Last Updated on 2024年11月20日 by HaidarAli
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CDPは世界各国で活動する環境関連情報開示プラットフォームを運営する組織の一つで、彼らが毎年ヒアリングの上で発行するレポートは各企業や政府機関の環境問題に対しての取り組みの度合いを一覧できる書類の一つとして、多くの投資家や環境活動家からの注目を集めます。
そのためCDPの調査でより良い回答を出して高く評価してもらうことは、近年では環境への取り組みのPRや資金調達にも直結する重要な経営課題となりました。
そのようなCDPの仕組みですが、2024年の調査より大きく変わることになっています。
本記事では2023年の動向を振り返りつつ、2024年の変更点や見通しについて簡単にご紹介します。
CDP2024の全体像についてはこちら!
⇒【Part 1】CDP2024の全体像を先取り CDP 2024年度の押さえておくべき変更点とは?
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→CDP回答者必見 CDP2023質問書でトリプルA評価を受けた企業の好事例3選
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CDP:2023年の動向
2023年は昨年に比べて回答数が大幅に増加しており、日本においても気候変動のリスクを経営問題としてとらえ、情報を公開することに積極的な企業が多くなっていることを改めて反映する結果となりました。
実際の数値を見ても、2022年のヒアリングの回答数はプライム市場上場企業数57%にあたる1056件だったのに対して、2023年はその64%となる1,182社と100社以上増加しています。
また、2023年には最高ランクであるAランクの評価を受ける企業も102社存在しており、前年の71社から40%以上もの増加率を記録しています。
さらにスコア分布の最頻値のランクを見ても2022年はCランク(222社)で会ったのに対し、2023年はBランク(328社)と大きく向上しています。
2023年は回答内容を「非公開」にするとA-ランク以上の評価づけが行われなくなるという条件が追加されたことを考えても、いかに向上したかがよく理解できる内容となっています。
このように、2023年のレポートでは回答数やスコア共に向上しています。
企業活動による気候変動への対応に関する情報開示、およびその手段としてのCDPレポートの重要性が高まっていることが、改めて理解できる結果が出たと言えるでしょう。
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CDP:2024年の見通し
CDPの質問書への回答条件については、毎年開始前に同団体のWebサイトにて公開されています。
以下に簡単ではありますが、2024年版のスケジュールや特徴について説明します。
CDP2024スケジュール
CDPの気候変動スコアレポートのプラットフォームは2024年4月30日に同団体のHPにて質問書が公開され、5月14日にスコアリング基準が公開される予定です。
そして6月4日にオンライン回答システム(ORS)が公開され、スコアリング対象となる回答期限は9月18日となっています。
ORSの最終的なクローズは10月2日を予定しています。
スコアは2024年12月に発表される予定です。
該当する企業の担当者の方は、今夏までに準備を進めるようにしてください。
回答に向けた流れについてさらに詳しい解説を読みたい方はこちら!
→CDP2024統合質問書の回答に向けた流れを解説
特徴:質問書の統合などが大きな変更ポイント
2024年度のCDP気候変動スコアレポートの大きな変更点として挙げられるのが、以下の4点です。
- 3つの質問書の統合
- IFRS S2、ESRS、TNFDなど国際フレームワークとの整合性の強化
- 金融サービス企業向け質問書の統合と質問項目の整理
- 中小企業向けの質問書の置き換え
特に2023年まで「気候変動」、「水セキュリティ」、「森林」の3つに分かれていた質問書が統合されるのは大きな変化となります。
3つの質問書の項目はテーマが被る領域も多いため重複する質問事項が多く担当者の手間になっていました。
これらが1つに統合されたことで担当者の回答の手間が少なくなり、企業は環境保護活動の取り組みを包括的に情報開示しやすくなったといえるでしょう。
CDP2024年の変更点について詳しく理解したい方はこちら!
