Last Updated on 2025年3月13日 by AmakoNatsuto
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これまでの気候変動対応
御社では、これまで気候変動対策について、どのような取り組みをされていましたか?
これまで気候変動に関する具体的な対応は全く実施してきませんでした。
品質面では、ISOの品質マネジメントシステムにおいて一般産業用と医療機器用の2種類取得していますが、ISO14001などの環境に関する認証については、これまであまり積極的には取り組んでこなかったのが実情です。
当社の工程の特性上、廃液が出ることはなく、排煙も出ません。唯一、PRTR等で届出が義務付けられているものとしては洗浄液のみです。そういった事業特性があったため、かえって環境に関する対応への意識が鈍くなっていたかもしれません。
CBAM対応の経緯
CBAMを知ることになったきっかけを教えていただけますか?
お客様からの要請からでした。当社の事業の割合は、おおよそ半分が国内で、半分が海外です。その海外の中の約3分の1がヨーロッパ向けで、全体で見ると売上の約15%程度になります。
ヨーロッパのお客様から最初にお話をいただいたのは、2023年11月、12月頃でした。「こんな制度が施行される」「データを提出してほしい」と、当たり前のように言われたのですが、私たちにとっては「これは何なのか」というところから始まりました。
ジェトロのウェブサイトなどを確認すると、制度の概要が掲載されていて「これは税金に関する制度なのだな」ということが分かりました。ただ、当社はEUへの直接の輸入者ではないため、当初は制度への対応の緊急性をあまり感じていませんでした。
2024年3月、4月頃にヨーロッパに行き、実際の状況を確認してみたところ、当時、顧客企業の購買部門にはまだ十分な情報が行き渡っていない状況でした。各社にはグリーン調達を専門的に担当する部署があり、そこで対応方針や具体的なアプローチ方法を検討している段階でした。それが2024年4月頃の状況でしたが、5月、6月になると状況が一気に変化しました。
ちょうどその頃、長谷川様に様々なアドバイスをいただきながら、必要なデータの種類や収集方法について検討を始めていました。長谷川様から提示されたスケジュールに基づき、お客様には「10月まで待っていただければ、しっかりとしたものを提出させていただきます」とお伝えし、準備を進めました。
実は、長谷川様から提供いただいた英語版のレポートをお客様に提出したところ、非常に感謝されました。通常、サプライヤーに対してここまで丁寧な言葉遣いをされることは珍しいのですが、「前向きに受け止めて協力してくれたことに非常に感謝する」という内容でした。実際には長谷川様の文面をそのまま活用させていただいたのですが、それだけ充実した内容だったということだと思います。
このことから、私たちの業界ではまだCBAM対応が十分に進んでいないのではないかと感じています。当社のような医療機器に使用されるステンレスチューブを製造している競合社の多くはヨーロッパ域外での製造が主と理解しています。そういう意味では、競合各社同じような状況に置かれているのだと思います。私たちとしては、業界の中でいち早く対応できたという自負があります。
お客様からの依頼の温度感は、一昨年11月の最初の時点と、6、7月頃に弊社が支援させていただいた時点で、どのように変化しましたか?
昨年前半は「申し訳ないが協力してほしい」という穏やかな要請でしたが、後半になると「早く提出するように」という、より強い要請に変わっていきました。もはやCBAM対応は当然のこととして扱われるようになりました。7月までは暫定的にデフォルト値を使用できる期間でしたが、12月以降はより厳密な対応が求められ、「デフォルト値70%をどう考えているのか」といった踏み込んだ質問も出てくるようになりました。早めに対応を始めていて本当によかったと感じています。

コンサルティング活用の背景
外部の力を借りることを、いつ頃から検討し始められましたか?
一昨年の年末にCBAMについて最初に聞いてから、1月から3月頃にかけて「CBAMとは何か」を社内で調査していました。ジェトロのページなどを見て全体像は掴めたのですが、その時点で既にお客様から「このフォーマットにデータを入れてほしい」という連絡が来ていました。その時に対応が厳しいと感じ、内部だけでは絶対に対応できないだろうと考えました。
少なくともある一定期間は、初速をつけてもらうような支援をお願いしたいと考えました。幸い、私たちが独学で学んだ範囲では、必要なデータは大きく「購入する材料」と「工程内部」の2つに分かれていることが分かりました。工程由来のものについては、曲がりなりにもエネルギーに関するデータが存在し、総務が毎月データを取ってくれていたので、なんとかなりそうでした。しかし、問題は膨大な計算式を含めて、何をどこから集めて、どう落とし込んでいけばよいのかという点でした。ここは外部の支援が必要だと判断し、確か4~5月頃から具体的な検討を始めました。
リクロマを知った経緯
弊社をご認識いただいた理由は何かありますか?
