Last Updated on 2025年4月23日 by Moe Yamazaki
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はじめに
気候変動への対応が企業にとって避けられない課題となる中、エネルギーの脱炭素化は重要な戦略の一つとなっています。これまで、多くの企業が「100%再生可能エネルギー」を目標に掲げ、年間ベースでの電力消費と再エネ調達量の一致を目指してきました。しかし、この方法では夜間や天候の影響を受ける時間帯には化石燃料由来の電力を利用せざるを得ないという課題がありました。この問題を解決する新たなアプローチとして注目されているのが、「24/7 Carbon Free Energy(CFE)」 という概念です。これは、電力の消費と供給を毎時間単位でクリーンエネルギーと一致させることを目指す取り組みであり、2021年には国連主導のもと「24/7 CFEコンパクト」が発足し、世界中の企業や団体がこの新しいエネルギー調達基準を推進しています。さらに、企業の温室効果ガス(GHG)排出量を評価する国際基準であるGHGプロトコルも、Scope 2(電力由来の排出量)の算定方法の見直しを進めており、この風潮に影響されることが推察されます。
本コラムでは、24/7 CFEの基本概念、24/7 CFEコンパクトの詳細、そしてGHGプロトコル「Scope 2」ガイダンス改訂との関連性について詳しく解説します。
<本記事のポイント>
- ‣24/7 Carbon Free Energy(CFE)とは、「すべての電力消費を毎時間、カーボンフリーのエネルギーで供給する」ことを目標とする概念
- ‣現在日本ではエネルギー会社を主とした11社が加盟
- ‣時間単位の調達、追加性の点でGHGプロトコルと24/7 CFEプロトコルが関連
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24/7 Carbon Free Energy (CFE) とは?
24/7 Carbon Free Energy (CFE)の概要
24/7 Carbon Free Energy(CFE)とは、「すべての電力消費を毎時間、カーボンフリーのエネルギーで供給する」ことを目標とする概念です。これは単に年間の電力消費を再生可能エネルギーで相正するのではなく、実際の電力使用の瞬間においてもクリーンエネルギーを使用することを意味します。
Carbon Free Energy (CFE)が掲げられた背景
当初、「100%再生可能エネルギー」目標は年間ベースで電力消費量と再生可能エネルギー購入量を一致させる方法が主流でした。しかし、これだけでは夜間や風が弱い時間帯に化石燃料電力を使用する問題は解決されません。この問題にいち早く気づいたGoogleは、2018年に「インターネットは24時間稼働しているのだから、カーボンフリーエネルギーの活用も24時間であるべきだ」という提言とともに、自社の再生可能エネルギーの利用率の不完全性に関する分析を発表しました。これを反映し、2020年にGoogleは「2030年までに24時間365日カーボンフリーエネルギーで運用する」ことを公式に宣言しました。これに続きMicrosoftやIron Mountainも同様の目標を掲げました。さらに、2021年には国連主導で、毎時間において消費されるすべての電力をカーボンフリーの電源で供給することを目的とした「24/7 CFEコンパクト」が発足しました。
24/7 CFEコンパクトとは?
24/7 CFEコンパクトの概要
24/7 CFEコンパクトは、24時間365日、リアルタイムで100%カーボンフリーエネルギー(CFE)の供給を目指す国際イニシアティブです。2021年の国連ハイレベル・エネルギー対話において、エネルギーの生産と消費が気候変動対策の鍵となるとの共通認識のもと発足しました。この取り組みは国連が主導し、米国連邦政府、Google、Microsoft、スタンフォード大学など、欧米を中心に世界160以上の組織が参画しています。このコンパクトは、技術開発や基準構築を通じて、RE100やSBTの再エネ調達基準をさらに進化させ、世界の電力網における“全時間100%リアルタイム再エネ化”の実現を目指しています。
24/7 CFEコンパクトの5つの基本原則
24/7 CFEコンパクトは以下の5つの基本原則を掲げており、加盟団体はこれらを推進することが求められます。
- ‣時間単位の電力購入
- ‣地域調達
- ‣技術包摂性
- ‣新規発電開発の促進
- ‣システムインパクトの最大化
時間単位の電力購入
24/7 CFEの実現には、年間ベースではなく、1時間単位での再生可能エネルギー(再エネ)調達が求められます。年間100%再エネの購入では、時間帯によっては化石燃料由来の電力を使用している可能性があり、完全な脱炭素化には至りません。これを防ぐために、消費電力と発電電力を1時間ごとに一致させることが重要です。
この実現には、グラニュラー証書(GC証書)の活用が推奨されています。GC証書は、1時間またはそれより短い間隔で発電されたクリーンエネルギーの証明を行う仕組みであり、時間単位での電力需給の整合性を高めることができます。この証書を活用することで、時間単位での電力購入を証明することができます。
地域調達
クリーンエネルギーは、実際に消費する地域で調達することが重要です。遠隔地で発電されたクリーンエネルギーの証書を購入しても、その地域の電力網で化石燃料由来の電力が使用されている場合、実質的な脱炭素化には貢献しません。例えば、スペインの企業がノルウェーの水力発電の証書を購入して「100%再生可能」と主張しても、実際にはスペイン国内で化石燃料由来の電力を使用している可能性があります。つまり、地域で再生可能エネルギーを調達することを求めています。
