Last Updated on 2024年3月14日 by Yuma Yasui

政府は、企業の排出量削減を促すため、2028年度から化石燃料を輸入する企業に対し、炭素賦課金の支払いを義務付ける方針を決定しました。電力・ガス会社、商社などを対象とし、徐々に金額を引き上げる計画です。

今回の記事では、炭素賦課金について押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。

将来的に幅広い業界に関係するトピックでもあり、本格的な導入に備えるためにも基本的な仕組みや導入状況について理解しておくことが重要です。

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炭素賦課金とは

炭素賦課金とは、二酸化炭素などの温室効果ガス排出に対して金銭的なコストを課す制度です。この制度は、排出量に応じて企業が支払うべき金額を定めることにより、温室効果ガスの排出削減を促す目的があります。

これに関連するものに炭素税、排出権取引があります。

炭素税(カーボンタックス)

排出されるCO2の量に応じて直接税金を課す方法です。この税金は、化石燃料の使用量に基づいて計算され、排出量を減らすことで税負担を軽減できます。

排出権取引(エミッション・トレーディング・システム、ETS)

総排出量の上限を設定し、その枠内で企業間で排出権を売買する市場ベースのアプローチです。排出権の価格は市場で決定され、排出量を削減した企業は余った排出権を売ることができます。

どちらの方法も温室効果ガスの排出削減を促進するために設計されていますが、実施の仕組みが異なります。それぞれの基本的なメカニズムを解説していきます。

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炭素税の仕組みと種類

炭素税の主な構成要素は「課税段階(誰に税を課すか)」「課税水準(CO2排出1単位あたりの税率)」「税収使途(集めた税金の使い道)」の3つです。これらは、課税対象や税の強度、税収の活用方法を定める上での指針となります。

①「課税段階(誰に税を課すか)」

石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料の燃焼によって排出される二酸化炭素を主な課税対象としています。この税制は発電、製造業、運輸業など幅広い分野に適用される可能性があります。

②「課税水準(CO2排出1単位あたりの税率)」

税率は、排出されるCO2の量に応じて設定され、1トンのCO2排出ごとに一定額が課税されます。この税率は政策目標や経済状況に応じて変動します。

③「税収使途(集めた税金の使い道)」

徴収された税収は、再生可能エネルギーの開発支援、エネルギー効率向上など、さまざまな目的に使用されます。税収の具体的な使途は、政策の目的や社会的な合意に基づいて決定されるため、炭素税が環境保護と社会福祉の向上に貢献することが予想されます。

出典)資源エネルギー庁「令和4年度エネルギーに関する年次報告」

炭素税のメリット・デメリット

炭素税のアプローチには、以下のようなメリットとデメリットがあります。

メリット

・排出削減の促進が可能
・高い経済的効率性
・政府収入を創出

炭素税は、排出にコストがかかるため、企業がCO2排出量を減らすインセンティブとなることができます。これにより脱炭素の促進が期待できます。

また市場メカニズムを利用することで、最もコスト効率の良い排出削減策が選択されます。企業は自らの状況に応じて最適な削減方法を選べるため、全体としてのコストを最小限に抑えることができます。さらに徴収された資金は政府収入となり、これを再生可能エネルギーの開発支援、エネルギー効率向上のための補助金など、気候変動対策や社会福祉の向上に再投資することができます。

デメリット

・経済的負担の発生
・国際競争力への影響
・政策目的の不確実性

一方で炭素税によるコスト増加は、製品やサービスの価格上昇につながる可能性があります。特にエネルギー集約型の産業にとっては、経済的負担が大きくなる可能性が高いと言えます。

また日本のように既にエネルギーコストが高い国では、炭素税による新たな負担が産業の国際競争力を低下させる可能性があります。CO2排出の規制がゆるやかな国へ生産拠点や投資先が移転したりするといった恐れも想定されます。

こうしたデメリットがある一方で、長期的な利点と気候変動への対応という緊急性から、炭素税は多くの国々で導入が進められています。産業競争力への影響などの問題に対処するための補償措置や調整メカニズムの導入も同時に検討されています。

排出権取引の仕組みと種類

排出権取引の主な構成要素は「排出上限の設定」「排出権の配分またはオークション」「排出権の売買と使用」の3つです。

①「排出上限の設定」

排出権取引では、政府や規制当局が特定期間内で許可される総排出量の上限を設定します。このアプローチにより、発電、製造業、運輸業など多岐にわたる分野が排出量管理の対象となります。

②「排出権の配分またはオークション」

設定された総排出量に基づき、排出権(排出量許可証)が企業に配分されたり、オークションを通じて販売されます。1つの排出権は、一定量のCO2(例えば1トン)を排出する権利として機能します。