CBAM関連の会社をいくつか知っている社員に相談したり、弊社の担当者がCBAM関連でレクチャーやサポートをしていただける会社を何社かリストアップした結果、その中からリクロマ様を含めて2社にまずは相談して、どのようなサポートが可能か提案を依頼しました。
リクロマを選んでいただいた理由
リクロマを支援先として選んでいたいた際に決め手となった理由はなんでしょうか?
2社からご提案をいただき、検討した結果、リクロマさんの方が当社の実力レベルに合っていると感じたためです。具体的には「教える・レクチャーする」という点で特に優れていると思いました。もう1社は、既に気候変動対策について理解している前提でのコミュニケーションだったと感じ、具体的な削減方法など、より踏み込んだ内容を得意とされているように見受けられました。当社としては基礎から教えていただく必要があったため、長谷川様のような一つ一つ教えていただける方がいらっしゃるリクロマさんの方が適していると判断しました。
実際に話してみて、最初に話す前と話した後で弊社の印象はどうでしたか?
正直、始まる前の印象は特にありませんでした。というのも、環境系のコンサルティングを依頼するのは初めての経験でしたので、全く白紙の状態でした。「すごい人たちなのだろうか」という期待も、「胡散臭いのではないか」という不安もなく、ニュートラルな気持ちでむしろお話を聞くことができました。

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CBAM対応にあたっての社内体制
御社の中での実行体制、チームを組まれたタイミングについて教えていただけますか?
契約させていただいたのが6月から7月頃で、それと前後するタイミングで社内チームを立ち上げました。矢板工場と富士宮工場が地理的に離れているため、1人の担当者が行き来するのは現実的ではないと考えました。実測値データはそれぞれの工場で別の担当者が集計してまとめているため、そのデータを直接扱っている方々にチームに参加してもらうことにしました。
中間に別の担当者が入ることで温度差が生じたり、情報が正確に伝わらなかったりする可能性があるため、データを取得する担当者自身がその目的や活用方法を理解した上で参加することが重要だと考えました。
メンバーの皆様は、本当にアサインされてから初めて制度を知ったような状況だったと思いますが、最初にこれを実施すると言われたときの所感はいかがでしたか?
「また大きなことが出てきたな」という印象でした。ただ、内容を読んでいくとしっかり理解できるようになりました。
貴社内部で実施したこと
実際に皆さんに特にやっていただいたのはデータの収集だったと思いますが、そこの負担はいかがでしたか?
収集自体は、総務では元々集めていたデータを使っただけだったので、それほど時間はかかっていません。材料関係のデータも毎月まとめていたものがありました。
結局のところ、私たちはこれらのデータを生産性の観点から既に集めていたのです。例えば、ある月の電気使用量が極端に増えていれば「異常があるのではないか」「漏電しているのではないか」という観点で確認します。また、材料の購入量が極端に増えているケースでは「なぜそのような注文になったのか」を調査します。このように、品質問題や工程での無駄の発生、営業的な事情など、様々な要因を確認するために必要なデータとして収集していました。
データが非常に整理されていると見て思いましたが、そういった取り組みは以前からずっと継続されてきたものなのですね。
はい。企業活動をしている中で、毎月損益計算書を作成しており、各勘定科目のデータ集計を当然行っています。そのなかで費目を構成する内訳として、これらのデータは既に取得していましたので、それをうまく活用することができました。唯一特別にやったことといえば、色々なところにあるファイルを1枚のワークシートにまとめたくらいですね。
弊社支援の中で良かったこと・改善点
弊社の支援でよかったことと、もちろん改善点も含めてお伺いしたいと思います。率直なご意見をお聞かせください。
吉本様にも長谷川様にも多くの相談メールを送らせていただきました。例えば、取引先への要望を出す際に、専門的な観点から見て表現が適切かどうか確認するために、事前に様々な相談をさせていただいたりしました。環境関連の経験が乏しいため、どの表現が異なる解釈を招く可能性があるのか、いわば地雷を踏まないように慎重に確認する必要がありました。また、2024年版の工場のEUレポートについて、私なりの解釈で実施したものを見ていただき、添削いただけたことは非常に心強かったです。
改善点を挙げるとするならば、取引先から実数データが入ってきた場合の対応方法について現在気になっており、おおよその入力内容は想定できていますが、政府発表の係数やEUの規則など、様々な数値が更新された際の適切な反映方法に不安があるため、それらの更新情報をどのように把握すればよいのか、どのような情報源をモニタリングすべきなのかを知ることができればいいという点です。
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現在のご状況
実際にサプライヤー・取引先にデータ提供依頼をして、どんな反応がありましたか?
