Last Updated on 2024年11月20日 by AmakoNatsuto
【気候変動関連用語がまるわかり!用語集はこちら】
2022年11月7日、金融庁は「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を公表し、その中で「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」について取りまとめました。
本改正案の適用は、2023年3月31日以後に終了する事業年度における有価証券報告書等から開始される予定です。
この記事では、本改正案の気候情報に関する要点およびサステナビリティ担当者の方が押さえるべき内容について解説します。
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今回の改正案では、サステナビリティ情報について、「ガバナンス」と「リスク管理」は、すべての企業に開示が求められ、「戦略」と「指標及び目標」に関しては、各企業が重要性を判断した上で開示することが求められています。それぞれ求められている開示内容については、後述します。
“重要”な場合とは?
この重要性の考え方について、金融庁は、国際的な動向を踏まえた上で今後検討していくこととしています。ただし当社としては、自社の事業が次のようなリスクに晒されている場合、気候変動は自社及び投資家にとって“重要性がある”と考えています。
すなわち、気候変動による異常気象のリスク(物理リスク)や、また脱炭素に向けた制度変更などのリスク(移行リスク)です。また、統合報告書等において、マテリアリティの中に気候変動を含んでいる場合も重要性が高いと考えています。
参考までに、サステナビリティ情報開示の国際基準であるISSBは、“重要性”のある情報とは、その情報を省略・誤表示・覆い隠したりした際に投資家らの意思決定に影響を与えることが予想されるもの、と説明しています。 [1]
“サステナビリティ情報”とは?
ここでいうサステナビリティ情報とは、広くESG (Environmental: 環境、 Social: 社会、 ガバナンス: Governance) 関連の情報を指していることが考えられます。
金融庁は、サステナビリティ情報について、「環境、社会、従業員、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティなどに関する事項が含まれ得る」[2] としています。
企業HPやサステナビリティ報告書を参照可能
今般の改正案で有報に新設されましたが、サステナビリティ報告書、会社ホームページ、コーポレート・ガバナンスコードなどの媒体で既に開示している場合に関しては、そちらの情報を参照することが可能です。
金融庁は、「サステナビリティ情報を有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合には、サステナビリティ情報の『記載欄』において当該他の箇所の記載を参照できる」と言及しています。[3]
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“必須記載事項”の 「ガバナンス」「リスク管理」 とは?
本法案では、「ガバナンス」と「リスク管理」に関しては、有価証券報告書の提出義務がある企業全ての“必須記載事項”となりました。2023年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券法報告書を提出する企業は、この2項目について開示する必要があります。実際、どのような記載が求められているのでしょうか?
金融庁はTCFDの枠組みでの開示も認めている [2] ことから、TCFD提言内で要求されているガバナンス・リスク管理の記載内容も紹介します。
なお、TCFD提言については「TCFDとは?対応の重要性から対応ステップまで解説」をご覧ください。
ガバナンス
金融庁の説明
「ガバナンス」の記載内容について、金融庁は本改正案の中で次のように説明しています:「サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続をいう」[4]
TCFD提言の説明
2017年に報告された最終提言内では、ガバナンスの開示内容の概要として「気候関連のリスク及び機会に係る組織のガバナンスを開示する」[5] と規定されており、また「推奨される開示内容」として下記2点を提示しています。
a) 気候関連のリスク及び機会についての、取締役会による監視体制を説明する
b) 気候関連のリスク及び機会を評価・管理する上での経営者の役割を説明する
なお、必須記載事項のより具体的な記載内容や事例については、「義務化される有報開示「ガバナンス」「リスク管理」の記載内容とは?」の記事で詳しく解説していますので、そちらも合わせてご覧ください。
リスク管理
金融庁の説明
「リスク管理」の記載内容について、金融庁は本改正案の中で次のように説明しています。「サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、及び管理するための過程をいう」[4]
TCFD提言の説明
TCFD提言には、「気候関連リスクについて、組織がどのように識別・評価・管理しているかについて開示する」[5] と規定されており、また「推奨される開示内容」として下記3点が記載されています。
a) 組織が気候関連リスクを識別・評価するプロセスを説明する
b) 組織が気候関連リスクを管理するプロセスを説明する
c) 組織が気候関連リスクを識別・評価・管理するプロセスが組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについて説明する
なお、必須記載事項のより具体的な記載内容や事例については、「義務化される有報開示「ガバナンス」「リスク管理」の記載内容とは?」の記事で詳しく解説していますので、そちらも合わせてご覧ください。
「戦略」「指標と目標」は“重要性”に応じて開示
「戦略」と「指標と目標」に関しては重要性に応じて開示することとされました。これは即ち必須ではないものの、冒頭で紹介したような“重要性”がある場合には、開示を進めることが期待されています。
求められる開示内容は?