技術包摂性
24/7 CFEは、特定の技術に依存せず、あらゆるクリーンエネルギー技術を活用するアプローチを採用しています。風力、太陽光、地熱、水力、さらには原子力を含む多様なエネルギー源を活用し、迅速かつ包括的な脱炭素化を推進します。化石燃料を意図的に排除する方針を採用しており、特定の「カーボンフリー」の定義を支持するのではなく、幅広い技術の導入を奨励しています。
新規電力開発の促進
既存のクリーンエネルギー証書を購入するだけでは、電力システムの脱炭素化に十分とは言えません。24/7 CFEでは、新たな発電設備の導入(追加性)を重視し、持続的な供給の確保を目指します。この原則を実現するために、規制当局や標準機関は「ヴィンテージ制限(Vintage Limits)」を設け、一定年数以内に稼働した新規設備の電力購入を推奨しています。例えば、EUのRenewable Hydrogen指令では築3年以内、RE100では築15年以内の発電設備からの調達を求めています。さらに、開発段階の再エネプロジェクトとの契約を通じて、クリーンエネルギー市場の成長を促進させることも推奨しています。
システムインパクトの最大化
加盟企業はエネルギーシステムの変化を通して環境・社会・経済に関連する以下の影響を与えることが想定されており、これらの影響を最大化させることが求められています。
- 【気候と環境】
- 電力全体の脱炭素化に加えて、再生可能エネルギーの生産量が少ない時間帯も蓄電等のクリーンエネルギーを用いて温室効果ガスの排出量を削減する。
- 【地域コミュニティ】
- 消費者の電力調達の選択肢を増やす。
- 新たな再生可能エネルギープロジェクトを通じて雇用創出の機会を提供する。
- 消費者に対し、自らが事業を行っている広範な電力網の脱炭素化を加速させるための政策提言活動を奨励する。
- 【技術とコスト】
- 市場においてポジティブなシグナルを出し、投資の促進や新技術の早期普及を後押しする。
- 先進的な再エネや蓄電技術の需要を喚起し、コスト削減にも貢献する。
24/7 CFEコンパクトに参加するとできること
24/7 CFEコンパクトの5つの主要原則を効果的に推進するため、加盟団体は以下のサポートを受けることができます。
- ‣コミュニティプラットフォームへの参加
- ‣学習の共有へのアクセス
- ‣加盟団体は、公開ワークショップやプライベートセッションに招待され、他のメンバーと協力・交流する機会を得られます。これにより、各組織が直面する課題への解決策を探りながら、24/7 CFEの実現に向けた知見を深めることができます。
- 【1対1のミーティング】
- 専門チームによる個別ガイダンスを受けることで、加盟団体は24/7カーボンフリーエネルギーコンパクトに関する具体的な疑問を解消できます。また、組織ごとの状況に応じたアドバイスをもらうこともできます。
- 【定期的な最新情報の提供】
- 加盟団体には、好事例や最新の業界ニュースに関する情報が定期的に提供されます。また、関係者向けのイベント招待を通じて、継続的に最新動向をキャッチアップし、適切な戦略を構築するための機会が得られます。
これらの支援を活用することで、加盟団体は24/7 CFEの実現に向けた取り組みをより効果的に推進することが可能となります。
加盟できるセクター
24/7 CFEコンパクトの公式HPでは以下のセクターが、加盟団体として例示されています。
- ‣エネルギー購入者
- ‣エネルギー供給者
- ‣地方・地域・国家政府
- ‣非政府組織(NGO)および慈善団体
- ‣エネルギーアドバイザー
- ‣商業組合
- ‣システムオペレーター
- ‣テクノロジーソリューションプロバイダー
- ‣投資家および金融機関
- ‣学術機関および科学コミュニティ
日本の加盟状況
日本では現在(2025年3月時点)、11団体が加盟しており、内訳は以下のグラフの通りとなっております。

エネルギー企業や電機メーカーは、事業を通じてGC証書(グリーンクレジット証書)の発行・活用を支援することで24/7 CFEコンパクトに加盟しており、地方公共団体は再生可能エネルギー100%の都市計画を策定することで同コンパクトへの参加を進めています。今後、これらの企業によるGC証書の整備が進むことで、時間単位のクリーン電力取引の基盤が強化されると考えられます。これにより、数年以内には業界を問わず、多くの企業が24/7 CFE Compactに加盟しやすい環境が整うことが期待されます。こうした中で、早期に同コンパクトへ加盟することで、24/7 CFE市場におけるリーダーシップを確立し、競争優位性を高めることができるでしょう。
GHGプロトコル、Scope2ガイダンス改訂と24/7 CFE コンパクトの関連性
これまでのGHGプロトコル改訂の流れ
GHGプロトコルは、2022年からGHG排出量算定の枠組みを定める3つの文書の改訂を進めています。
- 企業会計報告基準(Corporate Accounting Reporting Standard)
- 企業バリューチェーン基準(Corporate Value Chain (Scope 3) Standard)
- Scope 2 ガイダンス(Scope 2 Guidance)
2022年11月から約5カ月にわたりGHGプロトコルに対する意見募集を実施し、2023年12月に「Scope 2 Proposal Summary」、2024年3月に「Greenhouse Gas Protocol Corporate Standard Proposals Summary」、同年6月に「Greenhouse Gas Protocol Summary of Scope 3 Proposals」を公表しています。また、今後の流れとして2025年から2026年にかけてパブリックコンサルテーションのための草案を発表し、2027年にScope2ガイダンス改訂最終版の発表を予定しています。
