【気候変動関連用語がまるわかり!用語集はこちら】
2月7日にCDP2024の公式スコアが発表されました。2024年度は採点が厳格化された傾向にあり、来年度に向けて対応策を思案されている企業担当者の方も多いのではないでしょうか。本コラムでは、CDP Bスコアの意味と、気候変動テーマでA-スコア以上の獲得に向けた対応事項を解説します。
<サマリー>
・CDP Bスコアの意味
・CDPスコアと採点の概観
・気候変動A-スコア必須要件と対応事項
関連記事はこちら
⇒CDP A/A-スコア企業がスコアを維持するためのポイントを解説
CDP(気候変動質問書)の基本情報や回答メリット、ポイントを知る「CDP(気候変動質問書)入門資料」
⇒資料をダウンロード
気候変動のスコアをBからA-に上げるためには?
A-スコア以上では、必須要件および各設問の採点基準において、より高度な水準が求められます。設問毎の得点率を改善することに加えて、A-スコアの必須要件を充足することが重要です。
CDP Bスコアの意味
Bスコアの定義は、環境マネジメントに関する良好な行動を取っているものの、CDPにおけるベストプラクティスが実践されていないこととされています[1]。今後、A-/Aスコアを目指すためにはA-/Aスコアの必須要件の充足と、設問毎の得点率の改善が求められます。
※ベストプラクティスとは、戦略と行動における最善の実践を意味し、CDPではAスコア要件として定められています[2]。
次章では、背景となる各スコアレベルの位置づけと採点ロジックを解説します。
(出典:[1] CDP Full Corporate Scoring Introduction 2024)
(出典:[2] CDPスコアの意義・活用)
CDPスコアと採点の概観
各スコアレベルの位置づけ
CDPは、回答組織の環境スチュワードシップに向けた進捗について、情報開示、認識、マネジメント、リーダーシップの4つのレベルでの評価を行います。各スコアレベルの詳細は以下の通りです。
情報開示レベル(D-/Dスコア)
・報告の完全性を測定
・ほぼ全ての設問が評価対象
認識レベル(C-/Cスコア)
・環境課題と事業の関連性についての評価の包括性を測定
※初歩的なスクリーニングや評価の実施を測定するが、環境課題に対処するための行動を取ったことを示すものではない
マネジメントレベル(B-/Bスコア)
・組織が環境課題に与える影響を認識し、環境マネジメントに関連する良好な行動を取っているかを測定
リーダーシップレベル(A-/Aスコア)
・サステナビリティに関する戦略・行動においてベストプラクティスが実践されているかを測定
※ベストプラクティスとは、多くの場合 CDP が協働している機関によって策定された環境スチュワードシップを推進するための取組みを指す
採点ロジック
CDPの採点は必須要件の充足状況、各スコアレベルでの得点率、重み付けの3要素によって構成されています。
必須要件の充足状況
・C-~Aスコア帯で設定されている足切り要件
・該当スコア帯での必須要件を全て充足してはじめて、そのスコア帯の採点対象となる
各スコアレベルでの得点率
・設問毎に採点基準に基づいた採点を行った際に、各スコアレベルでどれだけ得点できているか
重み付け
・CDP独自のロジックに基づいて設問カテゴリごとに重み付けがされる
スコアレベルと得点率の対応表

A-スコアではBスコアと比較して厳格な必須要件の充足を求められる特徴があります。
次章では、気候変動A-スコアの必須要件充足に向けた対応事項を解説します。
A-スコア必須要件と対応事項
A-スコアの必須要件
A-/Aスコア企業は、サステナビリティに関する戦略・行動面ともに「ベストプラクティスを実践」していることを求められます。Bスコアまでは分析実施自体やリスク・機会の認識と開示で必須要件をある程度充足できる一方、、A-スコア以上では「実践」が求められます。このような背景から、A-スコア以上の必須要件は、実践の有無を問う内容になっています。
- リスクと機会
a.環境リスク・機会が事業戦略または財務計画に与えた影響を開示している。 - ガバナンス
