Last Updated on 2024年9月19日 by Moe Yamazaki

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CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)は、EUが定めた企業のサステナビリティ報告に関する新しい規制です。この記事では、CSRDの目的や具体的な要件、そして企業が対応すべき取り組みについて詳しく解説します。

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CSRDとは

CSRDは、正式にはCorporate Sustanability Reporting Directive(企業サステナビリティ報告指令)といい、2023年1月5日に発行されたEUのサステナビリティ開示規制です。

目的はEUにおけるサステナビリティ報告の一貫性を高め、金融機関や投資家をはじめとする関係者が比較可能で信頼できる情報を利用できるようにすることにあります。

またCSRDでは企業に求める事項として、以下の2制度を導入しています。

  • サステナビリティ情報の開示:環境、社会、従業員、人権などの分野における取り組みや影響について、第三者による保証を含めた情報を求める
  • ダブルマテリアリティ:自社の事業に対するサステナビリティリスクの影響(財務的マテリアリティ)と、自社の事業活動が環境や社会に与える影響(インパクト・マテリアリティ)の両方を考慮し、報告することを求める

CSRDについて詳しく知りたい方はこちら!
CSRD(EU企業サステナビリティ報告指令)の報告基準・開示要件

CSRDの法的基盤①EUタクソノミー

CSRDの元になっている法的基盤の一つとして、2020年6月に発表されその後も更新・拡張を続けているEUタクソノミーが挙げられます。

EUタクソノミーは企業の活動が環境的に持続可能であるのか、どのような性質を持って環境的に持続可能と定義づけられたのかを決めた仕組みで、企業が「グリーン」・「サステナブル」としている活動による売上高・設備投資・営業利益といったKPI(重要業績評価指標)の報告を求める仕組みです。

具体的には以下6つの目標に対して環境的に持続可能な活動を定義づけ、財務・非財務的な指標を持って開示することを定めています。

  1. 気候変動の緩和
  2. 気候変動への適応
  3. 水と海洋資源の保護
  4. 循環経済への移行
  5. 汚染の予防
  6. 生物多様性と生態系の保護

このうち「1.」と「2.」については気候委任法で、「3.」〜「6.」については環境委任法でそれぞれ定義づけられたものとなっています。

 CSRDは前述したEUタクソノミーが定める6つの目標に対して適格性と適合性を報告するものとなっています。

また、企業による環境活動がEUタクソノミーに適合しているかは以下の方法で見極められます。

  1. 企業活動が気候委任法や環境委任法に基づくものかを確認
  2. 企業活動が気候変動緩和に実質的に効果があるかを確認:6つの目標のうち1つ以上に対して実質的に貢献しているかを確認
  3. 企業が実施する活動が別の環境目的に害を及ぼさないかを確認
  4. 企業活動がEUが定める最低限の安全対策を実施しているかを確認
  5. 企業活動が全てのEU分類要件を満たしているかを適合性を確認

開示するKPIとしては以下のようなものが挙げられ、CSRDの報告に使う文章内で記載する必要があります。

  • 持続可能な収益の割合(EUタクソノミーに適合した的確な活動による売上/総純収益)
  • 持続可能な設備投資の割合(EUタクソノミーに適合した的確な活動による設備投資額/総設備投資額)
  • 持続可能な運用コストの割合(EUタクソノミーに適合した的確な活動による運用コスト/総運用コスト)

EUタクソノミーについての詳しい内容はこちら!
EUタクソノミーとは?EU加盟国や企業への影響を解説

CSRDの法的基盤②NFRD(非財務情報開示指令)

EUによるサステナビリティ情報の開示は、CSRD発行以前は、NFRD(非財務情報開示指令)によって制定され、EU域内を拠点にする従業員500名以上の上場企業と公益法人(銀行・保険会社)に対して求めていました。

NFRDでは2017年に非財務情報に対するガイドライン(NBGs:Non-Binding Guidlines)が、2019年に気候変動に対する情報開示を求めたガイドライン(Guidelines on reporting climaterelated information)が表明され、開示されるべき情報を定めていました。