③「排出権の売買と使用」

企業間においてこれらの排出権の売買が行われます。排出量を大幅に削減して余剰の排出権を持つ企業は、それを必要とする他の企業に売ることができます。この市場メカニズムを通じて、最もコスト効率の良い方法で全体の排出量削減を促進することができます。

またオークションから得られる収入や罰金は、炭素税と同様、エネルギー効率向上や社会的補助などに充てられます。これらの資金使途は、システムの設計や政策の目的に応じて異なります。

出典)資源エネルギー庁「令和4年度エネルギーに関する年次報告」

こうした炭素税や排出権取引は、カーボンプライシングの一部でもあります。カーボンプライシングとは温室効果ガス排出量に対するコストを経済活動に組み込む政策手法全般のことを指します。以下にその立ち位置を整理します。

出典)資源エネルギー庁「脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?」

炭素賦課金と「地球温暖化対策のための税」の違い

日本にある既存の炭素税に「地球温暖化対策のための税」と呼ばれるものがあります。

「地球温暖化対策のための税」は、化石燃料の使用量に応じて課税される税です。

二酸化炭素排出量の削減を目指す目的で2012年に導入され、その後2014年と2016年に段階的に増税、2024年現在では二酸化炭素1トン当たり289円の税率が設定されています。この税率は、石油1キロリットルあたり760円、石油ガスや天然ガス1キロリットルあたり780円、石炭1トンあたり670円と設定され、二酸化炭素の排出量1トン当たり289円に合わせられています。この税金は化石燃料の種類に応じて異なる税率を設け、既存の石油や石炭税に加えて課される形で徴収されます。しかし、国際的な基準に比べて税率が低いという指摘があります。

一方で、炭素賦課金は温室効果ガスの排出量自体にコストを課すシステムで、企業や組織が排出する温室効果ガスの量に直接関連して課税されます。このシステムは、排出削減をより直接的に促すことを目的とし、国際的な取り組みや市場での競争力維持に対応するため、日本政府はこの導入を検討しています。炭素賦課金は、温室効果ガス排出量に基づくより厳格なコスト負担を企業に課すことで、より効果的な排出削減を促すことが期待されています。

つまり「地球温暖化対策のための税」は化石燃料の使用量に基づく課税であり、比較的低い税率で徴収されているのに対し、炭素賦課金は、温室効果ガスの排出量に直接コストを課す新たなシステムで、国際基準に対応し、より強力な排出削減効果が期待されています。

こうした新たなシステムである炭素賦課金は、温室効果ガスの排出量にコストを課すもので、今後グローバルな市場での競争力を維持するための重要な手段となることから、日本政府は今後積極的な導入を進める方針です。

炭素賦課金と炭素税の違い

炭素賦課金と炭素税は基本的に、両者とも温室効果ガス排出に対する財政的なインセンティブを設けるという同じ形態をとっていますが、運用方法と調整の柔軟性において少し違いがあります。

炭素税は、一般に租税の一種として扱われ、温室効果ガスの排出に対する直接的な税金を意味します。この税率は、法律によって定められ、変更するには議会の承認が必要です。そのため、炭素税の調整は比較的時間がかかり、政策の柔軟性に欠ける可能性があります。

炭素賦課金については、租税ではなく、政府や関連機関が特定の目的のために特定の活動に対して課す金銭的負担です。このシステムでは、賦課金の水準を政省令で調整することができるため、市場の変動や政策目標に応じて迅速に対応することが可能です。

この違いを理解することは、各国が気候変動対策のためにどのような政策ツールを選択し、適用するかを理解する手助けとなると言えます。

現在の導入状況と今後の動向

世界各国での炭素税・排出権取引の導入状況

炭素税の導入は、特に欧州で進展しています。EU内ではすでに国境炭素税が導入されており、今後EU外でも国境炭素税を導入する方針です。EUに輸出する企業は製品の二酸化炭素排出量の報告の義務が発生すると予想されています。またカナダでは州ごとに炭素税が設定されています。

出典)資源エネルギー庁「脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?」

排出量取引については、EU、中国、韓国を含む多くの国々が採用しています。EUでは2005年から導入され、域内CO2排出量の約40%をカバーしています。韓国では2015年から始まり、対象事業者による国内排出量の約70%が含まれています。中国も2021年から電力事業者を中心に開始し、現在は年間排出量の約40%をカバーし、2025年までにその範囲をさらに広げる予定です。

出典)資源エネルギー庁「脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?」
出典)日本経済新聞「火力発電排出枠に課金 カーボンプライシング 経産省案」

世界と日本の税率水準の比較

日本の炭素税は他国に比べて税率が低いという特徴があります。

フランスでは、2024年時点で二酸化炭素排出量1トンにつき7083円の炭素税が課せられています。こうした税率は他の多くの国にも当てはまり、日本の炭素税にあたる「地球温暖化対策のための税」が二酸化炭素排出量1トンにつき289円の負担であることを考えると、日本の税率が著しく低いことが明らかです。

