Last Updated on 2024年12月30日 by Moe Yamazaki
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GHG(温室効果ガス)算定は、企業が気候変動に関する情報開示や対応をするうえで、非常に重要なステップであり、正確な算定が求められます。本記事では、なかでもScope3算定でよくある間違いと正しい算定方法について、弊社現役コンサルタントへのインタビュー形式で解説いたします。
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長谷川 大翔 Hasegawa Hiroto
コンサルタント。大学では気候変動の経済学を専攻し、リクロマ株式会社に創業初期より参画。情報開示支援を中心に温室効果ガスの排出の算定や高度なシナリオ分析の業務を担う。
算定時に起こりやすいミス
インタビュアー(以下Q):それでは、Scope3算定時のよくあるミスについて解説していただければと思います。まず最初に、算定時に起こりやすいミスについて教えてください。
コンサルタント(以下A):算定時に起こりやすいミスとして、Scope3のカテゴリ2、カテゴリ3、カテゴリ6,7を取り上げて解説しようと思います。
カテゴリ2のよくある間違い:排出原単位の選択ミス
Q:カテゴリ2(資本財)の算定に関してはどのような間違いがあるでしょうか。
A:カテゴリ2(資本財)の算定において、排出原単位の選択で間違いが発生することがあります。一般的に、カテゴリ2を算定する際には、環境省が提供しているデータベースの「資本財の価格当たり排出原単位」を使用するのが一般的です。この表には業界ごとの原単位が掲載されていますが、原単位を選択する際に実質的な支出内容に基づいて選んでしまうことが、よくあるミスです。
例えば、自動車を購入した場合に「乗用車」の原単位を、建物に関する支出があれば「建設」の原単位を選択してしまうケースなどです。
Q:正しい原単位の選択方法は何でしょうか?
A:カテゴリ2の排出原単位は支出内容ではなく、支出主体に基づいて選ぶ必要があります。具体例として、半導体メーカーが営業用車両を購入した場合、「乗用車」ではなく「半導体」という、事業支出主体に対応する原単位を選ぶ必要があります。
Scope3カテゴリ2の算定方法と企業事例についてはこちら!
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カテゴリ3のよくある間違い:燃料の原単位選択
Q:カテゴリ3に関してはどうでしょうか。カテゴリ3(燃料)の算定においては、IDEAデータベースの原単位を使用することが一般的ですが、このデータベースには燃料ごとに複数の原単位が設定されており、正しい原単位の選択が難しいのではないでしょうか。
A:その通りです。ここでも算定ミスが生じることがあります。たとえば、A重油に関する原単位には、「A重油」という名前そのままのものと、「A重油の燃焼エネルギー」と記載されたものがあります。この際、後者の「燃焼エネルギー」が付いた原単位を選んでしまうことが、よくある間違いです。この原単位はScope1の排出原単位と同様に、燃料が燃焼した際の排出を示しています。
一方で、Scope3のカテゴリ3では、燃焼による排出ではなく、燃料そのもののライフサイクルにおける排出を算定する必要があります。そのため、正しくは「燃焼エネルギー」が付いていない、燃料名そのままの原単位を選ぶことが適切です。
このように、原単位選択の違いがScope1とScope3の算定結果に影響を与えるため、IDEAデータベースの使用時には細心の注意を払う必要があります。
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カテゴリ6・7のよくある間違い:交通費と従業員数ベースの算定
Q:カテゴリ6(出張)・カテゴリ7(従業員通勤)に関してはどうでしょうか。
A:カテゴリ6・7に関連する算定では、以下のような間違いがよくあります。
1. 交通費に基づく算定での原単位選択ミス
交通費の支給額をベースに排出量を算定する方法がありますが、この際に従業員が自家用車を使用している場合の扱いに誤りが生じることがあります。
例えば、乗用車を使用する従業員に対してガソリン代を支給しているケースでは、環境省のデータベースに掲載されている「タクシー・ハイヤー」などの自動車関連の原単位を誤って選択してしまうことがあります。
環境省のデータベースには、自家用車の燃料支給に関する原単位は掲載されていないため、正しい算定方法としては「支給額」、「ガソリンの単価」、「ガソリン1リットル当たりの排出係数」のようなデータを組み合わせる必要があります。
そもそも、データベースの中に自家用車の燃料支給に関する原単位はないということを認識していただき、正確に算定していただければと思います。
2. 従業員数ベースの算定での対象範囲の誤解
カテゴリ6・7では、従業員数をベースに排出量を算定する方法もありますが、ここでも誤算定が生じることがあります。例えば、対象となる従業員数を正社員のみに限定してしまうケースです。
