Last Updated on 2026年4月9日 by Moe Yamazaki
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世界的な気候変動対策が加速する中、食品や農業、製紙・パルプ関連の企業にとって避けては通れない重要テーマが、土地利用や農業セクターに特化したGHG排出です。GHGプロトコル上ではLSR(土地関連排出・除去)セクターガイダンスが発行され、SBT※1においても、FLAG※2 セクターが設けられています。
※1 SBT: 科学的根拠に基づいて設定される温室効果ガス(GHG)削減目標のこと
※2 FLAG: 「Forest(森林)」「Land(土地)」「Agriculture(農業)」の頭文字を取ったもので、森林・土地利用・農業分野を対象としたGHG削減のための指標
2026年3月、SBTiはFLAGガイダンスのバージョン1.2をリリースしました 。今回の改訂は、通常の更新サイクル外で実施された「緊急改訂」を含んでおり、実務に直結する「算定の厳格化」と「期限の柔軟化」が同時に行われています 。
本コラムでは、最新のFLAGガイダンスの変更点から、実務の核心となる「1%ルール」や「20年ルール」、そして「森林破壊ゼロコミットメント」の新たな期限設定について、コンサルタントの視点で詳しく解説します。
SBT FLAGに関する基礎知識はこちらのコラムをご覧ください。

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SBTi FLAGガイダンス v1.2:森林破壊ゼロ・コミットメントの期限延長と対象範囲の明確化
今回のバージョン1.2への改訂において、最も大きな実務上の変更は、「森林破壊ゼロ(No-Deforestation)」コミットメントの期限設定の変更です 。
①森林破壊ゼロ・コミットメント期限の柔軟化
従来のガイダンスでは、森林破壊ゼロの達成期限を「2025年12月31日まで」と定めていました 。しかし、期限日を過ぎたことにより、今回のv1.2では以下のように変更・延長されています。
- 新規FLAGターゲットを申請する場合:FLAG目標の提出日から2年以内、かつ遅くとも2030年12月31日までに森林破壊ゼロを達成する必要があります 。
- 既提出企業への配慮:すでに以前のバージョンに基づき「2025年」の目標を検証済みの企業は、基本的にそのままの目標を維持することが推奨されます。一方、目標を更新する場合は、 FLAG目標の更新申請から2年以内、かつ遅くとも2028年12月31日までに森林破壊ゼロ達成期限を再設定することが可能です 。この場合、これまでのコミットメントに対する進捗状況を自社サイト等で公表しなければなりません 。この公表には、実施にあたって直面した関連する障壁や、それらの障壁に対処するために計画している行動も含まれます 。
- カットオフ・デート(基準日):森林破壊の判定基準となる日付は、原則として2020年以前を維持し、それ以降の森林破壊は認められません 。
- コミットメント言語の自社サイトへの掲載:FLAG目標の承認から12か月以内に、企業はコミットメントの文言を自社のウェブサイトまたは自社で発行する政策文書等で公開する必要があります 。この公開資料には、主要な森林破壊関連コモディティの評価方法とその結果、およびコミットメントをどのように達成する計画であるかといった重要情報を含める必要があります 。
②森林破壊ゼロ・コミットメントの対象「1%ルール」
実務上、どの原材料までを「森林破壊ゼロ・コミットメント」の対象に含めるべきかという問いに対し、v1.2では具体的な閾値(1%ルール)が示されました 。
- 加工製品への適用: 購入した製品の中に、主要な森林破壊関連コモディティ(畜牛、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、木材)が製品重量の1%以上含まれている場合、その製品はコミットメント義務の対象となります 。
- 埋没した飼料のリスク: 単に原材料として含まれるだけでなく、食肉や乳製品の「飼料」として使われている対象コモディティも、この1%の判定基準に含まれます 。
FLAG排出の算定対象範囲
FLAGの算定対象は、主に「土地利用変化に伴う排出(LUC排出)」「土地管理排出(非LUC排出)」と「除去量」の3つに大別され、GHGインベントリを構成します。
①土地利用変化:20年ルール(線形割引)の仕組み
FLAG排出の把握において、多くの担当者が戸惑うのが土地利用変化(LUC)の算定方法です。SBTi FLAGは、IPCCのガイドラインに基づき、森林破壊による排出を「発生から20年間にわたって分割計上する」というルールを厳格に採用しています 。
例えば、自社が調達している農場が、15年前に森林を切り拓いて農地化されていた場合、その排出は現在も継続しているものとみなされます。
- 20年間のルックバック: 森林破壊が発生してから20年間、その総排出量を毎年均等に分割(線形割引)して、自社の排出量として計上し続けなければなりません 。
- 現在への影響: 今現在、その農場が森林を維持していても、過去20年以内の破壊履歴がある土地から調達している限り、企業のインベントリには排出が計上され続けます 。
これは、企業が「現在のサプライヤーが森林を維持しているか」だけでなく、過去20年の履歴まで遡って確認する「デューデリジェンス」の能力を求めていることを意味します。
②土地管理排出:農場ゲート(farm gate)までの全ての排出
非LUC排出には農場のゲート内で排出される全て※3 の土地管理農場管理に伴う排出が算定対象となります。具体的には、家畜の消化管内発酵や糞尿管理、稲作(湛水管理)に伴うメタン(CH4)排出、肥料の使用や作物残渣に起因する一酸化二窒素(N2O)排出などが含まれます 。また、農場内での機械使用や農場内のバイオマス輸送に伴うCO2排出も、土地管理インベントリの一部として網羅的に把握する必要があります 。これらは、排出係数や算定ツールを通じて、土地管理に伴う生物起源および化石燃料起源の排出として適切に計上することが求められます 。
