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サステナビリティ情報開示は、国際基準の整備が進むなか、大きな転換点を迎えています。

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)および国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が策定したIFRS S2は、企業が自然資本や気候変動に関するリスクと機会を一貫して開示するための基盤を提供する国際基準です。

一方、CDP(旧Carbon Disclosure Project)は、これらの基準を実務レベルの質問票として整理しており、企業はCDP回答を通じて複数の開示要求へ効率的に対応することが可能です。

本稿では、2024年版TNFD×CDP対応表および2025年版IFRS S2×CDP対応表をもとに、主要モジュールごとの整合関係を体系的に整理します。あわせて、今後の実務に向けたポイントも解説します。

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CDPはどのようにTNFD・IFRS S2と整合しているのか

CDPは2018年以降、TCFDの枠組み(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)に完全準拠しています。

この構造はTNFDおよびIFRS S2にも引き継がれており、CDPの質問体系は両基準を横断的に包含する設計となっています。

TNFDとIFRS S2の主な違い

両基準の特徴について、TNFDでは自然関連の依存関係・影響・リスク・機会(DIROs)という概念が評価され、IFRS S2では気候関連リスクと機会を財務情報として開示することが焦点となっています。

これに対し、CDPはこれらを単一の質問票に統合し、企業が一度の回答で両基準に対応できるよう整理しています。

TNFD・IFRS S2・CDPの整合性を比較する理由

TNFD・IFRS S2・CDPの整合性を比較することは、企業が複数の基準にバラバラに対応する手間を減らし、開示内容の一貫性を確保するために重要です。どのCDP設問がどの国際基準に対応しているかを把握すれば、同じ情報を重複して作成する必要がなくなり、データの不整合も防げます。

結果として、限られたリソースで効率的に開示レベルを高め、投資家に対して説得力のある説明を行えるようになります。

CDPの設問を元に整合性を比較 

以下では、CDPモジュール1〜12の主要項目について、対応するTNFD項目とIFRS S2パラグラフを示します。

(※FS Onlyは金融サービスセクター限定設問)

【モジュール1】イントロダクション

イントロダクションでは、報告範囲・対象コモディティ・バリューチェーンの把握など、以降の設問の前提となる情報を整理します。

内容CDP設問TNFD対応項目IFRS S2対応パラグラフ
報告範囲1.5Risk & impact management A(ii)
主要コモディティ1.22Strategy A / Metrics & targets B
バリューチェーンの把握1.24Risk & impact management A(ii)

モジュール1で提示される前提情報は、後段のリスク評価や指標開示の基礎となります。

【モジュール2】リスクと依存関係の評価

TNFDが強調する企業の自然資源への依存関係(dependency)とIFRS S2のリスク管理プロセスが重視されます。

CDPでは、設問2.2.2が両基準の中心であり、リスクや機会をどう特定・評価・管理するか、また優先地域や有害物質の扱いなど評価の中身が問われる構成になっています。

内容CDP設問TNFD対応項目IFRS S2対応パラグラフ
時間軸の定義2.1Strategy A / Risk & impact management A(i)(ii)S2 10
プロセスの有無2.2.1Risk & impact management A(ii)
プロセスの詳細2.2.2・2.2.5 (FS Only)・2.2.6 (FS Only)Governance C / Risk & impact management A(i)(ii) / Risk & impact management B / Risk & impact management CS2 25
依存・影響・リスク・機会の相互連関評価2.2.7・2.2.8 (FS Only)・2.2.9 (FS Only)Strategy A / Risk & impact management A(ii) / Risk & impact management B
バリューチェーンの優先地域2.3Strategy A / Strategy D
「実質的影響」の定義2.4・2.5Risk & impact management A(i)
汚染影響の低減アプローチ2.5.1Strategy A / Strategy B

企業はLEAP(Locate–Evaluate–Assess–Prepare)プロセスで得た知見を、このモジュールで体系的に説明します。

【モジュール3】リスクと機会の開示

モジュール3では、特定したリスクや機会の内容と財務影響が中心的に問われます。

内容CDP設問TNFD対応項目IFRS S2対応パラグラフ
実質的影響のあるリスク3.1.1Strategy A/B/C / Metrics & targets A/BS2 10,13,15-17,21
リスクによる脆弱な財務指標3.1.2Metrics & targets AS2 29
流域ごとの施設の曝露状況3.2Strategy A/B/D / Metrics & targets Aー 
規制違反・罰金の有無3.3・3.3.1Metrics & targets A
重大事案の詳細と対応3.3.2Strategy B / Metrics & targets A
実質的影響のある機会3.6.1Strategy A/B / Metrics & targets A/BS2 10,13,15-17,21
機会に整合する財務指標3.6.2Metrics & targets AS2 29

