「TCFDって何だろう」という状態からスタートし、GHG排出量の算定、CDPへの回答、そして有価証券報告書へのサステナビリティ情報の統合へ——。全国に店舗を展開するサービス業ならではの複雑な課題を抱えながら、約3年にわたりコンサルティング支援を活用してきた株式会社アートネイチャーのご担当者に、取り組みの背景と現場のリアルな声を伺いました。気候変動対応を開示のための業務から「経営を守る戦略」へと昇華させてきた経緯と、外部専門家との協働のあり方を探ります。
1.「TCFDって何?」からのスタート
加藤:3年ほど前に最初にお伺いした当時、御社はちょうどTCFDへの対応を始めるタイミングでした。全国に店舗を展開されているサービス業として、エネルギー管理や水資源の消費などは以前から把握されていたと思いますが、気候変動対応という文脈では当時どのような課題感をお持ちでしたか。
千光士様:2021年度当時、弊社はプライム市場に上場しており、コーポレートガバナンスコードへの対応としてTCFDに基づく開示の質・量を充実させることが明文化されていました。ただ、社内では『TCFDとは何か』というところから始まるような状況でして、専門的な知識を持つ者も周りにおらず、これは自社だけで進めるのは難しいと判断したことが、リクロマさんにコンタクトを取ったきっかけです。
当時、施設担当部門では経産省の指針に基づいて電力使用量のモニタリングを日常的に行っていました。ただ、それに排出係数を掛け合わせてGHG排出量を算出するという知識が全くありませんでした。弊社は労働集約型で多店舗を展開していますから、水道光熱費は固定費として常に目を光らせていたんですよ。おかげでデータ自体は整備されていましたが、そこからどう気候変動対応につなげるかがわからなかった、というのが正直なところです。
加藤:その点は私たちも非常に助かりました。データが全く整備されていない企業様も少なくない中で、御社はデータがしっかり揃っていたので、GHGの算定作業がスムーズに進みました。エネルギーデータの管理体制が整っていることが、気候変動対応を早期に軌道に乗せる上で大きなアドバンテージになっていたと思います。
千光士様:それは施設部門に伝えておきます(笑)。日々の業務でコストとして意識してきたことが、思わぬ形で役に立っていたということですね。
2. コンサルティング会社を選んだ理由
加藤:TCFD対応を皮切りに、CDP対応、削減目標の策定と、複数年にわたりご支援させていただいています。最初に複数社にヒアリングされたと伺っていますが、その中からリクロマを選んでいただいた背景をお聞かせいただけますか。
千光士様:いくつかの企業にヒアリングした中で、加藤さん自身がCDP出身という専門性の高さが一つの大きなポイントでした。気候変動・サステナビリティ分野のバックグラウンドをお持ちなので、情報の深さと正確さへの安心感がありました。加えて、弊社のように多店舗展開していたり水資源への対応が必要な業態の支援実績があることも確認できたことが決め手の一つになりました。
何より、加藤さんと長谷川さんが本当に丁寧に伴走してくださっています。わかりやすく情報を提供していただけること、密なコミュニケーションを取り続けていただいていることが、長期間にわたって継続している一番の理由です。気候変動の領域に特化しているからこそ、複雑な内容もかみ砕いて説明いただけるという点も大きいですね。

3. 支援を通じて印象に残っていること
加藤:スコープ1・2・3の算定やシナリオ分析、リスク管理など、具体的にどのような支援が助けになりましたか。
千光士様:まず、気候変動そのものの危険性や基礎知識のレクチャーから始めていただいたことが非常に助かりました。TCFDの戦略策定では、シナリオの定義が特に難しく、IEAのNZEやIPCCのSSPといった専門的なシナリオを自社だけではとても整理できなかったと思います。こういった世界的なシナリオを弊社の業態に引き寄せて整理していただけたことは、大きな価値でした。
定量面では、電力量と排出係数を掛け合わせた際の財務影響シミュレーションなど、前提条件を丁寧に設定した上でアウトプットを提供いただきました。普通の会社が自社だけでは到底揃えられない分析でした。また、GHG算定専用のフォーマットを提供いただき、それをベースに毎年算定を継続しています。毎年パラメーターも更新していただけるので、その細かなフォローがとても助かっています。
加えて、フィリピンの海外工場のGHG算定も対応いただきました。現地担当者が全く知識のない状態から、フォーマットに沿って算定できる状態まで導いていただいたことは特に印象に残っています。海外拠点への対応まで含めて一貫してサポートしていただけたことは、本当に心強かったですね。