しかしNBGs適用は任意であるなど、強制力のないガイドライン(レベル3)に止まってしまいました。

そのため、NFRDの仕組みでは情報開示に対する拘束力が弱く期待されたレベルの情報開示ができない、外部保証も求められておらず中立性に疑問符がつくという問題を抱えていました。

そこでCSRDでは、開示基準であるESRS(サステナビリティ報告基準)についてレベル2としてESG情報の開示を義務付けたほか、外部からの限定的補償も求められるようになりました。

またCSRDの適用範囲はEU域内の大企業・銀行・保険会社だけでなく、非上場企業や中小企業、EU域外企業の支店・営業所と、NFRDの約5倍とも予測されるほど多くなっています。

なお限定的補償の基準については2026年10月1日までに欧州委員会(EC)によって採択されるようになっています。

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段階的適用の概要

CSRDの適用時期は、企業の規模・本拠地によって4段階存在し、以下のように分類されます。

企業の拠点対象対象企業の規模開始会計年度報告年度
EU域内NFRD適用対象企業単一またはグループで従業員500名超2024年1月1日〜2025年
EU域内すべての大企業・グループ総資産2,000万ユーロ超
売上高4,000万ユーロ超
従業員250名超
2025年1月1日〜2026年
EU域内上場している中小企業以下の条件全てを2会計年度満たす企業
総資産35万ユーロ超
売上高70万ユーロ超
従業員11名以上
2026年1月1日〜2027年
※2028年1月1日より前に開始する会計年度については報告の免除も可能
EU域外EU域外企業のEU子会社・支店EU域内の売上が次のうちどちらかに当てはまる
・過去2期以上EU域内で売上高1億5,000万ユーロ超
・EU子会社が大規模企業・上場企業にあたる
・EU支店のEU域内における売上高が4,000万ユーロを超える
2028年1月1日〜2029年

各年度の具体的報告要件

CSRDでは、サステナビリティに対する以下3つの要件を報告するように対象企業に義務付けています。

  1. 環境:前述したようにEUタクソノミーの6つの目標(気候変動の緩和。気候変動への適応、水と海洋資源の保護、循環経済への移行、汚染の予防、生物多様性と生態系の保護)
  2. 社会:ジェンダー平等、同一労働同一賃金、職場環境、ワークライフバランス、人権保護、国連国際人権章典、労働における基本的原則および権利に対するILO宣言
  3. ガバナンス;企業活動、ロビイングなどの政治活動、ガバナンスの役割分担、内部統制、リスク管理

公表するべき非財務情報としては以下のようなものが掲げられています。

  • リスク/機会を含む戦略やビジネスモデル
  • 期限付き目標
  • 方針
  • 経営・監督機関などの役割、メンバーに適応されるインセンティブ
  • 必要な専門知識やスキル
  • デューデリジェンスプロセス
  • 主要なリスクとその管理方法
  • 事業およびバリューチェーンにおける負の影響の特定、防止、緩和などのための対応と結果
  • KPI

CSRDへの対応に間に合うよう、ご自身の所属先に応じて、開示できる情報はなるべく集めるようにお願いします。

日本企業のCSRDへの準備と対応策

当記事をご覧になられている方は大半がEU域内でのビジネスを展開中、または展開しようと考えている日本企業の所属かと思います。

以下に大手会計事務所・KPMGが示す3つの対応策と5つの項目をご紹介します。

参照

KPMG「欧州CSRD/ESRSの概要と3つの対応オプション

CSRDへの3つの対応策

企業が行うべきCSRDへの対応方法としては、以下3つの方法が考えられます。

  1. EU現地法人によるEU域内での対応
  2. 経過措置を利用してEU域内で対応
  3. 日本の親会社がCSRD、またはそれと同等基準でグローバルに対応

この3つのうちどれを選ぶかは、ご自身の所属先の企業の状況によります。

準備するべき5つの項目

続いて、準備しなければならない項目としては以下の5つが考えられます。

  1. 内部要因:人・組織・開示経験
  2. 同等性評価:日本同様、EUの評価ポイント
  3. SFDR(Sustainable Finance Disclosure Regulation):サステナビリティにあたる主要な負の影響(PAI:Principal Adventure Impact)情報の提供
  4. 外部要因:競合他社や市場からの期待
  5. 域外適用:2028年から始まる適用

