Last Updated on 2025年12月15日 by Sayaka Kudo
2020年10月のカーボンニュートラル宣言以降、様々な脱炭素政策が推進されてきました。そのうちの一つが経産省が主導するGXリーグです。
本コラムでは、GXリーグの概要や今後の動向について解説します。
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GXリーグとは
GXリーグとは、2050年時点でのカーボンニュートラルを達成するために必要な社会変革、GX(グリーントランスフォーメーション)に向けて、官民学が協働するプラットフォームです。
GXリーグのこれまでの展開
GXリーグの設立は、2020年10月に日本政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」に端を発しています。同年12月に「グリーン成長戦略」が公表され、その中で「成長に資するカーボンプライシングの検討」の指示がありました。翌年、2021年2月に経産省で議論が開始され、同年12月に「GXリーグ基本構想案」が公表されました。
2022年2月に発表された「GXリーグ基本構想」に440社の賛同が集まり、同年6月から賛同企業を交えた準備期間としての活動を開始しました。
2023年2月に、GXリーグの活動の実行のために必要であった「GX基本方針」と「GX推進法案」が閣議決定され、その年の4月からGXリーグの活動が本格的に開始されました。
その後は、トランジションボンドの発行やGX投資促進策など新たな金融システムの構築を行ってきました。

GXリーグの活動内容
GXリーグの活動は大きく4つに分かれています。ひとつずつ見ていきましょう。
1. 自主的な排出量取引 (GX-ETS)
4つの活動の中でも最も注目を集めているのがこの「排出量取引 (GX-ETS)」です。これは、CO2の排出枠をクレジットとして取引する排出権取引市場を創る活動です。
この取組みは、GXリーグ創設の発端となった2020年12月の「成長に資するカーボンプライシングの検討」にて指示されたものでもあり、GXリーグが最も注力している分野とも考えられます。
目的
この活動は、企業が自ら掲げる野心的な排出削減目標の達成に向けた排出量取引を実施し、社会全体で効率的な排出削減に貢献することを目的としています。
具体的な実施事項
GXリーグの排出量取引 (GX-ETS) は4つのステップに分かれています。「プレッジ」「実績報告」「取引実施」「レビュー」です。
- プレッジ(Pledge:目標設定): 企業が自社の温室効果ガス排出量削減目標(排出枠)を設定します。
- 実績報告(Reporting:実績報告): 設定した目標に基づき、年間の排出量実績を報告します。
- 取引実施(Trading:排出権取引): 排出量が多い企業は不足分を、削減に成功した企業は余剰分を取引(購入・売却)します。
- レビュー(Review:評価・改善): 報告された実績と取引状況が評価され、次年度の目標設定や取り組み改善に繋げられます。
2. 市場創造のためのルール形成
気候変動関連のルール形成のためのワーキンググループを発足し、GXリーグ事務局と参画企業が協働してルール形成に取り組む活動です。
新たなルールの下に市場が生まれるという前提のもと、ガイドラインや認証制度の開発を通して脱炭素経済を活性化させていく狙いがあるものと考えられます。ひいては、日本発の世界基準策定も視野に入れ、世界に向けた発信も行っていくようです。
目的
この活動は、産業の垣根を超えて、企業自身が新たな付加価値を提供に資する市場創造やルールメイキングを行うこと、並びに、ルールの設計だけではなく、実証と実装、さらには世界に向けて日本企業からもルール の発信を行うことを目的としています。
具体的な実施事項
GXリーグ運営事務局が設定するテーマ、もしくはGXリーグ参画企業が提案するテーマについてワーキンググループを組成し、ルールの策定に向けた議論を行っていくようです。参画企業からのテーマ募集は5〜6月頃を予定しています。
