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CDP(Carbon Disclosure Project)は、2000年に設立された英国の非政府組織(NGO)です。本記事では、CDPの3つの柱の1つである「フォレスト」プログラムについて解説し、企業が森林リスクにどのように取り組むべきかを解説します。

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CDPフォレストとは

CDP(Carbon Disclosure Project)は、2000年に設立された英国の非政府組織(NGO)であり、投資家、企業、国家、地域、都市の活動やそれに伴う環境影響を評価・情報公開するプラットフォームを運営しています。

現在、CDPでは基軸となる「気候変動」のほか、「フォレスト」「水セキュリティ」の3つの分野で情報開示の枠組みを設けています。

CDPフォレストは、森林リスクコモディティの生産や使用を通じて森林に有害な影響を与える可能性のある産業の企業を対象にしたプログラムです。CDP気候変動版と同様に、提出された回答に対して、A、B、C、Dの4段階評価がされます。

設立の背景

森林は、二酸化炭素の吸収源であるとともに、さまざまな生物の生息地を提供することから、気候変動の緩和と生物多様性の保全において重要な役割を果たしています。

その一方で、温暖化による森林火災や人間によるインフラ開発、採掘産業、農業などの土地利用により、森林の減少・劣化が進行しています。World Resource Instututeの調査によると、毎年約300万ha以上の熱帯原生林が失われ、地球上の森林消失面積は過去50年間で約50%とされています。

こうした背景から、CDPはビジネスの森林破壊リスクを低減し、企業が適切に環境情報開示要請に応えることを目的とし、2013年に森林リスクコモディティに関連する事業活動を行う企業を対象にした「CDPフォレスト」を設立しました。

企業は、CDPフォレスト質問書を通じて、ビジネスによる森林破壊リスクや逆に森林劣化がビジネスに与える影響などを分析することで、世界中の機関投資家や購買企業、イニシアチブの環境情報開示要請に応じることができます。

また、近年では、政府や投資家が森林の減少・劣化に歯止めをかけるため、さまざまな場面でイニシアチブを取っており、今後もビジネスと森林保全の両立は重要なテーマになると考えられます。

政府間の動向

  • 2021年COP26:「森林・土地利用に関するグラスゴー・リーダーズ宣言(BLD)」が提唱され、世界140カ国が「2030年までに森林の喪失と土地の劣化を食い止め、再生に転換させる」という目標に署名しました。
  • 2022年COP27:BLD宣言の実行に向け、「森林と気候のリーダーズパートナーシップ(FCLP)」が締結され、次の年のCOP28から進捗確認が行われることになりました。

投資家の動向

  • 2021年COP26:投資家による「森林破壊に関連する投資の停止に関する誓約」が発表され、2025年を目処に牛肉、大豆、パーム油、パルプ、紙などの農産物による投融資ポートフォリオから森林破壊リスクを排除することが表明されました。

政府や投資家のこうした動向は、企業に対して事業活動の見直しや転換を求める流れへとつながっていき、CDPフォレストの存在感が以前よりも高まると予想されます。

スコアリング対象企業

CDPは、質問書対象企業を以下の基準をもとに決定しています。

森林影響評価では、バリューチェーンで、森林リスクコモディティである畜牛品、パーム油、大豆、木材、天然ゴム、カカオ、コーヒーの生産や使用を通じて、森林に悪影響を与えたり、影響を受けたりする可能性のある産業を特定します。

森林影響レーティングでは、森林に与えたり、受けたりする潜在的影響の大きさを5段階評価します。

売上閾値では、森林関連産業でビジネスをする企業の同活動からの売上を推定します。

例えば、森林影響レーティングと売上閾値レベルの両方が高い企業から順番に選定するなどです。

そのほかにも、Global Canopy’s Forest 500で特定された森林破壊で影響力を持つ企業や SPOTT indexに掲載されているパーム油の生産者や加工会社も対象になることがあります。

企業は、自社の事業に関連したコモディティのみへの回答が求められ、スコアリングの対象となります。(※2023年度では天然ゴム、カカオ、コーヒーはスコアリング対象外)

