Last Updated on 2024年5月3日 by Yuma Yasui

2023年11月末から、COP28が開催されます。COPでは、世界全体での気候変動対策が議論されますが、そもそもCOPとはどのようなものでしょうか。今回は、歴史・法的枠組み・COP28の動向など、COPの全体像を紹介していきます。

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COPとは

COPの概要

COPとは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)を締約した198の国・機関が年に一度集まり、気候変動対策に関するあらゆる議論を行う会議です。COPは “Conference of the Parties” の略称であり、直訳すると「締約国会議」という意味にしかなりません。そのため、他の枠組条約に基づく締約国会議もCOPと呼ばれますが、UNFCCCに基づくCOPが最も有名なため、COPと言う場合には、ほとんどのケースではUNFCCCに基づくCOPを意味しています。[1]


COPは、毎年10月~12月ごろに1週間~2週間程度の期間で、毎年違う国で開催されます。期間中は、各国の閣僚、官僚、企業、NGOなどが集まり、公式の議論だけでなく、会場内で様々なイベントやデモンストレーションが行われます。

また、パリ協定が採択されたのは2015年のCOP21、2023年に開催されるのはCOP28など、COPの後に付いている数字は、開催回数を示しています。

COPの会場

COPは毎年違った国で開催されます。開催国は、経済先進国と経済途上国のバランスを考慮して決められているため、ヨーロッパや北米以外の様々な国でも開催されています。

なお、COPでは閣僚・官僚・企業・NGOなど、多様なステークホルダーが参加するため、会場は様々な活動に対応したものとなっています。研究者やメディアなどが様々な角度から関心を持ってCOPの会場を訪れることも、COPの特徴と言えます。

また、COP27ではCOPに参加した学生がドキュメンタリーを作成するなど、若い世代が多数参加することが、毎年のCOPの時期に話題になります。[2]

そして、多様な関心に応えるため、COPの会場には、会議以外の機能を持ったスペースが設けられています。例えば、公式の議論を行うための会議場である「プレナリーホール」、政府・企業などが自らの気候変動対策や関連する技術開発を紹介する「パビリオン」、NGO等がアクションを行う「サイドイベント」が主要なスペースとなっています。[3]

パビリオンが行われる場所は、各国政府ごとに管理します。そのため、企業がパビリオンに出展するためには、COPの半年ほど前から行われる環境省の選定プロセスを経る必要があります。[4]

COPの歴史

COPは、1992年採択、1994年発効の「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」に基づいて開催されています。[5]

第1回のCOPは1995年に開催され、2023年開催のCOPは第28回となります。2020年に開催される予定だったCOP26は、コロナウイルスのパンデミックによって2021年に延期されました。
COPでは、京都議定書やパリ協定、グラスゴー合意など、気候変動における最重要の条約が締結されてきました。これら以外にも、様々な合意が作られることで、世界全体での気候変動対策に向けた連帯関係が徐々に形成されてきました。

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COPで締結された重要な条約

パリ協定

パリ協定は、2015年のCOP21にて、それまで世界全体での気候変動対策の方針を定めていた京都議定書に代わる、2020年以降の枠組みとして締結されました。[5]

パリ協定の中で最も重要な合意として、「世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも2℃高い水準を十分に下回るものに抑えること並びに世界全体の平均気温の上昇を工業化よりも1.5℃高い水準までのものに制限するための努力を、この努力が気候変動のリスク及び影響を著しく減少させることとなるものであることを認識しつつ 、継続すること。」(著者により温度の表記方法を変更の上、マーカーを追加。)があります。[6]


ここで定められている2℃目標と1.5℃目標が、現在の気候変動対策における重要な指針となっていることは、多くの人が知るところとなっています。パリ協定は、目標を定めることで各国に対して、より強力な気候変動対策を求めただけでなく、一般社会に対して、気候変動対策を加速させる強いシグナルを発しました。その結果として、気候訴訟の急増や金融界からの企業に対する情報開示の要求など、社会のあらゆるセクターが一気に気候変動対策の色合いを強めることになりました。[7][8]