「戦略」
「戦略」の記載内容について、金融庁は本改正案の中で次のように説明しています。「短期、中期及び長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組をいう」[2]
この「戦略」は、狭義では「シナリオ分析」のことを指します。シナリオ分析について詳しくは「シナリオ分析とは?実践方法をわかりやすく解説」の記事をご覧ください。
「指標と目標」
「指標と目標」の記載内容について、金融庁は本改正案の中で次のように説明しています。「サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、及び監視するために用いられる情報をいう」[2]
スコープ1,2の開示も、“重要性”があれば開示
「指標と目標」のうち、とりわけ気候関連情報については、“スコープ1,2”における温室効果ガスの排出量について、「各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提」[3] とした上で、「積極的に開示することが期待される」[3] としています。
スコープにおける温室効果ガス排出量の考え方については、「スコープ1,2,3とは?各スコープの詳細から、温室効果ガス排出量の算定方法まで解説」をご覧ください。
スコープ1,2の6月開示は現実的でない?
なお、現実性の観点から考えると、3月末に終了する事業年度の温室効果ガスの算定および開示を6月に間に合わせることは難しいのではと考えています。
有価証券報告書に記載する以上、第三者保証を取得した温室効果ガス排出量を開示したいという企業が多いと認識していますが(※現状必須ではない)、4月上旬に1年間のデータを収集し、その後温室効果ガスの排出量を確定させ、それから第三者検証を2ヶ月程度で取得することは難しいのではと推察しています。
開示しない場合でも、その根拠を提示する必要
なお、「戦略」「指標と目標」は“重要性”に応じて開示すべき、とされているものの、なぜ重要でないと判断したのかまでの記載が“期待”されています。金融庁は改正案の説明で、「『戦略』と『指標及び目標』について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示を行うことが期待される」[3] と明言しています。
なお弊社では、「ガバナンス」「リスク管理」や「戦略」「指標と目標」を含めた気候情報開示の支援を行っております。部分的な支援や、開示レビューサービスもございます。まずはお気軽にご相談ください。
今後の流れ
国内外の動向を踏まえつつ改訂を予定
金融庁は、国内外の動向を踏まえつつ原則の改訂を予定していると明言しています [3]。2023年初旬に公表されたのISSB基準の内容を、日本国内の企業向けに取り込む見通しです。具体的には、日本サステナビリティ委員会(SSBJ)が、日本としてのISSBの基準の位置づけ、具体的な開示内容、保証の仕組み等を議論することが見込まれます。
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「なぜ今TCFDが求められているのか」から、「どんなプロセスで対応していけば良いのか」
までをご理解いただけます。
参考文献
[1] IFRS(2022年3月)「IFRS S1号『サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項』[案]」
[2] 金融庁(2022年11月)「『記述情報の開示に関する原則(別添)―サステナビリティ情報の開示について―』(案)」
[3] 金融庁(2022年11月)「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表について」
[4] 金融庁(2022年11月)「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部改正(案)」
[5] TCFD(2017)「最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言」
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