事務局提案のワーキンググループとしては2022年に「GX経営促進WG」が発足しました。
また参画企業提案のワーキンググループとしては、下記3つが既に発足しています。
- グリーン商材の付加価値付け検討WG
- ボランタリーカーボンクレジット用途・情報開示検討WG
- 日本で育つGXツリー開発と植林環境ビジネスWG
3. ビジネス機会創発
脱炭素経済におけるビジネス像やGXリーグの将来像など、比較的オープンな話題について議論をする場です。上記のような活動と比べると頻度も多くありません。
目的
この活動は、異業種間の対話により、2050カーボンニュートラルを前提とした経済社会システムにおける新たなビジネス像を創造し、企業における新規事業開発・研究テーマ開発等を促進することを目的としています。
具体的な実施事項
2022年度は参画企業が対話を通じて、2050年の経済社会システム像を描き、事業機会の創出のためのアイデア出しを行い、2023年以降はスタートアップへの資金提供やマッチングイベントが盛んに実施されています。
2024年度
- GX領域研究者とのマッチングイベント
- GXスタートアップとのマッチングイベント(ネイチャーポジティブ)
2023年度
- 第1回 消費者行動変容
- 第2回 サーキュラーエコノミー
- 第3回 CO2回収・利用技術
- 第4回 スタートアップからのGX調達
2022年度
- 未来像策定ワークショップ①
- 未来像策定ワークショップ②
- 未来像策定 活動報告
4. ベストプラクティスや実務上の課題を議論する「GXスタジオ」
気候変動対応のベストプラクティスや実務上の課題、その他企業の関心事項についてディスカッションや情報交換を行う場です。
目的
この活動は、GXに関連する各テーマに関する各企業の取組・ベストプラクティスの共有。2050年CNを実現するための連携や創発、共創を推進するための、企業間交流の促進を目的としています。
GXリーグ参加のメリット
排出削減量を効果的にアピールできる
上述の「国内排出量取引制度(GX-ETS)」への参加により、自社の排出削減量を効果的に対外アピールできます。GXリーグの排出量取引制度では2030年度時点での削減目標を掲げることになりますが、特に排出削減に積極的に取り組む企業にとっては、単純な削減量の報告にとどまらずクレジットを売却して価値を創出していることをアピールできます。
何より、クレジットは定量情報です。ESG関連指標とその進捗の開示が投資家や評価機関から要求される昨今、脱炭素への取組みとしてクレジット取引状況を開示することで、競争優位性の確保につながるでしょう。
自社に有利なルール形成ができる
「市場創造のためのルール形成」に参加することにより、自社提案の気候変動関連ルールを世界標準にできる可能性があります。ルール形成ワーキンググループは事務局だけでなく参画企業の発案で発足することもできるため、業界/自社ガイドラインを有している企業は、それを発展させる形で提案することも可能でしょう。
世界標準とまでならなくても、自社の取組みと整合性のある認証制度などのルールが策定されれば、それも競争力の源泉になりえます。
他社の担当者とサステナビリティ推進の意見交換ができる
「GXスタジオ」への参加を通して、自社が直面している実務的な課題について、他社の担当者と意見交換をすることができます。先述の通りGXスタジオでは、参画企業の取組に関するプレゼンテーションや与えられたお題へのグループディスカッションを通して、情報収集/意見交換ができます。
GXリーグ参画後に要求される活動
事業会社は、GXリーグに参画後、下記の項目へのコミットが要求されます。大きくは、1.自らの排出削減、2.サプライチェーンでの排出削減の取組、3.製品/サービスを通じた市場での取組、の3つです。
1. 企業の排出量削減
ここで求められるのは、①2050年時点もしくはそれ以前のカーボンニュートラルを長期目標として設定しその達成に向けた“トランジション戦略”を策定すること、直接排出(スコープ1)と間接排出(スコープ2)の2030年,2025年時点での削減目標と2023〜2025年度の排出削減量総計の目標を設定すること、②GX-ETSにおける排出削減目標の進捗や取引状況を公表すること、です。
