Last Updated on 2024年6月21日 by Moe Yamazaki
このコラムでは、気候変動対策における重要な指針であるデカップリングについて解説します。また、デカップリングのために、企業に必要な取り組みも紹介します。
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デカップリングとは
デカップリングとは、環境負荷の増加率を経済成長の伸び率よりも小さくすることを指します。これまでの経済では、大量生産・大量消費型の経済成長により、経済が成長した分だけ環境負荷が増えていました。しかし、今後は経済成長しつつも、経済活動あたりの環境負荷を減らすことが可能な経済への転換を進めなければなりません。この方針を近年では「経済と環境の好循環」と呼んでおり、ESG投資など、世界各国での気候変動などの環境課題への対応の方向性となっています。
デカップリング(Decoupling)という英単語は「分離」を意味しており、環境課題の文脈では、経済成長と廃棄物排出、GHG排出などの環境負荷を分離させるというニュアンスがあります。
環境課題の文脈以外では、「デカップリング」は国家間の貿易や投資を規制することで、国家間の市場を連動させないことを意味します。この意味においても、二つの市場を分離するというニュアンスがあるのです。
以下では、具体的な説明のため、主に気候変動対策に注目した解説を行います。
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2050年カーボンニュートラルとデカップリング
2015年のパリ協定締結により、世界各国は2050年までのカーボンニュートラルを目標としたGHG排出削減を進めています。しかし、2022年のデータでは、世界全体のGHG排出は未だ増加傾向にあります。[1]
また、カーボンニュートラル実現のためには、ただGHG排出の増加率を下げるだけでなく、排出自体を減らしていかなければなりません。経済成長とGHG排出が分離しているものの、GHG排出が増加している状況は相対的デカップリングと呼ばれる一方、GHG排出が減少していくことを絶対的デカップリングと呼びます。2050年カーボンニュートラルに向けたGHG排出削減のためには、絶対的デカップリングを起こさなければなりません。
日本国内のデカップリング
下の図からわかるように、日本国内では絶対的デカップリングが始まっています。コロナのパンデミックなどによって若干の上下はあるものの、GDPの増加傾向に対し、エネルギー消費とGHG排出が減少傾向にあります。[2][3]
企業から見たデカップリング
デカップリングを企業の視点から見ると、自社の売上を伸ばしつつ、事業によるGHG排出を削減していくことを意味します。
なお、デカップリングには、具体的には経済成長とエネルギー消費の分離、エネルギー消費とGHG排出の分離という二つのアプローチがあります。
世界全体のGHG排出のうち、化石燃料によるCO2排出が約3分の2を占めているなど、エネルギー分野からのGHG排出が気候変動の最大の原因と言えます[1]。そのエネルギー分野の規模を縮小することが、経済成長とエネルギー消費を分離するアプローチになります。また、化石燃料からの脱却などにより、エネルギー利用当たりのGHG排出を減らしていくことが、エネルギー消費とGHG排出を分離するアプローチに当たります。
ここまでの説明をまとめると、下の図のようになります。
以下では、デカップリングの二つのアプローチについて、企業における気候変動対策の観点から詳しく見ていきます。
経済成長とエネルギー消費の分離の方法
概要
経済成長とエネルギー消費を分離するアプローチは、企業から見れば、事業あたりのエネルギー消費を減らすことを指します。これには、気候変動対策という意義があるだけでなく、コスト削減などのメリットがあります。
省エネ(エネルギー利用の効率化)
高効率機器の導入などによる省エネは、事業拡大とエネルギー消費をデカップリングする基本的な手段となります。また、省エネ法や各自治体での条例に基づき、一定規模以上の事業者には行政への状況報告が求められているなど、省エネに取り組む必要性は高いと言えます。
省エネを進める方法については、各省庁や業界団体が作成するガイドラインを参考にすることができます。
コジェネレーション
コジェネレーション(コジェネ)とは、化石燃料を用いたエンジン、タービン、燃料電池などによる発電の際に、排出される熱を利用する仕組みのことです。電気と熱を同時に発生させるため、熱電併給と呼ぶこともあります。[5]
これにより、電気と熱のそれぞれの供給のために生まれていた環境負荷やコストを削減することができます。
エネルギー消費とGHG排出の分離の方法
エネルギー消費とGHG排出を分離するアプローチは、企業から見れば、排出係数を低減させることを指します。排出係数を低減させるには、排出係数がゼロである再エネから電気を調達することが最も有効な方法です。
その方法については、自社での発電設備保有、PPA、再エネ比率の高い電力プランの契約、証書購入などがあります。詳細については、環境省や自然エネルギー財団が作成したガイドラインをご覧になることをおススメします。
さらに、自社が保有する再エネ設備から売電する場合は、経済産業省が作成したガイドラインを参照できます。
その他の重要なアプローチ
電化
電化とは、化石燃料等を用いていた設備を、電気を動力とする設備に置き換えることです。
排出係数の低い電気の利用を伴った電化は、エネルギー消費とGHG排出を分離させることにつながります。また、電化やそれに伴うスマート化によって、エネルギー効率を高めることができれば、事業拡大とエネルギー消費を分離させることができます。
このように、電化は、デカップリングにおける両方のアプローチを含んでいるのです。
リジェネラティブ
リジェネラティブとは、事業等を通して、自然環境を再生(Regenerate)させるような活動を指します。サステナブルやデカップリングという文脈では、環境負荷をどれだけ減らすか、というネガティブな影響に注目する議論が主たるものです。しかし、リジェネラティブでは、自然環境に対するポジティブな影響を起こすことを目指す、という考え方の違いがあります。
農業などでは、事業としての蓄積があるものの、概念として多義的であることもあり、様々な産業に浸透するほどの広がりはありません。しかし、事業活動について検討する視点として、自然環境へのポジティブな影響を意識することの意義は大きいでしょう。
まとめ
デカップリングとは、環境負荷の増加率を経済成長の伸び率よりも小さくすることを指します。社会全体での絶対的デカップリングを推し進めるため、個々の企業においても、エネルギー利用の効率化や排出係数の低減に努めることが重要です。
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参考文献
[1]UNEP(2023) “Emission Gap Report 2023”.
<https://www.unep.org/resources/emissions-gap-report-2023>
[2]資源エネルギー庁(2023)「令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)」
<https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/>
[3]環境省脱炭素社会移行推進室、国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィス(2023)「2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値) 概要」
<https://www.env.go.jp/content/000128749.pdf>
[4]資源エネルギー庁(2019)「「CO2排出量」を考える上でおさえておきたい2つの視点」<https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lifecycle_co2.html>
[5]資源エネルギー庁(2018)「知っておきたいエネルギーの基礎用語~「コジェネ」でエネルギーを効率的に使う」
<https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cogeneration.html>
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