Last Updated on 2024年11月26日 by HaidarAli
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TCFD提言対応で求められるシナリオ分析。シナリオ分析はTCFD提言対応の中でも特に労力がかかる箇所であり、取り組むうえで課題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、そんなシナリオ分析について、具体的な工数を示しながら実践方法をわかりやすく解説します。
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シナリオ分析とは
シナリオ分析とは、将来の気温上昇が企業にもたらすリスクや機会を推測し、それに基づいて自社の対応策や戦略を策定することです。その目的は、自社の気候変動に対する強靭性(レジリエンス)を説明することで投資家からの評価を得ることです。
戦略、リスク管理、指標と目標、ガバナンスの4要素から構成されるTCFD提言のうちの、「戦略」において用いられます。
また、シナリオ分析の捉え方は複数あり、「戦略」中の上記図における、①「a,b,c」と捉えるケースと、②「b,c」と捉えるケースが存在します。ポートフォリオが複雑、或いは複数ある企業の場合は①の捉え方、ポートフォリオが単一の企業の場合は②の捉え方をすると表現が容易になります。
本記事では、単純化のため「単一事業」のケース(②「b,c」をシナリオ分析と捉えるケース)にて説明します。
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シナリオ分析の進め方
続いて、シナリオ分析の進め方について解説します。
ここでは、シナリオ分析を1.前提準備、2.戦略策定、3.情報開示の3段階にわけて説明します。
① 前提準備
前提準備では、「対象範囲」の確認と「時間軸」を設定します。
(1)対象範囲の設定
シナリオ分析を行う対象範囲について、自社の単体についてか、一事業についてか、或いは連結か、といった対象範囲を決定します。
対象範囲は「売上比率」「気候変動への関係性」を軸に選定することができます。
(2)時間軸の設定
次に、シナリオ分析を行う時間軸を設定します。時間軸の設定では、自社の「短期・中期・長期」を定量的に定め、さらに「何年後の世界の『リスクと機会』を想定するのか」を決定します。
「短期・中期・長期」の期間がそれぞれどれほどの長さとなるのかは企業によって異なります。
傾向としては、多くの企業においては、短期0-3年、中期3-10年、長期10年以上と設定していますが、企業ごとの中期経営計画や会社の時間軸に合わせて決定して問題ありません。
例えば、中期経営計画を5年スパンで出すような企業では、短期を0-1年、中期を1-5年、長期を5年以上とするケースもあります。
「何年後の世界を想定するか」については、2030年と2050年の2つの時間軸を設定する企業が多い傾向にあります。
ここでは2030年、2050年のどちらかにきっちりと決めなければならない、ということはありません。
出せる部分は2030年、出せない部分は2050年としてハイブリッドの形でシナリオを分析している企業もあります。自社の状況に合わせて設定してみましょう。
② 「戦略」策定
次に、戦略の策定について解説します。
戦略の策定は、①リスクと機会の特定、②シナリオ群の定義、③財務影響評価、④対応策の検討という4段階で進めます。
(1)リスクと機会の特定
まずは、「リスクと機会」の特定です。
TCFDでは、上の図の8つのリスク項目に沿って分析することが望ましいとされています。
具体的には、自社のリスクを8項目に照らしてリストアップし、財務的評価において重要かどうかを評価します。そのうえで、リスクの管理が出来ており、数字の開示が可能なものを開示していきます。
「リスクと機会」に関する記事はこちら!
