Last Updated on 2024年4月4日 by Yuma Yasui

このコラムでは、セクターカップリングと呼ばれる取り組みについて紹介します。聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、企業のエネルギー利用における、今後のキーワードになる可能性があります。

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セクターカップリングとは

セクターカップリングとは、電力・熱・交通・産業といった複数の部門でのエネルギー消費を連携させ、再エネの効率的な利用を目指す取り組みを指します。セクターカップリングでは、部門(セクター)を統合(カップリング)させることで、様々なメリットを生み出すことが志向されます。

これまでのエネルギー利用では、基本的に各部門で供給が行われ、部門ごとに安定供給や効率性の向上が行われてきました。しかし、エネルギー利用のさらなる効率化、利便性の向上、気候変動対策、災害対策などのため、様々な部門を統合する動きが生まれています。ドイツやフィンランドなどでは、官民連携での先進的な取り組みが進められており、後述するように、日本国内でも、セクターカップリングの事例が見られるようになっています。

セクターカップリングの背景

電力部門から見た必要性

再エネには様々な種類がありますが、なかでも太陽光や風力は天候によって発電量が左右されるため、変動型再生可能エネルギー(VRE:Variable Renewable Energy)と呼ばれます。今後の電力供給においては、このVREを主力電源としていくことになります。また、エネルギー全体での脱炭素を進めていくため、電力部門に限らず、熱・交通・産業といった分野でも、VREによる電力のシェアを広げていく必要があります。

しかし、VREの欠点として、時間帯や季節によって変化する電力需要に対応した発電ができないことがあります。そのため、再エネを導入しながら電力需給を一致させるためには、「調整力」の確保が最大の課題となります。調整力とは、電力需給それぞれの量を柔軟に変化させる能力を指します。これまでの電力システムにおいては、主に火力発電が調整力を担うことで、電力の需給を一致させてきました。

しかし、再エネを大量に導入した電力システムでは、火力発電だけでは、十分な調整力を確保することができなくなります。また、CO2を大量に排出する火力発電は、できる限り利用を低減させなければなりません。よって、火力発電以外の調整力が求められており、セクターカップリングは、調整力確保の方法の一つなのです。

電化とデジタル化による相乗効果

電化との関係

これまでの交通部門や産業部門では、化石燃料が主なエネルギー源として使われていましたが、電力を動力源とする技術が導入されてきています。おおむね、電動化・電力化が進めば、それだけ電力部門との補完性が高まり、セクターカップリングが容易になります。例えば、電気自動車などであれば、電力を充放電することで送配電網における電力需給を調整することができます。これは、ガソリン車ではできなかったことです。

デジタル化との関係

セクターカップリングでは、これまで他部門として切り離されてきた部門を統合していくことになります。そのためには、それぞれの部門におけるエネルギーの需給を詳細に把握し、調整できなければならず、機器のデジタル化を伴わなければ、実現は困難です。

セクターカップリングは、エネルギーの供給側・需要側、家庭・業務などのあらゆる次元での取り組みが行われますが、どのような取り組みであっても、細かなエネルギー調整のためのデジタル技術(EMS)の活用が重要となります。

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セクターカップリングの方法

P2X

電力(Power)を別のエネルギーに変換したり、他部門で利用する「Power to X」と呼ばれる方法があります。[1]

  • P2H(Power to Heat)…電力から熱を作ることを指します。主にヒートポンプによって電気を熱に変換し、蓄熱槽で熱を貯蔵します。蓄熱槽は蓄電池よりも効率が良いとされ、エネルギーの需給調整での役割が期待されています。
  • P2G(Power to Gas)…電気から水素やメタンなどの気体燃料を作ることを指します。いまだ製造コストが高いという課題があるものの、季節をまたぐ期間の貯蔵ができること、電力では脱炭素化が困難な部門で利用できることなどの強みがあります。P2Gと同じ要領で液体燃料を作り出すP2L(Power to Liquid)という方法もあります。

V2X

電気自動車(Vehicle)が蓄えている電力を他部門で利用する「Vehicle to X」と呼ばれる方法もあります。[1]

  • V2G(Vehicle to Grid)…電力系統(送配電網)の混雑状況に合わせ、電気自動車が持つ蓄電池から充放電することで、電気自動車が調整力の役割を果たします。
  • V2H、V2B(Vehicle to Home, Vehicle to Building)…電気自動車は、家やオフィスなどの建物と連携させることでもメリットを発揮します。追加的に蓄電池を購入しなくとも、電力が足りない時間帯や価格が高い時間帯には、電気自動車によって電力を調整することができます。

国の計画等との関係

地域循環共生圏(ローカルSDGs)

地域循環共生圏は、環境省の第5次環境基本計画で示された政策方針です。地域特有の資源循環により、自立・分散型の社会の形成させる地域を指します。そのなかで、近隣地域等と共生しつつ、新たなバリューチェーンを作ることを理想形としています。

地域循環共生圏では、人・モノ・資金を地域内で循環させることで、自立・分散型の社会を作ることを目指しています。そこで、再エネの導入拡大を前提とする点や部門間の関係性を重視する点で、セクターカップリングとの親和性があります。[2]

