TCFD開示の“レベルアップ”へ 「移行計画」を解説:ユニリーバ編

2022年4月、英財務省は、ネットゼロ経済への「移行計画」の策定を企業に義務づける法律の適用を進めるべくタスクフォースを設立しました。イギリスではこの4月から、大企業や金融機関に対してTCFD開示の義務が適用されていました。

この記事では、渦中で注目を集める「移行計画」の開示例を、現段階で最も先進的な開示として認知されているユニリーバを例に解説します(次回の記事にてシェルの計画を解説します)。

なお、「移行計画」の策定のポイントについての解説は「TCFD開示の更なる“レベルアップ”のために必要な「移行計画」について解説!」をご覧ください。原則、こちらの記事で言及したポイントに沿っての解説を進めます。


TCFDフレームワークには、レベルがある

結論として、TCFDフレームワークは自社の気候変動に対する影響やレジリエンスについて開示するものと、加えて事業計画などと整合した「移行計画」を開示するものに分けられます。それぞれレベル1・レベル2として、下記のように分類されると当社は考えています。

TCFDフレームワークの分類。レベル1では、気候変動に対する自社への影響や自社の強靭性に関する定量的な提示、レベル2では、脱炭素に向けて各種計画と整合した取組の定量的な計画やその計画の履行に際して想定される課題や影響を受ける財務情報の提示、が求められる。
TCFD[1]より

2021年6月の改訂でプライム上場企業に要求された“TCFD対応”は、あくまでも気候関連のリスクと機会がもたらす影響やその影響への対策について社内で議論し開示するものです。ここではレベル1に該当します。

外部評価を高めるには“レベル2” ≒「移行計画」が効果的

しかしながら、自社への気候変動の影響を検討済みの企業においては、自社が影響を受ける気候関連のリスクと機会に対処する際に、どれだけのスパンで、どれだけの資金を費やし、どれだけの組織的な困難があるかなど、さらに発展した内容の開示をすることで更なる評価向上を狙うことができ先進企業として国際的なレピュテーションを確立することも可能です。

今回の記事では、上記分類のレベル2の内容を扱います。評価機関や投資家またNGOなどのステークホルダーから評価される移行計画について、TCFDフレームワークをベースに解説します。

具体的に「移行計画」とは何なのか、また真に外部から評価される「移行計画」のポイントについては、「TCFD開示の更なる“レベルアップ”のために必要な「移行計画」について解説!」をご覧ください。


ユニリーバの「移行計画」

ユニリーバは2021年3月に移行計画を発表しており、これは同年5月の株主総会で可決されました[2]。以下、ユニリーバの移行計画のポイントを、TCFDの4要素ごとに解説します。

ユニリーバの気候移行計画
Unilever[3]より

ユニリーバの移行計画:「ガバナンス」

独立した「気候移行行動計画(Climate Transition Action Plan)」を公表

そもそもユニリーバは、サステナビリティ報告書とは別に移行計画の資料を「Climate Transition Action Plan」として作成し公表しています。独立した移行計画資料の発表はTCFDのガイダンスでも推奨されており、積極的な開示の意欲のアピールにつながっています。


ベスティングの25%をサステナビリティの達成状況で決定

「役員報酬への反映」について下記のように言及しており、気候目標の達成状況が役員報酬のひとつであるベスティングに25%反映されている旨の記載があります。

25% of the vesting of our long-term incentive plan for our management population (14,400+ managers) is determined by our performance against our sustainability commitments (which include specific climate targets as also reflected in the Climate Transition Action Plan).

経営陣(14,400人以上)に対する長期報償計画のベスティングの25%は、サステナビリティへのコミットメント(気候変動行動計画にも反映されている特定の気候変動目標を含む)に対する業績によって決定されます。[当社訳]

Unilever[3]より

毎年の株主総会で進捗報告、そして3年ごとに移行計画を更新

また移行計画のレビューと更新については、2022年度より毎年の株主提案で計画の進捗状況について報告すること、および3年ごとに計画を更新し総会の議題に挙げる予定であることを明記しています。

Having submitted this Climate Transition Action Plan for a shareholder advisory vote at Unilever’s Annual General Meeting on 5 May 2021, we propose to report annually from 2022 on progress made in implementing the plan. We also propose to submit an updated plan for shareholder approval at the AGM every three years, noting any material changes we have made or propose to make.