⇒TCFD開示のシナリオ分析における「リスクと機会」とは?基本の考え方から開示例まで解説!〈シナリオ分析解説シリーズ〉Part1
(2)シナリオ群の定義
次に、シナリオ(群)の定義を行います。
TCFD提言対応においては、「2℃以下の世界」を含む、複数の世界を想定する必要があります。メジャーなのは、①「4℃の気温上昇が起きる世界」と、②「2℃の気温上昇が起きる世界」か「1.5℃の気温上昇が起きる世界」のどちらか、の2つの世界の設定です。
2℃か1.5℃のいずれにするかについては、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)にて産業革命前からの気温上昇を「1.5℃」に抑える努力を追求するとした合意文書が採択されている関係上、「1.5℃の気温上昇」を選択する企業が多い傾向にあります。
これらの4℃、2℃、1.5℃といった世界観を考える上では、主にIPCCやIEAがそれぞれの気温上昇に合わせて提示しているシナリオを参照します。
IPCC(Intergovenment Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)は、主に気象に関するシナリオを、IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)は主にエネルギー政策などに関するシナリオを提示しています。
有名なシナリオとしては、IPCCの出す、将来の気温上昇を2℃以下に抑える「RCP2.6シナリオ」や将来の気温上昇が4℃以上になる「RCP8.5シナリオ」があります。また、最新版の第6次報告書で用いられている「SSPシナリオ」もあります。
これに加えて、IEAは将来の気温上昇を1.5℃に抑える「SDS(Sustainable Develop Scenario)」などを出しています。
これらを参考にシナリオを設定する企業が多くみられます。
これらのシナリオを基に、新規市場参入者、サプライヤー、顧客、各国政府動向、テクノロジー、規制など様々な観点から自社に与えられる影響を考えましょう。そして、自社のビジネスに対する影響が大きく、現実になる可能性が高そうな将来像を、「自社シナリオ」として独自に描き、定性的に表現しましょう。ここでは、PEST分析や5フォース分析の手法を用いると良いでしょう。
(3)財務影響評価
財務影響評価とは、①で特定したリスクと機会と、②で定義したシナリオ群を用いて、気候変動が自社に与える金銭的な影響を評価することです。
ここでは例を挙げて説明します。
例えば、「リスクと機会の特定」で挙げた8つのリスクのうちひとつ、「緊急性の物理リスク」における洪水などの異常気象の重大性と頻度の上昇について算定する場合、2020年に九州・熊本を中心に豪雨被害があった際の影響金額を用います。
計算式としては、それぞれの世界観に合わせて以下のようになります。
・2030年の2℃の世界での影響金額=2020年の1日あたりの豪雨被害額×2.5日/年
・2030年の4℃の世界での影響金額=2020年の1日あたりの豪雨被害額×3日/年
このように、財務影響金額の算定はある程度大ざっぱなものでも問題ありません。
また、財務影響の評価が困難な場合は、定性的な目標にとどめても構いません。
シナリオ分析が正しいことの保証の観点(第三者保証)においては、計算に用いる実際のデータ、例えば「2020年の1日あたりの豪雨被害額」は正しいものを使うことが求められます。計算の際には正しいデータを使うようにしましょう。
財務影響算定に関する記事はこちら!
⇒財務影響算定とは?TCFD開示のシナリオ分析における具体的な手順について
(4)対応策の検討
財務影響評価ができたら、それをもとに対応策を検討します。
よくある対応項目としては炭素税への対応、化石燃料由来の原材料への対応などが挙げられます。特にマイナスの財務影響に関しては、対応策を提示することが望ましいでしょう。
③ 情報開示
最後に、情報開示について解説します。
情報開示の方法は、ホームページでの開示、有価証券報告書での開示などがあります。
本記事では、ホームページでの開示についてお伝えします。
ホームページ開示
気候変動情報に対する開示はまだ広がりを見せ始めたばかりであり、わかりやすく開示することが大切になります。図や表、文面など開示形式は問われませんが、自社が投資家に対して示したいことを開示に組み込むと良いでしょう。
ホームページでの開示をしたのちに、有価証券報告書などへの反映を行いましょう。
開示の好事例としては、パナソニックなどが挙げられます。
他のTCFD開示の好事例については、以下の記事をご覧ください。
関連記事:TCFD開示の好事例を解説 – リクロマ株式会社
まとめ
本記事ではシナリオ分析の実践方法について解説しました。
シナリオ分析は、TCFD提言対応でも労力がかかる箇所ではありますが、長期的で不確実な気候変動における課題について、組織として戦略的にとりくむために有効な手法です。
本記事を参考に、ぜひシナリオ分析を進めてみてください。
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