Last Updated on 2024年5月3日 by Yuma Yasui

2020年10月のカーボンニュートラル宣言以降、様々な脱炭素政策が推進されてきました。そのうちの一つが経産省が主導するGXリーグです。しかしGXリーグは、大々的に打ち出されている一方でその活動はやや複雑であり、参加資格や参加メリットなどが見えていない担当者様もいらっしゃることと思います。

この記事では、GXリーグの概要と参画するメリット、そして今後の動向について解説します。

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GXリーグの目的

GXリーグは、2050年時点でのカーボンニュートラルを達成するために必要な社会変革(≒GX)に向けて、GXに挑戦する企業群や官・学が協働するイニシアチブです。

GXリーグのこれまでの経緯

GXリーグの誕生は、2020年10月に日本政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」に端を発しています。これを受けて同年12月に「グリーン成長戦略」が公表され、その中で「成長に資するカーボンプライシングの検討」の指示がありました。それから翌年2021年2月に経産省で議論が開始され、同年12月に「GXリーグ基本構想案」が公表されました。

2022年2月に発表された「GXリーグ基本構想」に440社の賛同が集まり、同年6月から賛同企業を交えた準備期間としての活動が開始されました。

それから官邸により議論を得た現在、2023年2月に、GXリーグの活動の実行のために必要であった「GX基本方針」と「GX推進法案」が閣議決定され、いよいよ4月からGXリーグの活動が本格的に開始するという現状です。

GXリーグ事務局 [1] より弊社作成

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GXリーグの活動内容

GXリーグの活動は大きく4つに分かれています。ひとつずつ見ていきましょう。

GXリーグ事務局 [1] より

国内での「自主的な排出量取引 (GX-ETS)」

概要

GHG排出枠をクレジットとして取引するいわば日本全国版の排出量取引市場を、まずは参画企業を中心に作ろうという活動です。

4つの活動の中でも最も注目を集めているのがこの「排出量取引 (GX-ETS)」ではないでしょうか。この取組みはGXリーグ創設の発端となった2020年12月の「成長に資するカーボンプライシングの検討」にて指示されたものでもあり、GXリーグが最も注力している分野とも考えられます。

目的

GXリーグはこの活動を、「社会全体で効率的な排出削減を行うことを目的とし、企業が自ら掲げる野心的な排出削減目標の達成に向けた排出量取引を実施」することとしています。

具体的な実施事項

GXリーグの排出量取引 (GX-ETS) は4つのステップに分かれています。「プレッジ」「実績報告」「取引実施」「レビュー」です。

気候変動を取り巻く「市場創造のためのルール形成」

概要

気候変動関連のルール形成のワーキンググループをいちから発足し、GXリーグ事務局と参画企業が協働してルール形成に取り組む活動です。

新たなルールの下に市場が生まれるという前提のもと、ガイドラインや認証制度の開発を通して脱炭素経済を活性化させていく狙いがあるものと考えられます。ひいては、日本発の世界基準策定も視野に入れ、世界に向けた発信も行っていくようです。

目的

事務局はこの活動の目的を下記のように記載しています。

「産業の垣根を取り除き、企業自らが『稼ぎながら世界に貢献する(新たな付加価値を提供する)』ような、カーボンニュートラル時代の市場創造やルールメイキングを行う。ルールの設計だけではなく、実証と実装、さらには世界に向けて日本企業からもルール の発信を行う。 」

具体的な実施事項

GXリーグ運営事務局が設定するテーマ、もしくはGXリーグ参画企業が提案するテーマについてワーキンググループを組成し、ルールの策定に向けた議論を行っていくようです。参画企業からのテーマ募集は5〜6月頃を予定しています。

事務局提案のワーキンググループとしては2022年に「GX経営促進WG」が発足しました。

また参画企業提案のワーキンググループとしては、下記3つが既に発足しています。

  • グリーン商材の付加価値付け検討WG
  • ボランタリーカーボンクレジット用途・情報開示検討WG
  • 日本で育つGXツリー開発と植林環境ビジネスWG

ベストプラクティスや実務上の課題を議論する「GXスタジオ」

概要

気候変動対応のベストプラクティスや実務上の課題、その他企業の関心事項についてディスカッションや情報交換を行う場です。2023年度は、6月から隔月開催される予定です。2022年度は8月から全5回開催されてきました。

目的

公式ではGXスタジオの目的を、「GXに関連する各テーマに関する各企業の取組・ベストプラクティスの共有。2050年CNを実現するための連携や創発、共創を推進するための、企業間交流の促進」としています。

具体的な実施事項

参画企業のプレゼンテーションや、特定のテーマについてのディスカッションを行います。

参考までに、2022年度の開催テーマは下記の通りです。

GXリーグ事務局 [1] より

ビジネス機会の創発を狙う「未来社会像対話」

概要

脱炭素経済におけるビジネス像やGXリーグの将来像など、比較的オープンな話題について議論をする場です。上記のような活動と比べると頻度も多くありません。

目的

事務局はこの活動の目的を、「業種を超えた対話により、2050カーボンニュートラルを前提とした経済社会システムにおける新たなビジネス像を創造し、企業における新規事業開発・研究テーマ開発等を促進する」ものとしています。

