Last Updated on 2024年11月20日 by HaidarAli
【気候変動関連用語がまるわかり!用語集はこちら】
EUが導入する環境関連法規制は、持続可能な社会を実現するために不可欠な施策です。
これらの規制は日本企業に多大な影響を及ぼし、対応の遅れが競争力の低下につながるリスクを伴います。
特に、規制順守のための技術革新やコスト負担、現地パートナーとの協力関係の強化、さらに環境報告やデータ管理の強化が求められる中で、日本企業はどのようにしてこれらの課題に対応していくべきかが問われています。
環境規制の背景と目的
気候変動に対するEUの取り組み
EUは、地球規模での気候変動の影響を深刻に受け止め、その対策に積極的に取り組んできました。
特にパリ協定において、温室効果ガスの排出削減目標を設定し、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを掲げています。
この目標を達成するために、EUは企業に対してエネルギー消費の削減や再生可能エネルギーの導入を求めるなどの環境規制を導入しています。
サステナビリティと経済成長の両立
EUの環境規制は、単に環境保護に留まらず、サステナビリティと経済成長の両立を目指しています。
持続可能な経済への移行は、長期的には企業の競争力を強化し、新たな市場機会を創出するものと考えられています。
EUは、企業が環境に配慮したビジネスモデルを採用することを奨励し、これにより経済活動の質を高めるとともに、環境への悪影響を軽減することを目指しています。
EU環境関連法規制
続いて、押さえておきたいEUの環境関連法規制を紹介します。
CSRD(EU企業サステナビリティ報告指令)
CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)は、企業がサステナビリティ情報を透明かつ一貫して開示することを求めるEUの規制枠組みです。
CSRDは、従来のNFRD(非財務情報開示指令)を大幅に改訂し、2022年11月28日に正式に採択されました。
この指令の目的は、企業のサステナビリティ情報の質と一貫性を向上させ、投資家や他のステークホルダーに対する情報提供を改善することです。
参考文献:リクロマ「CSRD(EU企業サステナビリティ報告指令)の報告基準・開示要件」
CBAM(炭素国境調整措置)
CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism)は、EUが導入を進めている国境炭素税です。EU域外から輸入される製品に対して、炭素価格を反映した証書の購入を義務付けています。
この措置は、域内外の企業に同等の炭素負担を求めることで、カーボンリーケージの防止と自国産業の保護を目的としています。
CBAMは、EU内外の炭素価格格差を解消し、温室効果ガス規制が緩い国々にも気候変動対策を促進するための重要な手段です。
参考文献:リクロマ「CBAM(炭素国境調整措置)実施時期と日本企業の対応」
欧州バッテリー規則
欧州バッテリー規則(European Battery Regulation)は、バッテリー製品のライフサイクル全体にわたる環境負荷を低減させることを目的としたEUの規制です。
この規則は、バッテリーの原材料調達から設計・生産、再利用、リサイクルに至るまで、バッテリー製品の生産工程全体を対象としています。
特に、EV用バッテリーを含むすべてのバッテリーが対象となり、環境負荷を最小限に抑えるための厳格な基準が設けられています。
参考文献:リクロマ「欧州バッテリー規則の対象製品と日本企業の対応」
EU ELV指令
EU ELV指令(End-of Life Vehicles Directive)は、使用済み自動車の処理に関する規制であり、2000年に発効されました。
この指令は、自動車が廃棄された後の環境負荷を軽減することを目的としています。
ELV指令では、自動車および自動車部品に対して鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの使用が原則として禁止されています。
これにより、資源の有効利用の促進が可能です。
参考文献:JETRO「環境規制:EU」
EU ETS
EU ETS(European Union Emissions Trading System)は、EUが導入した温室効果ガス排出量の削減を目的とする市場メカニズムです。
EU ETSは、主に発電、鉄鋼、セメント、ガラス製造、パルプ・紙製造業などのエネルギー集約型産業を対象とし、2021年からは海運、道路輸送、住宅などの建物も新たに対象に加えられました。
対象施設や企業は、毎年の排出量を政府に報告し、上限を超えた場合は市場で排出枠を購入するなどして補填する義務があります。
企業はコスト効率の良い方法を選択し、排出量を管理することが求められています。
参考文献:ビジネスIT「欧州域内排出量取引制度(EU-ETS)とは? 「排出量取引」の仕組みをわかりやすく解説」
UK ETS
UK ETS(United Kingdom Emissions Trading System)は、英国が独自に導入した排出量取引制度です。
これは、EUからの離脱(ブレグジット)後、2021年1月1日から施行された制度であり、EU ETS(EU域内排出量取引制度)に代わるものです。
UK ETSは、EU ETSと多くの共通点を持つ一方で、英国の気候目標に合わせてさらなる排出削減を目指しています。
