Last Updated on 2025年10月31日 by Arata Imao

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本解説では、SBT FLAGについて、導入時の注意点や取得事例なども含めて、具体的に説明していきます。


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SBT FLAGとは

SBTとFLAGの概要

SBT(Science Based Targets)とは、科学的根拠に基づいて設定される温室効果ガス(GHG)削減目標のことです。
一方、FLAGは「Forest(森林)」「Land(土地)」「Agriculture(農業)」の頭文字を取ったもので、森林・土地利用・農業分野を対象としたGHG削減のための指標を指します。

世界全体のGHG排出量のうち、農業・林業・土地利用に起因するものは20%以上を占めています。このため、SBTでは特にFLAG領域での削減を重視しており、SBT FLAGの達成が重要な柱となっています。


GHG算定におけるFLAG領域の位置づけ

従来、GHG排出量の算定では、森林や草原などによる二酸化炭素吸収量は個別に考慮されていませんでした。
例えば、原生林を伐採して農地化する場合、農作物による吸収量から、もとの森林の吸収量を差し引いた値が正味の吸収量となります。事業用地として森林や草原を開墾する場合も、同様に既存の吸収量を考慮する必要があります。

SBTi(Science Based Targets initiative)の従来基準では、農林業や土地利用に関する排出要素は目標設定の対象外でした。しかし、森林や草原による二酸化炭素吸収量は非常に大きく、これらを含む事業活動を対象とするSBT FLAGは、世界のGHG排出量の20%以上をカバーしています。そのため、対象となる企業や算定範囲は非常に広く、多様な事業活動が影響を受けます。

FLAG目標の対象企業

SBT FLAGの対象となる組織は、森林・土地・農業分野において、土地集約型の事業活動をバリューチェーン上で行う、または関連する企業です。対象業種は広範囲に及び、森林・紙製品、食品・飲料といった分野の製造、流通、販売企業が含まれます。

具体的には、林業、木材、紙・パルプ、ゴムから構成される「森林・紙製品」セクター、食品の農業生産、食品・飲料の加工、食品関連の小売業、タバコ産業、さらに外食産業などが該当します。
また、これら以外の業種であっても、企業全体のGHG総排出量の20%以上がFLAG領域に関連する活動から発生している場合は、SBT FLAGの対象とされています。

FLAG目標の算定対象

FLAG関連の排出量は、Scope 1・2・3とは別枠で算定する必要があります。排出源は大きく、土地利用変化に伴う排出(LUC排出)と、肥料や機械使用による排出(非LUC排出)の2種類に分類されます。FLAG算定では、土地利用に由来する排出・除去を独立して管理し、スコープ排出量と混同しないよう留意することが重要です。

SBT FLAGの算定対象には、FLAG関連の排出量だけでなく、大気中のGHG削減量(実際には吸収量)も含まれます。森林減少や森林劣化による排出増加もFLAG対象に含める必要があります。さらに、畜産由来のメタン排出や、農場内で使用する機械によるCO₂排出など、農場管理に伴う排出も算定対象です。

これらの排出量および吸収量の算定には、原料生産地の畑や森林などに関する一次データの活用が推奨されています。特に森林の再生や管理方法の改善によって除去されるGHG量も、適切に算定・管理することが求められます。

排出量のカバー範囲

FLAG目標の算定では、土地集約型の事業活動に関連するバリューチェーン全体を対象とする必要があります。Scope 1およびScope 2においては、FLAG関連排出量の少なくとも95%をカバーすることが求められています。さらに、Scope 3については、67%以上の排出量を対象に含める必要があります。

目標の設定要件

SBT FLAG目標の設定にあたっては、以下の要件を満たす必要があります。

まず、「基準年」は2015年以降の任意の年から選択可能です。企業は、自社の事業活動を代表する年を基準年として選定することが推奨されています。「短期目標年」は、申請日から5〜10年以内の範囲で設定可能であり、可能であれば既存のSBT目標と同一の年限を用いることが望まれます。

