【気候変動関連用語がまるわかり!用語集はこちら

気候移行計画(Climate Transition Plan: CTP)は、さまざまなサステナビリティ情報開示枠組みで要求されており、企業による気候移行計画策定の動きはここ数年で急速に進展しています。中でもCDPが要求する気候移行計画は、TCFDやSSBJ基準案が要求するものと重なる部分があるため、その内容を把握しておくとよいでしょう。

<サマリー>
・気候移行計画は「低炭素経済に移行するための戦略と具体的行動計画」
・CDPの気候移行計画は8つの要素があり、TCFDの開示項目の4つの柱と整合している
・気候移行計画の要素に関連するCDP質問書への回答を通じて、CDPが要求する水準を満たすことができる

TCFDが定義する移行計画についての解説はこちら
脱炭素に向けた「移行計画」の開示基準と開示例を解説

CDP(気候変動質問書)の基本情報や回答メリット、ポイントを知る「CDP(気候変動質問書)入門資料」
資料をダウンロード

さまざまな開示枠組みで要求される気候移行計画

「気候移行計画」は、グローバルな開示基準で求められている開示項目の一つです。CDP、TCFD、国際サステナビリティ基準審議会(以下、ISSB)などの枠組みでそれぞれ定義が異なります。

機関定義
CDP組織が 1.5 度経路移行の達成に取り組んでいること、およびそのビジネス モデルがネット ゼロ炭素経済においても関連性 (つまり収益性) を維持できることを投資家、サプライヤー、顧客、その他の主要な利害関係者に示すための重要なツール[4] 
TCFD低炭素経済への移行をサポートする一連の目標や行動を示す、GHG(温室効果ガス)排出量の削減などの行動を含んだ組織の全体的な事業戦略の一側面[7]
ISSB(IFRS案)温室効果ガスの排出削減などの行動を含む、低炭素経済への移行に向けた企業の目標、行動、または資源を示す、企業の全体的な戦略の側面[6]
(出所:[4]、[6]、[7]を基に作成)

これらの定義をまとめると、気候移行計画は「低炭素経済に移行するための戦略と具体的行動計画」と言い換えることができます。


CDPが要求する水準の気候移行計画とは

CDPは社会を低炭素経済へと推進する「移行」の具体的な定義や信頼できる移行計画の特徴を明示しています。

CDPは「移行」を下記の2点を満たす行動であると定義しています。
・以下の結果が追求される世界に整合したビジネスモデルを作ること
 ›世界の平均気温が産業革命以前より1.5℃上昇しないようにする
 ›自然生態系の健全性を回復する
・人々と地球のために長期的に機能し繁栄した経済の一翼を担うこと

さらに、CDPは「移行」を実現するような信頼できる移行計画には以下の5つの特徴があると定めています。

  1. 気候移行の戦略を実行に移すマイルストーンが設定されている
    例えば、1.5℃の世界に向かう組織の必要な行動として、5年から10年の科学的根拠に基づく短期目標(SBT)や1.5℃の道筋に沿った排出削減目標、さらには遅くとも2050年までにネットゼロを達成することを目標とする長期的なSBTの目標があるのが望ましい状態です。
  2. 検証可能で定量化可能なKPIを含んでいる
  1. 企業の既存の主流の資料(年次財務報告、サステナビリティ報告、全社的な事業戦略)に簡潔に統合されていて、説明責任メカニズムがある
  1. CDP策定の気候移行計画6原則を満たしている

 6原則とは、CDPが企業が信頼できる移行計画を準備する際に遵守すべきとする基本原則をいいます。

6原則説明
説明責任移行計画に役割と責任が明確に定義されている。取締役会と経営幹部が計画の実施に責任を負うことになっている。
2一貫性移行計画が事業戦略および財務計画に統合されている。
将来性2050年カーボンニュートラル実現に向けて短期と長期を考慮した計画になっている。特に、短期(先5年)目標が強調され、経営幹部から計画が支えられている。
時間的期限と定量性KPIは定められた時間枠で定量化可能である。
柔軟性と反応性移行計画が定期的に見直し・更新され、ステークホルダーからフィードバックされるメカニズムが存在する。
完全性移行計画が子会社を含む全てとそのバリューチェーンを網羅している。逆に、移行計画から除外されるいかなるものが組織および自然環境への重要な影響を持たない。
(出所:CDP Technical Note: Reporting on Climate Transition Plansを基に作成)
  1. 気候移行の主要な要素を含んでいる