反応は大きく2つのパターンに分かれています。1つは「これは何ですか?」という、私たちが去年経験したような反応です。もう1つは「この部分はこのような解釈で正しいでしょうか?」というように、より踏み込んだ質問をしてくる場合です。
また、非常に専門的な質問が来るケースも多いです。これは私たちの材料供給の構造に関係していると思います。当社が直接取引のある供給者は主に電気を使用するだけで直接的な温室効果ガスの排出はありませんが、その先の上流の工程において排出量が最も大きいのです。
これらの大手メーカーは、おそらく様々な産業から同様の要請を受けていると思われます。また、CBAMとは別に、日本のCO2削減目標の対象企業でもあるため、既に対応を進めていると考えられます。彼らが計算方法について確認を求めてきた場合、その質問が中間の加工業者を通じて私たちに届くという流れになっています。
問題はその上流の会社、その間の取引先、自社の排出量、それぞれを合わせた総合的な数値を適切に算出できるかという点が課題になっています。
おそらくデフォルト値の問題は、この上流の会社が数値を提供できれば、排出量のほとんどがカバーできると思われますが、そのデータが御社まで到達するかどうかが課題ですね。
その通りです。例えば、今年10月の段階で、最上流の高炉メーカーからは排出量データが得られたものの、その間の工程を担当している企業からのデータがまだ揃っていないというケースも考えられます。その場合、報告フォーマットへの落とし込み方に課題が残ります。
電気使用のみであれば、直接排出と間接排出という区分けができますが、電気は間接排出に分類されます。現状、鉄鋼セクターでは直接排出が課税対象となるため、直接排出の数値さえ把握できれば、フォーマットへの記入方法に多少の課題は残るものの、本質的な問題はクリアできると考えています。直接排出の数値のみを変更するという方針で対応できるのではないでしょうか。
実際にどのようなデータが提供されるか確認してみないと、現時点で心配してもしかたありませんね。ただ、全てのデータが揃った後には、おそらく「毎年どの程度削減するのか」という次の課題が出てくるだろうと考えています。
御社の場合、生産工程の変更には様々な制約があるのですね。
はい。当社の製造するチューブは、医療機器の部品としてご使用いただいています。当社の工程変更がお客様の医療機器製品の品質に影響を与えるリスクが生じる可能性もあります。このリスクの大きさは当社では測りかねますので、お客様に伺うしかありません。医療機器は製品化に際して申請や登録、そのための評価といった様々なプロセスがあります。このリスクの大きさによってはお客様はこのプロセスを一からやり直さねばならなくなるかも知れません。これには、膨大な時間とコストがかかります。そのため、お客様側も工程の変更には非常に敏感です。
こういった背景から当社の製品製造においても同様に、お客様から工程の順序や使用する機械、製造方法について一度定めた方法を厳密に遵守するよう求められています。そのため「この工程をこれに変更します」というような変更を我々の一存で行うことはできません。小さな変更であっても、お客様への説明と承認が必要になります。
ヨーロッパのお客様だけでしたら、環境対策の観点から理解を得られる可能性もありますが、他の地域のお客様への影響も考慮する必要がありますね。
その通りです。前述の通り当社の生産工程の変更には大きな制約があります。これはヨーロッパに限らずどの国でも同様です。そのため工程変更は最終手段とし、それ以外の部分で「製品重量あたりの排出量」を削減することを考えねばなりません。当社のCBAMレポートのデフォルト値比率は非常に高いので、これをまず下げる事、つまりサプライヤー各社様からデータをいただける体制を作ることです。次にメーカーにとって基本的な事をしっかりやること、つまり生産のための投入リソースを上手く使うことや廃棄を減らすことでしょうね。例えば、アイドル時間を短くし稼働率を上げる方法であれば、リスクの変動は極めて少なく、制約の範囲内で対応出来るのではないかと考えています。
お客様からの要請の数は、支援中にも少し増えていたと伺っていましたが、その後も数は変わっていませんか?
数としてはそれほど増えていませんが、要請してくる企業からの要求は厳しくなってきています。企業によって温度差があるようです。最も厳しかったのは、四半期ごとのデータ提出を求められたケースです。具体的には、その四半期に当社が特定の顧客に販売した製品の重量ベースの数字を提出するよう要請されました。本来であれば顧客側で把握できるはずのデータですが、要請があった以上は対応せざるを得ず、最近はそのようなデータも提出できるよう準備を整えています。

今後の取り組み予定
御社にとって、排出量を下げるという観点では、どのような取り組みが可能そうでしょうか?
前述の理由により工程の変更には慎重を期す必要がありますが、当社の中で最も電力を消費する工程である電気炉の効率を上げる事が考えられます。CBAMで求めている数値は、製品1単位あたりの排出量ですので、仮に同じ電力消費量でもより多くの製品を作ることができれば、単位あたり排出量は減少することになります。例えば、現状電気炉には電源を入れたままにしているものの製品が流れていないタイミングがあります。この時間を有効活用できれば、消費電力量は変わらなくても生産量を増やすことができ、単位あたりの排出量を減らすことができるのではないかと考えています。
[企業紹介]
株式会社 富士精工
https://fujiseiko.com/ja/
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リクロマの支援について
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