Last Updated on 2024年12月31日 by Moe Yamazaki
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近年、企業のサプライチェーン全体での気候変動対策が注目されています。
CDPサプライヤーエンゲージメント評価は、企業がサプライヤーと協力してどのように排出削減を進めているかを評価する制度です。
当記事では、この評価の背景や重要性、具体的な評価基準について詳しく解説します。
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サプライヤーエンゲージメント評価とは
サプライヤーエンゲージメント評価は、企業が気候変動対策においてサプライヤーとどのように協力し、サプライチェーン全体での排出削減に向けた取り組みを行っているかをCDPが評価する制度です。
サプライヤーエンゲージメント評価では、企業が提出するCDP気候変動質問書の回答を基に行われ、AからFのスコアが付与されます。
サプライヤーエンゲージメント評価の重要性
気候変動対策において、企業単体での努力だけでは限界があります。これを受け、企業が直接管理できる範囲(スコープ1とスコープ2)以外にも、サプライチェーン全体(スコープ3)での排出削減が求められています。
サプライチェーン全体での排出量は、しばしば企業の総排出量の大部分を占めるため、サプライヤーとの協力は不可欠です。
サプライヤーエンゲージメント評価を通じて、企業は以下のような利点を得ることができます。
排出削減効果の拡大
サプライチェーン全体での排出削減努力により、企業全体の環境負荷を大幅に低減できます。
リスク管理の強化
サプライチェーンにおける気候変動リスクを評価し、適切な対策を講じることで、ビジネスの持続可能性を高めます。
ブランド価値の向上
持続可能なサプライチェーン管理を実践する企業は、ステークホルダーからの評価が高まり、ブランド価値の向上につながります。
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サプライヤーエンゲージメント評価の評価基準
ガバナンス
サプライヤーエンゲージメント評価の一つの重要な評価基準は、ガバナンスです。
これは、企業が気候変動対策においてどのような管理体制を整えているかを評価します。
具体的には、以下のような要素が評価対象となります。
気候変動に関する責任者の設置
企業内で気候変動対策を担当する明確な責任者がいるか。
取締役会の関与
取締役会が気候変動戦略を監督し、定期的に報告を受けているか。
気候変動リスクの管理
気候変動リスクを識別し、管理するためのプロセスが整備されているか。
ガバナンスがしっかりしている企業は、サプライチェーン全体での排出削減努力を効果的に推進できると評価されます。
目標
サプライヤーエンゲージメント評価では、企業が設定した排出削減目標も重要な評価基準となります。
ここでは、以下のようなポイントが考慮されます。
科学に基づく目標設定
企業が科学的根拠に基づいた排出削減目標を設定しているか。
中長期目標の設定
短期的な目標だけでなく、中長期的な排出削減目標が設定されているか。
進捗のモニタリング
設定した目標に対する進捗を定期的にモニタリングし、公表しているか。
具体的で達成可能な目標を持つ企業は、サプライチェーン全体での排出削減を効果的に進めることができると評価されます。
スコープ3管理
スコープ3排出量の管理は、サプライヤーエンゲージメント評価の中心的な要素です。
スコープ3排出量には、サプライチェーン全体の間接的な排出量が含まれます。
評価基準としては、以下のような点が挙げられます。
スコープ3排出量の測定
企業がスコープ3排出量を正確に測定し、報告しているか。
削減目標の設定
スコープ3排出量に対する具体的な削減目標を設定しているか。
サプライヤーとの協力
サプライヤーと協力して、スコープ3排出量の削減に向けた取り組みを行っているか。
スコープ3排出量を効果的に管理し、削減するための努力を行っている企業は、高い評価を受けられます。
サプライヤーエンゲージメント
サプライヤーエンゲージメント評価の最後の基準は、実際にサプライヤーとどのように協力しているかです。ここでは、以下の要素が評価されます。
サプライヤーの選定基準
サプライヤーを選定する際に、気候変動対策の実施状況を考慮しているか。
サプライヤーへの支援