また、企業は報告書において、排出量と除去量を合算したSBT FLAGとして目標値を報告しますが、基準年および報告年では、排出量と除去量を分けて報告する必要があります。


注意すべき点

SBTi目標との違い

企業は、FLAG領域とそれ以外の領域を明確に区分して管理する必要があります。FLAGに関連する排出・除去量には、農業、土地利用変化、林業を含む土地管理が含まれます。FLAG排出量が全体の20%未満の企業で、従来のSBTi目標のみを設定する場合は、その中にFLAG領域を包含する形で目標を設定します。ただしこの場合、森林などからの除去量はFLAG目標には含めることができません。

FLAG短期目標年は申請から最短5年、最長10年の範囲と定められており、FLAG対象企業は基準年・年次報告ともに、排出量と除去量を分けて算定する義務があります。


産品経路の利用

農業等の事業活動において、産出品の搬出経路を「産品経路」と呼びます。企業は、バリューチェーンにおける特定の産品がFLAG総排出量(除去量を除く)の10%以上を占める場合、その産品経路を複数利用することが認められています。

特に「森林・紙製品」セクターの企業は、木材・木質繊維の産品経路の利用が義務付けられています。ただし、ゴム製品関連企業のみはこの経路の使用対象外です。


土地管理と炭素除去・貯留の関係

企業は、FLAG関連のバリューチェーン以外にも、社有林や事業用地を保有・管理しており、これらもGHG排出・除去と密接に関連します。
炭素除去・貯留はSBTi基準上、残余排出削減の主要な手段とされており、FLAG領域においても以下の活動が対象となる可能性があります。

・森林再生
・アグロフォレストリー(森林農業)
・植林
・バイオ炭による炭素貯留 など

ただし、実際の該当可否はセクター特性や産品経路によって異なるため、各企業はこれらを踏まえ、合理的なFLAG目標を計画・設定する必要があります。

GHGプロトコルの「炭素除去ガイダンス」では、生物由来CO₂の地中貯留に関し、以下の要件が示されています。

・土地炭素ストック年間ネット変動量の算定が必要であること
・管理対象地内での炭素ストック増加または安定(自然撹乱による損失除外後)が実証されること

また、FLAG目標を設定する企業は、2025年末までに「森林減少根絶の宣言」を公表する義務があります。これはFLAG関連サプライチェーン全体を対象とした森林破壊ゼロの誓約であり、今後のSBTi審査において重要な判断基準となります。



まとめ

FLAG領域は、従来のSBT算定よりも一段複雑であり、土地・農業データの精緻な管理体制が求められる分野です。特に2025年以降は、森林減少根絶の宣言やFLAG特有の算定義務が課されるため、早期のデータ整備とインフラ構築が重要です。

一方で、FLAGへの対応は先進的な気候変動対策として、企業の信頼性・競争力を高める大きな機会でもあります。
今後、国内でもSBT FLAG認定企業は増加すると予想され、企業の中長期的な環境戦略において重要な位置を占めることになるでしょう。

#SBT

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参考文献

[1]Forest、Land and、Agriculture (FLAG):
https://sciencebasedtargets.org/sectors/forest-land-and-agriculture
[2]SBTi FLAGセクター ガイダンス・目標設定の動向:
https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/006/834/original/2FLAGSBT.pdf
[3]森林・土地・農業(FLAG)に関するSBT設定のアプローチ:
https://sustainability-navi.com/insight/021
[4]土地セクター・炭素除去ガイダンス:
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/1-10r_Land-Sector-and-Removals-Guidance-Pilot-Testing-and-Review-Draft-Part-1_JP.pdf
[5]温室効果ガス削減目標でSBT認定を取得 FLAG関連排出目標は国内初の認定:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002515.000012361.htm

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  • 2021年9月入社。国際経営学修士。大学在学中より国際人権NGOにて「ビジネスと人権」や「気候変動と人権」領域の活動を経験。卒業後はインフラ系研究財団へ客員研究員として参画し、気候変動適応策に関する研究へ従事する。企業と気候変動問題の関わりに強い関心を寄せ、リクロマ株式会社へ参画。

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