Last Updated on 2025年12月29日 by Moe Yamazaki
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SBTi「Net-Zero Standard V2.0(ドラフト案)」による認定基準の厳格化や、GHGプロトコルにおける算定区分の解釈において、ガイドラインだけでは判断しきれないケースも多く、サステナビリティ担当者の疑問は尽きないことと思います。
本記事では、リクロマ株式会社が開催した「SBT審査のプロセスやポイント解説セミナー」で寄せられた、サステナビリティ担当者からの実際の質問と、それに対する弊社代表加藤の回答を一問一答形式で公開します。
※本記事は、2025年10月〜11月時点の公開情報およびドラフト案に基づき解説しています。SBTiの基準は頻繁に更新されるため、最新情報は必ず公式サイトをご確認ください。
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SBT認定の基本的な概要が理解できる!
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1. SBTi Net-Zero V2.0 (Draft) の変更点
サステナ担当者の大きな関心テーマでもある、SBTiの新基準「Net-Zero Standard V2.0(ドラフト案)」に関する質問です。
Q:中小企業(SME)の認定要件はどう変わりますか?
A:従来の「SME枠」は廃止。「規模」と「地域」のマトリクスによる新区分(Category A/B)へ移行します。
Net-Zero V2.0(第2回ドラフト)では、企業を「Category A(要件:厳格)」と「Category B(要件:緩和)」に分類する枠組みが明確化されました。
特に重要な点は、これまでSME版を利用できていた企業でも、新基準では「Category A」に分類され、Scope3目標設定や第三者保証が必須になる可能性が高いということです。
区分の決定プロセス
以下の2つの要素を組み合わせて決定します。
- 企業規模: 売上、従業員数、資産、排出量に基づき「大・中堅・中小零細」に分類
- 地域区分: 所在地が「高所得国(日本含む)」か「中低所得国」か
企業規模の判定基準(しきい値)
| 規模 | 判定基準(AND/OR) | 世界全体の純売上高(米ドルまたはユーロ) | 従業員数 | 貸借対照表(総資産) | 排出量基準(Scope1+2) |
| 大企業 | 左記のいずれか1つ以上を満たす | 4億5,000万 超 | 1,000人 超 | – | – |
| 中堅企業 | 左記のうち2つ以上を満たす | 5,000万 〜4億5,000万 | 250 〜1,000人 | 2,500万 超 | – |
| 中小零細 | 排出量基準に加え、他項目を2つ以上満たす | 5,000万 未満 | 250人 未満 | 2,500万 未満 | 1万tCO2e 未満 |
最終的なカテゴリ判定(Category A or B)
日本は「高所得国」に該当するため、中堅企業以上はすべて「Category A」となります。
| 規模 | 高所得国(日本・欧米など) | 低所得国・低中所得国・高中所得国 |
| 大企業 | Category A | Category A |
| 中堅企業 | Category A(※ここが重要) | Category B |
| 中小零細 | Category B | Category B |
【ここがポイント】
日本企業の場合、「従業員250人以上」または「売上5,000万ドル(約75億円)以上」の規模になると、多くの場合「中堅企業」とみなされ、厳しい要件のCategory Aに分類される可能性が高くなります。従来の「500人以下ならSME」という感覚でいると要件未達になるため、再確認が必須です。
Q:V2.0におけるScope3目標の対象範囲は?
A:「排出量の多いカテゴリ」への特化案が提示されています。
- 【現行 V1.0】 Scope3全体の67%(短期)、90%(長期)をカバーする必要があります。
- 【新基準 V2.0案】 一律のカバー率ではなく、企業内で最も排出量が多いカテゴリー等に特化して削減目標を設定する案が提示されています。
Q:更新時(5年後)は新基準への準拠が必要ですか?
A:はい、2029年頃の更新時はV2.0(ネットゼロ目標)への移行が求められるでしょう。
例えば2024年に現行基準(V1.0)で認定を取得した場合でも、5年後の更新時にはその時点の最新基準(V2.0)が適用されます。
つまり、Scope1,2,3全てのネットゼロ目標設定および第三者保証が必須になると想定して、今から準備を進める必要があります。
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2. 申請戦略とタイミング:SBT申請は今やるべきか?
Q:SBT申請は、後になればなるほどハードルが上がりますか?
A:はい、難易度は上がり、実績のトラッキングも厳格化されます。
2025年11月時点で公表されているV2.0ドラフト案では、申請自体のハードルに加え、「実際に削減が進んでいるか」のトラッキング(追跡)が重視される方向です。
基準が更新される前に、早めに申請・着手することが有利になるケースが多いです。
Q:大企業版SBTを検討中ですが、V2.0を待つべきですか?
A:取得が必要なら、比較的容易な「V1.0」のうちに申請することを推奨します。
V2.0では第三者保証の必須化など、ハードルが確実に上がります。「2028年以降にV2.0が適用されるのを待つ」よりも、「今の基準で認定を取り、5年後の更新時にV2.0へ適応させる」方がスムーズに進められるはずです。
Q:事業のスピンオフ(分社化)を控えています。いつ申請すべき?
A:スピンオフ前に申請してしまうのが良いでしょう。
V2.0の開始時期が不透明なため、出せる時に出しておくのが得策です。
ただし、構造変化が確実な場合は、それを考慮した基準年・排出量であらかじめ目標設定することが望ましいです(後からの修正手間を省くため)。
3. 証書・海外拠点・審査対応
Q:SBTで認められている証書の種類は?「熱」にも使えますか?
