Last Updated on 2024年6月21日 by Moe Yamazaki

最近「SBT FLAG」という用語が注目を浴びるようになってきましたが、一体どのような指標なのでしょうか。本解説では、SBT FLAGについて、導入時の注意点や取得事例なども含めて、具体的に説明していきます。

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SBT FLAGとは

SBT FLAGとは、SBTにおける、森林・紙製品(林業、木材、紙・パルプ、ゴム)・食品製造(農業生産、動物原料)・食品・飲料の加工・食品・生活必需品小売業・タバコなどのセクターのことを指します。

SBT(Science Based Targets) とは、科学的根拠に基づいた温室効果ガス削減目標です。

FLAGとは、Forest、Land及び、Agriculture(森林、土地、農業)の頭文字から取っており、森林・土地の領域や農業分野を網羅した、温室効果ガスの削減指標のことを指します。

実は全世界のGHG排出量の20%以上が農業、林業、土地利用によるものであり、SBTでは特に、このFLAG領域でのGHG削減に力を入れています。

SBT FLAG目標の設定について

従来GHG排出量算定にあたっては、例えば森林による炭酸ガス吸収の程度について個別には考慮されていませんでした。例えば、原生林伐採による農業では、農業作物による炭酸ガス吸収量から、もとの原生林による炭酸ガス吸収量を引いたものが、正味の炭酸ガス吸収量となります。また、事業用地として森林や草原を開墾した場合は、もとの森林や草原からの吸収量を同様に加味しなければなりません。SBTi基準においても、目標設定に関する農林業や土地利用関連の排出要素の設定はありませんでした。

森林や草原地などの炭酸ガス吸収は多大な量にのぼるため、これらの事業活動をカバーする、SBT FLAGがカバーするGHG排出量は、全世界の20%以上にのぼります。このため、その対象となる企業や算定対象は広範囲となります。

SBT FLAG目標の対象企業

SBT FLAGの対象となる組織としては、森林・土地・農業分野において、土地集約型の事業活動がバリューチェーンに関連する企業となります。

このため業種としては、森林・紙製品や食品・飲料品に関する製造・流通・販売企業など広範囲です。具体的には、林業、木材、紙・パルプ、ゴムからなる「森林・紙製品」のセクターや、「食品の農業生産」、「食品・飲料加工」「食品関連の小売業」「タバコ」に加えて「外食産業」の各セクターが含まれます。

また上記業種以外でも当該企業のGHG総排出量の20%以上が、FLAG該当の活動から発生する企業も対象とされています。

SBT FLAG目標の算定対象

FLAG関連の排出量としては、森林から牧草地のように、土地形態が別の形態に変化することによる土地利用変化に伴う排出(LUC排出)と、肥料の製造使用や農業機械使用などによる排出(非LUC排出)に大別されます。

SBT FLAGの算定対象ですが、FLAG関連の排出量だけではなく、大気中のGHG削減(実際には、吸収)量も算定対象や目標設定に含めることができます。

なお森林減少や森林劣化に関する排出量の増加は、FLAG対象に含める必要があります。

農場などの管理において、畜産関連の排泄物からのメタンガスや、農場内での使用機械による炭酸ガス排出量なども含めなければなりません。これらの排出量と除去量の算定には、一次データの使用が推奨されており、特に原料生産地の畑や森林に関する一次データの収集が望まれています。

このため、森林の再生や森林管理方法の改善などで除去されるGHG量を含め、適正に管理していく必要があります。

排出量のカバー範囲としては、土地集約型の事業活動がバリューチェーンに関連する部分となります。

これらの事業活動において、Scope1及びScope2における、FLAG関連排出量の少なくとも95%をカバーする必要があります。さらにScope3の排出量については、67%以上がカバーされなければならないとされています。