質問書内容

 CDPフォレストでは、サプライチェーンにおいて森林減少ゼロを達成するための必須事項として15の森林減少管理重要業績評価指標(KPI)が設定されており、それらのKPIに対するガバナンス、戦略、実施措置の実施程度が質問への回答を通じて、4段階評価されます。(D:情報開示に留まる、C:森林リスクと影響を認識している、B:森林課題に対して戦略がマネジメントされている、A:ベストプラクティス)

KPIは、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」「サプライチェーンエンゲージメント」「生態系の復元と保護」の大きく6つの枠組みで構成されています。

ここでは6つの枠組みで問われることを簡単に説明します。

ガバナンス

ここでは、森林関連問題が経営方針に反映されていることを適切に評価することを目的とし、取締役会レベルで森林関連問題の監督を実施しているか、期限付きマイルストーンと目標を含む全社的方針があるか、コミットメントが設定されているかなどが評価されます。

戦略

ここでは、長期的な事業戦略や財務計画の中に森林関連問題が組み込まれているのか評価されます。

リスク管理

ここでは、バリューチェーン全体をマッピングし、森林関連リスクのあるサイトを特定し、その所在書を報告することが求められます。

指標と目標

ここでは、製品が認証制度に準拠しているか、製品のトレーサビリティが可能か、生態系の改変や森林減少なしにコミットメントしているかなどが評価されます。

サプライチェーンエンゲージメント

ここでは、小規模農家への適切な農業慣行支援や資源採取の直接サプライヤーへの生態系の改変および森林の減少を抑止する金銭的/商業的インセンティブの付与、森林関連活動のイニシアチブ執行を評価します。

生態系の復元と保護

ここでは、生態系の回復と保護に焦点を当てたプロジェクトの支援や実施を評価します。

質問書の選択

質問書は、「SME質問書」と「完全版/一般セクター質問書」に分類されており、企業の年間売上の規模や過去の回答の有無によって選択できる質問書が異なります。例えば、CDP質問書への回答が初回であり年間売上が2億5000万ドル未満の企業は、SME版と完全版の両方から選択できます。一方、過去に回答経験があったり、初回回答企業でも年間売上が2億5000万ドルを超える企業は、完全版の対象となります。

日本企業の実態

CDPフォレストは、2013年に開始して以来、年々数多くの企業が回答してきました。2023年では、271社に質問書が送付され、そのうち105社が回答しました。最高評価のAリスト選定企業は、花王、王子ホールディングス、資生堂、積水ハウス、豊田通商、ユニ・チャーム、日清オイリオグループの7社でした。

コモディティ別の回答率は、それぞれ木材(62%)、パーム油(37%)、畜牛品(16%)、大豆(14%)となっています。

CDP「CDP フォレスト レポート 2023: 日本版」

業界別の回答率では、製造や素材、食品・飲料・農林関連が高くなっています。

 CDP「CDP フォレスト レポート 2023: 日本版」

まとめ

CDPフォレストは、企業が森林に関連する事業活動を行う企業が質問書への回答を通じて投資家などのステークホルダーに情報を開示し、スコアリングを受けられるため、森林破壊リスクを特定・排除し、社会からの要請に応えるための有効なツールと言えます。

政府や投資家は、ビジネスと森林保全に関係する新たな枠組みを次々と設けており、今後、企業は気候変動と同様に取り組んでいく必要があるでしょう。

#CDP

参考文献

[1] CDP「[企業向け] CDP2023フォレスト質問書 導入編」
https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/009/002/original/CDP_Forests_Japan_2023_0319.pdf
[2] World Resource Institute “Forest Pulse: The Latest on the World’s Forests”
https://research.wri.org/gfr/latest-analysis-deforestation-trends
[3] CDP「CDP フォレスト レポート 2023: 日本版」
https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/009/002/original/CDP_Forests_Japan_2023_0319.pdf

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Author

  • 加藤 貴大

    リクロマ株式会社代表。2017年5月より、PwC Mexico International Business Centreにて日系企業への法人営業 / アドバイザリー業務に携わる。2018年の帰国後、一般社団法人CDP Worldwide-Japanを経て、リクロマ株式会社(旧:株式会社ウィズアクア)を創業。大学在学中にはNPO法人AIESEC in Japanの事務局次長として1,700人を擁する団体の組織開発に従事。1992年生まれ。開成中・高等学校、慶應義塾大学経済学部卒業。

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