【気候変動関連用語がまるわかり!用語集はこちら

洪水や干ばつあるいは、汚染水放流の風評被害などの水リスクは、企業の事業活動に影響を与える要素の一つであるため、水資源もサステナビリティ情報開示の対象となっています。企業が水リスクの管理体制を整備することは、持続可能な発展に寄与するため非常に重要です。本コラムでは、水リスクの基本概念とそれが企業に与える影響について解説します。

<サマリー>

・水リスクとは、水不足や水ストレスがもたらす企業の事業活動への影響
・企業が水リスクを管理するのには、水リスク評価ツールが役立つ

CDP(気候変動質問書)の基本情報や回答メリット、ポイントを知る「CDP(気候変動質問書)入門資料」
⇒資料をダウンロードする

企業が管理すべき「水リスク」とは

水リスクとは、水ストレス(水量、水質、水へのアクセスが不足して発生するストレス)や洪水や干ばつなど流域状況が企業の操業や製品・サービスに与える影響をいいます。

出所:CDP「2023年 CDP水セキュリティ質問書 導入編」2023年4月

企業にとって水リスクは、その事業活動に大きな影響を与える可能性があるため絵、企業は「水セキュリティ(水の安全保障)」としてバリューチェーンにおける水リスクを管理することが重要です。例えば、CDPでは、企業のバリューチェーンには、①直接操業、②サプライチェーン、③製品・サービスの使用の3段階あるとみなし、各段階で水リスクを特定することを推奨しています。

水リスクの4分類

水リスクは様々な分類がありますが、ここでは大きく分けて操業リスク、財務リスク、法的リスク、評判リスクの4つを紹介します。

  1. 操業リスク

温暖化による渇水や世界的な人口増加、産業拡大による水汚染、水インフラの劣化や破損で水不足となり水供給が行き止まる断水状態により、操業リスクが発生することが考えられます。あるいは、気候変動による豪雨で洪水被害を受けて事業を中断せざるを得ないことは、操業リスクになります。

  1. 財務リスク

温暖化により干ばつが増加して水不足になる場合や水インフラが未整備の場合、水価格が上昇し、財務リスクが発生することが考えられます。

また、日本における人口減少は、将来的に財務リスクを高める可能性があります。なぜなら、水道料金は、水インフラの設備費やメンテナンス費を給水人口で割算して算出されます。そのため、給水人口が減少すれば、一人当たりが負担する水道料金が高くなる可能性があるためです。

  1. 法的リスク

気候変動による干ばつ増加や産業拡大による無秩序な水使用の増加などにより、水不足や環境破壊が発生し、周囲の水アクセスが低下する可能性があります。これに対処するために使用を制御する新たな法規制が導入されることは、法的リスクになります。

  1. 評判リスク

企業が事業活動をするにあたり、大量の水を取水したり、汚染水を排出することで水不足や環境破壊、周囲の水アクセスが低下する可能性があります。もし、これがメディアに取り上げられた場合、批判を受け、評判リスクになります。

水リスク評価の必要性

上記のような水リスクを効果的に管理するためには、まずリスクの評価(アセスメント)が不可欠です。リスクの影響の性質や潜在的な大きさは、企業の拠点やバリューチェーンの段階によって異なるため、各拠点と各段階のアセスメントが必要です。

主要な水リスク評価ツール

企業が水リスクを効果的に管理するためには、信頼性の高い評価ツールを使用することが重要です。これらのツールは、水リスクの特定と管理に役立ち、持続可能な経営を支援しています。

CDP Water Impact Index

CDPが無料で公開している評価ツールです。アパレルや食品など産業別にバリューチェーンの3つの段階(直接操業、サプライチェーン、製品使用)で水リスクのインパクトのランク付けを行い、さらに5段階(Critical, Very High, High, Medium, Low)で評価されています。

導入のメリット

このツールは、企業が自社の個別の水リスクを分析するのには適していませんが、自社の産業の一般的な水リスク/インパクトを把握することができます。

WWF Water Risk Filter ※ログインが必要になります。

WWF が無料で公開しているWater Risk Filter Asseess モジュールは、企業が個別の水リスクを評価し、管理するためのオンラインツールです。水リスクの物理的リスク、規制リスク(法的リスク)、評判リスクを分析することができます。地理的情報や業種ごとのリスクを考慮に入れており、企業の持続可能性戦略に有用なツールです。

導入のメリット

このツールを導入することで、企業は水リスクに対する包括的な理解を得ることができ、戦略的な意思決定をサポートします。また、WWF Water Risk Filterは、透明性の高いレポートを提供するため、ステークホルダーとの信頼関係の構築にも寄与します。

WRI Aqueduct

WRIが無料で提供しているWRI Aqueductは、企業が個別の水リスクの物理リスク、規制リスク(法的リスク)、評判リスクを評価し、戦略的に管理するためのもう一つの重要なツールです。このツールは、地図ベースのインターフェースを提供し、地域ごとの水リスクを視覚的に把握することができます。

導入のメリット

世界中の水リスクを視覚的に示し、企業がリスクを具体的に理解するのに役立つため、多国籍企業に有用です。時間枠を2080年まで設定を自由に変更することができ、気候変動のシナリオを「楽観的」「成り行き」「悲観的」に設定できるため、将来予測に役に立ちます。企業は水リスクに対する理解を深め、効率的なリスク管理が可能になります。