CDPは、信頼できる移行計画の条件として8つの要素(ガバナンス、シナリオ分析、財務計画、協働・削減活動、政策への関与、リスクと機会、目標、スコープ1,2,3の年次検証)を設定しています。また、これらの要素は、TCFDの4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)と互換性があると認められています。

CDP基準の気候移行計画の8要素TCFDの4柱
ガバナンスガバナンス
シナリオ分析

戦略
財務計画
協働・削減活動
政策関与
リスクと機会リスク管理
目標
指標と目標
スコープ1,2,3の年次検証
(出所:CDP Technical Note: Reporting on Climate Transition Plansを基に作成)

CDP質問書を通じて気候移行計画をブラッシュアップ

CDP質問書では、全モジュールにわたって気候移行計画の要素に関する設問が出題されます。そのため、企業は関連する各設問に対して満点水準の回答を提供できれば、同企業が有する気候移行計画はCDP基準、ひいてはグローバルな気候関連開示基準の要求水準に達するものであると判断されます。

以下の表は、CDPが要求する水準の気候移行計画の構成要素と、関連するCDP設問の対応表です。

(出所:CDP2024コーポレート質問書概要 および CDP Technical Note: Reporting on Climate Transition Plans を基に当社作成)

例えば、気候移行計画で要求される「ガバナンス」はCDP質問書の設問4.1と設問4.3と関連しています。これらの設問は、環境問題の責任を負う取締役レベルの役員もしくは機関、および環境問題に関する実行責任を負う役職者または委員会に関するものであり、設問4.1では、監督・指導を担う取締役会に、設問4.3では経営・執行の責任を負う役職者または委員会にそれぞれ焦点が当てられています。ここを適切に回答することは、前述した気候移行計画の6原則の一つである「説明責任」があるという判断につながります。

気候移行計画を策定するメリットとは

当社では、「気候移行計画は必ず策定するべきか」など、策定意義に関するご質問を頻繁にいただきます。SSBJのような法規制の現行案では「気候移行計画が存在する場合のみ、当該移行計画の内容を開示する」と表記されており、任意のものと位置付けられています。

しかし、気候移行計画の策定は投資家や株主への情報開示のためだけでなく、企業自身が2050カーボンニュートラルに向けたビジネスモデルを検討し、実証するために役に立ちます。この際に、気候移行計画の策定をぜひご検討ください。

まとめ

本コラムでは、さまざまな開示枠組みで存在する気候移行計画の内、網羅性の高いCDPが要求する気候移行計画を解説しました。CDPが要求する水準の気候移行計画を策定するには、CDP質問書にある気候移行計画の中身を包含する設問に対して、満点水準の回答をすることが重要になります。

参考文献

[1]環境省「シナリオ分析の実施ステップと最新事例」
[2]環境省「2. シナリオ分析 実践のポイント」
[3]CDP コーポレート完全版質問書 日本語仮訳
[4]CDP(2024) “CDP Technical Note: Reporting on Climate Transition Plans”
[5]CDP(2024) “Technical Note on Scenario Analysis” 
[6]Sustainable Stock Exchanges (2024) “Transition Plans”
[7] TCFDコンソーシアム(2024)「移行計画ガイドブック」の概要

お役立ち資料

\移行計画について知る!/

移行計画概要具体的な事項開示事例について理解できるホワイトペーパーです。

リクロマの支援について

当社では、CDP2024の回答を基に、設問の意味や次年度の方向性を研修形式でご支援しています。自由記述の添削や模擬採点を通じ、スコア向上に向けた具体的な示唆を提供します。また、「まるごとやり直し」の対応が必要な企業様にも対応可能です。CDPスコア向上に向けた具体的なアクションをサポートしますので、ぜひご検討ください。

お問合せフォーム

メールマガジン登録

担当者様が押さえるべき最新動向が分かるニュース記事や、
深く理解しておきたいトピックを解説するコラム記事を定期的にお届けします。

Author

  • 加藤 貴大

    リクロマ株式会社代表。2017年5月より、PwC Mexico International Business Centreにて日系企業への法人営業 / アドバイザリー業務に携わる。2018年の帰国後、一般社団法人CDP Worldwide-Japanを経て、リクロマ株式会社(旧:株式会社ウィズアクア)を創業。大学在学中にはNPO法人AIESEC in Japanの事務局次長として1,700人を擁する団体の組織開発に従事。1992年生まれ。開成中・高等学校、慶應義塾大学経済学部卒業。

    View all posts