Last Updated on 2024年12月31日 by Moe Yamazaki
ブルーカーボンは、地球温暖化を防ぐCO2吸収源として注目を浴び始めています。
本記事ではブルーカーボンの概要・仕組み・グリーンカーボンとの違い・ブルークレジットについて解説いたします。
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ブルーカーボンとは?
ブルーカーボンとは、海洋生物によって吸収・貯留された炭素のことを指します。光合成によりCO2を吸収・貯留するため、大気中のCO2を一定期間除去する働きがあります。
生態系の大きさは小さいものの、吸収能力の高さが特徴的とされています。
そのため、パリ協定で定められた「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目的達成のための炭素吸収手段として注目を浴びています。
ブルーカーボンの仕組み
ブルーカーボンの仕組みは以下の通りです。
1, 大気に放出されたCO2が海水に溶け込みます。
2, 海洋生物が光合成でCO2を吸収します。
3, 海洋生物の死骸が海底に沈殿し、炭素が固定化されます。
4, 固定化された炭素は微生物の分解により、数百年〜数千年単位で再び放出されます。
このようにして、大気中のCO2が海洋の生態系の中に吸収・貯留されます。
海藻や海草を中心とした海洋生物は、成長過程で光合成を行います。その際に、陸上の植物と同様に光合成の材料としてCO2を吸収します。
ブルーカーボンとグリーンカーボンの違い
元々、両者はまとめて「グリーンカーボン」と呼ばれていました。しかし、2009年の国連環境計画(UNEP)の報告書において「ブルーカーボン」が定義されたことにより、分類がされました。
この章では、ブルーカーボンとグリーンカーボンの違いについて述べていきます。
以下、ブルーカーボンとグリーンカーボンの違いを表にしてまとめました。
主体の違い
ブルーカーボンは、海洋生態系の生物を主体としてます。炭素は海底の堆積物中に貯留されます。生態系の種類は主に海藻藻場・海草藻場・マングローブ・湿地・干潟の5種類です。
一方で、グリーンカーボンは陸上の植物を主体としています。炭素は植物の体内に貯留されます。生息地は森林・山林・草原・熱帯雨林など多岐にわたります。
また、ブルーカーボン生態系は陸上森林より10倍〜100倍小さいとされています(ESA, 2011)。
更に、ブルーカーボン生態系は急速に消失しています。UNEPの報告書『Blue Carbon』(2009)では、消失の割合は年間で2〜7%と試算結果が出ています。この割合は、熱帯雨林の消失率の4倍に相当します。
吸収量の違い
1年間の炭素吸収量は、海域全体で29億トン、陸域全体で19億トンにわたります。海域での吸収のうち、10.7億トンは光合成によって浅い海域で吸収されます。また、1.9億トンが海底堆積物中に貯留されます(国土交通省港湾局, 2023)。
また、ブルーカーボンはグリーンカーボンと比べ、同じ面積で最大5倍の吸収量があります。このように、ブルーカーボンの吸収能力の高さが注目される理由の一つです。
貯留期間の違い
ブルーカーボンは数百年〜数千年、炭素を貯留します。一方で、グリーンカーボンは数十年程度しか貯留することができません。
この大幅な期間の差は、貯留される環境から生じています。ブルーカーボンは海水に覆われており、固定化された炭素は無酸素状態で保たれます。そのため、微生物による分解速度が落ち、炭素は海底の堆積物中で長期間貯留されます。
一方でグリーンカーボンは大気にさらされているため、短期間で分解や酸化が行われます。そのため、数十年で再び炭素は大気中に放出されます。
ブルーカーボンの活用事例
ブルーカーボン研究会による、今後発生する浚渫土砂(注1)等を活用し、ブルーカーボン生態系の造成を行うと仮定した場合の2030年の吸収量見込みの試算では、
ブルーカーボン生態系による2030年の吸収量について、増減要因はあるものの、標準的な値では204万t-CO2/ 年、最大で約910万t-CO2/年という試算結果となった。なお、生態系全体のNPP(注2)残存率の解明、適切な造成手法等の確立、各種リサイクル用材の活用等により、吸収量はさらに増加する可能性がある。
※引用元:みなと総合研究財団「ブルーカーボンについて」
と述べられています。
このような効果の見込みから、CO2吸収源の増加が可能であることが分かります。つまり、ブルーカーボン生態系は消失し続けていますが、活用方法次第で脱炭素に向けた有効な手段となる可能性があります。
(注1)河川、港湾、運河等の底をすくい取る工事を行うことにより発生する、土砂や堆積泥などのこと。
(注2)一定期間内における、植物の光合成による炭素吸収量(総一次生産)から、植物自身の呼吸によって放出される炭素放出量を引いた値(純一次生産)のこと。
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ブルーカーボンを用いたクレジット
ブルークレジットとは
ブルークレジットとは、ブルーカーボンを数値化し排出量取引を可能にする仕組みです。クレジットの購入により、やむを得ない排出を相殺することが可能となります。
ブルークレジットとカーボンクレジットの違い
ブルークレジットと同様、排出量取引を可能とするカーボンクレジットも存在します。その違いを吸収の主体とクレジットの発行に分けて解説いたします。
吸収の主体の違い
カーボンクレジットは陸上の植物による吸収が主とされています。一方で、ブルークレジットは海洋生態系による吸収が主とされています。
クレジットの発行
カーボンクレジットは温室効果ガスの排出量削減や、森林等による吸収が可能となる事業の実施により発行されます。一方でブルークレジットは主にNPOや漁業組合が藻場や干潟等の保全・生育活動を行うことで発行されます。
Jブルークレジット
Jブルークレジットとは、JBE(ジャパンエコノミー技術研究組合)により認証・発行されるクレジット制度です。政府主導のJクレジットとは異なり、民間主導のボランタリークレジットに分類されます。
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(2022)によると、2020年度に1件、2021年度に4件、2022年度には21件クレジットが認証されています。昨年一気に認証数が増加していることから、注目度の高さが伺えます。
おわりに
ブルーカーボンは、活用や調査においてグリーンカーボンよりも遅れを取っています。
しかし、UNEPにより定義されて以降、吸収能力や貯留期間等の点から注目を集めています。日本でも活用が始まっており、今後も取り組みが加速することが予測されます。
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参考文献
[1]環境省(2023)「ブルーカーボンについて」
[2]環境省(2022)「炭素クレジット等について」
[3]ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(2022)「カーボン・クレジット制度(Jブルークレジット®)の状況」
[4]国土交通省港湾局「ブルーカーボンとは 」
[5]United Nations Environment Programme(2009) “Blue carbon: the role of healthy oceans in binding carbon“
[5]The Ecological Society of America (2011) “A blueprint for blue carbon: toward an improved understanding of the role of vegetated coastal habitats in sequestering CO2“
[6]ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(2022)「J ブルークレジット®(試行)認証申請の手引き- ブルーカーボンを活用した気候変動対策 -」
[7]みなと総合研究財団「ブルーカーボンについて」
[8]国土交通省港湾局(2023)「海の森 ブルーカーボン CO2の新たな吸収源」
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