a.取締役会の気候変動に関する見識および取締役会が気候変動に関する見識を維持するための仕組みを開示している。 - 金銭的インセンティブ
a.1人以上のCxO以上(管理職レベル基準に記載されているC-suite以上)の役職者または取締役に、気候変動関連課題に関する金銭的インセンティブを支給している。 - 公共政策エンゲージメント
a.気候変動課題に関する公共政策へ直接的または間接的な関与活動を実施している。※日本企業では、日本経済団体連合会や業界団体などを通した政策への関与を根拠に実施ありと回答するケースが大半である - 気候移行計画
a.1.5℃に沿った移行計画を策定しているまたは2年以内に気候移行計画を策定する予定である。 - スコープ1,2排出量の開示
a.報告年のスコープ1排出量を開示している。
b.報告年のスコープ2排出量を開示している。 - スコープ3排出量の開示
a.「事業活動に関連性があり算定済みのカテゴリ」および「事業活動に関連性はないが算定(推計)済みのカテゴリ」すべてに対して、基準年のスコープ3排出量を開示している。
b.報告年のスコープ3に関して、少なくとも一つのカテゴリを算定開示している。 - 第三者検証
a.スコープ1,2排出量の95%以上について第三者検証を取得している。
b.スコープ3排出の少なくとも1つのカテゴリで第三者検証を取得している。 - 排出削減目標
a.SBT認証を取得した削減目標を開示しているか、または以下の基準を満たすニアタームの排出削減目標を開示している。
i.組織全体(=連結範囲全体)を適用範囲としている。
ii.スコープ1と2の基準年排出量の95%以上が目標の対象となっている。
iii.目標達成日が目標設定日から5~10年以内となっている。
※セクター別質問書に回答する企業には、追加の必須要件事項も存在します。
次章では、スコープ3排出量、第三者検証、排出削減目標についてより具体的に解説します。
具体的な対応事項
スコープ3排出量の算定
スコープ3排出の算定では、事業活動に関連するカテゴリを全て算定することが原則求められています。算定困難である場合は、その合理的な理由を開示する必要があります。算定除外とする場合は、可能な限り推定を行った上で除外を明示することが望ましいとされています。事業活動に関連しないカテゴリについても、関連性がない旨を合理的に説明する必要があります。
スコープ3排出算定の流れ
- 算定目的の設定
- 対象範囲・カテゴリの決定
- カテゴリ内で活動の特定・活動量の収集
- 排出原単位の特定と排出量の算定
スコープ3排出の算定式
活動量 × 排出原単位 のロジックが基本となります。Scope3 算定の詳細な手順はスコープ1,2,3とは?各スコープの詳細から算定方法まで解説をご参照ください。
第三者検証の取得
第三者検証の取得とは、自社で算定した排出量に対して検証機関による検証を得ることを意味します。
第三者検証取得のメリット
昨今のサステナビリティ情報の法定開示やスコープ1,2検証義務化に向けた動きの中で、第三者検証取得の重要性は高まっています。第三者検証を取得することは、長期的なリスク管理や競争優位性の確保、改善機会の発見などに繋がると考えられます。
法規制・基準への対応:法定開示やスコープ1,2における検証義務化への対応が求められる
サプライチェーンでの優位性確保:サプライチェーン内でのデータ共有の高まりから正確な数値が要請される
改善機会の発見:データの精度向上により排出削減の課題を特定し、効果的な対策を立案できる
第三者検証取得までの流れ
検証取得までの流れは以下の通りです。
- 排出量の算定
a.GHGプロトコル準拠の算定が一般的 - 検証機関による検証の実施
a.ISO14064とISAE3000などの規格に基づいて、検証機関が検証を実施
算定・検証基準の相関図

排出削減目標の策定
CDPでは排出削減目標についてSBT認証を受けることがベストプラクティスとされています。SBT認証を受けることでA-/Aランクの必須要件を満たすことができます。
SBT認証取得の概要