具体的な実施事項

2022年度は計3日間開催され、当時の440社賛同企業のうち100社が参加し、2050年時点の未来像とそれに伴う事業機会などについて議論がされたようです [2]。

2023年度は、参画企業に加えて有識者、各地域、生活者をゲストとしたディスカッションを実施し、社会実装に向けたアイデアの具体化を目指すとしています。

GXリーグ参加のメリット

排出削減量を効果的にアピールできる

上述の「国内排出量取引制度(GX-ETS)」への参加により、自社の排出削減量を効果的に対外アピールできます。GXリーグの排出量取引制度では2030年度時点での削減目標を掲げることになりますが、特に排出削減に積極的に取り組む企業にとっては、単純な削減量の報告にとどまらずクレジットを売却して価値を創出していることをアピールできます。

何より、クレジットは定量情報です。ESG関連指標とその進捗の開示が投資家や評価機関から要求される昨今、脱炭素への取組みとしてクレジット取引状況を開示することで、競争優位性の確保につながるでしょう。

自社に有利なルール形成ができる

「市場創造のためのルール形成」に参加することにより、自社提案の気候変動関連ルールを世界標準にできる可能性があります。ルール形成ワーキンググループは事務局だけでなく参画企業の発案で発足することもできるため、業界/自社ガイドラインを有している企業は、それを発展させる形で提案することも可能でしょう。

世界標準とまでならなくても、自社の取組みと整合性のある認証制度などのルールが策定されれば、それも競争力の源泉になりえます。

他社の担当者とサステナビリティ推進の意見交換ができる

「GXスタジオ」への参加を通して、自社が直面している実務的な課題について、他社の担当者と意見交換をすることができます。先述の通りGXスタジオでは、参画企業の取組に関するプレゼンテーションや与えられたお題へのグループディスカッションを通して、情報収集/意見交換ができます。

例えば昨年10月の回では、「サプライチェーン全体でGXを推進するには?」というお題に対して5人前後のグループに分かれてディスカッションが行われました。実務担当者と対面で意見交換をすることにより、目下の課題解決だけでなく、潜在的な提携の機会にもなります。

GXリーグへの参加要件

GXリーグへの参加要件を紹介します。

参加資格

GXリーグへの参画には、下記の条件を満たしている必要があります。後述の「GXリーグ参画企業に求める活動」へのコミットは必要ですが、事業規模や業界、現在の取組状況などは勘案されないため、参画自体のハードルは比較的低いです。

  1. 法人格を有する又は外国会社に該当し、日本国内で事業を展開していること。
    ※事業規模は問わない。
  2. 「GXリーグ参画企業に求める取組」に賛同し、必須項目の実施にコミットし、任意項目の実施についても努力すること。
  3. GXリーグ事務局が定める運営規程及び今後GXリーグで実施される取組に関して将来制定される規則のうち、自らが参加する取組に関する事項の遵守に承諾すること。
  4. 以下の項目には該当せず、申告に虚偽があった場合に、事務局が行う一切の措置について異議を申し立てないことに同意すること。
    1. 反社会的勢力又は反社会勢力でなくなった日から5年を超過していない
    2. 法人でその役員のうちに反社会的勢力等がある
    3. 反社会的勢力等がその事業活動を支配する
GXリーグ[3]より

GXリーグ参画後に要求される活動

事業会社は、GXリーグに参画後、下記の項目へのコミットが要求されます。大きくは、1.自らの排出削減2.サプライチェーンでの排出削減の取組3.製品/サービスを通じた市場での取組、の3つです。なお金融機関には詳細の異なる要求が提示されています [3]。

GXリーグ[4]より

①自らの排出削減

ここで求められるのは、①2050年時点もしくはそれ以前のカーボンニュートラルを長期目標として設定しその達成に向けた“トランジション戦略”を策定すること、直接排出(スコープ1)と間接排出(スコープ2)の2030年,2025年時点での削減目標と2023〜2025年度の排出削減量総計の目標を設定すること、②GX-ETSにおける排出削減目標の進捗や取引状況を公表すること、です。

なお、③GX-ETSにおける排出削減目標をより野心的なものに引き上げること、に関しては任意とされています。

“トランジション戦略”には、次の4つを含む必要があります:

(1) 2050年以前のカーボンニュートラル⽬標(⻑期⽬標)

(2) GX-ETSにおける国内削減⽬標もしくは⾃らが別途定める2030年度の定量的な削減目標

(3) 期限(2025年や2030年まで等)を定めた具体的施策

(4) 戦略の実⾏を管理・評価するためのガバナンス体制

非常に難易度が高い取組みです。

なお弊社では、①の後半部分に概要する、SBT目標設定の支援を提供しております。詳しくは「【支援事例】SBT目標の設定・承認申請支援」の支援事例記事をご覧ください。