算定における「従業員数」は、常時使用する従業員を指しており、以下を含む必要があります。
・パート・アルバイト
・自社への出向者
・その他、雇用形態にかかわらず常時働いている従業員
正社員だけに限定せず、全ての対象者を含めるのが、正しい算定方法です。
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算定漏れに関するミス
Q:次に、よくある算定漏れに関するミスについて教えてください。
A:算定漏れに関しては、カテゴリ1、カテゴリ4、カテゴリ12を例に解説しようと思います。
カテゴリ1のよくある間違い:対象範囲の見落とし
Q:ではまず、カテゴリ1(購入した製品やサービス)の算定漏れの例を教えてください。こちらは多くの企業にとってスコープ3の中で最も大きな排出量を占めるカテゴリの1つですが、どのようなミスがあるのでしょうか。
A:カテゴリ1(購入した製品やサービス)の算定では、原材料や製品の仕入れについては多くの企業さんが正しく算定できていると思います。しかし、以下のような項目が算定対象から漏れているケースが見受けられます。
1. 原材料以外の購入品の見落とし
資材や副資材、事務用品、消耗品など、原材料以外の購入物・購入製品もカテゴリ1の対象ですが、算定対象から漏れてしまうことがあります。これらもカテゴリ1に含める必要があるため、注意が必要です。
2. サービスの購入の見落とし
広告宣伝費やITシステムの利用料などのサービス購入も同様にカテゴリ1の対象に該当しますが、算定から漏れてしまうことがあります。カテゴリ1は購入した製品だけでなく、サービスの利用に関しても算定が求められるため、見落としのないように対応する必要があります。
カテゴリ1の算定範囲を正確に理解し、製品だけでなくサービスも含めて漏れのないデータを集めるようにしましょう。
Scope3カテゴリ1の算定方法と企業事例についてはこちら!
⇒カテゴリ1『購入した製品およびサービス』 とは?サプライヤーエンゲージメント評価と排出削減事例についても解説
カテゴリ4のよくある間違い:保管に関する算定漏れ
Q:カテゴリ4(輸送および配送)は、物流に関する排出量を対象としており、多くの企業が算定をするカテゴリの一つです。このカテゴリでは、どのような見落としが考えられますか?
A:カテゴリ4では、以下のようなミスが生じることがあります。
1. 倉庫利用に関する算定漏れ
カテゴリ4は、輸送だけでなく、物流全体を対象にしています。そのため、輸送過程に加え、商品の保管に必要な倉庫のエネルギー消費も算定に含める必要があります。しかし、実務上では、倉庫利用に関する排出量が算定対象から漏れてしまうケースが見受けられます。
2. 輸送だけに焦点を当てがちな傾向
企業の多くは、輸送に関するデータ(トラック輸送や海上輸送など)は収集できているものの、保管時のエネルギー消費(電力、空調、照明など)を考慮していない場合があります。カテゴリ4は物流全体を網羅する必要があるため、保管プロセスも排出量に含めることが重要です。
Scope3カテゴリ4の算定方法と企業事例についてはこちら!
⇒カテゴリ4『輸送・流通(上流)』 とは?サプライヤーエンゲージメント評価と排出削減事例についても解説
カテゴリ12のよくある間違い:容器や包装の算定漏れ
Q:最後に、カテゴリ12(販売した製品の廃棄)に関する算定漏れの例を教えてください。
A:カテゴリ12(販売した製品の廃棄)に関しては、多くの企業が製品本体に関しては適切に算定できていることが多いです。しかし、 容器や包装の算定が漏れていた、という場合がありますので、注意が必要です。
Q:カテゴリ12では、製品本体だけではなく容器や包装の廃棄における排出量も考慮しなければならないんですね。
A:その通りです。カテゴリ12では、容器や包装は製品の一部としてみなされますので、製品に付随する容器や包装も廃棄プロセスにおける排出量の対象となります。
製品本体の排出量算定にのみ注力し、それらの付随物の影響を見落としてしまうことがないよう、気を付けていただければと思います。算定が漏れていたという場合は、早急に追加算定を行い、開示データの精度向上に取り組みましょう。
Scope3カテゴリ12の算定方法と企業事例についてはこちら!
⇒カテゴリ12『販売した製品の廃棄』とは?サプライヤーエンゲージメント評価と排出削減事例についても解説
コンサルタントからのアドバイス
インタビュアー:今後、算定を行う方に向けて一言お願いします。
コンサルタント:これらの間違いやすい部分に関しては、環境省が出しているガイドラインやQ&Aでもフォローされているので、それらをしっかり読んだ上で算定していくのが、大きな間違いを防ぐ上で重要になってくると思います。ぜひ、そういったガイドラインや外部の知見をうまく活用していただいた上で、難しいところについては徐々にアップデートするような形で、算定の精度を高めていただければと思います。
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