Last Updated on 2024年11月20日 by AmakoNatsuto
【気候変動関連用語がまるわかり!用語集はこちら】
排出量取引はカーボンニュートラルな社会を達成する仕組みとして、近年企業や国の気候変動対策として活発化しています。しかし、どのような取り組みが行われているのか、日本国内でどのような動きを企業がとることができるのか、不透明に感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。そこで、今回は国内全域の排出量取引制度として注目されているGX-ETSについて、概要と企業に求められる対応をわかりやすく解説します。
カーボンプライシングについての記事はこちら!
⇒カーボンプライシングとは?国内外の動向と企業への影響を解説
CDP(気候変動質問書)の基本情報や回答メリット、ポイントを知る「CDP(気候変動質問書)入門資料」
⇒資料をダウンロードする
GX-ETS(GXリーグにおける排出量取引制度)とは
GX-ETS(GXリーグにおける排出量取引制度)とは、温室効果ガスの排出削減を目的とした市場メカニズムの一つです。具体的には、企業や組織に対して排出量の上限(キャップ)を設定し、その上限を超えないようにするための取引制度です。
近年、GXリーグにおける活動の一環として、排出量取引の導入に向けた活動が活発化しています。
GXリーグは、「CN(カーボンニュートラル)への移行に向けた挑戦を行い、国際ビジネスで勝てる企業群がGXを牽引する枠組み」として、経済産業省が2023年4月から提供する場です。
GXリーグにおける活動は4項目に分類されています。
GXリーグの活動にも含まれている「排出量取引」とは、各企業ごとに設定された温室効果ガス排出量を基準に、排出量の差分を売買する制度です。排出量取引制度には京都議定書における国際取引や各都道府県で独自に行われている制度もありますが、本稿ではGXリーグで導入される、GX-ETS(GXにおける排出量取引制度)について詳しく解説します。
これまでの動向
GX-ETSについて、2022年9月から学識有識者による検討会が開催されました。
学識有識者による専門的見地からの意見を参考に、GXリーグ賛同企業の対話を基盤として、経済産業省による排出量取引ルール等の策定が行われてきました。
また、国内事業者間で多く取引されているJ-クレジットを対象にした実証試験や取引環境の整備に向けたシミュレーションも実施されています。
その後上記の活動を基に、2023年2月14日のGXリーグシンポジウム2023において概要の説明が行われ、2023年4月から本格的に開始される予定です。
CDP(気候変動質問書)の基本情報や回答メリット、ポイントを知る「CDP(気候変動質問書)入門資料」
⇒資料をダウンロードする
GX-ETS(GXリーグにおける排出量取引制度)の内容
フェーズ
GX-ETSは、大きく3フェーズに分けて展開されます。
第1フェーズ:今後に向けた排出量取引の試行(2023年度~2025年度)
第2フェーズ:排出量取引の本格化(2026年度~2032年度)
第3フェーズ:排出量取引の拡大・進展(2033年度~)
直近の第1フェーズでは、以下4項目から構成される自主的な排出量取引が行われます。
① プレッジ
② 実績報告
③ 取引実施
④ レビュー
それぞれの項目について、より詳細に解説していきます。
第1フェーズの内容
①プレッジ
プレッジとは、温室効果ガス排出量目標を決めるステップを指します。
排出量の目標は、国内における直接・間接排出それぞれについて、
[1] 2030年度における排出削減目標
[2] 2025年度における排出削減目標
[3] 第一フェーズ(2023年度~2025年度)における排出削減量総計目標
の3項目を設定することが要求されています。
具体的には、「排出量〇〇t-CO2」や、「排出量削減率 〇〇%」といったものになると考えられます。この設定はあくまで各社が自ら行うものになります。各社の排出削減目標を国が決定する強制的な制度ではなく、自主的な排出削減であることが反映されている形式です。第1フェーズで削減される排出量は限定的になりますが、フェーズが進行するにつれて強制力が増すと考えておいたほうがよいでしょう。
排出削減目標は原則2013年度における排出量を基準に設定し、2013年度以外を選択する場合は、基準年度を含む3ヶ年の平均値を使用することとされています。