グラスゴー合意

2021年のCOP26にて、パリ協定の目標をさらに明確にする「グラスゴー合意」が締結されました。パリ協定では、1.5℃目標は努力目標として定められていましたが、気候変動による被害がそれまでの予測よりも甚大かつ確実であることが分かってきたこと、国際社会が1.5℃目標の実現に向けて動き出していたことなどを踏まえ、グラスゴー合意は、1.5℃目標を実質的な最終目標と確認する内容になりました。[9]

また、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにするだけでなく、2030年までに急速な温室効果ガスの排出削減が求められることから、2030年までの野心的な温室効果ガス削減目標を締約国に求める内容も含まれます。

(外務省資料、環境省資料より弊社作成)

COPでの議論

議論の形式と「国が決定する貢献」

COPで扱われるテーマは、世界全体での気候変動の緩和策・適応策を推進するために必要なあらゆる事柄が扱われますが、毎回のCOPにて、事前に議題が決められています。

UNFCCC事務局やCOP議長が作成した暫定アジェンダを、COP開会式にて採択するという形式になります。また、COPでの意思決定は、2/3以上の締約国の参加、参加国の全会一致という厳しいルールで行われます。[10]

そして、COPでの議論の主な目的は、様々な要素(経済成長、エネルギー安全保障など)との関係を考えながらも、各国の温室効果ガス削減目標を最大限引き上げることで、世界全体での気候変動を最小限に抑えることにあります。

パリ協定により、締約国は温室効果ガスの排出削減目標を5年ごとに提出することになっています。そして、この目標はNDC(Natinonally Determined Contribution:国が決定する貢献)と呼ばれます。今後は、日本政府を含めた各国政府が2025年、2030年、2035年とNDCを提出していくことになります[11]。COPを主要な議論の場としつつも、各国がNDCを提出する時期には、国家間の交渉が特に頻繁に行われます。

COP27での議論

前回のCOP27では、「損失と損害」が最大のテーマとなりました。ここで言う「損失と損害」とは、経済先進国が大量の温室効果ガスを排出する一方、気候変動の被害は主に経済途上国に集中するため、先進国はどのように被害への責任を取るべきか、つまり、先進国から途上国に対してどのような支援が必要か、という議論を指します。「損害と損失」はパリ協定8条に定められていますが、具体的な内容が定められていないため、支援の方法、規模、時期などが重要な争点となりました。[12]

最終的には、経済途上国の中でも特に脆弱な国々を対象とした資金提供メカニズムを、2023年のCOP28までに立ち上げることが合意されました。

COPへの批判

COPは、多様なステークホルダーが気候変動対策を議論する場であるため、グリーンな印象を持つ人が多いでしょう。それは、政府や企業の気候変動対策を批判的に捉え、改善を求めるNGOや市民セクターであっても同じです。

しかし、逆にCOPのあり方それ自体を「グリーンウォッシュ」として批判する声もあります。

例えば、世界全体での若者世代による気候正義運動である “Fridays For Future” が世界へ広まるきっかけとなったグレタ・トゥーンベリは、COPでは、聞き心地のよいことを話すだけで、十分な気候変動対策を行うための議論が行われていないとして「グリーンウォッシュ」と指摘しました。『人新世の資本論』で注目を集めた齋藤幸平も、COPによる十分な気候変動対策の実現は見込めないとして、COP参加のボイコットを呼びかけました。[13][14]

こういった主張は、世界全体での産業革命後の気温上昇を1.5℃以下に抑えるべきとする1.5℃目標に対し、実際に各国が掲げる目標では、約1.8℃の気温上昇が見込まれること、さらに、各国が現在実施している政策では、約2.7℃の気温上昇が見込まれることなど、言葉と行動が乖離している現在の世界全体での気候変動対策の状況に基づいています。[15]

さらに、各回のCOPでは、企業がスポンサーとなることで運営費の一部を賄っていますが、そのスポンサー企業が問題視されることもあります。温室効果ガス排出、プラスチック汚染などの問題の大きな原因であるもかかわらず、十分に対策をしてこなかったことを従前から批判されてきた企業がスポンサーとなることが、企業のイメージ向上という広報戦略になることから、「グリーンウォッシュ」と批判されてきました。[16]

COPに何かしらの形で関わる企業にとっては、その関わり方についても注意が必要でしょう。

COP28の注目ポイント

COP28は、2023年11月30日から12月12日まで、アラブ首長国連邦(UAE)で開催されます。[17]
そして、COP28で最大のテーマになるとされているのが、グローバル・ストックテイク(GST)です。GSTは、各国が提出したNDCや実際の政策実施を総合的に評価するプロセスを指します。