→CDP2024の全体像を先取り CDP 2024年度の押さえておくべき変更点とは?【Part 1】
気候変動開示の基準変更:TCFDからISSBに変更
また2024年よりCDPの気候変動開示で用いられる枠組みが、 TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)基準のものからISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の「気候関連開示(IFRS S2)」をベースにしたものに反映されます。
ISSBにおける要求はスコープ3の温室効果ガス排出量の開示や定性的なシナリオ分析の実施を義務付けるなど、TCFDのものよりも厳格であるため、CDPのスコアリングを改善させる際には十分に考慮する必要があります。
ただこれによりCDPのスコアリングレポートの質問書の各項目に明確に答えていれば、ISSBも自動的に対応しているということになります。
異なるサステナビリティ開示の取り組みが同一になったという点では、企業担当者の手間が減ったと言えるでしょう。
CDP回答に向けて知っておくべきポイント
ここまでにCDPのスコアリングレポートの変更点について解説しましたが、実際に回答する時にどのように行えばいいかわからない方も多いかと思います。
そこで当社では、プラットフォーム上でどのように回答すればいいかについて、簡単にご紹介します。
なお回答のポイントについては、こちらの記事に紹介されているので興味がある方はご参照願います。
採点項目への準拠
気候変動の質問書は、以下画像のように構成されています。
この質問内容に準拠する形で回答していきますが、以下の2点には注意が必要です。
- 実施していない項目については、空欄にするよりも実施していない旨を開示した方がよい
- STARアプローチを採用してケーススタディの自由記述欄を具体的に書く
それぞれについて詳述します。
未実施の項目は実施していないと記載する
CDPは定義に関する質問の一貫性を重視しており、企業特有の事例を明確に掲載する必要があります。
そのためやっていない項目を無理やり記入しても、よい採点結果を得ることはできません。
一方で空欄の場合は無回答扱いになってしますため、未実施の項目については、実施していないという旨を記載することで最低限の点数を取ることが可能です。
点数を減らさないためにもそのように回答するようにしましょう。
STARアプローチを採用する
質問以降については選択式のものだけでなく、自由記述のものが存在します。
それは回答者が所属する企業の固有の状況に合わせたケーススタディを記載するもので、STARアプローチと呼ばれる以下の4基準によってスコアリングされます。
- 状況(Situation):現状や背景はどのようなものか
- 課題(Task):何をしなければならないのか/解決すべき課題は何か
- 行動(Action):実施した一連の行動はどのようなものか
- 結果(Result):行動した結果、最終的にどのような成果が得られたか
質問の回答には正確な地名や数値を盛り込む必要があり、自社の状況をよく反映させる必要があることには注意しましょう。
具体的な質問や解答例についてはこちらの記事をご参照ください。
IFRS S2とCDPの比較
2024年のCDPの回答で注目するべきなのが、プラットフォームで整合性が取れることになった IFRS S2の仕組みです。
CDPの質問書に対する回答もこのことを意識して記載する必要があります。
具体的に注意するべき4点を以下に解説するので、高スコアをとりたい方はチェックしてみてください。
なおIFRS S2についてはこちらの記事を参考にまとめています。
IFRS S2の枠組み自体を詳しく知りたい方はアクセスしてみてください。
※執筆時はCDPの質問書が公開される前となっているため、CDPの各質問は2023年のものを参考にしていることをご了承願います。
ガバナンス
CDPでは気候関連課題が組み込まれるガバナンスについて、以下のように問われています。
C1.1b「気候関連問題の取締役会の監督に関して詳細をお答えください。」
この設問に対しては、気候関連でのガバナンスに関する構造を問われており、組織体制などが主な回答内容となります。
一方IFRS S2では気候変動に関連するリスクと機会に責任を追うガバナンス機関(取締役会や委員会など)や個人に対して、以下のようなことを開示することを求めています。
- 責任の所在や職務や権限への反映の方法
- 監督するための適切な能力の有無や今後の開発方針
- 事業戦略等の意思決定およびリスク管理プロセスの監督における気候関連リスク・機会の考慮状況報告を受けるプロセスや頻度などの監督体制
最高責任者から現場担当までサステナビリティ戦略に関わる人全てが当てはまる事項なので、関わるメンバーの把握などは事前に済ませる必要があります。
戦略
CDPでは気候変動対応に対する各企業の戦略について以下の質問事項を設定しています。
C3.2a「貴社の気候関連シナリオ分析の仕様について具体的にお答えください」
C3.2b「気候関連シナリオを用いることによって記者が取り組もうとしている商店となる問題について詳細を説明し、その問題に関するシナリオ分析結果をまとめてください」