ただし、鉄鋼・素材・エネルギー等の多排出事業者については、トランジション・ロードマップに沿った削減経路を認めており、業種間の格差に配慮しています。
設定した排出削減目標は、GXダッシュボードと呼ばれる情報開示プラットフォームに記載を行います。
②実績報告
国内における直接・間接排出の排出量実績の算定・報告を行います。年度ごとに、翌年度の10月末までに行うこととされています。具体的な算定方法については、温対法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)等を基に行うとされています。
算定・報告における第三者検証の必要有無が企業によって異なり、2021年度の直接排出量が10万t-CO2e以上の企業のみ、第三者検証が必要です。
③取引実施
排出量実績の算定・報告が完了した後、排出量に応じて取引を行います。
ここで重要になるのが、NDC水準(超過削減枠創出水準)と呼ばれるものです。NDC水準とは、「基準年度から2050年ネットゼロ達成まで、直線的な削減経路を辿ると仮定したときの削減率」を指します。
以下の図に示されている通り、2030年では46%削減ペース、2023〜2025年においては平均29.7%削減ペースとなります。このNDC水準を下回ったか否かで、削減量を売却できるかが変わります。自社設定の削減目標基準ではない点に注意が必要です。
[1] 排出実績がNDC水準をクリアした場合
NDC水準を下回った分について、超過削減枠として売却することができます。
[2] 自社設定の削減目標をクリアしたが、NDC水準を超過した場合
自社設定の削減目標はクリアしていても、超過削減枠を売却することはできません。
一方自社設定の削減目標をクリアしているため、釣果削減枠等を購入する必要もありません。
[3] 自社設定の削減目標に未達だった場合
自社設定の削減目標に未達だった場合、以下3通りの対応が選択肢となります。
- 超過削減枠の購入
- カーボンクレジットの購入 (J-クレジット・JCMのみが適格)
- 未達理由の説明
GXリーグは任意の枠組みであるため、未達理由の説明といった選択肢があるようです。これにより削減効果は減ることが予想されますが、参加の敷居が下がる効果もあります。
④レビュー
目標達成状況および取引状況についても、GXダッシュボードで公表を要求されます。
また、排出削減と成長に取り組む多排出企業に対しては、各種支援策との連動が検討されるとされています。
GX-ETS(GXリーグにおける排出量取引制度)における企業が行うべき対応
GX-ETSの内容を把握したところで、GXリーグの開始に伴い企業がとるべき行動について解説します。企業として行うべき活動は、現時点の参画状況によって変わります。
賛同企業の対応
賛同企業の対応事項については、
- 参画に必要な対応
- 参画後に向けた対応
に分けて説明します。
参画に必要な対応
2022年2月1日に公表された「GXリーグ基本構想」への賛同企業が募集され、2023年1月31日時点で679社の賛同が表明されました。これらの賛同した企業が参画を望まない場合、移行しない旨を事務局に通知する必要があります。また、第1フェーズ中に脱退した場合、第1フェーズ中の再参画は認められていません。
GXリーグの規模やペナルティが小さいことに鑑みて、賛同した企業はそのまま参画することが望ましいでしょう。
非賛同企業の場合、参画には申請書の提出が必要がありますが、
すでに賛同している場合、参画にあたってアクションを起こす必要はありません。
参画後に向けた対応
具体的な対応事項は実施の際に確認する必要がありますが、ここでは、特に注意したいポイントを解説します。
規程の確認
「GXリーグ規程」を確認し、算定や報告に必要な事項・ルールを確認しておきましょう。この規程を基に、全ての業務を行うことになります。
なお、[GXリーグ規程」は、
① 基準年度排出量算定ガイドライン
② 算定・モニタリング・報告ガイドライン
③ 第三者検証ガイドライン
によって構成されますが、①②は2023年3月31日までに策定、③は2023年夏頃までに策定される予定です。
特に、②における温室効果ガスの算定方法は、温対法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)の手法が採用されるため、Scope1・2の算定で用いたGHGプロトコルとの相違点に注意が必要です。