参考文献:JETRO「動き出した英国排出量取引制度(UK-ETS)」
米国プラスチック規制
米国は、多くのプラスチックゴミを排出している国の一つであり、特に海岸への不法投棄や不適切な処理による廃棄が深刻な問題となっています。
この法律は、2032年までにカリフォルニア州での使い捨てプラスチック包装材を25%削減することを目標としており、さらにプラスチック包装材のリサイクル率を2028年までに30%、2032年までに65%に引き上げることを義務付けています。
この新法では、プラスチック汚染の影響を受けやすい低所得地域への助成として、今後10年で50億ドル(約6800億円)の基金を設立することが求められています。
参考文献:NATIONAL GEOGRAHIC「画期的なプラスチック規制法を導入、米カリフォルニア州」
EU環境規制の特徴と日本企業への影響
日本企業のサプライチェーンとEU規制のリンク
EUの環境規制は、製品のライフサイクル全体を通じて環境負荷を最小限に抑えることを目的としており、日本企業のサプライチェーンにも大きな影響を及ぼしています。
日本企業は、部品や素材の調達から製造、輸送、廃棄に至るまでの各段階で、EU規制に準拠した環境配慮型のプロセスを確立する必要があります。
これにより、サプライチェーン全体での情報共有や管理が重要となり、特に中小企業にとっては対応が難しい場合もあります。
そのため、業界全体での連携や、EU規制に適応するためのサポートが求められています。
日本からEU市場に製品を輸出する際の影響
日本企業がEU市場に製品を輸出する際、EUの環境規制に従うことが不可欠です。
日本企業は、これらの規制に対応するために、製品設計や製造プロセスを見直し、環境に配慮した材料の選定やエネルギー効率の向上に取り組む必要があります。
これらの対応には、コストがかかるため、特に中小企業にとっては大きな負担となる可能性があります。
環境配慮型製品の設計・製造に対する要求の高まり
EUの環境規制は、製品の環境負荷を軽減するため、設計・製造の段階から環境配慮型のアプローチを採用することを求めています。
日本企業は、これらの規制に対応するために、設計段階から環境配慮を組み込むことが必要です。
また、EU市場に対応した製品設計を行うことで、競争力を維持しつつ、グローバルな市場でのプレゼンスを強化することが期待されます。
参考文献
リクロマ「欧州バッテリー規則の対象製品と日本企業の対応」
JETRO「EU環境規制は日本企業にとって不利か」
日本企業が直面する課題と対応策
規制順守のための技術革新とコスト
EUの環境規制を遵守するためには、技術革新が不可欠です。
特に、製品のエネルギー効率の向上や、有害物質の削減、再生可能な材料の使用など、技術的な対応が求められます。
新技術の開発や既存設備の更新、さらに新たなプロセスの導入には、莫大な資金と時間が必要です。
日本企業にとって、これらのコスト負担は大きな課題となりますが、一方で長期的には競争力を維持するための重要な投資であるとも言えます。
規制に適合する製品を市場に投入することで、EU市場でのプレゼンスを確保し、他の競合企業との差別化を図ることが可能となります。
EU域内パートナーとの協力関係強化
EU市場での成功には、現地のパートナーとの協力が不可欠です。
この上で、現地の企業や研究機関との連携が重要になります。
現地での製品評価や認証を円滑に進めるためには、パートナー企業との協力が欠かせません。
日本企業は、これらの関係を強化することで、EU市場での競争力が高められます。
環境報告やデータ管理の強化
EUの環境規制を遵守するためには、適切な環境報告とデータ管理が求められます。
規制当局に対して正確で詳細なデータを提出することは、日本企業にとって大きな負担ですが、これを怠ると罰則を受けるリスクがあります。
特に、製品に含まれる化学物質の情報や、エネルギー消費データの管理は非常に重要です。
このため、日本企業は、環境データの管理システムを強化し、規制に対応するための体制を整える必要があります。
参考文献
リクロマ「欧州バッテリー規則の対象製品と日本企業の対応」
JETRO「EU環境規制は日本企業にとって不利か」
J-Stage「欧州市場における日本企業の環境事業展開の現状と課題」
まとめ
EUの環境規制は、気候変動対策を推進するための重要な施策です。
日本企業がこれらの規制に対応するためには、技術革新や現地パートナーとの協力、そして環境データの管理強化が不可欠です。
これらの対応策を適切に実行することで、日本企業はEU市場での競争力を維持し、さらなる成長の機会を掴むことが可能となります。
参考文献
[1]リクロマ「CSRD(EU企業サステナビリティ報告指令)の報告基準・開示要件」
[2]リクロマ「CBAM(炭素国境調整措置)実施時期と日本企業の対応」
[3]リクロマ「欧州バッテリー規則の対象製品と日本企業の対応」
[4] JETRO「環境規制:EU」
[5]ビジネスIT「欧州域内排出量取引制度(EU-ETS)とは? 「排出量取引」の仕組みをわかりやすく解説」
[6]JETRO「動き出した英国排出量取引制度(UK-ETS)」
[7]NATIONAL GEOGRAHIC「画期的なプラスチック規制法を導入、米カリフォルニア州」
[8]J-Stage「欧州市場における日本企業の環境事業展開の現状と課題」
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