Society 5.0(スマートシティ)

内閣府は、Society 5.0の定義として、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」という壮大な方向性が示しています。そして、Society 5.0を実践し、ICTなどの技術による諸課題の解決を目指す地域をスマートシティと呼びます。

このような方向性には、デジタル化を進展させることで、エネルギーを含めたあらゆるモノの需給を最適化させることも含まれ、セクターカップリングを推進することは、スマートシティを実現することにもつながります。[3]

自治体の取り組み

各自治体によるセクターカップリングなどの事業に対しては、地域循環共生圏やSociety 5.0を実現する取り組みとして、中央政府から補助金などの支援が行われるため、自治体レベルでの取り組みが活発に行われています。その際には、セクターカップリングが多様な部門を結びつけるという特性から、民間事業者や研究機関などと協力した事業を行うことになります。

(環境省資料[2]、内閣府資料[4]より弊社作成)

国内での事例

事例①:大成建設

大成建設は大学等の研究機関と共同で、EVを用いたセクターカップリングの実証実験を行っています。研究では、EVと電力を相互補完的にマネジメントすることで、エネルギー全体での利用最適化を目指した、複数の次元での実証実験が行われています。

大成建設は、脱炭素への貢献やエネルギー利用の利便性・効率性の向上といった目的を掲げており、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」の推進対象として採択されています。[4]

事例②:CHIBAむつざわエナジー

CHIBAむつざわエナジーは、道の駅・温浴施設・町営賃貸住宅(33戸)を地中化された自営線で結び、コジェネ(地元産天然ガス)、太陽光 、太陽熱を利用した電力・熱の供給を実現しています。

環境省の地域循環共生圏事例集に取り上げられるなど、先進的な取り組みとして注目を集めました。[5]

(国土交通省資料より)

企業にとってのメリット

(弊社作成)

エネルギーコスト削減

コジェネなどの既に確立されたセクターカップリングの手法を取り入れることにより、電力・熱といったエネルギー利用を効率化することができます。それにより、事業コストの削減という直接的なメリットが生まれます。

GHG排出の削減

省エネにより、GHG排出の主たる原因であるエネルギー消費を減らすことができます。また、効率的なエネルギー利用を促進することで、エネルギーシステム全体での再エネ拡大へ寄与することができます。

災害リスク等への対応

今後数十年は、気候変動の激化、大規模な地震災害の発生が科学的に予想されており、災害リスクへの対応は喫緊の課題となっています。セクターカップリングは、少ないエネルギーで様々なサービスを提供できることから、災害時にも役立つとされています。エネルギー供給が滞ったとしても、自らエネルギーの生産・貯蔵をする能力を持っていれば、設備を稼働させることができるのです。また、複数のエネルギー源を利用することができれば、一つのエネルギー供給経路が止まったとしても、他のエネルギー供給によって設備を稼働させることができます。

こういった対処能力(≒レジリエンス)の高さにより、豪雨・豪雪や熱波が深刻化したとしても、利用者の安全や事業活動の安定性を確保することができます。

付加価値

セクターカップリングによる事業展開を行うことは、企業のESG経営としてのアピールになります。エネルギーの脱炭素化の手段として注目されているセクターカップリングを取り入れることは、本質的な気候変動対策としての評価を得やすいでしょう。

なお、セクターカップリングを取り入れた商品を販売する事業であれば、商品に省エネやESGといった付加価値を付けることができます。

不動産業界では、セクターカップリングの取り組み事例が多く、再エネ設置や省エネだけでなく、セクターカップリングによる付加価値の獲得を目指している大規模事業者も多く存在します。

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参考文献

[1]戦略的イノベーション創造プログラム(2023)「地域エネルギー システムデザインの ガイドライン」<https://energy-sustainability.jp/media/files/JED-guidelines.pdf>
[2]環境省(2018)「第5次環境基本計画」
<https://www.env.go.jp/content/900511404.pdf>
[3]内閣府(2016)「第5期科学技術基本計画」
<https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/5honbun.pdf>
[4]内閣府「スマートシティガイドブック」(最終閲覧:2024年3月17日)<https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/sc-guid-book-0-125-2.html>
[5]大成建設「内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に採択」(最終閲覧:2024年3月17日)
<https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2024/240123_9883.html>
[6]国土交通省「むつざわスマートウェルネスタウン 拠点形成事業」<https://www.env.go.jp/content/900444226.pdf>

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リクロマ株式会社

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カーボンニュートラルやネットゼロ、TCFDと言った気候変動に関わる課題を抱える法人に対し、「社内勉強会」「コンサルティング」「気候変動の実働面のオペレーション支援/代行」を提供しています。

Author

  • 冨永徹平

    大学生。気候変動について公平性の観点から問題意識を持ち、学生団体で活動。中央省庁へのアドボカシーなどを行う。民主的意思決定や気候変動政策の在り方へ関心を持つ。大学では公共政策学を専攻する。