ただし、Scope1・2のデータが全く使用できないわけではなく、一部の変換・補足をおこなった上での使用が認められています。
相違点は大きく二つに分けられます。
- GX-ETS・Scope1・2の双方で算定対象だが、両社で算定方法が異なる項目
- GX-ETSでは算定対象外だが、Scope1・2では算定対象の項目
トランジション戦略の作成
参画の際、基準年度・排出削減目標の提出が求められますが、それに加えトランジション戦略の提示が求められます。トランジション戦略は以下の要素から構成されます。
- カーボンニュートラルの目標年度
- 削減目標に対する具体的施策
- 戦略を実行するためのガバナンス体制
特に削減目標に対する施策については、一定の具体性を求められることが推測されます。
削減目標の策定には、現時点における排出量・配分を認知しておく必要があります。
非賛同企業の対応
直近の第1フェーズではあくまで自主的な活動とされていますが、取り組みの成果が十分でない場合、政府が強制的に排出量制限を設ける可能性も示唆されています。
賛同していない企業にとっても、今後義務化された時に備えて、対応する準備が必要になります。
GXリーグの概要把握
GX-ETSはGXリーグの一部にすぎず、他にも活動が行われています。
今後賛同・参画する場合に備え、GXリーグの概要・動向について把握する必要があります。弊社ではGXリーグの概要についても解説しております。詳しくは、「GXリーグの参加のメリットと参加条件、今後の動向」をご覧ください。
GXリーグへの参画
これまでの解説にある通り、GXリーグはあくまで自主的な活動であり、大きな罰則は生じません。今現在賛同している企業ですでに国内排出量の4割以上を占めるといわれており、今後拡大するであろうGXリーグに参画することは、気候変動への対応に遅れをとらないための大事なステップと考えられます。
参画・参画後の対応事項は、以下の通りです。
1.参画申請書の提出(2023年2月1日〜4月28日)
GXリーグ事務局は、2023年2月1日〜4月28日の期間において、GXリーグ参画企業を募集しております。詳しくはGXリーグ参画募集要綱(非賛同企業向け)に記載がございますので、ご覧ください。
2.取り組み内容の報告(2023年5月上旬〜9月29日)
2023年9月29日までに、「GXリーグ参画企業に求められる取り組み」について、GXリーグ事務局に提出する必要があります。なお、様式や提出方法の詳細については、事務局から発表されます。
3.年次報告(2024年以降の10月末)
2024年度以降、毎年10月末日までに、前年度排出実績等の報告を行います。また、「GXリーグ参画企業に求められる取り組み」の実施状況を提出する必要があります。
温室効果ガス排出量算定の体制・実施
GX-ETSでは自社の直接・間接排出量を算定・報告する必要があります。GX-ETSに限らず、自社の温室効果ガス排出量の算定・報告は、TCFD提言等でも対応を求められており、喫緊の課題と言えます。
なお、弊社では温室効果ガス排出量の算定支援を行っております。詳しくは「【支援事例】TCFD開示 スコープ1,2,3排出量算定の支援 」の支援事例記事をご覧ください。
まとめ
今回は、GX-ETSとは何かについて解説しました。各企業に留まらず、日本全体での経済的な温室効果ガス排出削減につながるGX-ETSは、今後より影響力を増すと考えられます。気候変動への動向を把握するためにも、GXリーグへの参画を検討されることを推奨いたします。
#カーボンプライシング
CDP(気候変動質問書)の基本情報や回答メリット、ポイントを知る!
CDPの概要や回答メリット、抑えるべきポイントを一通り理解できるホワイトペーパーです。
リクロマの支援について
弊社はISSB(TCFD)開示、Scope1,2,3算定・削減、CDP回答、CFP算定、研修事業等を行っています。
お客様に合わせた柔軟性の高いご支援形態で、直近2年間の総合満足度は94%以上となっております。
貴社ロードマップ作成からスポット対応まで、次年度内製化へ向けたサービス設計を駆使し、幅広くご提案差し上げております。
課題に合わせた情報提供、サービス内容のご説明やお見積り依頼も随時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
⇒お問合せフォーム
参考文献
メールマガジン登録
担当者様が押さえるべき最新動向が分かるニュース記事や、
深く理解しておきたいトピックを解説するコラム記事を定期的にお届けします。