Last Updated on 2024年12月3日 by AmakoNatsuto

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スコープ3カテゴリ15「投資」は、金融機関や投資事業者に特化したカテゴリで、投資活動を通じて発生する間接排出量を対象としています。近年、投資先企業が排出する温室効果ガスの削減に取り組む姿勢が、金融業界の持続可能性や投資判断において重要な指標となりつつあります。

この記事では、カテゴリ15の基本的な仕組みや算定の考え方を解説するとともに、投資活動を通じた環境負荷軽減の具体的な事例を紹介します。

サマリー
• スコープ3カテゴリ15は投資活動による間接排出量を対象
• 出資比率を基に投資先の排出量を算定
• 投資先の排出削減を支援する取り組みが重要
• データ収集とモニタリングが管理の鍵
• 持続可能な投資方針が企業の環境価値を高める

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スコープ3カテゴリ15の詳細解説

スコープ3は、Scope2に含まれないすべての間接排出(他社が排出源となるもの)を対象とし、発電や熱生成時の排出を除いた全15カテゴリの活動に細分化されている排出量の範囲を指します。

そしてカテゴリ15は、主に金融機関や投資事業者が対象で、投資先の活動に関連する温室効果ガス(GHG)排出量が含まれます。

具体的には、投資先企業やプロジェクトが発生させるScope1およびScope2の排出量に基づき、それに出資比率を掛け合わせた排出量が対象となります。そのため、金融機関や投資家がその投資活動による環境負荷を評価し、削減のための具体的な取り組みを進めることが求められています。

投資活動は、直接的に排出量を生じさせるだけでなく、投資先企業の行動を左右する力を持っています。金融機関が持続可能な投資ポリシーを採用することで、脱炭素経済への移行を加速する効果が期待されます。

特に、グリーンボンドやESG投資が注目される中で、カテゴリ15の適切な算定と管理は、企業価値向上にも繋がる重要な要素です。

算定範囲

スコープ3カテゴリ15の対象範囲は、投資の運用に伴い発生する排出量です。

しかし、組織全体のScope1およびScope2を「Equity share approach(出資比率基準)」で算定している場合は、カテゴリ15の排出量としては含める必要がありません。このカテゴリは、主に金融機関や投資事業者を対象としており、商業銀行や投資信託会社がその代表例です。

そしてここで重要なポイントとなるのが、投資先の活動における排出量が中心となるため、対象範囲が広範である点です。投資先企業の排出量データが利用可能であれば、それを基に算定することが理想的ですが、適切なデータが得られない場合には、推計値や補完データを使用するケースもあります。

投資活動には、株式投資、債券投資、不動産ファンドなどさまざまな形態がありますが、それぞれの活動で発生する排出量の特定には固有の課題が存在します。

例えば、不動産投資では建物のエネルギー効率や運用段階での排出量が問題となり、債券投資では発行体のスコープ1およびスコープ2データの透明性が重要です。また、新興市場への投資では、排出量データの信頼性が低い場合も多く、これを補完する方法論の整備が求められます。

算定方法

カテゴリ15の排出量算定では、投資先のScope1およびScope2排出量を収集し、それに出資比率を掛け合わせる方法が一般的です。これは「Equity share approach(出資⽐率基準)」に基づく計算手法で、金融機関が持つ投資先企業の排出量データを活用します。

例として、以下のような現実的な方法が挙げられます。

1.投資先の排出量データ収集
投資先企業やプロジェクトからScope1およびScope2排出量に関するデータを取得します。これには、投資先の年次報告書や持続可能性レポートが活用されることが多いです。

2.出資比率を適用
投資先の排出量に対して、自社の出資比率を掛け合わせます。たとえば、ある企業の年間排出量が100,000トンCO₂で、自社の出資比率が25%であれば、自社のカテゴリ15として計上する排出量は25,000トンCO₂となります。

3.補完データの利用
投資先の排出データが入手できない場合は、同業界や類似プロジェクトのデータを活用して推計します。この手法はデータ不足時の代替策として現実的とされています。

この算定方法は、排出データが不完全な場合でも活用できる柔軟性が特徴であり、特に幅広い投資ポートフォリオを持つ金融機関に適しています。

ただし、データの信頼性や算定基準の整合性を保つためには、継続的なモニタリングと更新が重要です。資先企業が掲げる排出削減目標に対して進捗があるかを定期的に確認し、必要に応じて投資ポリシーを調整する必要があるでしょう。

サプライヤーエンゲージメント評価の概要とスコープ3の関係

サプライヤーエンゲージメント評価は、企業がサプライチェーン全体でどのように環境負荷を削減し、持続可能なビジネスモデルを構築しているかを評価する重要な指標です。

次に、サプライヤーエンゲージメント評価がスコープ3排出量算定に与える影響について詳しく見ていきます。

サプライヤーエンゲージメント評価とは

サプライヤーエンゲージメント評価は、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)が提供する制度で、企業がサプライヤーとどの程度協力して排出削減を進めているかを測る仕組みです。この制度では、気候変動対策に向けたサプライチェーン全体の連携と成果が評価されます。