Science Based Targets(SBT)認証は、企業がパリ協定の目標に沿った温室効果ガス(GHG)排出削減目標を設定し、その妥当性をSBTイニシアチブ(SBTi)が認証する制度です。SBT認証には、短期(ニアターム)目標とネットゼロ目標とが存在します。
短期(ニアターム)目標:申請時から5年後~10年後を目標達成年とする排出総量削減目標
ネットゼロ目標:2050年までに自社のサプライチェーン全体の排出量を実質ゼロにする長期目標
ネットゼロ目標の設定は必須ではなく、推奨事項となっています。短期目標を策定することでA-/Aスコアの必須基準を充足することができます。
SBT認証取得の意義
SBT認証の取得には、1.5℃シナリオに整合した野心的な削減目標の策定が必要となります。SBT認証取得の意義はCDP評価の向上にとどまらず、以下のような意義も含んでいます。
機会損失の防止
CDP Aリスト企業に代表されるリーディングカンパニーは、自社のサプライチェーン排出量の削減を推進するために、サプライヤーへの要請を強めています。サプライヤーに対してSBT認証の取得要請を行う/義務付ける方針を採用している企業も増加傾向にあります。今後、購買要件や取引先選定基準に SBT保有の要件を追加する企業も増えてくる可能性もあります。
SBT認証の保有が環境基準を重視する大手企業や公共機関との取引において重要な要素となる可能性があるため、SBT認証取得は機会損失リスクを軽減する一助となります。
削減計画の明確化
SBT認証取得のプロセスでは、科学的根拠に基づいた具体的な削減目標が求められます。認証取得には 排出量の網羅的な把握および削減対象となる活動や削減施策の検討が必要となるため、申請過程で削減計画をより明確化できます。
野心的な姿勢のアピール
SBT認証は、企業のネットゼロに対する野心的な姿勢を示す側面もあります。ネットゼロに対する姿勢を社内外のステークホルダーに示すツールとしても有用といえます。
SBT認証取得までの流れ
SBT認証の申請と取得は下記のような流れで進みます。
- 目標設定の準備:スコープ1,2,3を網羅的に算定し、SBTiの基準に沿った削減目標を設定
- 申請書の作成と提出:「SBTi Corporate Target Submission Form」を英語で作成し、SBTiのTarget Validation Booking Systemを通じて提出
- 目標の検証:SBTiが提出された目標の妥当性を評価し、認定の可否が通知される
詳しくはSBT認定とは?種類や主なポイント、事例を分かりやすく説明をご参照ください。
終わりに
本コラムでは、CDP Bスコアの立ち位置と、気候変動でA-スコアを獲得するための必須要件および充足のための対応事項について整理しました。A-スコアではBスコアよりも厳格な必須要件が設定されており、対応の拡充が求められます。
参考文献
[1] CDP Full Corporate Scoring Introduction 2024
[2] CDPスコアの意義・活用
[3] CDP Climate Change Scoring Essential Criteria 2024
[4] JQA 一般財団法人 日本品質保証機構 環境・社会情報の第三者検証
お役立ち資料
CDP(気候変動質問書)とは?
【このホワイトペーパーに含まれる内容】
・CDPの概要やその取り組みについて説明
・気候変動質問書の基本情報や回答するメリット、デメリットを詳細に解説
・気候変動質問書のスコアリング基準と回答スケジュールについてわかりやすく解説

リクロマの支援について
当社では、CDP2024の回答を基に、設問の意味や次年度の方向性を研修形式でご支援しています。自由記述の添削や模擬採点を通じ、スコア向上に向けた具体的な示唆を提供します。また、「まるごとやり直し」の対応が必要な企業様にも対応可能です。CDPスコア向上に向けた具体的なアクションをサポートしますので、ぜひご検討ください。
⇒お問合せフォーム
メールマガジン登録
担当者様が押さえるべき最新動向が分かるニュース記事や、
深く理解しておきたいトピックを解説するコラム記事を定期的にお届けします。