A:はい、以下の証書はSBTおよびCDPにおいて、電力以外の「熱・冷温水」等のScope2削減にも利用可能です。
経済産業省の指針に基づき、以下の日本の証書はいずれもScope2ガイダンスに対応しているとみなされます。
| 証書の種類 | 電力への利用 | 熱・冷温水への利用 |
| 再エネ電力由来 J-クレジット | 〇 | 〇 |
| 再エネ熱由来 J-クレジット | ― | 〇 |
| グリーン電力証書 | 〇 | 〇 |
| グリーン熱証書 | ― | 〇 |
| 非化石証書 | 〇 | ※要確認 |
Q:国ごとのカーボンニュートラル目標の違い(例:中国2060年)は考慮されますか?
A:いいえ、考慮されません。SBTはグローバルで統一された「1.5℃水準」が適用されます。
中国やインドは国として2060年、2070年のカーボンニュートラルを目指しているから、現地子会社もそのタイムラインに合わせる、というロジックは、SBT認定においては通用しません。 所在国の政策目標に関わらず、以下の基準がグローバル一律で求められます。
- 短期目標(Near-term):
- Scope1,2において年4.2%以上の削減が必要です(5年以上10年以内の目標年を設定)。これは1.5℃目標に整合する削減経路です。
- ネットゼロ目標(Net-Zero):
- Scope1,2,3全体で90%以上の削減を行い、2050年またはそれ以前を目標年とする必要があります。
つまり、例えば所在国の政策目標が2060年であっても、SBT認定を取得する企業としては、「2050年ネットゼロ(および直近の年4.2%削減)」という、より野心的な国際基準に合わせてグループ全体の目標を設計する必要があります。
4. GHGプロトコル算定:カテゴリ4と9の区別
物流・輸送におけるScope3算定で、判断に迷いやすいもののひとつが「カテゴリ4(輸送・配送:上流)」と「カテゴリ9(輸送・配送:下流)」の区別です。
Q:荷主以外の視点で、カテゴリ4と9はどう区別すべきですか?
A:「輸送・物流サービスの代金を誰が支払ったか」で区別します。
GHGプロトコルでは、川上と川下の輸送と流通を、インバウンド/アウトバウンドの物流ではなく、「誰が第三者サービスの代金を支払ったか」で区別しています。
貴社が輸送・物流サービスの代金を支払った場合、排出量はカテゴリー4に配分する必要があります。一方、カテゴリー9は、第三者が支払った最終消費者までの輸送と流通の排出量を含む必要があります。
またカテゴリー4と9には、輸送だけでなく配送の排出量も含まれます。
追加で
・カテゴリー4では、倉庫や物流センターでの製品の保管(割り当てられた電力、冷房、暖房など)が含まれます。
・カテゴリー9については、倉庫や配送センターでの製品の保管、小売施設での保管も含まれます。
| 項目 | カテゴリ4 (上流) | カテゴリ9 (下流) |
| 定義 | 自社が荷主となる輸送・配送 | 第三者が荷主となる輸送・配送 |
| 判断基準 | 貴社(報告企業)が代金を支払った場合 | 第三者(顧客等)が代金を支払った場合 |
| 対象範囲 | 輸送および配送 | 輸送および配送(最終消費者まで) |
| 保管の扱い | 倉庫・物流センターでの製品保管(電力・冷暖房含む) | 倉庫・配送センター、小売店での保管(電力・冷暖房含む) |
5. FLAG(土地利用)・サプライヤーエンゲージメント
Q:FLAG排出量はScope3算定に含まれますか?
A:はい、調達品(カテゴリ1)などの土地利用変化も対象です。
紙や食品などの調達量に対し、土地利用要素を含む排出係数(例:Agri-footprint等)を使用して算定する必要があります。
Q:サプライチェーンエンゲージメント目標に「削減量」の記載は必要ですか?
A:いいえ、削減量の記載は求められていません。
必要なのは「対象カテゴリの排出量の何%(または調達金額の何%)をエンゲージメント対象とするか」の明記です。
商社機能を持つ企業など、自社での直接削減が難しい場合に有効な目標設定です。結果としてサプライヤーが削減すれば、それは自社のScope3削減実績として反映可能です。
リクロマのSBT認定取得支援
SBT認定においては、マニュアル通りの回答では乗り切れない「自社特有の事情」もあるかと思いますが、お気軽にリクロマにご相談ください。
回答書の作成や質問対応による認定取得だけでなく、内製化の実現まで伴走いたします。
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回答者:リクロマ株式会社 代表取締役CEO 加藤 貴大

大学卒業後、PwC Mexico International Business Centreにて日系企業への法人営業 / アドバイザリー業務に携わる。帰国後、一般社団法人CDP Worldwide-Japanを経て、リクロマ株式会社を創業。1992年生まれ。開成中学校・高等学校、慶應義塾大学経済学部卒業。
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SBTとは?その種類と申請プロセスをわかりやすく説明
【このホワイトペーパーに含まれる内容】
・SBTの概要と主な基準について説明
・短期目標とネットゼロ目標についてそれぞれ解説
・申請プロセスをステップごとに詳細に解説

参考文献
[1]SBTi Services「Developing the Corporate Net-Zero Standard Version 2veloping the Corporate Net-Zero Standard Version 2」
[2]経済産業省「気候変動をめぐる国際的なイニシアティブへの対応」
リクロマの支援について
弊社はISSB(TCFD)開示、Scope1,2,3算定・削減、CDP回答、CFP算定、研修事業等を行っています。
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