SBT FLAG目標の設定要件

SBT FLAG目標設定の要件については、以下のようになります。

計画の「基準年」としては、2015年以降の年を選択することができます。なお企業は、自社の事業活動を代表する年を選択することが推奨されています。

またSBT FLAG目標での「短期目標年」は、申請提出日から5~10年間を選択可能です。可能であれば、SBTと同じ目標とするよう推奨されます。

企業では、「報告書」では排出量と除去量を併せたSBT FLAGとして報告します。但し、基準年及び報告年では、排出量と除去量を別々に報告する必要があります。

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SBT FLAG目標の設定における注意点

SBT FLAG目標の設定や削減計画作成において、注意すべき点は以下のとおりです。

SBT FLAGとSBTi目標との違い

企業では、SBT FLAG領域と、それ以外の領域や集計を分けて管理する必要があります。なおFLAGに関連する排出量や除去量ですが、農業、土地利用変化、林業を含む土地管理に関連するものが含まれます。FLAG排出量が20%未満の企業で、且つ従来のSBTi目標のみを設定する場合は、従来の目標の中に包含する必要があります。なおこの場合は、森林等からの除去量は使用することはできないとされています(FLAG目標外)。

また目標達成のためのFLAG短期目標年は、申請から最短で5年間、最長で10年間の範囲とされています。FLAG対象となる企業は、基準年や年次報告の両方において、排出量と除去量は別々に計算する必要があります。

産品経路の利用

農業などの事業活動に伴う、産出品の搬出経路のことを産品経路という。

企業では、バリューチェーンに関する経路のうちの1つの産品からの排出量が、その企業のFLAG総排出量(除去量を除く総量)の10%以上を占める場合は、その産品経路を複数で利用することができるとされています。

また「森林・紙製品」セクターの企業の場合は、産品経路として、木材・木質繊維の産品経路を、必ず使用することが求められています。この中でもゴム製品関連企業だけは、これらの経路は使用できないとされています。

土地管理、炭素除去・貯留との関係

企業では、FLAG関連のバリューチェーン以外にも、社有林や事業活動をする土地を所有したり管理しています。これらも、GHG排出量や除去量とも密接に関連しています。

特に、炭素除去・貯留は、SBTi基準においては、最終段階での残りのGHG削減の主要な手段です。

この炭素除去・貯留については、FLAG領域では下記の事業が関連しています。

例えば、自社事業用地内における、森林再生、アグロフォレストリーなどの森林農業や、植林、さらにバイオ炭などによる炭素貯留などは、対象となりうる可能性があります。

但し、これらが実際に該当するかどうかは、セクター毎の要素や、産品経路などにも関係しますので、これらを含めた、SBT FLAGとして合理的なFLAG目標を、各企業で計画・設定しておく必要があります。

なお、GHGプロトコルにおける「炭素除去ガイダンス」において、炭素除去・貯留の考え方が、次のように示されています。

「企業は、次の要件を満たす場合に限り、地中貯留による生物由来ネット除去量を算定 し、報告しても差し支えない。

○ 企業は、地中貯留層に貯留された生物由来 CO2 または炭素の発生源となる土 地について土地炭素ストック年間ネット変動量を算定する必要がある。
○ 企業は、帰責し得る管理された土地内の土地炭素ストックが増加したか、変動 がないこと(または自然攪乱に起因する炭素ストック損失を除外した後、帰責し 得る土地内の炭素ストックネット増加量があること)を実証する必要がある。」

これ以外に、SBT FLAG目標を設定する企業では、森林破壊を行わない旨を2025年末までに公表することが求められています。

国内におけるSBT FLAG取得事例

このように、SBT FLAG目標が徐々に進展していますが、国内でも先進的な企業において、同目標を取得する例が増えています。

事例①:サッポロビール

サッポロビールでは、ビールの製造・販売にあたり「サッポログループ環境ビジョン2050」を設定しています。同ビジョンの中で、「脱炭素社会の実現」を最注力課題のひとつに掲げており、その解決に向けた企業としての役割を強く認識し、SBT認定レベルでの温室効果ガス排出削減目標の達成を目指しています。今回取得した目標は、同社の2030年のグループ全体の温室効果ガス排出量スコープ1,2,3とFLAG スコープ1,3を対象としています。

2023年7月の同ビジョン更新では、スコープ1,2,3の温室効果ガス排出量ネットゼロと、使用電力の100%再生可能エネルギー由来を目指しています。この更新目標の実現に向け、中間目標である2030年目標値をスコープ1,2で2022年比42%削減、スコープ3で2022年比25%削減に更新することを目標としています。また、SBTの新基準であるFLAG目標も今回新たに設定しており、これらの更新目標を達成するために、再生可能エネルギーの積極的な活用、製造工程の見直し等、グループ全体で取り組んでいくとしています。[5]