サプライヤーが排出削減に取り組むための支援を行っているか(技術支援、資金提供、研修など)。
サプライヤーのパフォーマンス評価
サプライヤーの気候変動対策の進捗を評価し、フィードバックを行っているか。
サプライヤーと積極的に協力し、排出削減に向けた具体的な取り組みを行っている企業は、より高い評価を得られます。
全体的なパフォーマンス評価
さらに、サプライヤーエンゲージメント評価には、CDP気候変動質問書全体のスコアも考慮されます。
これにより、企業の気候変動に関する全体的なパフォーマンスが総合的に評価されます。
ただし、フォレスト質問書や水セキュリティ質問書、サプライチェーン追加質問への回答内容は評価の対象にはなりません。
このように、サプライヤーエンゲージメント評価は、企業がどれだけ効果的にサプライヤーと協力して気候変動対策を実施しているかを評価する重要な指標です。
企業はこの評価を通じて、自社の取り組みを見直し、改善点を把握できます。
ウェイト
前述したように、サプライヤーエンゲージメント評価は、CDP 気候変動質問書の 4 つの主要分野の質問(ガバナンス、目標、スコープ 3 管理、サプライヤーエンゲージメント)への回答に基づいて評価が行われます。
各質問セクションへのポイントは、サプライヤーエンゲージメント評価の最終的な評価に以下のように反映されます。
閾値
最終的なスコアの評価は、以下の閾値に従い、最終的なサプライチェーンエンゲージメント評価に換算されます。
評価の結果公表
サプライヤーエンゲージメント評価で最高の評価を得るためには、顧客企業や投資家からの情報提供要求に対して、回答を一般公開することが必要です。
CDPは最高評価を獲得した全企業について、CDPの回答や一般公開されている情報に基づき、サプライヤーエンゲージメント評価のリーダーボードに掲載する企業としての適性を確認する権利を持っています。
CDPのプログラムに関連する社会的、環境的テーマのデータは、データプロバイダーであるRepRiskから提供され、レビューされます。
主要なセクションのスコアリング基準は、関連する質問内容と根拠、採点基準の概要と共にCDPウェブサイトのガイダンスページから確認が可能です。
ガイダンスページには、CDP2023サプライヤーエンゲージメント評価手法の文書があり、採点基準の詳細や各質問の配点が掲載されています。
2023年には、サプライヤーエンゲージメント評価手法が更新され、目標、スコープ3排出量、サプライヤーエンゲージメント(気候関連要件)の追加質問が採点基準に含まれるようになりました。
また、移行計画の採点基準も更新されています。
参考文献
CDP「CDP2023 サプライヤーエンゲージメント評価 イントロダクション」
CDP「Guidance for companies」
2023年サプライヤーエンゲージメント評価で最高評価の国内企業
2023年サプライヤーエンゲージメント評価で最高評価の国内企業を紹介します。
日立製作所
日立製作所は、2023年のCDPサプライヤーエンゲージメント評価において最高評価を獲得しました。
同社は、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みが高く評価されました。
具体的には、サプライヤーとの協働による環境負荷低減活動や、グリーン調達の推進などが挙げられます。
また、サプライヤーに対する環境マネジメントシステムの構築支援や、環境データの収集・分析体制の強化も評価のポイントとなりました。
日立製作所は、2050年までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現する目標を掲げており、サプライヤーとの連携を通じて、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを加速させています。
参考文献
株式会社 日立製作所「地球環境のために」
三菱電機
三菱電機は、2023年のCDPサプライヤーエンゲージメント評価で最高評価を獲得し、サプライチェーン全体での環境負荷低減に向けた取り組みが高く評価されました。
同社は、「環境ビジョン2050」を掲げ、製品のライフサイクル全体での温室効果ガス排出量削減に取り組んでいます。
サプライヤーとの協働では、グリーン調達ガイドラインの策定や、サプライヤーへの環境マネジメント支援、環境データの収集・分析体制の強化などを実施しています。