各国がNDCを提出したのち、それに基づく政策実施についての報告を行います。これを、強化された透明性枠組み(ETF)と呼びます。その後、それらを各国がともに評価するGSTにて、次のNDC提出に向けた議論が行われます。GSTはパリ協定14条に規定され、2023年を第一回として、5年ごとに行われることになっています。[18]

([18]などより、弊社作成)

(出典: Will Steffen et al. “Guiding human development on a changing planet”[8]))

第一回目のGSTが行われるCOP28では、1.5℃目標に対して十分なNDCと政策実施が実現されていない中で、どのような成果文章が作成されるか、が決定的に重要です。第一回のGSTでは、直接的には2025年のNDC提出が焦点となるものの、気候変動対策では、各セクターの急速な構造的変化が求められる以上、現在の議論が2030年、2050年に向けた対策を間接的に形作ることになるのです。

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参考文献

[1]United Nation “Conference of the Parties(COP).” (最終閲覧:2023年11月4日)
<https://unfccc.int/process/bodies/supreme-bodies/conference-of-the-parties-cop>
[2]record1.5 ホームページ(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://record1-5.com/>
[3]国立環境研究所「COP22会場ってどんなところ?」(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://www.nies.go.jp/event/cop/cop22/20161110.html>
[4]環境省「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議 (COP28) ジャパン・パビリオンの実地展示採択結果とバーチャル展示募集」(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://www.env.go.jp/press/press_02106.html>
[5]資源エネルギー庁「あらためて振り返る、「COP26」(前編)~「COP」ってそもそもどんな会議?」(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cop26_01.html>
[6]外務省(2016)「パリ協定 和文」
<https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page24_000810.html>
[7]Joana Setzer and Catherine Higham, “Global trends in climate change litigation: 2021 snapshot”, 2021.
<https://www.lse.ac.uk/granthaminstitute/wp-content/uploads/2021/07/Global-trends-in-climate-change-litigation_2021-snapshot.pdf>
[8]TCFDコンソーシアム ホームページ(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://tcfd-consortium.jp/>
[9]WWFジャパン「COP26閉幕!「グラスゴー気候合意」採択とパリ協定のルールブックが完成」(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4747.html>
[10]地球環境戦略研究機関「研究員が解説―COP26 基礎知識」(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://www.iges.or.jp/jp/projects/cop26-basic-knowledge>
[11]外務省「日本の排出削減目標」(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000121.html>
[12]United Nations “COP27”(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://unfccc.int/cop27>
[13]「COP27はグリーンウォッシングに利用、グレタさんが批判」『ロイター』2022年10月31日。(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://jp.reuters.com/article/climate-un-greta-idJPKBN2RQ09E>
[14]「気候変動対策の国際交渉「COP」はもはや無意味だ」『東洋経済』2022年12月28日。(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://toyokeizai.net/articles/-/642437>
[15]Climate Action Tracker “Massive gas expansion risks overtaking positive climate policies”(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://climateactiontracker.org/publications/massive-gas-expansion-risks-overtaking-positive-climate-policies/>
[16]“Coke Is a Sponsor of the Climate Summit in Egypt. Some Activists Aren’t Happy.” The New York Times, 7/11/2022.(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://www.nytimes.com/2022/11/07/climate/coca-cola-sponsor-cop27-climate-egypt.html>
[17]COP28 UAE Website(最終閲覧:2023年11月4日)
<https://www.cop28.com/>
[18]津久井あきび(2022)「グローバル・ストックテイク(GST) COP27の結果と2023年の展望」<https://www.iges.or.jp/jp/pub/1125-gst-cop27/ja>

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カーボンニュートラルやネットゼロ、TCFDと言った気候変動に関わる課題を抱える法人に対し、「社内勉強会」「コンサルティング」「気候変動の実働面のオペレーション支援/代行」を提供しています。

Author

  • 冨永徹平

    大学生。気候変動について公平性の観点から問題意識を持ち、学生団体で活動。中央省庁へのアドボカシーなどを行う。民主的意思決定や気候変動政策の在り方へ関心を持つ。大学では公共政策学を専攻する。