これらの設問では気候関連のリスクと機会が事業、戦略及び財務計画(ファイナンシャルプランニング)に及ぼす影響や、それらに対するレジリエンスに対しさまざまなシナリオ(例:平均気温が2度上昇する)を踏まえて説明することが求められています。
これに対してIFRS S2では、気候変動に対するリスクと機会が現在と将来の企業戦略と意思決定に与える影響については、移行計画を含めて開示するよう定めています。
どちらもシナリオ分析を求められているため、実施した内容や設定した問題、結果のパターンを記載するようにしてください。
特に、石炭火力発電や炭鉱事業など温室効果ガスやエネルギー、水を大量に消費する事業の廃止または縮小計画、サステナビリティの強化のための追加的な資本拠出や研究開発、サプライチェーンや需要の変化に起因する資源配分などがあれば、高スコアが望めるので確実に掲載するようにしましょう。
さらにIFRS S2では技術や能力、資源がない場合は記載不要ではあるものの、キャッシュフローや財務パフォーマンス、財政状態に与える影響や予測される事柄について現在や将来(特に次の年次報告期間内)に影響を与えるものについて開示することも求めています。
この項目はTCFDにはない新たな項目となるため、もし定量的な情報があるのであればCDPの質問書の解答にも盛り込むようにしてください。
リスク管理
CDPのリスク管理に対する質問は、2023年では以下のように定められていました。
C2.2a「貴社の気候関連リスク評価において、どのリスクの種類が考慮されていますか」
この質問では現在の状態から将来の脱炭素社会を目指すための「移行リスク」(規制や訴訟、低炭素経済への移行に向けた活動に対する顧客の認識変化など)と「物理的リスク」(気候変動による異常気象や海面上昇、熱波などの影響)の2種類がリスクとして定義され、その影響を気候変動戦略に関連づけているかが問われています。
これに対し、IFRS S2では気候変動に関連する機会・リスクを特定・評価・優先受けして監視するためのプロセスやその程度についての管理方法を問いています。
リスクの種類や考慮だけでなく、対策の順位づけなどより具体的な施策についても問われているため、回答の際には十分に配慮するようにしてください。
指標と目標
気候変動リスクや機会の指標や目標について、CDPの質問書では以下のような項目が存在します。
C4.2c「ネットゼロ目標を具体的にお答えください」
C6.5「排出量データに関し自社のスコアリング基準の開示レベルをお答えください」
C4.2cの設問では、以下のような気候変動対策の目標としてネットゼロを設定するための具体的な方法を回答することが求められています。うち1〜3については回答基準を満たすのに必須の記載事項となっています。
- 1.5℃の排出経路に整合した5~10年先の排出削減目標を設定する
- 遅くとも2050年までに、1.5℃シナリオに沿った残留レベルまで排出量を削減する目標を設定する
- 長期的なSBTを達成した際に大気中に排出される温室効果ガスは、大気中の炭素を永久に貯蔵または除去する
- 温室効果ガスの直接空気回収 (DAC)や地中貯蔵への投、資質の高い管轄区域REDD+クレジットなどの購入により、自社のバリューチェーンを超えた排出量削減に向けた活動を行う
またC6.5の設問では、企業のバリューチェーン全体における排出量の開示・認識・マネジメントの3段階に応じたスコアリング基準について回答することが求められています。
これに対して、IFRS S2ではこの2つの質問事項に答える温室効果ガスの排出に関して、以下の情報が必要と定めています。
- 業種に関わらない横断的な指標(スコープ1,2,3の温室効果ガス排出量、内部炭素価格、役員報酬など)
- 業種ベースの測定基準
- 機構関連の企業が戦略に関して設定した目標や、法律などで達成が求められている目標に関する情報(例:温室効果ガス排出量に関する目標)
- ,目標に関する第三者による検証の有無など
- 温室効果ガス排出量に関する目標の説明(例:目標の達成となるスコープなど)
特にスコープ1の7ガスについては、IPCCの最新換算係数(AR6)を使用する必要があり、現行の環境省のもの(AR4)よりも厳しい基準であることには注意したほうがいいと言えるでしょう。
また自社活動だけでなくバリューチェーン全体を含めた温室効果ガスの削減を考慮に入れた、スコープ3の開示が要求されていることにも注意が必要です。
その他のテーマについて
CDPでは気候変動だけでなく、水や森林、プラスチック、生物多様性など様々な問題に対するサステナビリティに向けた取り組みを評価しています。
2024年は質問書が1つに統合されますが、質問項目にはそれらの情報を多く加わることが想定されるため、高スコアを狙う場合は必ず考慮するようにしてください。
なお、水セキュリティについてはこちらの記事に、プラスチックや森林についてはこちらの記事により詳しい内容を記載しているので、参考にしてみてください。
水セキュリティ
干ばつや水害などの自然災害、氷河の後退、砂漠化などにより企業利用できる淡水資源の枯渇に対する戦略を水セキュリティといいます。
投資家からの注目も高く、日本でも回答数が2023年に前年比2.7倍にまで膨れ上がった項目です。
今後は質問書の統合により回答する企業がさらに増えることが予想されます。
水リスクについてはこちら!