原料農産物などの土地利用における温室効果ガス排出を示す、FLAG関連排出に対する目標について国内の企業で認定を取得したのは、同社が初めてとなります。[6]

今後もグループ全体で省エネルギーを徹底するとともに、太陽光発電設備などの再生可能エネルギー導入拡大を進め、また原料農産物の農業における温室効果ガス排出削減においてもサプライヤーと協働して取り組んでいくことを掲げています。

事例②:ドミノ・ピザ

ドミノ・ピザ ジャパンでは、QSR(Quick Service Restaurant)業界では初となるSBTi認定を取得しました。2050年までに気温上昇1.5℃抑制を目指す「世界的な気候変動対策」に沿ったアクションに尽力するとしています。

2050年ネットゼロ目標達成を目指し、様々な計画をすすめるドミノ・ピザでは、森林・土地・農業 (FLAG, Forest, Land and Agriculture)ガイドラインに基づき、認定をうける同業界で初めての企業となります。[7]

なお親会社ドミノ・ピザ・エンタープライズは、FLAG目標における認定を取得した世界で最初の企業10社のうちの1社になっています。

ドミノ・ピザでは、SBTiでのネットゼロ目標に加え、さらに自社目標として2030年までに温室効果ガスの排出量を2020年比で、製品1個あたり65%まで削減(事業成長考慮)すること、さらに2025年までにサプライチェーンにおける森林破壊を止めること、を目標設定として掲げています。[8]

まとめ

SBTは、2015年のパリ協定が求める温室効果ガス排出削減の水準と整合した科学的根拠に基づいた目標ということになります。SBT FLAG目標では、このうち土地利用や農業・食品分野などの先進企業の気候変動対策を後押しするものとなります。

温室効果ガスの大幅削減を目指すものの、各企業がばらばらに取組んだのでは、効果的な温室効果ガスGHGの削減はできません。欧米企業を中心として世界中の企業において、SBT FLAG目標がますます採用されています。

この記事では、SBT FLAG目標の設定内容や注意すべき点などについて解説しました。また、国内でも、既にSBT FLAG認定を受けて事業活動する企業も出てきており、今後さらに増加すると考えられます。

本記事で説明した内容が、担当者様の業務に今後少しでもお役に立てるのであれば大変光栄です。 

#SBT

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参考文献

[1]Forest、Land and、Agriculture (FLAG):
https://sciencebasedtargets.org/sectors/forest-land-and-agriculture
[2]SBTi FLAGセクター ガイダンス・目標設定の動向:
https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/006/834/original/2FLAGSBT.pdf
[3]森林・土地・農業(FLAG)に関するSBT設定のアプローチ:
https://sustainability-navi.com/insight/021
[4]土地セクター・炭素除去ガイダンス:
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/1-10r_Land-Sector-and-Removals-Guidance-Pilot-Testing-and-Review-Draft-Part-1_JP.pdf
[5]「脱炭素社会の実現」に向けて「サッポログループ環境ビジョン2050」を更新2030年の温室効果ガス排出量削減目標更新とFLAG目標を新たに設定:
https://www.sapporoholdings.jp/news/dit/?id=9099
[6]温室効果ガス削減目標でSBT認定を取得 FLAG関連排出目標は国内初の認定:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002515.000012361.htm
[7]ドミノ・ピザ エンタープライズ、QSR業界初! 2050年ネットゼロ目標のSBTi認定:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000285.000029053.html
[8]Domino’s for Good:
https://www.dominos.jp/corporate/esg              

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Author

  • 西家 光一

    2021年9月入社。国際経営学修士。大学在学中より国際人権NGOにて「ビジネスと人権」や「気候変動と人権」領域の活動を経験。卒業後はインフラ系研究財団へ客員研究員として参画し、気候変動適応策に関する研究へ従事する。企業と気候変動問題の関わりに強い関心を寄せ、リクロマ株式会社へ参画。

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