また、サプライヤーとの対話を通じて、環境課題の共有や解決策の検討を行うなど、サプライチェーン全体での環境パフォーマンス向上に努めている企業です。
参考文献
三菱電機「企業情報」
三井不動産グループ
三井不動産グループは、2023年のCDPサプライヤーエンゲージメント評価で最高評価を獲得しました。
同グループは、不動産開発や街づくりにおいて、サプライチェーン全体での環境負荷低減に積極的に取り組んでいます。
具体的には、グリーンビルディング認証の取得推進や、再生可能エネルギーの導入、省エネ技術の活用などが挙げられます。
また、テナントや入居者との協働による環境配慮型の取り組みや、サプライヤーとの連携による環境性能の高い建材・設備の採用なども評価のポイントとなりました。
三井不動産グループは、「ESG経営」を推進し、持続可能な社会の実現に向けて、不動産業界全体の環境パフォーマンス向上にも貢献しています。
参考文献
三井不動産「三井不動産のサステナビリティ/ESGの取り組み」
大和証券グループ
大和証券グループは、2023年のCDPサプライヤーエンゲージメント評価で最高評価を獲得し、金融機関としてのサプライチェーン全体での環境負荷低減への取り組みが高く評価されました。
同グループは、「サステナビリティ宣言」を掲げ、金融サービスを通じた持続可能な社会の実現に向けて積極的に取り組んでいます。
具体的には、環境・社会課題の解決に資する金融商品の開発や提供、ESG投資の推進、グリーンボンドの発行支援などです。
また、取引先や投資先企業との対話を通じて、環境課題の共有や解決策の検討を行うなど、金融セクター全体での環境パフォーマンス向上にも貢献しています。
参考文献
大和証券グループ「サステナビリティ」
ソニーグループ株式会社
ソニーは、自社のサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量削減に積極的に取り組んでいます。
特に、サプライヤーとの協働に力を入れており、サプライヤーに対して環境負荷低減の目標設定や実績報告を求めています。
さらに、サプライヤー向けの環境セミナーを定期的に開催し、最新の環境技術や取り組み事例の共有を行っています。
これらの取り組みにより、ソニーはサプライチェーン全体での環境負荷低減を実現しています。
参考文献
ソニーグループ株式会社「サステナビリティレポート」
リコー株式会社
リコーは、2050年までにバリューチェーン全体でのGHG排出量実質ゼロを目指す「リコーグループ環境目標」を掲げています。
この目標達成に向けて、サプライヤーとの協働を重視しており、サプライヤーに対して環境マネジメントシステムの構築支援や、省エネルギー診断の実施などを行っています。
また、サプライヤーとの定期的な対話の場を設け、環境課題に関する情報共有や解決策の検討を行っています。
参考文献
リコー株式会社「レポート/データブック」
まとめ
当記事では、CDPのサプライヤーエンゲージメント評価について詳しく解説しました。
また、評価の目的、重要性、評価基準、そしてウェイトや閾値などの具体的な評価方法を紹介しました。
企業の脱炭素経営を推進するサステナ担当者の方々にとって、この評価は自社のサプライチェーン全体での排出削減努力を客観的に評価する重要な指標となります。
ガバナンス、目標設定、スコープ3管理、サプライヤーとの協働など、多角的な視点から自社の取り組みを見直し、改善点を把握できます。
当記事の情報を活用し、より効果的なサプライヤーエンゲージメント戦略の構築に役立てていただければ幸いです。
CDP(気候変動質問書)とは?
【このホワイトペーパーに含まれる内容】
・CDPの概要やその取り組みについて説明
・気候変動質問書の基本情報や回答するメリット、デメリットを詳細に解説
・気候変動質問書のスコアリング基準と回答スケジュールについてわかりやすく解説
参考文献
[1]CDP「CDP2023 サプライヤーエンゲージメント評価 イントロダクション」
[2]CDP「Guidance for companies」
[3]株式会社 日立製作所「地球環境のために」
[4]三菱電機「企業情報」
[5]三井不動産「三井不動産のサステナビリティ/ESGの取り組み」
[6]大和証券グループ「サステナビリティ」
[7]ソニーグループ株式会社「サステナビリティレポート」
[8]リコー株式会社「レポート/データブック」
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