “Interactive Data Platform”(最終閲覧:2023年11月27日)
<https://www.climatebonds.net/market/data/>
[7]国際会計基準財団 “ISSB ramps up activities to support global implementation ahead of issuing inaugural standards end Q2 2023” 2023年2月17日。(最終閲覧:2023年11月26日)
<https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2023/02/issb-ramps-up-activities-to-support-global-implementation-ahead-of-issuing-inaugural-standards-end-q2-2023/>

Scope1,2,3算定の具体プロセスを解説

温室効果ガス排出量算定の「Scopeの概要・方法・プロセス・必要なデータ」について
解説するセミナーを開催しております。

メールマガジン登録

担当者様が押さえるべき最新動向が分かるニュース記事や、
深く理解しておきたいトピックを解説するコラム記事を定期的にお届けします。

セミナー参加登録・お役立ち資料ダウンロード

  • TCFD対応を始める前に、最終アウトプットを想定
  • 投資家目線でより効果的な開示方法を理解
  • 自社業界でどの企業を参考にするべきか知る

リクロマ株式会社

当社は「気候変動時代に求められる情報を提供することで社会に貢献する」を企業理念に掲げています。

カーボンニュートラルやネットゼロ、TCFDと言った気候変動に関わる課題を抱える法人に対し、「社内勉強会」「コンサルティング」「気候変動の実働面のオペレーション支援/代行」を提供しています。

Author

  • 冨永徹平

    大学生。気候変動について公平性の観点から問題意識を持ち、学生団体で活動。中央省庁へのアドボカシーなどを行う。民主的意思決定や気候変動政策の在り方へ関心を持つ。大学では公共政策学を専攻する。