②サプライチェーンでの排出削減の取組

ここで求められているのは、①自社製品の生産に関わるサプライヤーの排出量削減の支援を実施することもしくはその計画を策定すること、②自社製品のCFP(カーボンフットプリント)の表示等を通じてサプライチェーン下流の消費者に対する脱炭素への意識醸成を促進することもしくはその計画を策定すること、です。なお、③サプライチェーン排出(スコープ3)における2030年時点の削減目標の設定とその達成に向けたトランジション戦略の公表は、任意とされています。これも非常に難易度の高い取組みです。

弊社では、②に該当する製品のLCA算定支援を提供しております。詳しくは、「LCAとは?実践的な算定ステップから活用事例まで紹介」をご覧ください。

④製品/サービスを通じた市場での取組

ここで求められているのは、①地域社会・教育機関・NGO等の市民社会等との対話の実施もしくはその計画を策定すること、②製品/サービスを通じた削減貢献や、クレジット等のカーボンオフセット製品を市場に投入することによってグリーン市場の拡大に貢献することもしくはその計画の策定、③脱炭素対策が講じられた製品の調達を通したグリーン市場の拡大に貢献することもしくはその計画の策定、です。

GXリーグの今後の動き

GXリーグは、2023年4月まで参画企業を募集したのち、2024年度から年次報告を要求していく予定です。

募集期間について

参画企業の募集期間は2023年4月28日までで、それから9月29日までのデータ登録期間を経た後に、2024年度以降から年次報告を行う流れになっています。

GXリーグより

4つの活動領域について

「GX-ETS」は、2023年4月から8月まで参画企業要件に基づいて目標設定を行い、2024年9月から排出量実績の報告をしていくことになります。取引市場については、2026年度から本格稼働する予定です。

「市場創造に向けたルール形成」では、5月~6月の間で参画企業からテーマを募集し、8月頃から各ワーキンググループにおいてルール形成に向けた議論が開始されます。

「GXスタジオ」に関しては6月から隔月開催が予定されています。なお、ビジネス機会の創発を狙う「未来社会像対話」は2023年度の活動予定は公開されていません。

GXリーグの動向が一般企業にもたらす影響は?

あくまで当社の見解ですが、「GXスタジオ」と「未来社会像対話」の活動からは、その活動の性質から、G企業に大きな影響を与えるイニシアチブは生まれてこないと考えています。「排出量取引制度 (GX-ETS)」と「ルール形成検討会」も、現状の制度ではその影響も限定的になると考えられます。

「排出量取引制度 (GX-ETS)」に注目

2023年2月に閣議決定された「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案 (以下、GX推進法) 」では、150兆円の投資が必要との認識が示され、5つの政策方針が掲げられました。そのうちの一つが排出量取引制度であり、政府は“GX推進機構”を設立し、排出量取引制度の運営を行うとしています。

排出量取引は、2026年の本格稼働後もあくまでも自主参加制度であり、欧州のEU-ETSのように対象企業に排出枠の制限を義務付けるものではありません。そのため、GX-ETSに参加しない企業には直接的な影響はないと考えてよいでしょう。

しかし、業界のトップランナーが排出量取引に積極的に取組むような場合には、間接的にその影響を受けるケースは想定されます。例えば、トップランナーに追随する形で取引制度に参加する企業が増えることで投資家の業界に対する見方が変わったり、また企業を業界を基準に相対評価をする評価機関からすれば、取引制度に参加していない企業に対して低いスコアリングを付ける、というような場合もあり得ます。

現在参加を検討していない企業様も、GX-ETSの動向は注視しておく必要がありそうです。

まとめ

以上、この記事では、GXリーグの概要と参加のメリットについて解説しました。GXリーグは、排出量取引・ルール形成検討会・GXスタジオ・未来社会像対話、という4つの領域で活動をしています。参画企業はGXリーグでの活動を通じて、排出削減の効果的な対外アピール、自社の有利なルール形成、他社の担当者との意見/情報交換などのメリットを享受できます。

4つの活動領域のうち特に排出量取引制度は、この2月に閣議決定されたGX推進法のひとつとして位置づけられているように国の注力政策でもあるため、未参加企業にも一定程度の影響が想定されます。今後の動向に注目です。

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カーボンニュートラルやネットゼロ、TCFDと言った気候変動に関わる課題を抱える法人に対し、「社内勉強会」「コンサルティング」「気候変動の実働面のオペレーション支援/代行」を提供しています。

Author

  • 西家 光一

    2021年9月入社。国際経営学修士。大学在学中より国際人権NGOにて「ビジネスと人権」や「気候変動と人権」領域の活動を経験。卒業後はインフラ系研究財団へ客員研究員として参画し、気候変動適応策に関する研究へ従事する。企業と気候変動問題の関わりに強い関心を寄せ、リクロマ株式会社へ参画。

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