2021年5月5日のユニリーバ年次総会で、この「気候変動行動計画」を株主の諮問投票に付した後、2022年から毎年、計画の実施状況について報告する予定です。また、3年ごとに年次総会で株主の承認を得るために、私たちが行った、あるいは行うことを提案する重要な変更を記載した最新の計画を提出する予定です。[当社訳]

Unilever[3]より

この他にも:

将来的にサステナビリティ戦略を事業戦略に取り込んでいくにあたり、業績の管理体制にいかにバリューチェーン全体での削減目標を取り込んでいけるかを模索する姿勢があることも記載されています。

また、外部の第三者保証については今後模索していくという記述をしており、現状で保証を受けられているかの記載はありません。なお排出量削減目標に関してはSBTiの認証を受けています。

ユニリーバの移行計画:「戦略

自社操業の排出量削減の取り組み

自社操業の排出量に関しては、下記の4つの取り組みを挙げています:

  • 「エネルギー効率化プログラム」を通じて、エネルギー需要を継続的に最適化する
  • 製造拠点、オフィス、研究所の暖房源(通常は化石燃料を燃焼するボイラー)を100%再生可能エネルギー源に移行する(送電網の100%再エネ化は2020年1月に達成済み)
  • 自社の冷却システムから、残存する地球温暖化係数(GWP)の高いHFC冷媒をすべて排除し、炭化水素、アンモニア、CO2などの低GWP冷媒に改修または交換する
  • 2025年までに事業所内の食品廃棄物を半減させる

[当社訳]
Unilever[3]より

バリューチェーンにおける排出量の取り組み

バリューチェーンの排出量削減のために、下記の取り組みを挙げています:

  • 2030年までに、輸送による排出量を40-50%削減
  • 2023年までに、パーム油・茶葉・大豆・ココアの生産に伴う森林破壊をなくす。
  • 2025年までに、プラスチックのリサイクル率を最低でも25%の水準まで引き上げる
  • 2030年までに、自動車による輸送を100% EV化、ハイブリッド化
  • 北アメリカにおけるエアロゾル噴霧剤による排出を削減する

[当社訳]
Unilever[3]より

上記目標の達成に向け、過去に取り組んできたイニシアチブとその定量的な成果に言及した上で、今後の行動計画が詳述されています。

例えばバリューチェーン内の排出量のうち49%を占める原材料による排出量削減に関しては、2010年から取り組んできた製品ポートフォリオの見直しに加え、サプライヤーの選定やサプライヤーへの働きかけ、また国際イニシアチブである「1.5℃ Supply Chain Leaders」にて他社と協働しシステムレベルでの改革に取り組む旨も記載しています。

投資額の定量的記載はない

自社操業の排出量に関しては技術面への投資へ注力していく旨を記載していますが、定性的な数字の開示にまでは至っていません。計画内には下記のような記載があります。

The capital investment required to meet these targets is not expected to be incremental to Unilever’s regular capital investment programme. Rather, our investment strategy will require an accelerated shift to new technologies that reduce or eliminate GHG emissions.

これらの目標を達成するために必要な設備投資は、ユニリーバの通常の設備投資プログラムに上乗せされるものではないと考えています。むしろ、私たちの投資戦略では、GHG排出を削減または排除する新しい技術へのシフトを加速させる必要があります。

[当社訳]

Unilever[3]より

また、バリューチェーン内の排出量に関して、プラスチック包装などによる排出を削減すべく、廃棄物管理システムや新規ビジネスモデルへの投資をする方針を挙げていますが、自社操業と同様、投資額や投資割合などについても言及はありません。


パリ協定の目標年に先んじた目標達成を掲げる

ユニリーバは2039年までに自社バリューチェーンのネットゼロ達成を掲げた上で、パリ協定の目標年である2050年までには、自社のみだけでなく、社会全体の排出量削減に貢献する計画を記載しています。

ユニリーバの移行計画:「リスク管理」

目標達成にあたって直面する課題を提示

ユニリーバは、主要製品である洗濯用品のバリューチェーン全体の65%が影響をもたらすことができない消費者の電力や水の使用方法に関するものであるとしています。そのため、削減目標の達成に際しての課題として、消費者の意思決定にまでは影響を与えられない点をあげています。

さらに、ユニリーバは2039年までにネットゼロ達成を掲げていますが、それが可能な施策はまだ実行できておらず現在模索中であることを下記のように記載しています。

We are at the start of the net zero journey and have not yet established the extent to which we can reduce our gross emissions by 2039, and therefore the level of balancing carbon removals required. This is work in progress.