【モジュール4】ガバナンス

ガバナンス関連の設問は、両マッピングで共通してCDPモジュール4に整理されています。

内容CDP設問TNFD対応項目IFRS S2対応パラグラフ
取締役会の監督体制4.1.1・4.1.2 Governance AS2 6
取締役会の環境課題への専門知識4.2Governance AS2 6
経営層の責任範囲4.3・4.3.1Governance BS2 6
インセンティブの設定4.5・4.5.1 Governance AS2 29
環境方針4.6.1Governance C
政策関与(直接・間接)4.11・4.11.1・4.11.2Governance C

取締役会レベルでの監督や、経営層による環境課題の統括責任、成果に応じたインセンティブの設定など、組織内の役割分担を明確に説明することが求められています。

【モジュール5】シナリオ分析

将来シナリオ・移行計画・財務計画への組み込み・サプライチェーン関与を整理し、環境要因が事業モデルや財務計画に与える影響を明確にすることが重視されています。

内容CDP設問TNFD対応項目IFRS S2対応パラグラフ
シナリオ分析5.1・5.1.1・5.1.2Strategy CS2 22
気候移行計画5.2Strategy BS2 14
戦略・財務計画への影響5.3・5.3.1・5.3.2Governance C / Strategy B/CS2 13-16
水関連CAPEX/OPEX5.9Strategy B
バリューチェーン関与5.11Metrics & targets B
サプライヤー評価5.11.1・5.11.2Governance C / Strategy B / Risk & impact management A(ii)
顧客・被投資先への関与戦略(FS Only)
5.11.3・5.11.4
追加ガイダンス(FIs):Strategy B / Risk & impact management A(ii)
調達要件5.11.5・5.11.6・5.11.7Governance C / Strategy BS2 14
小規模生産者・その他のステークホルダーとの関与5.11.8・5.11.9Governance C / Strategy B
サプライチェーン連携5.12・5.13.1Strategy B
外部アセットマネージャーの要件5.14・5.14.1追加ガイダンス(FIs):Strategy B

【モジュール6】統合範囲・集計アプローチ

モジュール6では、パフォーマンス集計の前提(統合方針/除外方針)を明確化します。

設問数は少ないものの、算定境界の透明性は、年度比較や外部保証の前提になるため、重要な設問です。

内容CDP設問TNFD対応項目IFRS S2対応パラグラフ
統合アプローチ6.1Risk & impact management A(ii)S2 29

【モジュール7】テーマ固有モジュール「気候変動」

温室効果ガスの算定・目標・進捗など、IFRS S2の定量要求に直結します。

内容CDP設問TNFD対応項目IFRS S2対応パラグラフ
会計方法・境界変更7.1.2S2 29
排出算定基準7.2S2 29
Scope1, 2, 37.6・7.7・7.8 S2 29
年度差異の要因7.10.1S2 35
連結グループ等の内訳7.22S2 29
絶対値/原単位目標7.53・7.53.1・7.53.2S2 14, 33-36
再エネ等の目標7.54S2 14, 33-35
施策実施の詳細7.55.2 S2 14
環境関連のプロジェクト7.56S2 14
低炭素製品7.74.1S2 14
カーボンクレジット7.79.1S2 36

【モジュール8】テーマ固有モジュール「森林」

森林・農産物の調達状況や無伐採・無転換(DF/DCF)の確認方法を整理するモジュールです。トレーサビリティ、プロジェクトなどが問われます。

内容CDP設問TNFD対応項目IFRS S2対応パラグラフ
開示量・土地情報8.2・8.3・8.4.1 Strategy D / Metrics & targets B
目標と進捗8.7・8.7.1・8.7.2Strategy B / Metrics & targets C
トレーサビリティの到達点8.8.1Strategy B
DF/DCF確認(認証・監視)8.9~8.9.4Strategy B / Metrics & targets B
伐採・転換フットプリント8.10.1Metrics & targets B
DCF確保のための取組8.11.1Strategy B / Risk & impact management A(ii)
景観・政策関与8.15.2・8.16.1Governance C / Strategy B
プロジェクトの範囲・成果8.17.1Strategy B / Metrics & targets B