※3 バイオマスエネルギー使用による排出は除く
FLAG排出の削減戦略と農家との共創
① リジェネラティブ農業の導入による炭素除去
FLAG目標では、土壌への炭素貯留や森林回復など、自社のサプライチェーン内での「炭素除去」を別途報告し、目標達成に算入できるのが大きな特徴です 。炭素除去・貯留はSBTi基準上、残余排出削減の主要な手段とされており、FLAG領域においても各種の「リジェネラティブ農業」が対象となる可能性があります。ただし、クレジット購入による「オフセット」は認められません 。
<リジェネラティブ農業の事例>
アグロフォレストリー:単一作物の栽培ではなく、多様な樹木と共に植えることにより、生態系の保全と炭素貯留を両立させます。
輪作・間作:同一の圃場で異なる種類の作物を順番に、あるいは同時に栽培することで、土壌の養分バランスを自然に整え、化学肥料への依存を減らしつつ、土壌の炭素貯留能力を維持・向上させることが可能です 。
不耕起栽培:土壌を耕さずに作物を栽培することで、土壌構造の破壊を防ぎ、土壌中に蓄えられた有機物の分解(炭素の放出)を抑制する手法です 。
統合型放牧:家畜の放牧を作物栽培や林業と組み合わせる手法(シルボパストゥールなど)です 。家畜の排泄物を天然の肥料として循環させ、草地の植生を適切に管理することで、土壌の炭素固定を促進し、畜産由来の排出を緩和する役割を果たします 。
<導入事例>
ネスレ: 「The Agriculture Framework」にて17の再生農業手法を定義し、主要原材料の調達の約27.6%で導入。
② トレーサビリティの確立と「森林破壊ゼロ」の証明
土地利用や森林破壊によるLUC排出を削減するためには、「どこで、誰が」生産したかを特定し、森林破壊が行われていないことを地図データ等で証明する必要があります。森林破壊ゼロを証明するためには、以下2種類のハイレベルなトレーサビリティ―システムの確立が求められます。
・サテライトやGPSを使った農場・農地レベルまで追跡可能な管理モデル
ガイダンスによると、排出係数は国レベルを最低限とし、可能な限り粒度の高い一次データを使用することが求められています。調達地域を詳細に特定することが重要であり、サテライトモニタリングや、農地の境界線を画定する「農場ポリゴンマップ」などを用いた管理がベストプラクティスとされています。
・ FSCやRSPOなど第三者認証による持続可能な管理の保証
認証制度を活用し、持続可能な管理がなされていることを第三者が保証する仕組みです。トレーサビリティの精度を高めるためには、マスバランス方式などの混合モデルから、より精緻な分別管理モデル(iPやSegregation)へとシフトしていくことが望ましいとされています 。
<トレーサビリティ導入の事例>
ハーシーズ: サプライヤー提出の農場ポリゴンマップ(境界線データ)によって、カカオ生産者の98%で森林破壊が管理されていることを開示。
③「公正な移行」:農家との共創
削減(森林破壊ゼロ)に取り組む際、単に排出量の多い地域を切り捨てる行為は、かえって世界全体の森林減少を加速させる「リーケージ(排出の他所への移転)」を招く恐れがあります 。最新ガイダンスでは、「公正な移行(Just Transition)」への配慮が明記されました 。
サプライチェーン・エンゲージメントの原則
- FPIC(自由で事前の十分な情報に基づく同意): 緩和策の実施にあたっては、農家や地域住民に対し十分な情報を提供し、自由な意思に基づく同意を得る必要があります 。
- 炭素権利の透明性: 農家が実施した炭素削減や除去の成果を適切に評価し、農家に透明性のある報酬が支払われる仕組みが推奨されています 。
- 産地シフトの回避: 即座に調達先を切り替えるのではなく、現在のサプライヤーや小規模農家と協力して改善を図るエンゲージメントが重視されます 。
おわりに:日本企業が今、優先すべきこと
2026年現在の視点で言えることは、「期限が2030年に延びた今こそ、算定と調達の『質』を抜本的に改善するチャンスである」ということです。
特に日本の食品・小売企業は、海外コモディティへの依存度が高い一方で、農場レベルの可視化が遅れている傾向にあります。企業にとっての重要なリスクを把握するためにも、トレーサビリティを構築していくことが急務となっています。森林や環境破壊のリスクは時に人権リスクとも深くリンクしており、企業は改善や是正のためのエンゲージメントについて、中・長期的にも考えていくことが望まれます。
複雑なGHG算定や、上流へのエンゲージメントに課題を感じている企業様も多いかと存じます。リクロマでは、FLAG目標の設定からサプライヤーエンゲージメントまで、一貫したサポートを提供しております。お困りの際は、ぜひご相談ください。
#SBT
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SBTとは?その種類と申請プロセスをわかりやすく説明
【このホワイトペーパーに含まれる内容】
・SBTの概要と主な基準について説明
・短期目標とネットゼロ目標についてそれぞれ解説
・申請プロセスをステップごとに詳細に解説

参考文献
[1]SBTi「FOREST, LAND AND AGRICULTURE SCIENCEBASED TARGET-SETTING GUIDANCE Version 1.2」 (March 2026)
[2]Nestle「The Nestlé Agriculture Framework」 (January 2024)
[3]Hershey「2024 Responsible Business Report Making Goodness Together」(2024)
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