⇒水リスクにおける「評価ツール」とは?種類や実際の使用例も紹介
プラスチック
プラスチックは2024年の採点項目から外れましたが、水セキュリティやバリューチェーン全体に大きく関わるだけにCDPでも重視されています。
2024年は公的機関とSMEs以外の全ての企業体にベーシックポイントが適用され、食品や飲料などプラスチックの影響が大きい業界に対してはより多くの質問が科されるようになるため注意するようにお願いします。
また活動範囲も従来はプラスチックを用いた商品の生産・販売だけでしたが、2024年より「廃棄物または/および水マネジメント活動の展望」や「プラスチック関連活動のための金融商品・サービスの提供」も入りますます後半に適用されるようになりました。
指標がバリューチェーン全体に広がることが予想されるため、これを機にチェックするようにしてください。
森林
前述通り、森林質問書は統合対象となりますが、土地利用の変化や商品作物ごとの依存度、2023年より強化されたランドスケープや管理区域に関する投資や行動に関する質問は、2024年のスコアレポートでも使われることが想定されます。
またCDPでは今後、DCF(Deforestation and Conversion Free:森林伐採や自然生態系の転換の撲滅)のボリュームについての質問を増やしていく方針を示しています。
従来は森林伐採に争点が当たることが多かったですが、今後は自然生態系の転換に関する質問も増えることが想定されるため、絶滅危惧種の保護や里山やマングローブなど自然生態系が豊かな場所の保全活動などに関わっている場合は、高スコアを見込める可能性があることを頭に入れておくといいでしょう。
まとめ/2024年スケジュール
質問項目の統合やIFRS S2基準の評価方法の導入など、CDPスコアレポートの枠組みは2024年より大きく変更されます。
より厳格、かつ幅広い範囲を答える必要が出てくるため、自社のサステナビリティ活動について熟慮した上で、具体的に記載するようにしてください。
最後に2024年のCDPプラットフォームのスケジュールを以下に改めてお伝えいたします。
- 2024年4月30日:CDPの気候変動スコアレポートのプラットフォームの質問書の公開
- 2024年5月14日:スコアリングの基準が公開
- 2024年5月14日:開示者へのCDPサイト公開
- 2024年6月4日:オンライン回答システム(ORS)の公開
- 2024年9月18日:スコアリング回答の締め切り
- 2024年10月4日:オンライン回答システム(ORS)への回答の締め切り
- 2024年12月:スコア発表予定
#CDP #2024
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参考文献
[1] CDPジャパン「CDP気候変動レポート2023:日本版」p14
[2] CDPジャパン 「CDP気候変動レポート2022:日本版」p13
[3] CDPジャパン「スコアレポート解説資料」
[4] CDP「Corporate Disclosure Framework Key Changes for 2024 」
[5] IFRS「ISSB at COP27: CDP to incorporaCDP 気候変動 レポート 2023: 日本版te ISSB Climate-related Disclosures Standard into global environmental disclosure platform」
[6] 大和総研「ISSB の「IFRS S2」(気候関連開示)の具体的な内容」
[7] CDPジャパン「2023年 CDP気候変動質問書 回答に向けて(詳細版) ver. 1」
[8] CDP「Environmental disclosure through CDP in 2024」
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