Unilever[3]より


また、スコープ3の排出量測定に関する課題についても認識しています。すなわち、フットプリントの計測に使用するデータが標準化されたものでりサプライヤーごとに正確でないこと、すべての製品・市場をカバーできているわけではないこと、また排出量計算などの気候変動領域の規制が発展途上であることなどです。

Data used to model lifecycle footprints is typically industry-standard data rather than relating to individual suppliers. 

Lifecycle models such as Unilever’s cover many but not all products and markets.

International standards and protocols governing emissions calculations and categorisations evolve, as do accepted norms regarding terminology such as carbon neutral and net zero.

Unilever[3]より

ユニリーバの移行計画:「指標と目標」

排出量の削減目標

ユニリーバは、短期・中期・長期の排出量削減目標を下記のように定め公表しています:

  • 短期:2025年までに、自社操業(スコープ1,2)の総排出量を70%削減(2015年比)
  • 中期:2030年までに、自社操業(スコープ1,2)の総排出量を100%削減(2015年比)
  • 長期:2039年までに、スコープ1,2,3全てにおけるネットゼロ達成

またこのほかに、バリューチェーンにおける排出量削減の中期目標として、2030年までに排出量を半減(2010年比)させることも掲げています。

ユニリーバの「移行計画」内のネットゼロ達成目標
Unilever[3]より
ユニリーバの「移行計画」内のスコープ1,2の削減目標
Unilever[3]より


カーボンクレジットを使用するが、具体的金額の記載はなし

上記「リスク管理」に記載しているように2039年までのネットゼロ達成のための施策の実行が道半ばであることを認識した上で、今後カーボンクレジットを活用していく旨を明記しています。具体的には、「埋め合わせ(compensation)」や「中和(neutralization)」に、自社の投資プロジェクトであるClimate & Nature Fundの10億ユーロの一部を投資していく方針です。

なお、あくまでも「ファンドの一部を使用する」との記載のみで、具体的にどれほどの金額を充当するのかについて言及はありません。

Neither have we committed to a defined compensation pathway. However, our brands may invest in compensation and neutralisation well ahead of 2039 through the €1bn Climate & Nature Fund, where those actions can be used to drive consumer preference.

Unilever[3]より

まとめ

以上、ユニリーバの「移行計画」のポイントについて解説しました。イギリスにて、大企業や金融機関に対して義務化が進んでいる「移行計画」。対応は決して容易ではありませんが、こちらの記事が担当者様のお役に立つのであれば幸いです。

なお次回の記事では、シェルの「移行計画」の開示について解説します。業界が違うこともあり、ユニリーバとは異なった特徴の計画を策定しています。更新まで少々お時間を頂戴いたします。

リクロマ株式会社<br>
リクロマ株式会社

当社は「気候変動時代に求められる情報を提供することで社会に貢献する」を企業理念に掲げています。

カーボンニュートラルやネットゼロ、TCFDと言った気候変動に関わる課題を抱える法人に対し、「社内勉強会」「コンサルティング」「気候変動の実働面のオペレーション支援/代行」を提供しています。

執筆者プロフィール

  • リクロマ株式会社代表。2017年5月より、PwC Mexico International Business Centreにて日系企業への法人営業 / アドバイザリー業務に携わる。2018年の帰国後、一般社団法人CDP Worldwide-Japanを経て、リクロマ株式会社(旧:株式会社ウィズアクア)を創業。大学在学中にはNPO法人AIESEC in Japanの事務局次長として1,700人を擁する団体の組織開発に従事。1992年生まれ。開成中・高等学校、慶應義塾大学経済学部卒業。

  • 大学在学中より、国際NGOにて気候変動や“ビジネスと人権”などESG領域の活動を経験。大学卒業後はインフラ系研究財団にて気候変動適応策に関する研究へ従事する。企業と気候変動問題の関わりに強い関心を寄せ、リクロマ株式会社へ参画。