なお、③GX-ETSにおける排出削減目標をより野心的なものに引き上げること、に関しては任意とされています。トランジション戦略”には、次の4つを含む必要があります:
(1) 2050年以前のカーボンニュートラル⽬標(⻑期⽬標)
(2) GX-ETSにおける国内削減⽬標もしくは⾃らが別途定める2030年度の定量的な削減目標
(3) 期限(2025年や2030年まで等)を定めた具体的施策
(4) 戦略の実⾏を管理・評価するためのガバナンス体制
弊社では、SBT目標設定の支援を提供しております。詳しくは「【支援事例】SBT目標の設定・承認申請支援」の支援事例記事をご覧ください。
2. サプライチェーンでの排出削減
ここで求められているのは、①自社製品の生産に関わるサプライヤーの排出量削減の支援を実施することもしくはその計画を策定すること、②自社製品のCFP(カーボンフットプリント)の表示等を通じてサプライチェーン下流の消費者に対する脱炭素への意識醸成を促進することもしくはその計画を策定すること、です。なお、③サプライチェーン排出(スコープ3)における2030年時点の削減目標の設定とその達成に向けたトランジション戦略の公表は、任意とされています。これも非常に難易度の高い取組みです。
弊社では、製品のLCA算定支援を提供しております。詳しくは、「LCAとは?実践的な算定ステップから活用事例まで紹介」をご覧ください。
3. 製品/サービスを通じた市場での取組
ここで求められているのは、①地域社会・教育機関・NGO等の市民社会等との対話の実施もしくはその計画を策定すること、②製品/サービスを通じた削減貢献や、クレジット等のカーボンオフセット製品を市場に投入することによってグリーン市場の拡大に貢献することもしくはその計画の策定、③脱炭素対策が講じられた製品の調達を通したグリーン市場の拡大に貢献することもしくはその計画の策定、です。
GXリーグの今後の動き
4つの活動領域について
「GX-ETS」は、2023年4月から8月まで参画企業要件に基づいて目標設定を行い、2024年9月から排出量実績の報告が定められました。取引市場については、2026年度から本格稼働する予定です。
「排出量取引制度 (GX-ETS)」に注目
排出量取引は、2026年の本格稼働は、一定規模以上の排出事業者を対象に義務化されます。企業は政府が定める基準に従って、割当量を算定し、割当量以上の排出を行った場合の排出枠の調達が義務化されます[4]。
現在参加を検討していない企業様も、GX-ETSの動向は注視しておく必要がありそうです。
まとめ
GXリーグは、排出量取引・ルール形成検討会・GXスタジオ・未来社会像対話、という4つの領域で活動をしています。参画企業はGXリーグでの活動を通じて、排出削減の効果的な対外アピール、自社の有利なルール形成、他社の担当者との意見/情報交換などのメリットを享受できます。
4つの活動領域のうち特に排出量取引制度は、この2月に閣議決定されたGX推進法のひとつとして位置づけられているように国の注力政策でもあるため、未参加企業にも一定程度の影響が想定されます。今後の動向に注目です。
WBCSD削減貢献量とは?算定から開示までわかりやすく解説
【このホワイトペーパーに含まれる内容】
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・国際標準となる可能性が高いWBCSD削減貢献量ガイダンスについて詳しく解説
・削減貢献量の開示について具体例を挙げてわかりやすく解説

参考文献
[1] GXリーグ事務局(2022)「100社以上での対話で描く、2050GX社会の未来像」
[2] GXリーグ事務局(2023)「GXリーグ参画企業に求める取組に関するガイダンス(事業会社向け)」
[3]GXリーグ事務局(2024)「ビジネス機会創発(スタートアップ連携等)」
[4]経済産業省 GXグループ 環境経済室(2025)「第1回事務局資料」
[5]経済産業省 GXグループGX推進企画室(2025)「我が国のGX政策の進捗について」