出典)中小企業家同友会全国協議会「炭素の値段が企業の収益を制約」
出典)エコノミスト「カーボンプライシング 各国で進む炭素排出の見える化」

他国での炭素税の導入状況を見ると、日本でも税率引き上げ・強化が求められることが分かりますが、日本政府は、このプロセスで経済の成長が損なわれる事態は避ける必要があり経済活動を持続可能な形で維持することが不可欠だとしています。

日本での排出量取引の導入状況

政府は2023年度から東京証券取引所に新しい市場を開設し、企業間でCO2削減量の売買が行われる排出量取引市場を試験的にスタートさせています。2026年度からはこの取引が本格的に行われるようになり、企業の排出削減努力が政府の目標に沿っているかを第三者機関が確認するシステムが導入される予定です。

2033年度からは、電力会社を対象に段階的に有償オークションを実施します。これにより、CO2排出に対して直接費用を支払う仕組みが確立され、特に火力発電所を運営する電力会社に対し排出削減への取り組みが促されます。

そして政府は脱炭素社会の実現に向け、今後10年間で150兆円以上の投資が必要だと見積もっているため、20兆円規模の新しい国債「GX経済移行債」を発行し、資金を集めて企業の投資を支援する予定です。カーボンプライシングから得られる収入を返済資金として、2050年までに完済する計画です。

こうした税制度は、国内で初期段階として負担が少ない設計で段階的に導入が始められ、今後本格化する予定です。

日本での炭素賦課金の導入動向

2023年5月に国会で成立した「GX推進法」は日本の脱炭素化を加速するための重要な法律のひとつで、具体的な支援策として、今後10年間で合計20兆円のGX経済移行債の発行が可能とされました。これにより、企業は脱炭素に向けた投資資金をより容易に調達できるようになります。

GX経済移行債の償還財源として、政府は2028年度から化石燃料輸入事業者に対して炭素賦課金の支払いを義務付ける制度を導入する計画です。

化石燃料輸入事業者は、石炭、天然ガス、石油など輸入した化石燃料の炭素含有量に基づいて炭素賦課金を支払うことになります。これにより、政府は化石燃料の使用に伴う環境への影響を金銭的に反映させ、脱炭素化への取り組みを促進する狙いです。

出典)読売新聞「CO2排出の賦課金、経産省が28年度頃の開始検討 石油元売りや化石燃料輸入企業に」

炭素賦課金導入国におけるデカップリング

出典)経済産業省「炭素税・国境調整措置を巡る最近の動向」

「デカップリング(脱連動)」とは、経済成長が二酸化炭素排出量増加と必ずしも連動せず、これらの国々が環境保護を重視しながらも経済発展を継続できることを指します。持続可能な発展を達成するために重要であり、環境保護と経済活動のバランスを取る上で欠かせない概念です。

日本政府は炭素税の導入について、経済成長が損なわれる事態は避けるべきだとして慎重な姿勢を示していますが、このデータから分かるように、ヨーロッパをはじめとした導入済みの多くの国では、排出量削減が達成されているのと同時に、炭素税導入が経済成長に悪影響を与えていないことが明らかになっています。

経済成長を維持しつつ二酸化炭素排出量を削減することは可能であり、税の収入を再生可能エネルギーの開発や減税、社会保障の強化など、経済活動を刺激する方法に再投資することで、このバランスを実現することができています。

このように、炭素税は削減目標の達成に寄与するだけでなく、経済的な機会を生み出し、経済成長を支える政策ツールとして機能している例が多くあるというのが実態です。

まとめ

炭素賦課金は、温室効果ガス排出に対して金銭的なコストを課す制度です。

炭素賦課金に関連するものに炭素税と排出権取引があります。そして多くの国々での導入状況から明らかなように、これらのアプローチは、二酸化炭素排出量削減を実現し、同時に経済成長と環境保護の両立が可能となっています。

単なる環境政策ではなく経済政策としても価値を持つものであり、国際的な産業競争力を念頭に置いた産業政策のツールになりつつあります。国内でも段階的な導入が始まっており、2030年代に本格化すると予想されます。

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参考文献

[1] World Bank「State and trends of carbon pricing 2023」
[2] 経済産業省「炭素税・国境調整措置を巡る最近の動向」
[3] 環境省「第12回カーボンプライシングの活用に関する小委員会」
[4] 資源エネルギー庁「脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?」
[5] 資源エネルギー庁「令和4年度エネルギーに関する年次報告」
[6] 環境省「成長志向型カーボンプライシング構想について」

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Author

  • 山下莉奈

    2022年10月入社。総合政策学部にて気候変動対策や社会企業論を学ぶ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリによる国際的な組織での活動経験を持つ。北欧へ留学しサステナビリティと社会政策を学ぶ。