4. 開示姿勢と社内の温度感
加藤:御社ではIR部門が軸となってサステナビリティ開示を進めていらっしゃいますね。有価証券報告書への情報開示についての御社のスタンスをお聞かせください。
千光士様:IR担当という立場上、会社全体を俯瞰して課題を広く把握しているので、法改正への対応範囲の判断や、開示情報の濃淡をつける感覚はある程度培われているかもしれません。弊社の上長は、統合報告書を別途作成するよりも、有価証券報告書に開示できる情報を全て掲載していこうというスタンスを取っています。サステナビリティに関する内容も、開示できるものはどんどん載せていくという方針のもと取り組んでいます。
加藤:有価証券報告書に積極的にサステナビリティ情報を盛り込むというスタンスは、法改正の動向とも合致していて非常に先進的だと思います。現場の温度感はいかがでしょうか。
千光士様:正直に申し上げると、データの収集・管理を行っているのは私と担当者ですので、現場では『依頼されたことに対応する』というスタンスが強いかもしれません。こちらから期限を設けてデータを依頼し、毎年の慣行として対応してもらっている状況です。ただ、後ほどお話しする気候変動の影響がリアルに業務に現れてきているので、現場でも少しずつ実感を持ち始めているとは感じています。
5. 気候変動が業績に与えるリアルな影響
加藤:近年の異常気象は、御社のビジネスにも具体的な影響が出始めていると伺っています。
千光士様:はっきりと影響が出ています。弊社はシニア層のお客様が多いため、台風や猛暑になると来店キャンセルが増え、業績に直接響きます。また、フィリピンの自社工場周辺で2024年末に台風が連続して発生し、サプライチェーンが影響を受けて製品の納期遅延が生じました。下請けからの素材調達も含めて工場全体が影響を受けるため、製品が完成しないんです。実際に第1四半期の業績発表でも触れざるを得ないほどの影響でした。
こうした実体験が積み重なることで、気候変動を自社のリスクとして強く実感するようになっています。2023年以降の有価証券報告書では、リスクの影響度と発生可能性を掛け合わせたマトリックスを導入し、自然災害に関わるリスクを最も影響度の高いリスクの一つとして位置づけました。リクロマさんとの取り組みがきっかけとなり、経営層の中でもこの3年間で気候変動リスクへの認識が大きく変わったと感じています。
加藤:サプライチェーンの納期遅延の背景に気候変動があるという認識が経営層まで届いているかどうかは、企業によって大きな差があります。御社のように有価証券報告書のリスク項目として明文化・優先度付けがされることで、経営判断の中に気候変動が組み込まれていくのは非常に重要なことだと思っています。
6. 今後のサステナビリティの展望
加藤:今後、御社が目指すサステナビリティの姿と、リクロマへの期待をお聞かせください。
千光士様:弊社のサステナビリティ基本方針は、企業理念である『ふやしたいのは、笑顔です。』のもと、持続可能な社会の実現と持続的な企業価値の向上の両立を目指すことです。その中でも環境・気候変動問題については、自然災害リスクとして最も重要な経営課題の一つに位置づけており、引き続き真摯に取り組んでいく必要があると感じています。
今年5月には新しい中期経営計画を発表する予定もあり、長期的な気候変動対応の方向性をどう位置づけるかという議論を進めているところです。毎年1回、気候変動に関わる取り組みを協議・決議する場も定着してきましたので、そうした場でしっかり報告しながら、引き続きリクロマさんに情報提供や伴走支援をいただけると大変ありがたいです。
企業情報
株式会社アートネイチャー
https://www.artnature.co.jp/
毛髪に関する総合サービスを展開する企業。オーダーメイドウィッグの製造・販売を中心に、増毛・育毛サービスやヘアケア商品などを提供し、全国のサロンネットワークを通じて顧客一人ひとりに合わせた毛髪ソリューションを提供している。
リクロマの支援について
弊社はISSB(TCFD)開示、Scope1,2,3算定・削減、CDP回答、CFP算定、研修事業等を行っています。
お客様に合わせた柔軟性の高いご支援形態で、直近2年間の総合満足度は94%以上となっております。
貴社ロードマップ作成からスポット対応まで、次年度内製化へ向けたサービス設計を駆使し、幅広くご提案差し上げております。
課題に合わせた情報提供、サービス内容のご説明やお見積り依頼も随時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
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