【モジュール9】テーマ固有モジュール「水」

取水・排水・水質・曝露地域・水関連目標など、水に関するKPI(重要業績指標)を網羅したモジュールです。

内容CDP設問TNFD対応項目IFRS S2対応パラグラフ
取水量(ストレス地域等)9.2.4Metrics & targets B
排水先・処理水準・水質汚染物質の排出9.2.8・9.2.9・9.2.10Metrics & targets B
施設数・座標・会計データ9.3・9.3.1Metrics & targets A / Strategy D / Metrics B
取水効率9.5 Metrics & targets A
水関連ターゲット9.15.1・9.15.2Metrics & targets C / Strategy B

【モジュール10】非採点対象モジュール「プラスチック」

販売重量・原料構成・包装循環性・廃棄物量など、プラスチック由来のフローを定量化し、資源循環や汚染削減の観点で、自然関連KPIを整備できます。

内容CDP設問TNFD対応項目IFRS S2対応パラグラフ
プラスチック目標の有無10.1Strategy B / Metrics & targets C
販売量・原料構成10.3・10.4・10.5・10.5.1Metrics & targets B
プラ廃棄物と最終処分10.6 Metrics & targets B

【モジュール11】セクター固有モジュール「生物多様性」

重要生物多様性地域での事業活動を把握します。

内容CDP設問TNFD対応項目IFRS S2対応パラグラフ
重要生物多様性地域での活動11.4.1Strategy B / Strategy D

【モジュール12】採点対象モジュール「金融サービス」

ファイナンスド・エミッションやポートフォリオの目標など、金融セクター向けの要求です。

内容CDP設問TNFD対応項目IFRS S2対応パラグラフ
ファイナンスド・エミッション等12.1.1S2 29
ポートフォリオ影響のその他指標12.1.3追加ガイダンス(FIs):Metrics & targets B
DCF/水セキュアな融資・投資・保険の目標12.7・12.7.1 追加ガイダンス(FIs):Strategy B / Metrics & targets C

CDP整合表を活用することで得られるメリット

CDPはTNFDおよびIFRS S2の主要要求事項をほぼ網羅的に取り込んでおり、単一の回答で複数基準への整合開示を実現できる点が最大の利点です。

これにより、開示業務の効率化、データ一貫性向上、投資家・金融機関に対する説明力の向上・最新基準への追随負荷削減といった効果をもたらします。


まとめ

CDPはTCFDを起点に、TNFDおよびIFRS S2への整合を段階的に強化してきました。整合マッピングを理解することで、企業は複数の開示要求を効率的に統合し、より戦略的かつ透明性の高い情報開示を行うことができます。

今後、規制化・義務化が進むにつれ、CDP回答設計=TNFD・IFRS S2対応の基盤づくりという位置づけは一層明確になると考えられます。

お役立ち資料

CDP(気候変動質問書)とは?

【このホワイトペーパーに含まれる内容
・CDPの概要やその取り組みについて説明
・気候変動質問書の基本情報や回答するメリット、デメリットを詳細に解説
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参考文献

[1]CDP(2024)「Correspondence between TNFD Disclosure Recommendations and CDP’s 2024 Questionnaire」https://cdn.cdp.net/cdp-production/cms/guidance_docs/pdfs/000/005/490/original/Cor[…]mmendations_and_CDP%E2%80%99s_2024_Questionnaire.pdf?1721231400
[2]CDP(2025)「Mapping IFRS S2 to CDP’s 2025 Questionnaire」https://cdn.cdp.net/cdp-production/cms/guidance_docs/pdfs/000/006/016/original/Mapping_IFRS_S2_to_CDP_2025_Questionnaire.pdf?1759219678

リクロマの支援について

当社では、CDP2025の回答を基に、設問の意味や次年度の方向性を研修形式でご支援しています。自由記述の添削や模擬採点を通じ、スコア向上に向けた具体的な示唆を提供します。また、「まるごとやり直し」の対応が必要な企業様にも対応可能です。CDPスコア向上に向けた具体的なアクションをサポートしますので、ぜひご検討ください。

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Author

  • 加藤 貴大

    リクロマ株式会社代表。2017年5月より、PwC Mexico International Business Centreにて日系企業への法人営業 / アドバイザリー業務に携わる。2018年の帰国後、一般社団法人CDP Worldwide-Japanを経て、リクロマ株式会社(旧:株式会社ウィズアクア)を創業。大学在学中にはNPO法人AIESEC in Japanの事務局次長として1,700人を擁する団体の組織開発に従事。1992年生まれ。開成中・高等学校、慶應義塾大学経済学部卒業。

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