Last Updated on 2025年12月3日 by Moe Yamazaki
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SBTi 企業版ネットゼロ基準 V2.0(第2次ドラフト)徹底解説|厳格化する要件と日本企業への影響
SBTi(Science Based Targets initiative)は、新たなネットゼロ基準の策定に向け、2025年3月と11月の2回にわたりパブリックコメントを募集しました。SBTiは基準作成プロセスをオープンにし、多様なステークホルダーの意見を反映させています。
本記事では2025年11月に公開された「SBTi CORPORATE NET-ZERO STANDARD VERSION 2.0 Draft for Second Public Consultation」に基づき、今後のSBT申請や維持において特に注意すべき変更点を解説します。
※注意 本記事の解説は2025年11月時点のドラフトに基づくものであり、企業版ネットゼロ基準V2.0の確定版ではないことをご了承ください。
適用時期の変更:1年後ろ倒しへ
V2.0の適用時期は、第1回コンサルテーションを経て変更されました。強制適用の開始時期が遅れる一方、既存目標の扱いについても新たな指針が示されています。
| 案 | 強制適用 | 既にSBT短期目標を持つ企業 |
| 1回目 | 2027年以降 | 短期目標セット済みの企業は2030年からV2適用25/26年目標設定の企業は2030年内に適用予定 |
| 2回目 | 2028年以降 | 既存の目標は目標期間の終了まで有効である見込み |
新たな企業カテゴリ区分(Category A / B)
V2.0では、企業を「Category A」と「Category B」に分類する枠組みが明確化されました。第2回ドラフトでは詳細な区分基準が示されており、特にこれまで中小企業版SBTを利用していた企業は、自社がどちらに該当するか再確認が必要です。
区分の決定プロセス
- 規模による分類: 排出量、資産、売上、従業員数に基づき「大企業・中堅企業・中小零細企業」に分類
- 地域による分類: 所在地が「高所得国」か「中低所得国」かで分類
- カテゴリ決定: 上記を組み合わせて Category A または B を決定
|
企業規模
|
基準(満たす条件)
| しきい値 | |||
| 排出量 | 貸借対照表 (米ドルまたはユーロ) | 世界全体の純売上高 (米ドルまたはユーロ) | 従業員数 | ||
| 大企業 | いずれか1つ以上の基準を満たす場合 | 該当なし | 該当なし | 4億5,000万超 | 1,000人超 |
| 中堅企業 | 少なくとも2つの基準を満たす場合 | 該当なし | 2,500万超 | 5,000万〜4億5,000万 | 250〜1,000人 |
| 中小零細 | 排出量基準と、他の基準のうち少なくとも2つを満たす場合 | 1万tCO2e未満 (スコープ1+2合計) | 2,500万未満 | 5,000万未満 | 250人未満 |
|
規模
| 地理区分 | |
| 高所得国 |
低所得国・低中所得国・高中所得国
| |
| 大企業 | A | A |
| 中規模企業 | A | B |
| 中小零細企業 | B | B |
【重要】Category A(大手企業)における5つの主要変更点
日本の大手企業の多くが該当すると想定される「Category A」において、実務への影響が大きい変更点は以下の通りです。
① ネットゼロへのコミットメントと「移行計画」の必須化
これまでは短期目標のみの設定も可能でしたが、V2.0ではネットゼロへのコミットメントが必須となります。 さらに、単なる宣言(コミットメント)にとどまらず、実効性のある「移行計画」の策定と、それに対する取締役会の承認が求められます。
移行計画に盛り込むべき要素:
・具体的な目標・アクションプラン
・ロードマップ
・前提条件
・化石燃料の段階的廃止計画
・財務計画
第三者保証の取得義務化(Scope 1, 2, 重要Scope 3)
従来、SBT認定において第三者保証は必須ではありませんでしたが、V2.0以降は必須要件となります。
対象: Scope 1, 2 および 重要なScope 3
保証レベル: 現段階では「限定的保証(Limited Assurance)」で可
頻度: SBTの取得・更新タイミングでの実施が想定されます
Scope1,2,3それぞれの削減目標が厳格化され、Scope2は2040 年までに 100% 低炭素電力の実現
11月の案でこの点が記載され、達成は非常に難しいと想定されます。これまではScope1,2で42%減、Scope3で25%減といった一律の目標設定が求められていましたが、企業版ネットゼロ基準V2.0ではScope1,2,3それぞれでの目標設定が求められます。
各Scopeの具体的な変更点
Scope 1:セクター別の線形削減
・これまでと同様に、セクターごとに設定された線形的な削減目標を設定する必要があります。
Scope 2:2040年までに「低炭素電力100%」
・2040年までに100%低炭素電力を線形的に実現することが求められます。
Scope 3:優先商品ごとの個別目標設定へ
・2050年(またはそれ以前)のネットゼロを実現するための短期目標の設定が求められます。
・各カテゴリーごとに目標設定案が提示され、例えば「カテゴリ1(購入した物品・サービス)」や「カテゴリ2(資本財)」ではScope 3総排出量の5%以上を占める「優先商品」ごとに、個別の目標を立てる必要が出てきています。
任意の抜き打ち検査の実施
これまでも削減実績の開示は毎年求められていましたが、SBTiでは削減が適切に行われているかのチェックは行われていなかったと想定されます。しかし、企業版ネットゼロ基準V2.0以降は任意で抜き打ち検査が実施できるようになるため、削減の進捗状況がより詳細にチェックされることになると想定されます。
まとめ:SBTi V2.0に向けた企業のネクストステップ
今回のドラフト案は、SBTが単なる「目標設定」の枠組みから、「確実な実行と説明責任」を問うフェーズへ移行したことを示唆しています。
正式決定はまだ先ですが、特に「2040年再エネ100%へのロードマップ検討」や「Scope 3データの精緻化(商品単位)」、「第三者保証の予算・体制確保」などは、早期に着手する必要があります。
#SBT
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【このホワイトペーパーに含まれる内容】
・SBTの概要と主な基準について説明
・短期目標とネットゼロ目標についてそれぞれ解説
・申請プロセスをステップごとに詳細に解説

参考文献
[1]Science Based Targets initiative (SBTi), SBTi CORPORATE NET-ZERO STANDARD VERSION 2.0 Draft for Second Public Consultation
リクロマの支援について
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