Last Updated on 2025年3月28日 by Moe Yamazaki

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はじめに

なぜPCAFが重要なのか?

投資に関する排出量の計上を行うScope3カテゴリー15において、PCAFは算定のルール基準として多くの金融機関で活用されています。特にTCFDやSSBJなどの開示要請に対応する上で、PCAFは標準的な算定手法を提供する重要な基準となっています。

金融機関が直面する課題(データ取得・算定精度向上)

データ品質のスコアリングが5段階で定義される中、現状では多くの金融機関がスコア5や4のレベルに留まっています。より高品質なデータの取得と算定精度の向上が課題となっています。

PCAF標準を活用することで得られるメリット

PCAFに基づく算定を行うことで、国際的に認められた統一基準での排出量の算定が可能となります。また、データ品質のスコアリングにより、算定の精度と信頼性を段階的に向上させることができます。

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PCAFの各資産クラスの算定方法

上場株式・社債

一般企業向けの社債全般、普通株式、優先株式が含まれます。収益の用途が不明なものは含まれますが、収益の用途が明確であるグリーンボンドやソブリン債等はこのクラスには含まれません。算定対象としては、企業のScope1、2が算定が必要で、現状でScope3に関しては必要とされていませんが、段階的に今後導入されていくという検討が進められています。

スコア5の算定式では、帰属係数の部分は投融資残高が分子で、資産が分母です。これは企業の指標ではなく、業界全体の指標を据え、それに掛け合わせる排出量は業界全体の平均的な排出量となります。このように平均的な数値をベースに算定することになるため、データの品質としてスコア5は低くなります。一方でスコア4では企業単位での指標となり、表記上は時価総額となっています。

出典:PCAF (2020) “The GLOBAL GHG ACCOUNTING & REPORTING FOR THE FINANCIAL INDUSTRY Standard  for the Financial Industry.First edition.(一部翻訳・加工)

事業融資・非上場株式

使用用途が明確でない融資、非上場企業向けの株式等が該当します。算定対象としては、同じくScope1、2が対象でありつつも、Scope3も段階的に導入が検討されています。

出典:PCAF (2020) “The GLOBAL GHG ACCOUNTING & REPORTING FOR THE FINANCIAL INDUSTRY Standard  for the Financial Industry.First edition.(一部翻訳・加工)

プロジェクトファイナンス

使用用途が明確なプロジェクトで、具体的にはガス火力発電所の建設や運転、あるいは風力や太陽光などの再エネ関連のプロジェクト等に対する融資が含まれます。算定対象については、融資を受けた活動におけるScope1、2が対象となります。これまでの企業レベルと異なり、プロジェクト単位、活動単位のScope1、2が対象となります。

算定式も一部変わり、スコア5は先ほどと同様の形で業界平均のような形の数字を使用するため、品質が低い算定方法となります。一方でスコア4になると、よりプロジェクト別の指標が盛り込まれ、実態に非常に近く、データの品質としても上がってきます。スコア3以降になると、プロジェクト単位の生産量当たりの排出量、あるいはプロジェクトのエネルギー消費などのデータの取得が必要となります。

出典:PCAF (2020) “The GLOBAL GHG ACCOUNTING & REPORTING FOR THE FINANCIAL INDUSTRY Standard  for the Financial Industry.First edition.(一部翻訳・加工)

商業用不動産・住宅ローン

商業用不動産は商業用不動産の購入、借り換えのための投融資が含まれます。株式市場に上場している商業用不動産は、冒頭で説明をした上場株式と社債クラスの方に含まれます。対象としては、建物運用時のScope1、2が対象となります。

算定式はこれまでとは異なり、建物ベースでの考え方となります。スコア5では物件取引時価格が分母・残高が分子×建物数となり、建物数にフォーカスしているため、建物数あたりの排出量×用途別建物数という形で定義されます。一方でスコア4になるとより実態に近く、面積あたりの排出量、用途別床面積を掛け合わせていくことで、粒度としてはより細かい形での算定となります。

出典:PCAF (2020) “The GLOBAL GHG ACCOUNTING & REPORTING FOR THE FINANCIAL INDUSTRY Standard  for the Financial Industry.First edition.(一部翻訳・加工)

住宅ローンは戸建住宅や小規模の集合住宅の購入・借り換えのための投融資が含まれ、居住目的以外の建物は商業用不動産クラスに分類されます。算定対象としては商業用不動産と同じく建物運用時のScope1、2が対象となり、算定式自体もスコア4、5については、商業用不動産クラスと同様の形となります。

出典:PCAF (2020) “The GLOBAL GHG ACCOUNTING & REPORTING FOR THE FINANCIAL INDUSTRY Standard  for the Financial Industry.First edition.(一部翻訳・加工)

