Last Updated on 2024年11月20日 by HaidarAli
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気候変動対策が急務である航空業界において、持続可能な航空燃料(SAF)が注目されています。
SAFは、再生可能な資源から製造される燃料で、従来のジェット燃料に比べてCO2排出量を大幅に削減できるため、航空業界の脱炭素化に重要な役割を果たします。
本記事では、SAFの種類や国際政策、航空会社の活用事例などを詳しく解説します。
SAF(持続可能な航空燃料)とは
SAF(持続可能な航空燃料)の定義
SAF(持続可能な航空燃料)は、再生可能な資源から製造される航空燃料です。
原料には、植物油、獣脂、藻類、およびそれらの廃棄物などに加え、回収されたCO2と再生可能エネルギー電力による水電解で得られた水素を反応させて得られる合成燃料(e-fuel)などがあります。
石油ベースの従来のジェット燃料と比べて、ライフサイクル全体でのCO2排出量を大幅に削減できるため国際的に注目されています。
SAFの種類
航空機用の代替燃料は、化石燃料由来、動植物由来、などに大別されます。
動植物由来のバイオ燃料は化石燃料を使用しないため、カーボンニュートラルの考えに沿った代替燃料として期待が大きいとされています。
SAFが注目されている理由
航空業界は、世界のCO2排出量の約2%を占めるとされており、気候変動対策の一環としてCO2排出削減が求められています。
SAFは化石燃料に比べてCO2排出量を最大80%削減できる可能性があり、こうした航空燃料のシフトは、航空業界がカーボンニュートラルを達成するために欠かせない対策の1つです。また化石燃料の供給リスクを軽減できるため、エネルギー安全保障の観点からも注目されています。
SAFのグローバルトレンド・市場動向
航空業界における国際目標
航空業界では、従来より温室効果ガス低減に関する国際的な合意目標が存在します。
2021年10月にIATA、2022年10月にICAOにおいて、2050年カーボンニュートラル達成の目標が合意されました。
これらの目標を達成するためには、SAFの活用、新技術の導入、および運航方式の改善を組み合わせる必要があります。
SAF技術の国際規格
国際民間航空機関(ICAO)
国際民間航空機関(ICAO)は、SAFの普及を促進するための国際的な政策を策定しています。ICAOの「CORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)」プログラムは、国際航空輸送に伴うCO2排出量を2020年以降、実質ゼロにすることを目指しています。
国際規格「ASTM D7566」
SAFの製造には、国際規格「ASTM D7566」に準拠した7種類の技術が認められています。
これらの技術は、それぞれ異なる原料と製造プロセスを用いており、以下に代表的なものを紹介します。
・HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids): 植物油や動物脂肪を原料とする技術で、現在最も普及している
・FT(Fischer-Tropsch): バイオマスや廃棄物をガス化し、合成ガスを経て液体燃料を生成する技術
・Alcohol-to-Jet(ATJ): 発酵プロセスで得られたアルコールをジェット燃料に変換する技術
中でも最も普及しているHEFAは、持続可能な航空燃料の中で最も広く利用されている技術です。原料には、廃食用油、キャノーラ油、大豆油などが使われています。従来のジェット燃料と同等の性能を持ち、既存の航空機とインフラで使用可能です。さらに製造コストが比較的低く、商業的にも実現可能な技術として注目されています。
日本におけるSAF導入方針
2022年9月、国土交通省は航空分野の脱炭素化に関する基本方針案を発表しました。
これは、2050年までに航空分野でCO2の排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル達成を目指すものです。
この基本方針には、SAFの導入促進、飛行ルートの効率化、空港施設の省エネ化および再生可能エネルギーの導入などの対策が含まれており、関連事業者の意見も取り入れた上で、2022年12月に正式に決定されました。
またこの基本方針では、2030年までに達成すべき目標として、国際航空においてCO2総排出量の増加を抑制し、国内航空では輸送単位あたりのCO2排出量を2013年度比で16%削減すると定めています。さらに各空港でも温室効果ガス排出量を2013年度比で46%以上削減することを目指しています。
SAFに関しては、2025年までに国内での生産を開始し、2030年までに国内航空会社の燃料使用量の10%を置き換える目標が設定されました。国土交通省や経済産業省などが協力し、国際競争力のある国産SAFの安定供給に向けた作業部会を設置し、SAFの国際認証取得など関連企業の支援に取り組んでいます。
国内におけるSAF活用事例
ユーグレナ
ユーグレナでは、微細藻類ミドリムシを原料としたバイオ燃料の製造が進んでおり、2020年1月には「ASTM D7566 Annex7」で認証された技術を採用しています。
2018年に横浜に製造プラントを建設し、2019年夏からバイオジェット燃料(SAF)とバイオディーゼル燃料の供給を開始しました。
2021年3月には、米国の技術を使い「ASTM D7566 Annex6」規格に適合したバイオ燃料を完成させました。現在、バイオ燃料は従来燃料に10%混合されていますが、最大50%までの混合が可能です。
2021年6月、ユーグレナ製バイオ燃料「サステオ(SUSTEO)」が登録されました。サステオは微細藻類ユーグレナ由来の油脂と使用済み食用油を原料としています。
ユーグレナは2025年に商業プラントを建設し、2026年には本格稼働して年間25万kLの生産を計画しています。現在のサステオの価格は約1万円/Lで、海外メーカーの200~1600円/Lに向けて低コスト化を進めています。
三井物産
三井物産は、出資先である米LanzaJet社と協働し、SAFの大規模生産に取り組んでいます。
SAFの製造には、エタノールを用いたAlcohol to Jet製法を用い、LanzaJet社が開発した技術により高効率なSAFの製造を可能としています。
米国政府は、2030年までに年間約1,100万klのSAF生産・供給を目指しており、米LanzaJet社はこれに対し、年間約385万klのSAF製造にコミットし、現在は年間3.8万klのデモプラントを建設中です。
また三井物産、コスモ石油と共同で、年間22万klのSAF国内生産を計画しています。
出典)三井物産「次世代航空燃料SAFの製造 /米LanzaJet社」
JAL
JALは「JAL Corporate SAF Program」を発表し、自社で消費したSAFにより創出されるCO₂排出量削減の環境価値を証書化して参画企業に提供するプログラムを行っています。
主な特徴は以下の通りです。
・航空利用によるCO₂排出量が削減可能
・利用実績に基づきCO₂排出量を可視化可能
・SAFによるCO₂の削減率などが記載されたSAF証書より、CO₂削減量を算出しデータ管理してその環境価値を必要とする法人のお客さまにCO₂削減証書を発行し販売
その他のSAF活用事例の一覧は以下の通りです。
まとめ
SAF(持続可能な航空燃料)は、再生可能資源から製造される航空燃料で、石油ベースの従来のジェット燃料と比べて、ライフサイクル全体でのCO2排出量を大幅に削減できるため国際的に注目されています。
現在各国政府や航空会社が積極的にSAFの導入を推進しており、日本政府もSAFの導入を義務付ける方針を打ち出しています。
参考文献
[1] 経済産業省「参考資料(持続可能な航空燃料(SAF))」
[2] SAF官民協議会「我が国におけるSAFの普及促進に向けた課題・解決策」
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