Scope2ガイダンス改訂の動向
本コラムでは24/7 CFEコンパクトと関連性の高いScope2マーケット基準手法の改訂動向に焦点を当てます。フィードバックの募集から得られた提案をまとめた「Scope 2 Proposal Summary」によれば得られた提案は計70件で、いずれも以下の3つの算定手法の更新に関連していました。
- ロケーション基準手法の改善
- マーケット基準手法の改善
- プロジェクト及び介入(interventions)によって被る排出量の影響の報告に関する役割の向上と改善
マーケット基準手法の改善に関しては以下の2点が主な改善事項として提案されています。
- 1時間単位での排出係数の適用
電力証書の市場範囲内での排出係数を1時間単位で適用することを求める提案がされています。今後、証書の発行元である再エネ発電設備の発電タイミングと、電力消費のタイミングを1時間単位で一致させることが必要になってくる可能性があるということです。
- 追加性の要件の導入
ここでは「新たに送電網に追加される再エネ発電設備からの調達」を「追加性がある」とみなす考え方が採用されています。つまり、既存の再エネ電源からの証書購入だけでなく、新規のクリーンエネルギー発電プロジェクトを支援する形での調達が推奨されるようになる可能性があるということです。
24/7 CFEコンパクトとの類似点
上記の2つの提案項目は24/7 CFEコンパクトの原則で求められている、時間単位の電力購入と新規電力開発の促進と類似する。GHGプロトコル改訂の草案が今後提出されることで、企業に対してより厳格な時間単位でのクリーン電力調達と、新たな再生可能エネルギー源の導入が求められる可能性が高まります。この動きに伴い、24/7 CFEおよび24/7 CFEコンパクトへの関心が一層高まり、同コンパクトへの企業の加盟が加速することが予想されます。
まとめ
世界的にエネルギーの脱炭素化が求められる中で、電力消費を1時間単位でクリーンエネルギーとマッチングさせる「24/7 CFE」の概念が注目を集めています。これまでの「年間100%再生可能エネルギー」調達では不十分とされ、企業にはよりリアルタイムなエネルギー管理が求められるようになっています。2022年から進められているGHGプロトコルのScope 2ガイダンスの改訂では、時間単位の排出係数の適用や追加性の要件導入といった変化が提案されています。これらの動きは、24/7 CFEコンパクトが掲げる原則と密接に関連しています。そのため、今後、24/7 CFEコンパクトへの関心が高まり、多くの団体が加盟することが予想されます。これを機に早めに加盟の準備を進めるのも良いかも知れません。
参考文献
- Google. The Internet is 24×7. Carbon-free energy should be too.
https://blog.google/outreach-initiatives/sustainability/internet-24×7-carbon-free-energy-should-be-too/#:~:text=supplier%20to%20establish%20one%20of,free%20energy - United Nations & Google. 24/7 Carbon-Free Energy Compact.
https://www.seforall.org/programmes/un-energy/energy-compacts/247-carbon-free-energy-compact#:~:text=commitment%20to%20the%20United%20Nations,critical%20to%20accelerating%20its%20arrival - Sustainable Energy for All. 24/7 Carbon-Free Energy Compact GUIDEBOOK.
https://247-carbon-free-movement.cdn.prismic.io/247-carbon-free-movement/Z8FMxp7c43Q3gWJp_24_7CFEGuidebook.pdf - Sustainable Energy for All. About the 24/7 Carbon-Free Energy Compact.
https://gocarbonfree247.com/the-movement/ - Sustainable Energy for All. Benefits of joining the 24/7 Carbon-Free Energy Compact.
https://gocarbonfree247.com/benefits/ - Sustainable Energy for All. Our signatories – 24/7 Carbon-Free Energy Compact.
https://gocarbonfree247.com/our-signatories/ - Greenhouse Gas Protocol. Scope 2 Proposal Summary.
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2023-12/scope-2-proposal-summary.pdf
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