自動車ローン

個人・企業が自動車の購入のための資金調達を目的とした投融資が含まれます。算定対象としては、自動車運用時のScope1、2が対象となり、現状でScope3の算定は不要とされています。Scope1としては燃料燃焼による排出量、例えばガソリンや軽油などの燃焼に伴う排出量となり、Scope2についてはEVで消費・使用される電気の発電時の排出量のデータが必要となります。

算定式については、スコア5では取引時の価格分の残高と、走行距離×走行距離あたりの排出量を掛け合わせていきます。算定式自体はスコア4と同じですが、データの粒度が異なり、具体的には走行距離あたりの排出量が、スコア5では推定される車種の指標を示します。車種を取得できない場合は、この推定で走行距離当たりの排出量を算出します。一方でスコア4では車種別の指標となるため、具体的な車種の情報も必要となります。スコア3以上になると、走行距離の部分が統計的な国単位での走行距離、あるいはより細かい県・地方レベルでの統計的な走行距離が必要となり、データの入手難易度も上がっていきます。

出典:PCAF (2020) “The GLOBAL GHG ACCOUNTING & REPORTING FOR THE FINANCIAL INDUSTRY Standard  for the Financial Industry.First edition.(一部翻訳・加工)

ソブリン債

国内もしくは外貨で発行される全ての満期のある国債および国のローンが含まれます。これまではScope1、2だけが算定対象でしたが、ソブリン債ではScope3も対象に含まれます。これらのデータは全て公的機関のレポート等から取得が可能となりますので、入手難易度が非常に高いわけではありません。

Scope1は国の領土内に位置する排出源からの排出量で、Scope2は他の領土から輸入されたものを国内で利用する場合に発生する排出量となります。Scope3については、活動が国の領土内で行われた結果としての非エネルギー輸入品に起因するものとなります。

算定式は、スコア4、5についてはPPP調整後のGDP等の公的なデータを使用します。なお、GHG排出量のproxyについては、特定のセクターにおける企業の排出量を推定するための適正な財務指標と見なされない場合は、他の適切な財務指標を代理として適用することが可能とされています。

データの品質については、スコア4、5は先ほどと同様のデータで、より上位になるにつれて、国の未検証の温室効果ガス排出量が直接的に必要となったり、スコア1では国によって報告された温室効果ガスの検証済み排出量やPPP調整後のGDPのデータが必要となり、難易度としてもより高くなります。なお、ソブリン債については、該当する金融機関はそこまで多くないという認識です。

出典:PCAF (2020) “The GLOBAL GHG ACCOUNTING & REPORTING FOR THE FINANCIAL INDUSTRY Standard  for the Financial Industry.First edition(一部翻訳・加工)

データ取得と品質管理

PCAFスコアリングの詳細(スコア1〜5)

GHGの排出量を開示する場合、データ品質のスコアも併せて開示する必要があります。スコア5、4では業界平均値をベースとしたデータを使用します。スコア3以降ではより詳細なデータが必要となり、スコア1では第三者保証・検証を取得した排出量データが求められます。

出典:PCAF (2020) “The GLOBAL GHG ACCOUNTING & REPORTING FOR THE FINANCIAL INDUSTRY Standard for the Financial Industry.First edition.

どのようにデータ精度を高めるか?

足元の取り組みとしては、スコア5、4からまずは進め、徐々に投融資先のエンゲージメント等を含めてスコア3、2に上げていき、最終的にはスコア1を目指すアプローチが推奨されています。スコア3以降では投融資先の企業別データが必要となり、データの入手難易度は上がっていきます。

サプライヤー・投融資先とのエンゲージメント

より高品質なデータを取得するためには、投融資先との緊密なコミュニケーションが必要となります。特にスコア1レベルの第三者保証・検証を取得した排出量データの入手には、投融資先との積極的なエンゲージメントが不可欠です。

まとめ

今回は、PCAFの具体的な算定方法と実践事例について解説しました。PCAF算定では、各資産クラス別に定められている算定対象、算定式、データ品質のスコアを活用し、排出量算定の標準化と透明性向上を図ることが重要です。

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参考文献

Green House Gas Protocol(Nd) “Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard”   
PCAF (2020) “The GLOBAL GHG ACCOUNTING & REPORTING FOR THE FINANCIAL INDUSTRY Standard for the Financial Industry.First edition.
環境省(2021)「地球温暖化対策計画」 https://www.env.go.jp/content/900440195.pdf
環境省(2023)「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル(Ver4.9) 」
環境省 (Nd)「第Ⅱ編温室効果ガス排出量の算定方法 Ⅱ-3」https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/files/manual/chpt2_5-0_rev.pdf
環境省 「グリーン・バリューチェーン プラットフォーム」https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/
環境省 経済産業省(2021)「国際的な気候変動イニシアティブへの対応に関する ガイダンス」https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/kankyou_keizai/guidance202103.pdf
高瀬香絵(2021).「ネットゼロとスコープ3: CO2吸収を含めたライフサイクル思考の高まり」『Journal of Life Cycle Assessmen』17巻, 4号, pp239.

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