このうち「1.」の内部要因については、CSRDで求められているサステナビリティ情報の開示に対応可能な人材や組織がどの場所にいるか、開示実務経験があるかという点が重要となります。大半の企業は本社に在籍しているかと思いますが、EU域内の子会社や支店にいる場合も考えられます。

「2.」の同等性評価は、日本の親会社がCSRDと同等基準でグローバルに対応する際に必要となる観点です。この場合、日本ではEUと同等のサステナビリティ報告基準の検討が進んでいない点やCSRDの報告基準自体も確定していない点などを考慮した上で進める必要がございます。

「3.」のSFDR(Sustainable Finance Disclosure Regulation)については主にEUの資産運用会社など金融機関に該当する決まりです。SFDR(Sustainable Finance Disclosure Regulation)は投資信託などの投資商品を販売する金融機関に対して、自らの投資意思決定がサステナビリティに主にどのような負の影響(PAI:Principal Adventure Impact)を与えるのかを投資家に開示する義務を与えています。域外企業ではCSRDが開示しているグローバルなサステナビリティ情報からPAIに関する情報を入手することが困難になる可能性もあるため、域内にネットワークを持っておく必要があることを示唆していると言えるでしょう。

「4.」の外部要因については、投資先がEU域内のグローバルコンペティターであっても、自社の子会社であってもEU域内に限らないグローバルなサステナビリティ情報を入手する必要があることを説明しています。

最後の「5.」の域外適用は前述したように2028年から始まるものではありますが、 CSRD適用当初に域内対応する場合でも、本社が域外企業であれば域外適用となるのでそのための準備をするべき、ということを意味しています。

なお2024年現在では、NFRD適用のEU域内企業を除けばCSRD適用までには数年あるため状況は流動的です。

様々なパターンに備えて準備するようにしましょう。

まとめ

CSRDの発表によりEU域内での事業では、単なる環境活動を実施するということだけではなく、環境活動から得られた利益やその活動による環境問題解決への貢献度など具体的な数値的目標を設定して活動を行う必要があります。

日本企業を含む外資系企業の適用は2028年1月1日開始の会計年度、報告は2029年とまだ時間的には残されているものの、環境活動の中にはデータを測定するだけでも多くの時間を要するものもあり、解決となると数年単位になることも珍しくありません。

そのためEU域内で活動している日本企業においては、現在のうちから数値的根拠を測定する外部団体との接触を図るなどの準備を進め、CSRDの運用が始まる際にスムーズに業務を遂行できるようにしましょう。

参考文献

[1] pwc「CSRD(企業サステナビリティ報告指令)対応支援
[2]EUR-Rex “egulation (EU) 2020/852 of the European Parliament and of the Council of 18 June 2020 on the establishment of a framework to facilitate sustainable investment, and amending Regulation (EU) 2019/2088 (Text with EEA relevance)
[3] pwc 「報告義務の対象が拡大――EUタクソノミー最新動向(1)
[4]EY「CSRD、ESRS適用初年度における経過措置(段階的導入)及びEUタクソノミーに準拠した持続可能な経済活動
[5]KPMG「欧州CSRD/ESRSの概要と3つの対応オプション
[6]環境省サステナブルファイナンス有識者会議「サステナブルファイナンスにおける情報開示 欧州等の動向とわが国への示唆
[7]日本総研「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)・欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の概要および日本企業に求められる対応
[8]JETRO「CSRD 適用対象日系企業のためのESRS 適用実務ガイダンス

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  • 2022年10月入社。総合政策学部にて気候変動対策や社会企業論を学ぶ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリによる国際的な組織での活動経験を持つ。北欧へ留学しサステナビリティと社会政策を学ぶ。

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