水リスク評価ツールの活用事例

水リスク評価ツールの導入は、企業の水管理戦略を強化し、持続可能な経営を実現するための重要なステップです。サントリーホールディングス株式会社と積水化学工業株式会社は、この分野で先進的な取り組みを行っています。

サントリーホールディングス株式会社

サントリーホールディングス株式会社は、世界的な飲料メーカーとして、水リスク管理において先進的な取り組みを行っています。同社は、水リスク評価ツールを活用し、水資源の保全と持続可能な利用を推進しています。

サントリーの水リスク評価

サントリーは、WWF Water Risk Filterを活用して水リスクを評価し、具体的な対策を講じています。このツールを用いることで、同社は事業拠点ごとの水リスクを特定し、適切なリスク管理を実施しています。

サントリーは、水資源の重要性を認識し、2010年からWWF Water Risk Filterを導入しています。このツールを用いることで、サントリーは事業拠点ごとの水リスクを評価し、具体的な対策を講じています。

出所:サントリーホールディングス株式会社「水リスクの評価」2023年

具体的な取り組み

サントリーは、水リスク評価結果に基づき、水資源の効率的な利用や地域社会との協働を推進しています。例えば、節水技術の導入や水源保護活動を積極的に展開し、持続可能な水利用を実現しています。

さらに、サントリーは水リスク評価を定期的に見直し、最新のデータを基に継続的な改善を行っています。

評価ツールの効果

WWF Water Risk Filterの導入により、サントリーは水リスクに対する包括的な理解を得られました。このツールを使用することで、潜在的なリスクを早期に発見し、適切な対策を講じることが可能となりました。また、透明性の高いレポートを提供するため、ステークホルダーとの信頼関係の構築にも寄与しています。

積水化学工業株式会社

積水化学工業株式会社もまた、水リスク管理において重要な役割を果たしています。同社は、評価ツールを駆使して水リスクを管理し、環境保護と事業の持続可能性を両立させています。

積水化学の水リスク評価

積水化学は、WRI Aqueductを活用して水リスクを評価しています。持続可能な水管理を実現するために、2012年からWRI Aqueductを導入しています。このツールを使用することで、同社は各拠点における水リスクの状況を詳細に把握し、リスクに応じた適切な対策を講じています。

環境への取り組み

積水化学は、水リスク評価に基づいて、工場における水使用の削減やリサイクルの促進を行っています。具体的には、工場の生産プロセスにおいて、使用する水の量を減らすための技術革新を進めています。また、地域社会との連携を強化し、水質保全活動にも積極的に参加している企業です。これにより、地域の水環境を守りながら、持続可能な経営を実現しています。

評価ツールの効果

WRI Aqueductの導入により、積水化学は水リスクに対する理解を深め、効率的なリスク管理が可能になりました。このツールを使用することで、企業は水リスクを具体的に理解し、適切な対策を講じられます。また、評価結果をCDP評価に反映させることで、環境パフォーマンスの透明性を高め、ステークホルダーからの信頼を獲得しています。

まとめ

本コラムでは、水リスクの概要と評価ツールについて具体的な活用事例とともに紹介しました。気候変動のリスクや自然資本の損失のリスクと同様に、水リスクを管理することは、企業が長期的に持続可能な成長を遂げるために欠かせない経営戦略になります。今回紹介したツールを活用することで、企業は水リスクを早期に特定し、効果的な対策を講じることが可能です。

参考文献

CDP「2023年 CDP水セキュリティ質問書 導入編」2023年4月  閲覧日:2025年2月20日
環境省「自然との接点の分析に活用できるツールの紹介」2023年9月閲覧日:2025年2月20日
環境省 アクアスフィア・水教育研究所 橋 本 淳 司「Water Project グッドプラクティス塾 ~企業が知っておくべき国内外の水リスク~」2021年12月 閲覧日:2025年2月20日
サントリーホールディングス株式会社「水リスクの評価」2023年 閲覧日:2025年2月20日
積水化学工業株式会社「サステナビリティレポート2023」2023年 閲覧日:2025年2月20日

CDP(気候変動質問書)とは?

【このホワイトペーパーに含まれる内容
・CDPの概要やその取り組みについて説明
・気候変動質問書の基本情報や回答するメリット、デメリットを詳細に解説
・気候変動質問書のスコアリング基準と回答スケジュールについてわかりやすく解説

リクロマの支援について

弊社はISSB(TCFD)開示、Scope1,2,3算定・削減、CDP回答、CFP算定、研修事業等を行っています。
お客様に合わせた柔軟性の高いご支援形態で、直近2年間の総合満足度は94%以上となっております。
貴社ロードマップ作成からスポット対応まで、次年度内製化へ向けたサービス設計を駆使し、幅広くご提案差し上げております。
課題に合わせた情報提供、サービス内容のご説明やお見積り依頼も随時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
お問合せフォーム

メールマガジン登録

担当者様が押さえるべき最新動向が分かるニュース記事や、
深く理解しておきたいトピックを解説するコラム記事を定期的にお届けします。

Author

  • 2022年10月入社。総合政策学部にて気候変動対策や社会企業論を学ぶ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリによる国際的な組織での活動経験を持つ。北欧へ留学しサステナビリティと社会政策を学ぶ。

    View all posts