Last Updated on 2025年12月16日 by Sayaka Kudo
CDPは近年、他の非財務開示枠組みとの整合性の強化をしています。本コラムでは、CDP質問書の各モジュールの概要やスコアリング基準など昨今の変更点を交えてを詳しく解説します。
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モジュールとは
モジュールとは、英語で「要素」や「部品」を意味する言葉であり、CDPの文脈では企業に求める環境情報開示の質問項目群の分類を指します。モジュールは大きく1~6の統合モジュールと7~12のテーマ別モジュールに大別され、各モジュールは、異なる開示内容を求めています。
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1~6の統合モジュール
統合モジュールは、テーマ別(気候変動・森林・水セキュリティ)以前に聞かれる一般的な内容の設問を集約したものです。
モジュール1:導入
開示内容:企業・報告の概要
このモジュールで開示されるデータは、質問書全体を通して一貫している必要があり、報告年、報告バウンダリ、通貨などが含まれます。
モジュール2: 依存関係、影響度、リスク及び機会の特定、評価及び管理
開示内容:環境関連の依存と影響・リスクと機会を特定、評価、管理するための社内プロセス
このモジュールでは、企業が環境に関する依存・影響・リスク・機会をどれだけ把握し、どう評価・管理しているかが問われます。近年からは「依存度」と「影響度」に関する開示が強化されています。具体的な開示項目には以下が含まれます。
・環境的な依存・影響・リスク・機会の評価・管理プロセス
・それら相互の関連性やトレードオフ・相乗効果の評価
・優先すべき地域の特定
モジュール3: リスクと機会
開示内容:特定・評価したリスクと機会の詳細
このモジュールでは、各リスク項目・機会項目および財務影響額の開示に加えて、2024年以降は気候関連の物理・移行リスクに対する脆弱性や環境的な機会との当該企業の整合性について詳述する設問も新しく加わりました。
開示するリスク項目・機会項目は、自社にとって重大な項目のみを開示することが妥当です。重大な項目に関して財務影響額の算定まで実施し、企業の財務パフォーマンスに与える影響を明確化することで、自社にとっても対外的にもメリットがあります。
モジュール4: ガバナンス
このモジュールでは、依存関係や影響度、リスク及び機会に対する効果的でタイムリーなアクションを可能にするガバナンス構造と管理プロセスを持っているかどうか、また、環境課題がコーポレートポリシーやインセンティブに統合されているかどうかについて聞かれます。
外部とのコラボレーションや公共政策エンゲージメントに関する設問もこのモジュールに含まれ、外部エンゲージメントの効果的なガバナンスの重要性が強調されています。
環境課題の戦略的な目的と当該企業のコミットメントに整合した外部への影響に関するポリシーアジェンダを追及する活動を支えるメカニズムを委員会が持っていることが重要になります。例えば、以下の情報開示が求められます。
| 大項目 | 開示のポイント |
|---|---|
| 環境課題に関するインセンティブ | 環境課題と連動した金銭的インセンティブの内容や、全報酬に占める割合の開示が求められる。なお、CDPは非金銭的インセンティブの開示は今後求めない方針としている。 |
| 環境ポリシー | 気候変動を含む環境ポリシーの有無、適用範囲、具体的内容、公開方法についての開示が求められる。 |
| パブリックポリシーエンゲージメント | 気候変動・森林・水に関する政策や規制について、政策立案者や業界団体などとの関与の内容を説明することができる。 |
モジュール5: ビジネス戦略
このモジュールでは、当該企業の戦略に対し、リスク機会やシナリオ分析、移行計画や炭素/水価格がどのように影響を与えているかを開示する事が求められます。さらに、当該企業の資本的支出に関する意思決定は移行計画や戦略と整合している必要があります。当該企業は、バリューチェーン全体でステークホルダーとともにどのように環境課題に取り組んでいるかに関して開示することができます。例えば、以下の情報開示が求められます。
| 大項目 | 開示のポイント |
|---|---|
| シナリオ分析 | 気候変動や水リスクを想定したシナリオ分析の実施有無、前提条件、分析結果、頻度、対象期間、事業への影響と主な示唆を開示することが求められる。 |
| 気候移行計画 | 1.5℃と整合していない計画も含め、化石燃料拡大への方針、主要な前提条件や依存度、移行計画に対する進捗状況を簡潔に示す必要がある。 |
| 戦略・財務計画に対するリスク機会の影響 | 環境リスク・機会を経営判断や中長期戦略、財務計画にどのように反映しているかが問われる。 |
| 資本的支出(CAPEX/OPEX)の整合性 | EUタクソノミーを活用し、気候変動に関連するCAPEX・OPEXや収入、活動の適格性を開示することが可能。 |
| 環境外部性のプライシング | 内部炭素価格や内部水価格を設定しているか、意思決定に活用しているかが重要な論点となる。 |
| バリューチェーンエンゲジメント | サプライヤーとの環境面での関与方針、成功指標、優先順位付け、不遵守時の対応を開示することが求められる。 |
モジュール6: 環境パフォーマンス-統合アプローチ
このモジュールでは、環境パフォーマンス全体を通して、当該企業に関連性のあるパフォーマンスデータを見極めるために、テーマ別の環境パフォーマンスのモジュールの直前に設けられています。
また、IFRS S2との整合をとる中で、回答担当者が、統合アプローチの選択に対する合理的説明を開示できるようになっています。
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テーマ別モジュール
テーマ別は、気候変動、森林、水セキュリティ、プラスチック、生物多様性、金融サービスに分かれます。2025年はとくに大きな変更はありませんでしたが、除外に対する明記が厳格化された点は特筆に値します。
モジュール7: 環境パフォーマンス -気候変動
このモジュールでは、Scope1,2排出量の詳細に関する設問があります。排出量、目標、カーボンクレジットに関する質問の修正、とりわけ方法論的な詳細に関する情報や目標の目的と適用範囲などが挙げられます。