特にカテゴリ15「投資」では、金融機関や投資家が投資先と協力しながら削減目標を設定し、進捗を管理することが評価のポイントとなります。

サプライヤーエンゲージメント評価におけるスコープ3排出量算定のウェイト

CDPのサプライヤーエンゲージメント評価では、企業のスコープ3排出量管理が全体スコアの約20%を占めています。

スコアリングカテゴリサプライヤーエンゲージメント評価におけるウェイト
ガバナンス20%
目標15%
スコープ3排出量算定20%
サプライヤーとエンゲージメント35%
CDP気候変動質問書全体のスコア10%
(※)CDP2023 サプライヤーエンゲージメント評価 イントロダクションを元に作成

カテゴリ15の排出削減では、他のスコープ3カテゴリとの連携が鍵となります。投資活動を通じて環境目標を達成するには、投資先企業とそのサプライチェーン全体での排出削減状況を評価し、それに基づいた投資方針を策定することが重要です。

具体的には、投資先企業がスコープ1、2、3の排出量を正確に算定し、削減目標を設定・達成できるよう、投資家が明確な指示や支援を行います。また、進捗状況をモニタリングすることで、削減努力を促進しつつ、投資活動全体が持続可能な価値を生むよう働きかけることが求められます。

スコープ3排出削減の企業事例

最後に、サプライヤーとの協力を通じてスコープ3排出削減を推進している株式会社セブン&アイ・ホールディングスの取り組みを紹介します。

環境省モデル企業事例集より

会社事業概要

株式会社セブン&アイ・ホールディングスは、セブンイレブン、イトーヨーカドーなど多数の店舗を展開する総合流通グループです。同社では、スコープ3が全体排出量の約90%を占めており、特にサプライヤーと連携した排出削減が重要なテーマとなっています。

多くのサプライヤーを抱える同社は、サプライチェーン全体の脱炭素化に向けて、支援と協力を軸にした取り組みを進めています。

取り組み①サプライヤーの排出削減計画のモデルケース作成

セブン&アイ・ホールディングスは、まずサプライヤーが排出削減計画を策定しやすくするためのモデルケースを作成しました。

このモデルケースでは、製造、輸送、廃棄といった各段階における排出削減施策を具体的に示し、サプライヤーがそれを参考にしながら独自の計画を構築できるようサポートしています。

たとえば、エネルギー効率の向上や低炭素素材の使用を含む具体的な施策が挙げられています。このアプローチにより、サプライヤーの負担を軽減し、効果的な削減計画の策定を促進しています。

取り組み②サプライヤーの排出削減支援体制の構築

セブン&アイ・ホールディングスは、サプライヤーが自律的に排出削減を進められるよう支援体制の整備に注力しています。この取り組みは、短期的な削減目標の達成だけでなく、長期的な持続可能性を目指したサプライチェーン全体の改革を目的としています。

具体的には、サプライヤーに対して排出削減目標の設定を支援し、その進捗を管理できるデジタルツールを提供しています。これにより、各サプライヤーが自社の状況に応じたデータを集計し、リアルタイムで進捗を把握できる仕組みを実現しました。

また、脱炭素化に必要な知識やスキルを共有するため、定期的なトレーニングプログラムやワークショップを開催。これらの場では、実践的な削減事例や先進技術の導入方法が共有され、サプライヤー同士の連携を深める機会も提供されています。

まとめ

スコープ3カテゴリ15「投資」は、金融機関や投資事業者が持続可能な社会を実現する上で重要な役割を果たす領域です。

投資先の排出量を正確に把握し、削減計画を支援することは、企業全体の環境目標達成に直結し、また投資活動を通じて脱炭素経済を支援することは、長期的な投資価値の向上にも寄与します。

そしてカテゴリ15を効果的に管理するためには、投資先企業との連携を深めるだけでなく、持続可能な投資基準を整備し、透明性の高い意思決定プロセスを確立することが必要です。こうした取り組みを通じて、金融機関自身が社会的責任を果たします。

リクロマでは、Scope1,2,3における排出量算定や削減計画の立案をサポートしています。企業の脱炭素経営を推進するための最適な解決策をご提供しますので、お気軽にお問い合わせください。

参考文献

環境省 スコープ3排出量の算定技術ガイダンス
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/(J)-calculation_guidance.pdf
CDP2023 サプライヤーエンゲージメント評価 イントロダクション
https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/008/101/original/SER_Introduction_JPN_2023.pdf
環境省 サプライチェーン排出量算定に関する説明会 Scope3~算定編~
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/dms_trends/study_meeting_2020.pdf
環境省モデル企業事例集
https://www.env.go.jp/content/000118181.pdf

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  • 大学では気候変動の経済学を専攻し、リクロマ株式会社には創業初期よりコンサルタントとして参画。 情報開示支援を中心に温室効果ガスの排出の算定や高度なシナリオ分析の業務を担う。

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