モジュール8: 環境パフォーマンス -森林
昨今の改訂におけるもっとも大きな変更点として、2024年度から森林破壊や土地転換を伴わずに生産されたことを示す DCF(森林減少・転換フリー) の状況や、その判断方法に関する情報開示が強化された点が挙げられます。また、調達量や生産量といった数量に関する情報についても、より分かりやすく、正確に示すことが求められるようになりました。さらに、家畜の飼料として使われる大豆など、間接的に森林減少と関わる原材料(embedded soy)についても、開示の対象とされました。
加えて、これまで品目ごとに個別に構成されていた質問書は、複数の関連する質問をまとめた構成へと見直され、全体の分かりやすさと一貫性が高められました。評価方法についても整理が進み、森林に関する評価は一つのスコアに統合される仕組みへと移行しました。
そのほか、森林に関する質問書全体を通じて、企業が守るべき基本的な考え方(Core Principles)の見直しや、国際的な責任ある調達の考え方に沿った定義に合わせる形で、設問内容や表現の調整が行われました。
モジュール9: 環境パフォーマンス -水セキュリティ
水セキュリティ質問書にほとんど変更はありませんが、データの質とユーザーエクスペリエンスの観点からの改良されました。具体的には除外項目、水ストレスを受けているエリア、農業コモディティ等に関する質問の修正があります。また主要な変更点としては、施設・設備レベルの情報と水関連の目標に関する質問のアップデートが含まれます。
モジュール10: 環境パフォーマンス -プラスチック
このモジュールは、プラスチックに関するベーシックなデータポイントで構成され、中小企業と公共機関を除くすべての企業が該当します。特に、プラスチックに関するハイインパクトセクターに対してはより幅広い質問が表示されます。プラスチック活動の生産・商業化のみならず、廃棄物および/または水管理活動、およびプラスチック関連活動のための金融商品サービスも該当するようになります。
モジュール11: 環境パフォーマンス -生物多様性
生物多様性質問書は、中小企業と公共機関を除くすべての企業に適用されます。これにより、企業は生物多様性と気候変動やその他の自然関連課題との関連性を認識することができます。
モジュール12:環境パフォーマンス -金融サービス
金融セクター質問書の変更点は、質問書の統合ではあるものの、IFRS S2やEUタクソノミーなどほかのスタンダードとの整合性強化も重要なファクターとなっています。
金融セクター質問書に回答する企業の中には、関連性のある生物多様性やプラスチックの質問(採点対象外)が適用される可能性もあります。2024年の質問書は、当該企業がGlasgow Financia Alliance for Net Zero (GFANZ)のもとでのコミットメントの進捗を開示する最適なメカニズムを持っていることを示す建て付けになっています。
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テーマ別スコアリング基準
CDPは引き続き気候変動、森林、水セキュリティのスコアを個別に聞きます。プラスチックと生物多様性はスコア対象外ですが、企業が環境課題に関して開示し始められるように割り当てられています。
CDPのスコアリング基準は2024年度にも公開される予定です。
→CDP2024回答にどう備えるべきか?スコアアップのポイントを解説
CDPは企業が次のスコアリングのレベルに進めるように追加的なチェック要件を適用する予定です。開示、認識、マネジメント、リーダーシップレベルを通して当該企業をスコアリングする際に使用される基準は、CDPの戦略に沿って進歩します。
気候変動
環境的な開示とパフォーマンスの観点から「リーダーシップ」と捉えることのできる開示とパフォーマンスの基準も変わってきました。
これまでのCDPの必須基準はAリスト要件しかありませんでした。しかし2024年からCDPは追加の必須要件 (essential criteria)を導入していきます。それにより、当該企業はそのスコアを次のレベルに上げるためにどんな要件を満たすべきかがわかるようになります。
これはCDPスコアの各レベルの開示のベースラインに一貫性を与えることになり、それによって当該企業がどこまで環境課題の評価と対応ができているのかを理解するために役立ちます。
気候変動のスコアレベル全体を通した必須条件の適用により、当該企業が適切な開示のベースラインに届くために埋めるべき重要なギャップを確認することができます。
水セキュリティ
Aリスト要件以下の追加的な必須要件はありません。
森林
当該企業が調達・生産しているすべてのコモディティについて開示する必要があります。Aリスト要件はありますが、追加の必須要件はありません。
ジェネラルスコアがその一部を構成し、コモディティドリブンの質問に関するスコア(大豆、パーム、木材、牛)をまとめたものが森林スコアの残りの部分を構成します。
コモディティの使用や依存関係に関する情報の開示が求められます。また、当該企業に関連性のある、開示要請を受けたコモディティで開示しないことを選んだ場合は、最終的な森林スコアに影響を及ぼす可能性があります。
まとめ
本コラムでは各統合モジュールやテーマ別モジュールの概要、各質問書のスコアリングに関するアップデートニュースをお伝えしました。通例、4月下旬から当年度のCDPが本格的にスタートします。ぜひ直前の先取り情報として、準備に役立ててください。
CDP(気候変動質問書)とは?
【このホワイトペーパーに含まれる内容】
・CDPの概要やその取り組みについて説明
・気候変動質問書の基本情報や回答するメリット、デメリットを詳細に解説
・気候変動質問書のスコアリング基準と回答スケジュールについてわかりやすく解説

参考文献
CDP(2024)「CDP Full Corporate Scoring Methodology – Climate Change」
CDP(2024) 「Terms of disclosure for corporate questionnaire 2024」
CDP(2025) “Scoring methodology – climate change”
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